4話2 初戦闘へ
放課後
放課後になって俺らは帰る準備をしていた。
少し疲れたが今日はそこまで難しいことをしていないから少し疲れた程度で治った。
3週間ぶりにまともな授業を少しやっていたが大変だったな。
やることが多すぎる。クラス目標とか1学期の目標とかたくさんやらされたからな。
「なあ、大正寺谷を連れてた二人って、ランクいくつだった?」
天野が大正寺谷に質問した。
いきなり天野が問いかけたせいで、大正寺谷が目を丸くする。
そりゃそうだ。唐突にそんな話を振られたら、誰だって驚く。
――まあ、俺もちょっと気にはなってたけどさ。
「おいおい、唐突すぎんだろ…いきなりどうした?」
「気になったからな。お前が連れていたあの2人のランクを知りたいんだよ」
「そんなに気になることか?」
大正寺谷は天野をジロリと睨むが、その目にはわずかな困惑と、興味の色が混じっていた。
ま、天野にしてはよくあることか。タイミングなんて気にしない性格だしな。
「まあ、気になる気持ちはわかるけどさ」
大正寺谷も、まんざらでもなさそうに苦笑いを浮かべる。どうやら答える気はあるらしい。
「戦闘の傾向が知りたかったんだ。どのランクが主に動いてるか」
天野の真剣な顔に、大正寺谷は軽く頷いた。
「……仕方ない。教えるとしよう。あの二人はBランクだ。朝からいろんな対戦を見てたけど、BとCの戦いが多かったな」
初日なのに真ん中くらいのランクの人たちがやっていたってことか。
「へえ〜、やっぱりその辺が一番活発なんだな」
つまり、Sランクとの対戦はまだ珍しいわけか。序盤は中堅層の戦いが中心か。
だが、BランクがいきなりSランクに挑むとか向上心高くないか?俺でもそんなことをしないぞ…
「ああ。今のところは、だけどな」
天野はうんうんと頷きながら、さらに踏み込んだ。
「ところでさ、一学年って何人いるんだ? クラスの数も気になるんだけど」
1年生は確か…400人…いや、Sランクを含めたら415人くらいか。
その問いには、俺が答えた。
「Aランクまでが1クラス40人で10クラス。それにSクラスが15人。だから合計で415人だな」
415人はかなり多いが能力者のみ入学できるとは言え、日本人口の1割弱が能力者だからこんなもん。
たくさん来ているが能力学園に入学するとそれなりに恩恵があるからたくさん新入生が入学する。
だが、必ずしも能力者全員が入学するわけではない。俺のように普通の高校に入学する予定だった生徒がいるのならば普通の高校に入学する能力者もいるからな。
「ふーん、結構いるな。でもSクラスは思ったより少ないんだな」
「毎年、Sランクの生徒は5〜20人くらいらしい。少数精鋭ってやつだ」
「なるほどな……全国にはもっと能力者がいるって聞いてたけど、意外と絞られてんのか」
「東京校だけでこれだからな。他の都市にも分かれてるし」
大阪校も同じくらい人がいるのだろうか?ただ、東日本は関東から来ている人が多いからな。西日本の近畿とかも人口は多いが関東ほどではない。
もしかしたら大阪校は300人程度かもしれないが東京圏は能力者による事件が多いのも影響して関東に離れている人も一定数いる。
大阪港の方が多い可能性もあるが実際そうなのかは俺は知らない。
話を戻して、Sランクは毎年出ているのかについては必ずしもいるわけではない。過去にSランクの生徒がいない学年が当たって聞いたことがある。
「Sランク0人の年もあるって聞いたことあるぞ」
俺が補足すると、天野は「ふーん」と気の抜けた反応を返した。
そこまで興味がないって感じだな。
「なあ、そろそろどっか行かね? もう授業も終わったしさ」
この後か…俺はこの後、行く場所があるからここでお別れだな。
「俺、売店行くつもりだ」
「俺も」
俺と天野は立ち上がり、出口へと向かう。
天野も俺と一緒に売店行くのか。何か買う予定の物があるのか?俺はお菓子を買いに行く予定だが…
「売店?昨日入学したばっかで、まだ行ってねぇな。何買うんだ?」
大正寺谷が興味津々で聞いてきた。
売店に行ったことがないなこいつ。
「ポテチ」
「料理の本」
「・・・・・・は?」
唖然とする大正寺谷。まあ、その反応は当然か。ポテチと料理本って並べて言う内容じゃないしな。
「いや、ここの売店、ちょっと変わってんだよ。スーパー並みに品揃えが豊富でさ。昨日行ったとき、木材とかも売ってたし」
「……木材!?なんで木材!?」
どうして木材が売っているのか、俺には分からない。武器屋まであるから木材があっても不思議ではない。
だが、木材をどこで使うんだ?何か建築するために違うんだろうが普通使わない。
加工されているとはいえ、生徒が購入するような物ではないから大正寺谷が驚くのも無理もない。
「いや、俺に言われても……売っているのはマジだぞ。建築用のやつ。俺も見たとき思ったよ、『なんで!?』って」
昨日、見に行ったら普通に売っていた。
『……どこで使うんだよこれ…』
木材を使用する目的?って書いてある紙にはこう書いていた。
『部屋の改造』
『……』
部屋の改造って何?
