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8/10

8:ポコン

 気付いたら自宅の布団でちゃんと着替えて横になっていた。

 お腹が重い。鈍い。

 お腹の子は無事か?撫でる。ポコン。返事が来た。安堵と悲しさと至らなさで涙が溢れた。

 橋本さんは気持ちよさそうに隣で寝ていた。

 酔っていたとはいえ、これは暴力だ。

 橋本さんに何が有ったのか。

 彼はとても複雑で面倒な家庭環境で育ったが、暴力を振るう人ではない。理由が有る筈。

 彼が言わないだけで私への不満が有り、募らせて酔いと共に爆発的させたのではないか?

 それなら愚鈍な私が悪い。言えない環境にした私が悪いのだ。

 それでも…おなかの子には何も関係の無い話だ。

「友人カップルが堕胎するそうだ。その件を聞いておかしくなった様だな」

 ルキが話してくれた。

 橋本さんに暴力を受けた後、橋本さんと一緒に私は自力で歩いて帰宅。橋本さんが帰り道に話していたという。

「そいつ等が決める事であって、友人とはいえ他者である橋本が追求する事ではないな。しかも堕胎後の話だ。そいつ等は夫婦としてより、婚姻関係の無いお互いの責任も無い気楽な関係としての互いが居ればいいだけの様だ。その話を聞いた橋本が荒れるのも、その話が原因で()()に暴力を振るう事も、全て橋本の愚行だ」

 私の中にいるから、ルキも橋本さんの半生を知っている。知っていて、尚、その様に評価したのだ。

「ルキ、ごめんね。ありがとう」

「お前が謝る事ではない」

 ここでやっと穏やかな口調になった。

 さて、出社準備で起きあがろうとしたが、動けない。

「あれ…?」

 腹部が痛い?

 お腹の子は、本当に大丈夫か?

 意識が途切れた。



 気付いた時は12時だった。13時から勤務開始だ。これから準備しても遅刻。この様子では動けない。

 119に連絡をして相談する。こういう時、救急車要請要否確認の相談先が有ればいいのに。

 救急車出動となり、都立病院に運ばれた。切迫早産の診断。お腹の子は元気で問題は無いが、母胎が問題と言われ、そのまま入院となった。最初の病室は個室だったが、空き次第、大部屋に移動を希望した。

 看護師さんからの案内と説明、バタバタと行われていく。何となく落ち着いてから、そっとため息をついた。

「貴方が無事で良かった。ごめんなさい、至らない母親で。でも、本当に何もない?大丈夫なの?痛い所は無い?」

 お腹の子に話しかける。ポコンと返事が有った。しかも手を当てている部分にぶつけて来たのだ。

「貴方は、賢くて優しくて、私には勿体ないくらい」

 ポコンポコンと叩いた。

 救急車が来る前に最低限の荷物を持って来たが、長期入院になるそうで、母に連絡した。母は継父と姉と3人でやってきた。

「私は妊娠中毒、この子は妊娠中毒と切迫早産、貴方は切迫早産。親子だね」

とは母の弁。橋本さんの暴力については話はせず。私の仕事内容が仕事内容なだけに、神経を遣いすぎたのではないかと医師から説明が有ったそうだ。

 橋本さんにはメールで入院した事を説明。家の事についてお願いした。

 結局、お腹の子を出産するまでの約2ヶ月入院する事になった。それでも予定日より2ヶ月早かった。

 橋本さんは毎日の様にお見舞いに来てくれたが、タクシーを使っていた様で、お金が無いと無心された…。

 その時は金曜の夜間。なんかおかしいと看護師さんに報告したら、高位破水していた。しかし量が微量、普通の人なら気付かない量だが、破水は破水なので出産へのカウントダウンだと言われた。

 まだ日数が足りない…もう少しお腹に居て貰わないと肺が心配だ。破水…お腹の子は苦しくないか?大丈夫か?優しくポコンと返事が来た。

 心配で眠れなかった翌日の土曜日。いつも気にかけてくれている助産師さんがアロマオイルで足のマッサージをしてくれるという

「オレンジと桃と薔薇の香りが好きだっていっていたから、オレンジオイル持ってきたのよ」

 とてもだるかった足がとても楽になって驚くと共に、助産師さんのお心遣いがとても嬉しかった。お腹の子も気持ちよさを感じてくれたのか、リズミカルにお腹をポコポコンと叩いていた。

 退院時にせめてお菓子を贈りたかったが、ここは都立病院。感謝の気持ちの場合でも、贈ったり受け取ったりしてはいけないそうで、沢山の感謝の気持ちを言葉にして伝えた。

 後日、仲良くしてくれた短期入院だった同室の人はそういったマッサージは無かったそうだから、特に感謝の思いが募った。

 その日は来た。

 帝王切開だったからドキドキした。手術に使う麻酔が身体に合わない時が有るのだ。

 私が産むのはこの子だけだから、通常分娩を経験したかったのも有る。出産時のスッキリ感が味わった事の無い程の気持ちよさだという。でも仕方が無い。

 橋本さんと両親と姉に手を振った。

 手術室に入り名前確認された。麻酔が効いてきた。

「あと少しで会えるね。頑張ろうね」

 そっと撫でると、ポコンと返事があった。

 と同時に意識が遠くなった。

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