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プロローグ

投稿順番がぐちゃぐちゃだったのに今更気がついたので再投稿します。申し訳ありません。

「ソフィア・フォン・ローダリウス。お前がアリシアに行った悪行は到底認められない。今、この場で婚約破棄を宣言させてもらう!」


 創立120周年を迎える学園ローゼンタイムで開かれた生徒同士の交流会。

 ほとんどが貴族によって構成されたこの場において、王国の王太子であるルーカスは婚約者のソフィアに向けて婚約破棄の宣言をした。


『殿下……? 何を仰っているの……?』

「聞こえなかったのか? ならばもう一度言おう。俺はソフィア・フォン・ローダリウスとの婚約を破棄すると言ったのだ!」


 大衆の前での婚約破棄、それも未来の官僚である貴族の前。王妃への道が確約されたはずのソフィアが転落している様を、嘲笑う者はいれど不憫に思う者はいない。

 それはソフィアが行っていた数々の嫌がらせを知っていたからだ。


 味方は誰一人いない。そんな状況をソフィアは顔こそ悲しみの表情を浮かべるが、実際は零れそうになる笑みを抑えるのに必死であった。

 原作通りの展開、原作通りのセリフ。夢にまで見た婚約破棄がやっと行われそうだったからだ。


『そんなっ! ワタクシが一体なにをしたと言うのですの!?』

「まだ自覚がないのか……? お前はアリシアに向かって陰湿な嫌がらせを繰り返してきた! 証拠は多数ある。言い逃れは出来ないぞ」

『ワタクシはただ、殿下に近づく不届き者に貴族とは何たるかを教えていただけで……』

「やかましい! お前は未だに教えだと言うのか!」


 一言一句、頭に叩き込まれたセリフを間違えることなくソフィアは声に出す。

 ある一人の暴走によってめちゃくちゃになったストーリー。自身の人生すらも捧げてやっとたどり着いたこの結末。

 目前まで迫った終わりに、ソフィアは油断することなく神経を尖らせる。


『ワタクシは、ワタクシは殿下のことを思って……っ!』

「ふん。それならば間違っていたな。お前が行っていた悪行は事細かに父上に報告させてもらう。これでお前も終わりだ」


 ソフィアはショックを受けたように顔を伏せる。

 原作通りの動きだが、絶望の淵にいた原作とは違いソフィアの内心は晴れやかな気持ちでいっぱいだった。


 あとはこのままパーティーが終われば、無事に婚約破棄され、原作の舞台から降りれるはずだ。

 ひとつ気掛かりな事は残ってしまうが、ソフィアは上手くいってくれることを願うだけだった。


 それで終わるはずだったのだ。



「――ちょーっとお待ちください!」



 勢いよく扉が開かれ、透明感のある声が会場全体に響き渡る。

 独特な音色で、聞けば心は安らぎ、どことなく体の疲れすら飛んでしまうような清涼な声。彼女を知らない者は百発百中で彼女に好意を抱いてしまうだろう。

 しかしソフィアにとって計画を進める上で最大の障害である彼女は、声高らかに異議の言葉を口に出す。


「私は、アリシア・クレイシスは、断じてソフィア様から嫌がらせなど受けておりません! むしろいっぱい可愛がってもらいました!」


 騒動のもう一人の主役であるアリシア・クレイシス。被害者のはずである彼女はなんと、ソフィアを擁護し始めたのだ。

 遠巻きで静かに眺めていた観衆も、突然の事態にざわめきが止まらなくなっている。


(またか! またしてもか!!)


 毎日のように付きまとわれ、聞き慣れてしまったその声にソフィアは今までの苦労がフラッシュバックする。

 散々原作の展開を破壊しめちゃくちゃにしてくれたアリシアに、最後の最後まで邪魔をするのかと湧き上がってくる怒りをソフィアは抑えることが出来なかった。


「いいえ殿下、ワタクシは確かにアリシア様を嫌がらせをしましたわ! 殿下が持つ証拠がその証ですの!」

「それは誤解です! 私はソフィアお姉様から愛をもらった事はあっても、嫌がらせをされたことなんて一度もありません!」

「愛ってなんですの! ややこしくなるから貴方は静かにしてくださいまし!」


 やいのやいのとタイプは違う美人二人が、訳の分からぬ事で言い争う。

 学園では恒例となってしまったその光景に、状況を把握しようしていた他の貴族達もまたかとその場を離れて自身の交流に勤しむ。


 目の前で茶番を見せられ始めたルーカスは被害者であるアリシアから嫌がらせについて否定され、今まで集めてきた証拠はなんだったのかと途方に暮れる。

 もはや陛下に報告することは諦め、婚約破棄の件は有耶無耶になって終わることだろう。

 

「ああもう! なんでこうなりますのぉぉぉ!!」


 ソフィアの悲痛な叫びは、会場の騒音によって掻き消されるだけだった。

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