「この学園……マジで普通じゃねえな……」
最早、売店じゃねえよな。スーパーでもやらねえやろ。
まあ、一定数木材を購入する人もいるんだろうな。能力者の中で木材を使用して戦闘する能力の使い手がいてもおかしくないし、使い道はあるのだろう。
『部屋の改造』と使い道の例として出すのはおかしいがな。
「それが“普通”なんだよ、ここでは」
「信じられねぇ……俺も行く!」
「何か買うのか?」
俺と同じようにポテチを買うのか?いや、話からして木材が売っているのか目で見たいだけか
「美容品」
違った…美容品か
「売ってんのか、そんなもん?」
美容品まであるか……?木材まであるならあると考えたらあるか。
「……分からん。けど、木材があるなら、美容品もワンチャンあると思わねぇか!?」
その時の大正寺谷の目は、どこか真剣で。普段の男っぽい口調からは想像できないほど、“それ”に対するこだわりが感じられた。
なんか怖いがまあ、女子の美容意識はとんでもないからな。男の俺では理解できないから従うしかないな。
そして俺たちは三人で売店へと向かった。
──
学園 売店
「──うわ、広っ……」
売店の広さは食堂の10倍以上。広さは規格外で校舎の一階分の広さ二つ分に相当する。ただ、売っている品が全て揃えられているわけではない。
美容品なんてあるのか…?
「マジでこれ、コンビニじゃなくて……もう小型ショッピングモールだろ」
「食堂より広いもんな」
「食堂の倍以上の広さがあるよな…」
「ああ、下手なショッピングモールより広いよな。ほんと、やべえよなここ」
初めて足を踏み入れた大正寺谷が、呆気に取られたように口を開けた。
「すげぇな……本当に木材売ってるじゃねぇか……しかも種類が細けぇ!」
「ほら見ろ、言った通りだろ」
木材売っているって。なんでたくさん種類があるのかはよく分からないが買う人がいるからだろう。
たくさん揃える必要があるのか?と疑問を抱いたのは言うまでもないがな。
「うわ、あっちには野菜も肉も……つーか精肉コーナーあるんだが」
「この冷蔵庫ゾーン、もはやスーパーじゃん・……てか、冷凍ピザの品揃えすご」
俺と天野も昨日に続き、改めて売店の異常なスケールに驚いていた。
やっぱり、とんでもないなここ。
そして──
「……あっ……!」
その声に振り向くと、大正寺谷がある棚の前でピタリと立ち止まり、両手を口元に当てていた。
何か見つけたのか?
「……うそ……ある……」
その声はか細く、震えていた。まるで見たかったアイドルに偶然遭遇したかのような、信じられないという感情が滲んでいた。
「美容品……本当に……あったんだ……!」
本当にあるんだ……なんかたくさんある…
大正寺谷はゆっくりと棚に近づき、並べられた化粧水、乳液、リップ、ヘアオイルを、一つ一つ目を見開いて見つめる。
「え、ええっ、これ先月発売された限定モデルのやつじゃん……パッケージ変わってる……! しかも……こっちは保湿特化バージョン………!は、肌荒れしやすい季節にぴったりだし、これとセットでーー」
どんどん早口になっていくその口調。そして気がつけば、あの“男口調”がどこにもなかった。
何を言っているのか分からないがそれくらいすごいのか?
