4話 クラスメイトとの交流
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入学式の翌日。
それは、普通の学園であれば、授業の始まりを迎える平穏な一日だ。
──だが、この学園においては違った。
朝から至る所で戦闘が勃発している。
……いや、マジで何をやっているんだこいつらと自分でも思ってる。
でも本当にそうなんだ。
1年生同士が、朝から堂々と殴り合い、魔法をぶつけ合い、能力を衝突させている。
教師は止めるどころか見守っているし、生徒たちは当然のように戦っている。
不良でもびっくりの治安が最悪レベル。いつの時代の不良だよ。
「え、ここって不良の巣窟?」
思わずそう疑いたくなるレベルだ。
というか、治安どうなってんだこの学園……。
マジでカオスすぎる。誰か止めてくれ、
でも、感心する部分もある。
入学してまだ一日。制服すらまだ着慣れてないような連中が、本気で“順位”をかけて戦っているのだ。
その覚悟と行動力は、称賛に値する……かもしれない。
とはいえ、学園もただ暴れさせているわけじゃない。
戦闘は、校舎近くに設けられた“闘技場”で行うように決められている。
理由はシンプル。校舎の破壊を防ぐためだ。
ちゃんと校則にもある。
──校舎の破壊は禁止。
……そんな当たり前のこと、わざわざ明記するのか?と思ったが、この状況を見れば納得だ。
書かなければ更にカオスな状況になっていただろう。不良も顔負けの被害を出していたかもしれない。それはそれで嫌だがしっかり校則が働いていることに安心する。
「じゃあ、どこで戦えばいいんだよ」って疑問を持った奴らもいたようだが──
その問題も、今では“闘技場”がすべてを解決している。
闘技場があるとか戦闘狂がたくさんいるのかこの学園…本当にとんでもない学園だ。
闘技場では審判が立ち合い、観戦者もいて、戦いは公的に記録される。
証拠も残るし、不正も防げる。
さらに医師も常駐しており、治療体制も完備されている。
この整備された環境で、俺たち能力者は戦う。
ルールは明快だ。
──勝てば、相手と順位が入れ替わる。
──負ければ、順位が一つ下がる。
──挑まれた側が勝った場合、順位は変わらない。
この戦場は、学園に10箇所も用意されていて、なんと朝の8時から戦いが始まる。
どんだけ野心に満ちてるんだ、こいつら……。
理解できねえよ……俺が理解するレベルを超えている。
俺?
俺は戦わない。挑まないし、挑まれても断る予定…というより断る機会がないかもな。
上を目指すと言っても簡単な話ではない。
だって、俺より上にいるのはSランク上位の3人だけ。
そいつらに勝てるか?
いや、無理とは言わないが、今のところ挑む理由がない。
そもそも、実力がどれくらいか見えてこないんだ。
水晶でランクを振り分けられたとはいえ、その基準がよく分からない。
本当に俺より強いのか、ただ、身体能力や能力だけで判断しているのか
魔力とかステータスで判定してるのか、あるいは学園側が内情を把握してランクを決めているのか。
俺の見立てでは──後者だ。
だって、水晶にそんな万能な分析機能があるとは到底思えないもん。
AIでもあるまいし、完璧に“強さ”なんて測れるわけがない。
______
観戦を終え、教室に戻った俺は、席について本を読む。
今読んでいる本は異世界系小説。
読むと面白いが何回も読んでいるから飽きてきた。
明日は違う本でも持ってくるか
しばらくすると、天野が声をかけてきた。
「よぉ、暇そうだな」
暇とはなんだ、暇とは。間違ってはいないがムカつくはムカつく。
「お前、俺に挑む気か?」
天野は首を振る。挑む気はないようだ。
