#4-1
ゴーン――ゴーン――
昼休みが終わったことを告げる鐘が鳴り響く。
「あ、鐘がなってしまいました……せっかくのお姉様との勉強会だったのに……」
アリシアは人生で最高に幸福だったと自負するこの瞬間が終わってしまうことに、悲しく思う感情を隠すことなく声に出す。
「そう悲しむことはなくてよ。時間がある時にまた教えて差し上げますわ」
「本当ですか!? またお願いしますね!」
アリシアはソフィアの言葉に満面の笑みで返事する。ソフィアは勉強会が始まる前と同じように何かを喰らったような耐える表情をするが、アリシアはまたソフィアに会えることに浮つきそれに気づかなかった。
次の時間は魔法の実践訓練だ。
まだ基本のきの字すらわかっていないアリシアだが、この授業は受けなければならない。聖女は世界に降かかる厄災を防ぐ役目があり、その厄災の中には戦闘を伴うものも存在するからだ。
ソフィアは座学が次の時間に入っており、ここで一度別々になる。
「ワタクシは次の時間は座学ですわ。確か貴方は魔法の実践訓練でしたわね」
「はい! ソフィアお姉様と離れ離れになってしまいます……」
「そう気を落とさずに、頑張ってらっしゃい。また後ほど会いましょう」
ソフィアと離れてしまうことにアリシアは残念に思うが、ソフィアからの激励の言葉でやる気がみなぎってくる。愛とはそれだけで簡単に心を変えてしまうものなのだ。
*******
アリシアは外にある訓練場のところまで移動する。
少し遅れて来たため訓練場にはすでに結構な人が集まっていた。見かけない人物も多かったが、彼らは恐らく他の学科の生徒たちであろう。
「これより魔法実践訓練を開始する。本日は初回授業のため、諸君らがどれほど魔法を扱えるかを把握したい」
授業開始の合図が鳴ると同時に、スキンヘッドの筋肉質な教師が説明を始める。アリシアは魔法使いと言えば髭がもじゃもじゃのか細い老人だというイメージを持っていたが、それはただの偏見だったようだ。
授業の内容は訓練場に置いてある案山子に向かって魔法を放つことであった。
教師がなにか教えることなく今持っている力で渾身の魔法を放ってもらい、現時点でどれくらいのレベルなのかを把握するためだった。
教師の指示と共に様々な魔法が打ち出される。それぞれが得意とする魔法が出ているため、赤青緑と色とりどりな光景だった。
「やぁ、そこの君。また会ったね」
「うげっ……」
アリシアは順番待ちをしていると、見覚えある男に話しかけられる。彼は初日にアリシアに絡んできたあの変態だった。
「この前は急に逃げ出すなんて酷いじゃ無いか。俺は親切に教えてあげようと思っただけなのに」
「私は断ったのに、しつこかったからですよ……何しに来たんですか」
「あぁ、その態度、実に面白い……今日は君に勝負を持ち掛けに来たのさ」
相変わらず罵られて興奮してる男を見てアリシアは鳥肌が立つが、男からは少し気になる話をされる。
胡散臭いことこの上ないが、アリシアは少し興味を示してしまった。
「……勝負?」
「そう! 君ってあの噂になってる聖女だろう? 神に愛され、全ての魔法を扱える申し子。俺も結構才能あるって言われててね、どっちの方が強いのか気になったんだ」
アリシアは学園内のみならず、世界中が注目する聖女だ。世界に危機が訪れた時、それを防ぐ役目を持った救世の聖女。そうなれば一方的に認知されることは必然的だ。
男から話された勝負は客観的に見れば受けるメリットがない。勝つのが当然、負ければ力不足だと言われるだろうリスクマッチ。
アリシアはアホでは無い。そんな不公平な勝負を受けるはずもなかった。
「そんなの、勝手にやっててください。私は受けるつもりありませんから」
「へ〜、ビビってるんだ? じゃあいいさ。この勝負は俺の勝ちってことで」
「……待って」
しかしアリシアは負けず嫌いだった。売られた喧嘩は必ず買うし、逆境にこそ魂が燃えるタイプだった。
その性格のおかげで転生した直後の地獄でも生きながらえたが、この性格のせいでトラブルに巻き込まれることも多かった。
男からかまされた幼稚な煽りはアリシアの闘争心に火をつけてしまった。
「その勝負、受けて立つ」
「いいね。そうでなくては」