「なあ、天野は美容に詳しい?」
「知らん」
お前も知らんのかい。
「美容に気にするほど肌が荒れているわけではないからな」
「俺も同じく」
肌プルプルだから問題ない。
「ねぇ、これ見て……こっちのヘアオイル、ツバキ成分入ってる……すごい……!」
「……ねぇ?」
思わず俺と天野は顔を見合わせた。
「なんか……うん……急に雰囲気変わったな……?」
「いや、変わったというか……どちらかと言うと…本性出てきたんじゃないか。思ったより気荒い性格ではないようだな」
「それはそれでいいな」
「ああ、全くだ」
大正寺谷はというと、そんな俺たちの視線に気づきもしない。心の底から嬉しそうに、化粧水と乳液を抱えるように見つめていた。
その頬にはほんのり赤みが差していて、口元はほころんだまま。仕草も言葉も柔らかく、完全に“女の子”だった。
めっちゃエロい雰囲気を見せるから少し惚れそう…
「……あのな。こういうの、見つけたらテンション上がるの。しょうがないでしょ?」
振り返った大正寺谷が、そう言ってふわりと笑う。その瞬間、いつもの男っぽさなんて欠片もなかった。
(……マジで、別人かと思った)
だが、嘘じゃない。その目は本気で輝いていた。
「……これと、あとパックも買っとこ。スチームタオルと合わせたら完璧だし……」
「女子か」
「女子だな」
「……うっさい」
照れくさそうにそっぽを向きながら、そっと猫の柄の靴下を棚から手に取る。
「これ……可愛い……」
その声はほとんど聞き取れないほど小さかったけど、確かに俺の耳には届いた。
──その後、俺たちは売店をぐるりと一周し、生活用品を各自で購入していった。
俺はポテチとカップラーメン、天野は料理本と包丁(なんで!?)、大正寺谷は美容品一式と、例の猫柄の靴下。
なんで包丁まであるんだよ…いや、武器屋あるし、包丁もあるわな。
「……これで毎日ちゃんとケアできる……うれしい……」
そっとつぶやくその姿は、普段の男勝りな姿からは想像できないほど、女の子だった。
この学園の“異常さ”と、それに伴う“生活力の高さ”。
そして──
大正寺谷の、知らなかった一面。
俺たちはまた一つ、知ってしまったのだった。
そういえば、化粧していいって校則はあったような……
社会のために化粧は必要は技術だもんな。
「あっあった」
ポテチゲットだぜ!
「6袋でいいか」
大量のポテチを買って俺はその場から去った
「結構買うんだな……」
「俺の1週間分のポテチだからな。」
「あと、お前が言えることじゃねえだろ」
天野も結構買っているだろ。料理の本は一冊しか買っていないくせにお菓子を大量に買っているじゃねえか
「あはは…大正寺谷はまだ来ないな。どうする?」
「俺は帰る」
「俺もそうしよう」
大正寺谷を待っていても大量の美容品購入するだけだろうし、待っていたら1時間以上待たされる羽目になりそうだし、帰るか。
俺と天野は先に帰った。
後日、大正寺谷の部屋に大量の美容品があったのは言うまでもない。
_______
翌日 放課後
授業が終わり、いつものように俺は下駄箱へと向かった。
特に何も考えず、靴を取ろうと手を伸ばし――そこで、ふと違和感。
靴以外に下駄箱に何か入ってきた。
なんだこれ?
「……ん?なんだこれ、手紙?」
下駄箱の隅に、不自然に差し込まれていた一枚の封筒。
周囲に人の気配はなく、差出人の名も記されていない。
悪戯かとも思ったが、なんとなく封を切る手が止まらなかった。
中には、たった一文。
《今日の放課後、戦闘場で待つ》
……それだけかよ。相手は誰だ?
「……マジかよ」
呆れにも似た吐息が漏れる。
入学して、まだ二日目だぞ?
友達ができたわけでもないのに、敵ができるのが早すぎる。
とはいえ、ここは“能力者学園”。
実力が全ての世界だ。
逃げたら、実力不足と見なされて順位が下がる。
仮に俺が挑戦状を無視すれば、噂は一瞬で広がるだろう。
“ビビって逃げたSランクの1年生”としてな。
「……やるしかねぇか」
胸の奥に、じわじわと熱が灯るのを感じた。
緊張なんてない。
恐怖すらもない。
むしろ、心のどこかがざわついている。
鼓動が、わずかに速くなっているのがわかった。
(これが、“戦う”ってやつか)
中学生の頃まではせいぜいスポーツくらいしか競ったことはなかった。
誰かに挑まれるなんて経験、正直ほとんどなかった。
けど……不思議と、嫌じゃない。
「ふっ……これが俺の初戦闘ってわけか」
自然と笑みがこぼれた。
怖いのか? いや、違う。
燃えてるんだ。自分でも驚くくらいに。
知らない誰かとの、初めての真剣勝負。
それを思うだけで、指先が少し震えた。
震えているのは、恐れじゃない。
興奮だ。
──未知との遭遇は、いつだって人の心をざわつかせる。
「さて、教室へ行くか」
