8話 Sランク4位VS Aランク最強2
「能力を使うのか…」
俺がそう問いかけると、荒野は口元を吊り上げて不気味に笑った。
……少し、ぞくりとした。
何か恐怖が背中を襲った。
何かが違う。ただの高校生とは思えない、“異質”な気配が奴から漂っている。まるで、異界の事件以来に感じたような……そんな雰囲気。
まるで"怪物"が俺を見ているようなそんな気配が感じた。
(ヤバいな。どんな能力か分からないけど、警戒しないと)
そして、荒野が低く呟いた。
「ああ、使うよ。これが僕の能力さ」
(しーちゃんに聞いても、荒野の能力は“知らない”って言ってたな)
だが、それを責める気にはなれなかった。能力ってのは、個人情報みたいなもんだ。
そう簡単に口外できるわけがない。だからこそ、こうして俺は自分の感覚と経験で対処するしかない。
「ここからが勝負だ!」
荒野が手を振り上げ、次の瞬間、彼の手元に出現したのは——
スーパーボールだった。
『な、なんと!?スーパーボールが出現しました!!』
……スーパーボールだった。
スーパーボールだった……
スーパーボールだった……?
スーパーボールだった……!!?
マジかよ。
なんでスーパーボール!?
これ、能力? おもちゃじゃないか。
能力……?
いや、冗談じゃなくて本気で……?
そんな能力存在しているんだな……
スーパーボールが能力化するってあるのか?
だが次の瞬間、理解した。
ただのボールじゃない。こいつは跳ね回る度に速度を増し、正確に俺を狙ってくる!
「跳ねる力をコントロールすれば——当たりやすくなるってね!」
荒野のボールが地面を跳ねる度に、軌道が不規則かつ鋭くなっていく。
予測不能な動き。だが——
「って、避けるなよっ!!」
いや、避けるだろ普通。
当たったらどれだけ痛いか分からんし!
「スピードが上がってる……!」
ただの物理攻撃じゃない。これは遠距離特化の異質な能力だ。無限に跳ねて、制御されるスーパーボール。
なるほど、この能力は見た目や能力名以上にかなり厄介なようだ。
だが、どう飛んでくるのか予測しれば対処はできる。
「まだ余裕あるみたいだね。じゃあ、増やすよ」
荒野が放ったのは、先ほどの比じゃないほどの大量のスーパーボール!
(マジかよ、上限なし!?)
俺は一気に切り札を選んだ。
「天竜流——破天!」
剣技でスーパーボールを斬り裂き、攻撃の波を一掃。
大半のスーパーボールを切断した。
これで少しは楽になったな。
「……その技。まさか、天竜流?」
荒野が驚いた表情を浮かべる。
(知っているのか?)
荒野がどうしてこの剣技を知っているのかは分からないがあの様子からして間違いなく、"知っている側"の人間だ。
「天竜流——昇り竜天!」
俺の刀が、竜の如く下から荒野を斬り上げた。
油断していた荒野の右半身が裂け、血が噴き出す。
「油断……したか……」
荒野は苦しみながらも、まだ立っていた。
「戦闘で油断するなよ。命を落とすぞ」
大量出血して死ぬなんて洒落にならないことをしないでくれよ
「……悪い癖なんだ」
それでも立ち上がり、左手を傷にかざすと、肉が再生していく。
「回復魔法か。万能だな」
だが、こんな早く回復するようなものか?回復スピードが速いなこいつ。
「ああ。だから、まだ終わりじゃない」
スーパーボールは消えた。
今度は剣で決着をつける、ということだろう。
「行くぞ!」
荒野と俺は剣と刀で交差する。
高速の切り結び、息を呑む攻防。
(速い……!さっきより段違いだ)
目を離した隙に、俺の腕に刃がかすめる。だが俺の攻撃も、荒野に確実に当たる。
互いに譲らぬ命の削り合い。
観客席の連中が見えているか怪しいレベルのスピード。
(長時間の戦闘は体力を削る。だが、俺には姉たちに鍛えられた耐久力がある)
世界は広い。自分が最強だなんて思ったことはない。
でも——
(俺は、負けない)
負けるつもりはない!
「天竜流——竜切り!」
「剣聖一閃!」
互いの技が正面からぶつかる。
火花が散る。
「天竜流——竜炎!」
「剣聖二閃!」
炎と音速の一撃。すれ違いざまに避けられた。惜しい。
「天竜流——水竜!」
「剣聖三閃!」
またぶつかる。だが、決定打にはならない。
そして、荒野が距離をとって言った。
「このままじゃ決着がつかない。終わらせようか」
「!」
「秘奥義——剣聖七閃!」
——来たか!
