7話 Sランク4位VSAランク最強
「しーちゃん」のあだ名が決まってから二日が経った。
最初は正直、違和感しかなかった。
あんなに男っぽくて男言葉なのに、呼ばれ方が「しーちゃん」って、なんかフワフワしてる。
でも不思議なことに、放課後にはもうすっかり慣れていた。むしろ呼びやすいし、馴染んでいる自分がいた。
俺は人のあだ名を覚えるのが得意になったのかもしれない――いや、そんなわけないだろ。
それに授業中ずっとそんなことばかり考えていたわけじゃない。断じてない。
・・・・・・たぶん。
そんなことを思いながら教室を出て、寮を経て学園の生徒玄関に入り、下駄箱を開けると、靴の隙間に何か紙が挟まっていた。
「・・・また果し状かよ。」
俺の手に二通目の果し状が握られる。
正直、まだ入学して一週間も経ってないのに、二通目の挑戦状が来るなんて正気の沙汰じゃない。
一人目は星宮叶。あの無双の女王だった。
そして今回は、もっとヤバい奴らしい。
「・・・・・・果し状って分かるがなんで英語なんだよ?」
手紙はびっしりと英文で埋め尽くされていた。
カタカナ英語のダメな挑戦状ならまだしも、完全なネイティブレベルの英文。
日本語じゃ駄目なのか?
いや、翻訳必須の果し状って一体なんだよ。俺の英語力を試す気か?
正直、開封した瞬間にため息が出た。面倒くせぇ。
内容は短いながらも、威圧感があった。送り主は書いていなかったが、ヒントは「Aランク1位」。
つまり、星宮を超えるAランク最強の奴、荒野優夜――らしい。
「Aランク最強・・・・・・か。」
俺は小さく呟いて果し状を鞄にしまった。
こんなの相手にしてたらきりがないが、やるしかない。やる気はある。
⸻
教室に戻ると、目に飛び込んできたのは男だらけの集団。
和音の取り巻きが増殖中だ。軽く見ても10人は超えている。
「また増えてる!?」
と俺が声を上げると、隣に座る今村が苦笑いしながら呟いた。
「また増えているね」
「呑気で言えることか」
「それを私に言わないでほしいな。諦めているし」
「諦め早いな」
それでいいのか?Sランク3位
「ほんと、なんで増えるんだ・・・・・・?」
和音の決闘無双を阻止しようと挑戦者が殺到しているらしい。
その空気を読まない男集団のせいで、俺にも挑戦者が増えている気がしてたまらない。
「おい、和音。お前、この男軍団どうにかしろよ。」
俺は睨みつけながら言うと、和音はすっと肩をすくめて返した。
「あはは!いいじゃないか。海野」
「何が「いいじゃないか」だよ。『流星』でいいって言ったろ? まあいい。俺の無双記録を邪魔したい奴がいるんだよ。」
「流星ね・・・・・・」
和音と俺はお互い下の名前で呼び合うことになっていた。
しーちゃんだけがあだ名なのに、俺たちはなぜか名字呼びより距離感があった。
「で、なんでそんなに増えたんだ?」
「簡単だ。あの無双状態に噛みつこうとして、決闘挑んできたんだ。」
和音の能力は厄介だ。
身体能力を底上げして、それを仲間にも分け与えるから、反則級の強さになる。まさにゴリラ状態。
俺の手にある果し状に気づく和音が声をあげた。
「それって…・・・・・・また大物?」
「前回の星宮よりもさらに上のやつだ。Aランク最強、荒野優夜って名前だ。」
Aランク2位の次はAランク1位か。Aランク最強が俺に果し状を送って方が・・・・・・面倒だな。
「知ってるのか?」
「ちょっと前に聞いた話だが、奴は数日前にAランク半数を撃破したっていう問題児だ。剣術は達人レベル、能力は使わないスタイルで、俺と似てる。」
「勝てるのか?」
「負けるつもりはないよ。」
俺の即答に、和音は薄く笑みを浮かべた。
「ふふ、頑張れよ。」
なんか、俺がどう答えるか全部お見通しみたいな顔してるな、こいつ・・・・・・。
⸻
その時、しーちゃんが教室に入ってきた。
「遅いぞ、しーちゃん。みんなに挨拶しろよ。」
「いつものことだろ。和音のせいだよ、こいつ。」
「悪い悪い、忘れてた。」
しーちゃんが話すと、教室の空気が引き締まる。
荒野優夜のことを彼女から聞いた。
「入学前に会ったことあるんだ。剣の腕は星宮とは比べ物にならない。達人レベルだよ。」
「実力は?」
「俺より上だ。」
俺と和音は声を揃えて驚いた。
しーちゃん以上だと? Aランクなのに?
「入学時の水晶検査、あれを隠蔽したらしい。順位をごまかせるくらいの実力はある。」
隠蔽工作したなんてとんでもねえことをするな荒野。
学園のシステムを隠蔽工作できるほどの技量があるのは変人だな。
「そんなことできるのか?」
「奴ならな。でも、俺に果し状を送ってきた理由は分からない。」
そう、荒野は自由に問題を起こす厄介者だ。
学園でも異質な存在で、変人でもあるらしい。
「ふーん・・・・・・」
俺は深く警戒しながらも、戦うしかないと思った。
「俺も聞くぞ。勝てるか?」
「負けるつもりはない。」
負けない。
⸻
闘技場。
「さて・・・・・・君が挑む相手か。」
制服じゃない私服姿の男が立っていた。
違和感はあったが、私服OKだったっけ?
その立ち姿、放つ気配、すべてが只者じゃない。
確かに実力隠蔽していると言われてもおかしくないな。
「そうだよ。僕の果し状を受けてくれてありがとう。」
俺は構え、荒野も剣を抜いた。
『始め!』
やっぱり、しーちゃんの言う通りだ。
剣の腕は達人レベル。星宮の比じゃない。
刀と剣が激しく衝突し、火花が散る。
受けて、攻撃して、かわして、止める。
数十手先まで読み合う緊張の攻防。
一瞬も気を抜けない。
時間が経っても決着はつかない。
荒野が突然距離をとり、口を開いた。
「予想以上だね。君の剣術は僕と同等か、それ以上かもしれない。剣じゃ勝てないな・・・・・・」
「じゃあ、どうする?」
「能力を使うよ。君となら、この力を解放してもいいと思えた。もっと楽しもう。」
荒野の瞳が冷たく輝いた。
ついに本気を出そうとしている──
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