「いや、やらないさ。お前の実力は未知数すぎる。下手に手出してデメリット被るより、情報が出揃ってからのほうがいい」
──こいつ、慎重派かつ策士タイプか。
格上相手には挑まず、出方を伺う。それは俺と似たタイプかもしれない。
「お前、面倒な奴だな」
相手したら苦戦するかもしれない。いや、それはないが下手に手札を晒すようなことがないように動かないといけないな。
天野に負けるつもりはないがな。
「ひどいな。俺、慎重なだけだぞ?」
「慎重すぎて面倒なんだよ」
こういうタイプが一番やっかいだ。情報戦に持ち込まれると消耗する。
……俺も似たようなもんだけど。
「入学して次の日に挑むとか、普通じゃねぇよな」
「それには同感だよ」
だがそこに、別の声が割って入る。
「2人とも、“普通”で物事を測るのはやめた方がいいよ。」
振り返ると、そこには黒髪の男子生徒——Sランク9位、大正寺谷豪が立っていた。
その隣には、彼に付き従う2人の女性。
ハーレム野郎か。羨ましい
「その2人は?」
「今日、俺に挑んできた奴ら。負けて、昨日話された“配下制度”の下で俺の配下になった」
──うわ、もう戦って配下作ってんのかよ。
「なるほど。……だが、“ランクで常識を測るな”とはどういう意味だ?ランク関係なく、常識ないだろ」
「どんな偏見だよ」
天野が質問するがお前は何を言っているんだ?まるでこの学園の生徒が常識のない人ばかりいるみたいなことを言っているじゃねえか。
流石にそんなことはないだろ。常識がない人がどのランクにもいるかもしれないが常識のある人だっているはずだ。
大正寺谷は答える。
「能力の差じゃない。常識が通じないんだ、能力者には。」
「同じ能力を持っていたとしても、使いこなせてるかどうかで天地の差が出る。」
「努力、戦術、判断力、全てが混ざって勝敗が決まる。ランクなんて飾りだよ」
──それは確かに、俺も感じていた。
使えるか使えないか、動けるか動けないか。それだけで世界は変わる。
勿論、それだけではないが能力をどこまで扱えるのか
どこまで戦闘時動けるのか。
経験していない人は動き方を分からない。
強さが上だとしても戦闘経験のある強さが下の人に負けることもある。
言えば、どれくらい経験をしているかどうかの話だ。
戦闘経験なしで上位になっているだろうが実戦で動くことができなければ意味がない。
どんな魔法が使えるのか、それだけでも差が出る。さらに、数ある要素すべてで上位に立たないといけない。──それが、この学園の厳しさだ。
それが面倒ってわけだ。
あいにく、俺はそんなことがないが戦闘経験が豊富な学生なんて少ない。
実力=ランクってわけではないだろうが実戦で評価した方がいいと思う。
「ここは“能力学園”。能力者を集めた学園だ。それが当然だな」
「だが、能力者だからって常識が通じるとは限らない」
「理由は?」
「能力者同士の戦闘経験が少ないからだ。自分以外の能力者と本気で戦ったことがないやつも多い。知らなきゃ、対応もできない」
──なるほど。納得。
やはり、俺が言ったように実戦経験が少ない学生は多いようだ。
「ここは“東京校”。東日本の能力者が集められている。西は大阪校ってところか。希望によって分かれてるらしいけどな」
家から近いから東京校しか選択できないってわけではない。大阪校に入学すると選択はできる。
寮生活は許可されているからな。別に東京校だけしか選ぶことができないわけではないから案外、西日本から来ている学生もいるかもな。
「でも人口の1割が能力者なんだろ?もっと交流とかあると思うが?俺もそれなりに交流があったし」
「能力者を表に出す人なんて少ないよ。差別されることもあるからな」
……その言葉に、俺は本を閉じた。
雰囲気が少しだけ重くなった気がする。
俺のせいか?