「天竜流——天竜!」
俺の最大奥義が荒野の秘奥義と正面から衝突する。
激突の瞬間、空間が歪むほどの衝撃が走り——
——
「俺の勝ちだ」
立っていたのは、俺だった。
荒野の体は刀で切られ、血が滝のように溢れている。
「ゴホッ……ゴホッ……やるね……剣術で負けるのは……これで三人目か……全く…嫌になるね……」
そのまま、膝をついた荒野が敗北を認める。
『勝者!海野流星!!!』
『うおおおおおーーー!!!』
「ふぅ……」
終わった。
荒野……お前は、手強かった。
流石にやばかったぞ俺でも…
_____
「負けたのか……あの能力使用をしていれば……」
観客席のしーちゃん——大正寺谷が小さく呟いた。
「剣術で俺に勝ったことないくせに……何、剣で勝とうとしている…」
「いや、あの馬鹿は放置して、それより流星……何故、使えるの?あの天竜流を……?」
彼女の瞳が、ほんのわずかに見開かれる。
「マジで、格好良いじゃん……あれ」
その言葉は、ほとんど口の中で零れた独り言だったが、隣にいた天野和音には、しっかりと聞こえていた。
「おやおやぁ?しーちゃん、今、流星にちょっと惚れた?」
「うるさいっ!」
バチンと肩を叩く音が響く。天野の口元は、楽しそうに吊り上がっていた。
「でもまあ、確かに分かる。あれは格好いいわ」
「……お前も?」
少し警戒するように離れる。
「だって、あんな戦い見せられたら誰だって見直すだろ?正直、あいつ、ここまでやるとは思ってなかった。」
「荒野はヘラヘラしてるかと思ってたけど、違ったな。意外に戦闘では真面目な奴だった。」
「あと、言っておくが俺は男は趣味じゃないから安心しろ」
天野は大正寺谷を見る。
「剣気の制御、反応速度、見切り、呼吸の緩急…完全に“鍛えられてる”技だった。あれは素人が数年練習した程度で出来るものじゃないだろ。荒野はどうなっている?」
「荒野について知りたくないから知らない。知りたいのは流星の方。“天竜流”。使い手は知っている。まさか彼も使い手だったとは思わなかったなあ。」
大正寺谷は海野を見る。
「……その使い手の“女王”、俺は知ってる」
大正寺谷の目が伏せられる。
「でもな、和音。流星は“ちゃんと”受け継いでる。……下手な使い方じゃなかった」
「ふぅん?」
和音は軽く肩を竦めると、戦いの余韻に包まれたフィールドを眺める。
「あ、ところでさ」
「ん?」
「もう一回言うが荒野、意外と真面目に戦ってたな」
「そうか? 俺にはいつもの“問題児”にしか見えなかったが」
「それな。あいつ、どっかブッ壊れてるとこあるし。真面目なのは戦闘中だけだろ?」
「剣は真面目。でも、頭は軽い。そういうタイプか……いや、まあ、意外に策士な奴だから面倒くさい。」
「いや、ほんとそれ。あいつ、前に学園長の机にダイナマイトの模型置いたって話、マジだったんだよ。『これは爆発しません』って張り紙つけてたらしい」
「……最低だな」
一体何をしているんだ?と天野は呆れた顔をした。
「でも、実力は本物。天竜流?だったけ?あの流星にあそこまで食らいついたのは、俺でもちょっと見直したわ」
「でも……勝ったのは、海野」
その言葉に、天野の視線も再びフィールドの中心へと戻る。
「海野流星、か。あいつ、まだ伸びるな。しかも……あんなに余裕ある顔で、戦い抜くとはな」
「荒野は"能力使用せず"に勝てるような相手ではないぞ」
海野が能力を使用せずに荒野を相手に勝利したことは流石の天野でも驚くようなことだ。
いくら荒野の能力がふざけているとはいえ、かなり厄介な敵。天野でも勝てるのかは正直に言うと無理だ。
それほどに強い相手だが海野は勝利した。
「“剣”が染み込んでた。間違いなく本物の剣士だった」
そう語る大正寺谷の頬は、ほんのりと朱に染まっていた。
「お前、ほんとに惚れたろ?」
「殺すぞ」
「付き合えば?」
「死ね」
「はいはい、物騒~。でも、その反応が一番分かりやすいんだよなぁ」
「……ふん、うるさい。俺は寮に戻る」
大正寺谷は足音を立てず、観客席を離れていく。
けれど、彼女の背中には確かに残っていた。
天竜流という存在への、強い関心。そして——
「ま、俺も戻るかな」
と、天野和音もゆっくりと立ち上がる。
「でも、これから少し面白くなりそうだね」
不気味に笑ったその顔には、ほんの僅かな“狩人”のような鋭さが宿っていた。
そう。これがただの一試合で終わるはずがなかった。
そしてその火は、学園に、新たな風を巻き起こしていくことになる——。
——次回へ続く。
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