封筒を制服のポケットにしまい、俺はゆっくりと戦闘場へと歩き出した。
その一歩一歩に、確かな決意を込めて。
_____
能力学園 戦闘場
『では試合を開始します! 1年Sクラス4位・海野流星! VS! 1年Aクラス2位・星宮叶!!』
『うおおおおおお!!』
観客席から熱気混じりの歓声が湧き上がる。
決して人で埋め尽くされているわけじゃない。けれど、その熱狂には確かな“期待”が混じっていた。
その中心にいるのは、俺と――向こう側に立つ、一人の少女だった。
風に揺れる黒髪、まっすぐに俺を見据える青い瞳。
身長は俺より低いが、すらりとした体躯に少女らしい柔らかなライン。
制服に身を包み、手には銀色の細剣
星宮叶。その名に違わぬ、美しい少女だった。
美少女と言えばいいか。モデル並みの美少女と相手しないといけないのは少し罪悪感があるがそんなのはどうでもいい。
(でも、その目は……甘くねぇな)
可憐な見た目とは裏腹に、瞳に宿るのは研ぎ澄まされた集中と闘志。
だが、俺は構わず笑った。
「来てくれたわね。挑戦状を書いて入れたけどまさか来てくれるとは…ちょっと驚いたけど……私の果し状を読んでくれた?」
叶は凛とした声で言った。まるで舞台の上の姫騎士みたいに。
「読んだぜ、あと、来るに決まってんだろ。サボったら、名前を放送で晒すって言われたしな」
「ふふ……そういう理由で来たの?でもまあ、逃げないだけマシね。で……その手。素手で戦うつもり?」
「悪いか?」
武器はあるが素手でいいかなって思って今は持ってはいない。魔法ですぐに出せるから問題ないからささっとやろうか。
「いえ。そういう自信、大嫌いだけど……少しだけ、興味あるかも」
叶の目が鋭く光る。次の瞬間、審判の声が響いた。
『始めッ!!』
――同時に、叶の足が地を蹴った。
_____
その動きは速い。空気が弾けるような加速。
細剣が輝きを帯び、一直線に俺の肩口を狙って振り下ろされる。
「『光の天罰』!!」
剣に宿るのは“聖”の力。
輝く光が軌跡を描きながら迫るその瞬間、俺はゆっくりと左腕を持ち上げ――
ガキィィィン!!
「っ……止めた!?」
叶の驚愕の声が、戦場に響く。
「悪くない一撃だったけど、ちょっと軽いな」
左腕で受けた衝撃は確かに重かった。だが、まだ余裕がある。
実際、体勢は崩れていない。
威力は高いが俺を倒せるほどではない。
(聖属性の斬撃ってわりに、威力が分散してるな。もしかして焦ってんのか?)
「……調子に乗らないで!」
剣を跳ね除け、叶は再び距離を取る。
表情は冷静を装っているが、瞳の奥には焦りが滲んでいた。
「『聖なる剣』!!」
次の一撃は、空間ごと切り裂く神聖な斬撃。
銀光の波動が、斜め下から鋭く俺を斬り裂こうと迫る。
が――
俺は微動だにせず、その斬撃を紙一重で避けた。
肩を掠めるように聖なる光が炸裂する。
(惜しいけど、当たんねぇよ)
「……無傷……!?」
叶の顔に明確な驚きが走る。
美しい青の瞳が、かすかに揺れた。
「悪いな。これくらいじゃ俺は倒れない」
力の扱い方が三流だな。これがAランクとなると…少し警戒しすぎたかもしれないな。そこまで強くないようだ。
もっと強いかと思っていたが残念だな。
「その言葉……なんかムカつく」
「一応褒めたつもりだったが伝わっていないか。まあ、技は悪くないが扱い方がそこまで上手くないな」
「残念だがお前では俺に勝つことはない。諦めろ」
「いっそうムカつく!!」
声を荒げる叶。
焦ってる。間違いなく。
本人は平静を保とうとしてるが、その剣筋には余裕がない。
(いいね……やっぱ、戦いってのはこうじゃなきゃ)
観客席の歓声が響く中、俺は一歩踏み出す。
カツン、と乾いた音が戦場に響いた瞬間、空気が変わる。
「じゃあ……今度は、こっちの番だ」
カチ、と指を鳴らす。
その動きだけで、観客がざわついた。
拳を握る。
力が、自然と集まってくる感覚。
深く息を吸い、俺はゆっくりと笑った。
「本当の勝負はここからだ。遊びは――まだ始まったばかりだぜ?」
_____
対する星宮叶は、一瞬言葉を失ったように息を呑む。
(この人……最初から、余裕だった……?)
聖なる力が通じない相手。
感情を揺さぶってもブレない、圧倒的な落ち着き。
まるで“勝ち”を当然のように信じているかのような、そんな男――
(海野……海野流星って、こんなに……怖い人だったの……!?)
揺れる心。乱れる呼吸。
彼女の中で、明確な“危機感”が芽生えていた。
しかし、それは同時に――戦士としての彼女の血を、激しく沸き立たせてもいた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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