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第壱話:追放

「――今この時より我等が不知火(しらぬい)の地から、不知火夜見(しらぬいよみ)を追放する」


 今世での父であり、この地を束ねる頭首である不知火龍馬(しらぬいりょうま)の冷然とした声が屋敷の一室に静かに響く。

 この宣言により、俺の姓は奪われただの夜見という男になった。


 中広間の最下座で、額を擦り付けるように平伏させられながらも、俺は一切の言葉を発することが出来ない。


 今の俺は動くことも喋ることも許されておらず、ただこの現実を受け入れる事しか出来ないからだ。

 

 理由は単純……姓を奪われた俺はこの場に集まる全ての者達より位が低くなり嫡子であった過去が消えたから。


 俺の背中に突き刺さるのは、侮蔑(ぶべつ)嘲笑(ちょうしょう)厭悪(えんお)などと言った思いつく限りの悪感情を含んだ視線。


 重石と感じるほどの悪意の群れ。

 それを受ける覚悟はしていた筈なのに……いざこう受けてみると――家族に見限られるという現実はとても辛くて、気づけば体が震えていた。


 動いてはいけないと分かっているのに……嫌にでも震えてしまう。


 本来なら感じる夏の暑さは今や感じず、極寒の地に送られたかのように体が冷えていく。


 火という起源に愛され、朱雀(すざく)の加護を賜る不知火の一族の生まれにも関わらず、一切の加護を受けることがなかった失敗作が消えたそれが――俺が追放された神歴八八五年、十三才の初夏の出来事だった。

 

――――――

――――

――


大神争乱神楽おおかみそうらんかぐら】――通称かみかぐ、というかなり鬼畜な設定の和風ファンタジーのゲームがあった。


 そのゲームは日本神話を元にしたものであり、日本を滅ぼそうとする妖怪とそれを防ごうとする神々と人間の物語がベースとなった作品だ。


 世界を救うためと己の全てを投げ打った主人公視点で繰り広げられる大迫力のバトルや厨二要素……あとはあんまり言えないようなバッドエンド展開。


 それが世のオタク達の心に突き刺さり一部界隈で死ぬほど売れたそれ――の世界に十年前にはなるが俺は気づけば転生していた。


 転生した直後は凄い驚いたし、そもそも死ぬ間際の記憶なんて覚えておらずなんかいつの間にか赤ん坊になっていたのが始まり。


 日本っぽい世界って思ってて――幼馴染みと妹の名前がかみかぐのヒロインの名前と同じだった事から、あれゲーム転生じゃね? と気づいたのが五年ぐらい前のこと。


 鬼畜すぎてあまりにも命が軽い世界に転生したことで絶望したが、前世持ちの俺を育ててくれた家族に報いるために頑張ろうと決意して立ち直った……んだけどなぁ。

 

「――朱雀様の加護どころか、あらゆる精霊の加護を受けぬ穢れた貴様は早々に立ち去るがいい」


 妖怪が蔓延るこの世界での命は相当軽い。

 一般人が夜にでも出歩けば、すぐに妖怪に殺されるくらいには軽いし、強い妖怪が村にでも入れば簡単に滅ぶくらいには。


 そしてそんな妖怪達と戦うためには精霊と呼ばれる者の加護を得る必要があった。

 精霊には下位や中位に上位といった位階が存在していて、その加護を与えてくれる位階によって恩恵が変わってくる。


 加護は基本的に血筋が関係してくるらしく、日ノ本の中心とされる都の南を守護する不知火家は朱雀という霊獣であり神である存在の加護を代々受け継いでいた。


 嫡子であり霊力だけは無駄に高かった俺は、朱雀の加護を期待され今まで育てられたきたのだが、俺には二つの問題があった。


 その一つは、朱雀の加護を得られなかった事。


 だがそれだけだったら朱雀に愛された妹がいたので問題は無く、追放されることはなかったのだが……俺は不知火家が用意したあらゆる精霊と契約する事が出来なかったのだ。

 

 この世界に生きる者は、大小は様々だが必ず精霊と契約する資格を持っており、それは絶対的なこの世界の法。


 ――それから外れていると判断された俺は、忌み子もしくは鬼子とされこうして追放されることとなった。


「精霊を見ること宿す事が出来ず、攻撃術を一切覚えることが出来ない。他に何か出来ると思えば、使えるのは支援しか出来ぬ霊術と回復術のみ……そんな我が不知火家始まって以来の汚点であり、忌み子である貴様を殺さないだけありがたいと思え」

 

 そうして俺の罪を告げられながらもこの場は解散となり、あらゆる悪意を孕んだ視線を受けながらも俺は頭を下げ続け――最後の一人の気配がやっと消えて、ようやく動くことを許される。


「……あぁ――ははっ、俺頑張ったんだけどなぁ」


 才能が無いのは分かってた。

 だから家族を支えるために、この世界の主人公達を支えるためにと前世の知識を生かして他者にバフできる霊術と、治すことが出来る回復術を少しでも覚えようと頑張った。でも――結果がこの有様、家族の絆なんてものはなく失敗作である俺は家を出て行くしかなかったのだ。

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