「……話題変えるか」
大正寺谷が提案して、俺も頷いた。
「それがいいな」
が、天野が突然爆弾発言をする。
「大体は理解した。お前は、入学2日目に女性を束ねたハーレム野郎ってことだな」
天野の爆弾発言だった。ハーレム野郎と思ったのは俺だけじゃなかった。
だが、天野よ。それは言わない約束だろ
「はぁ!?ち、違うって!」
動揺しているな。その時点でハーレム野郎だ。
「女たらしかよ」
俺も悪ノリする。
「ち、違う! そういう関係じゃなくて、あくまで“配下”で──」
「そう言う関係じゃないのか?」
「違うわ!」
「それに俺!男じゃないからな!女だ!」
『……は?』
今なんて言ったこいつ?
俺と天野は、固まった。
大正寺谷──女だったのか。
中性的とは思ってたが、てっきり男だと思ってた。
「マジで?」
俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
だって、完全に男の見た目だったんだぞ。男だと思ってたんだ。いや、信じてた。
今までの会話全部、男性として処理してたんだ。なのにこの衝撃発言だ。
「マジ。嘘ついても仕方ないだろ」
大正寺谷はあっさりと肯定する。その声色に冗談めいた雰囲気は一切ない。
天野も目を丸くしている。
「じゃあ、なんで“俺”なんて一人称で……ズボンで……言動も男っぽいんだぞ!アレか!いわゆる…男装女子!」
天野のツッコミは止まらない。止められない。驚きすぎて、脳が処理しきれてない。
「動きやすいからな。スカートよりズボンの方が性に合ってるし、“俺”ってのも言いやすい。そんなに男っぽいか?まあ、男装女子なのは間違っていないが…」
あっけらかんと答える大正寺谷に、俺たちは言葉を失う。
いや、俺のほうはまだ理解が追いつかない。てっきり、ハーレム作ってるナンパな男かと……。
「……色々とアレだが…ごめん」
「俺もごめん。完全に勘違いしてた」
天野と俺は頭を下げる。心の中ではもう猛省大会が始まっている。
第一印象って、本当にあてにならない。いや、違うな。能力者って、いろんな意味で“常識”が通じないのかもしれない。
「慣れてるよ。何度もあるしな、こういうの」
そう言って笑う大正寺谷は、男とか女とかを超越して、ひとりの“強い人”だった。
多分、きっと、相当努力してるんだろう。だからこそ、昨日話していた“配下制度”でも他の1年生に勝って、早々に二人を従えたのだ。
彼女は、男でも女でもなく、“強い人”としてそこに立っていた。
「俺が女でも関係ないだろ? 強いっていう事実だけがあるんだよ」
──その言葉に、俺はハッとする。
そうだ。
この学園では、性別も服装も言葉遣いも関係ない。
“強いかどうか”──それが唯一の基準だ。
「強さがすべて、か……。そう言われると…なんか、怖ぇな」
「あはは……だけど面白いだろ?」
俺はポツリと呟いた。天野も苦笑する。
「全員が本気で生きてる。これ以上刺激的な学園生活、あるか?」
天野の言葉に、大正寺谷も頷いた。
「強さってのは、勝ち負けだけじゃない。どう勝ち、どう負けるか。そこにその人の価値が出る」
「名言っぽいこと言ったな」
俺は笑って言ったが、心のどこかでその言葉が深く刺さっていた。
俺はからかうように言ったが、内心ではその言葉に妙な納得感があった。言葉じゃなくて、実力で証明する。ここではそれがすべてなんだ。
「ところで、お前は誰かに挑むつもりは?」
天野の問いに、大正寺谷は静かに答えた。
「今はないな。まだ、面白そうな奴がいない。挑まれたら受けるけど、自分から探す気はない」
その姿勢に、俺は少しだけ救われた気がした。
「挑む気ないのか」
「そもそも、入学した次の日に誰かと喧嘩をするようなことをするか?」
『それはそう』
この学園では、戦うことが日常だ。
だが、戦わないという選択肢もまた、“強さ”の証明なのかもしれない。
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