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7:もやもやと…

 橋本さんと交際して直ぐ、私はある公共機関のコールセンターに転職していた。

 この無駄に大きく通る声を使って、人の役に立てるだろう仕事がしたいと願っていた私には、願ったり叶ったりだった。ここも本来の私の学歴では入社出来ない企業だ。

 当時は個人情報保護法なんて無かったから、履歴書に書かれた会社に過去本当に所属していたのか電話確認するのは当たり前だった。

 面接官であり、後に優しく厳しく可愛がって下さった上司から入社して8年後に当時の話を聞く。

「最初に勤めた会社に問い合わせした時にね、貴方の育成をしたという主任さんが対応してくれたの。[何も無い所でよくにコケたり。休暇中に持参した茶葉でお茶をよく飲んでいて、花粉症で悩む上司や来客に、今ではそこらで売ってるが当時は未だ貴重だったお茶を振る舞ったり。お客様のお帰りの際にお茶のメモとティパックをラップに包んで渡したり。同僚のミスを上司に責められ、逃げた本人に変わって直ぐ取引先に謝罪連絡とリカバリー手配したり。屋上でコッソリ泣いたのバレてるのに腫れた目で笑顔を作ったり。戻る時に階段から落ちそうになって上げた悲鳴が「ぅひょぇ~」と何か楽しそうで。退職時には取引先がこぞって餞別注文やお菓子を贈って頂いた、退職して5年以上経っても未だに社内や取引先から話題が出る程のオモロいドジっ子でした]と。こんな事を話してくれた主任さんも十分変わってる。何より貴方の行動理念が会社と自分の損得じゃなく、相手を思い慮る気持ちという所が、人材として欲しいと思った。それは学歴や職歴だけでは見えない貴重なスキルだから」

 在職中は主任には散々からかわれ遊ばれたが、根気強く教育して下さった事も感謝してる。しかし…細かい所まで見られていたのは恥ずかしい…。連絡する事はしないが、心の中でたくさんの感謝の気持ちを送った。



 結婚、妊娠となったので、同僚からは嫌味を言われた。階段から突き落とされた事もある。パワハラやマタハラなんて概念が無い時代。泣き寝入りした。

 産後も仕事をしたいと話をしたら、上司方からは強く復帰を進められたが、人事の男性社員からは、退職する様にもっていかれた。

 前例が無い。ただそれだけの理由だ。

 無いなら私が前例になればいいし、妊娠が理由で解雇は会社として宜しくない。しかも誰もが知っている大きな会社だ。

 私は上司方や妊娠を望んでる同僚達も巻き込み、人事に掛け合い、プレゼンを行い、第1号として残れる事になった。


「それにしても…」

 橋本さんとの生活は色々モヤモヤが多かった。

 橋本さんも私を大事に大切にしてくれた。…ただお金に関して、とてもとてもルーズ過ぎた。

 生命保険に加入していなかった頃に何度か入院した為、私には200万円程の医療借金があった。返済計画をしっかり立てていた。

 橋本さんは自身の借金について隠していて、返済計画もせず。橋本さんの借金は金利が高いので生活を圧迫していた。繰り上げ返済した方がかなり抑えられる…と話をして、私が借金をして各社返済完了した…私名義の借金が増えた。

 そんな中、妊娠が発覚。

 28歳…出産時は29歳。年齢的に厳しくなる前に出産した方がいいだろう。だが金銭的にもかなり厳しい。

 身体の負担も凄まじく、妊娠2ヶ月目から酷い悪阻と戦闘開始。出産するまで悪阻と付き合う様になる。

 酷い悪阻が相手でも私はかなり体力も有る。普通の人なら倒れている状態だとしても、毎日電車に乗って通勤。情報収集や各種準備も同時進行。目眩は沢山。何をしてもムカムカして身体の中が気持ちが悪い。

 お金の事や今後の事…毎日22時までの勤務。思考がぐるぐる。

 橋本さんに相談しても頼りにならない。でも頼りになる様にしていけばいい。

 何で私はここにいる?

 あいたい人にあえない。探すとしてもどうやって探すのかも解らない。以前はどうやって探したか。

 ストレスは良くないと周りから言われるが、ストレスをいつ感じるのか、感じた場合のその解消法が解らない。モヤモヤが続く

 こんな状態だが、せめてお腹の子が苦しまない様にと撫でる。ポコンと返事が来る。可愛いと思うが、お腹の子供に負担がいっていないか…気が気でない。

 ある夜中に橋本さんから電話。酷く酔っている。隣駅で同僚と深酒をした様子。そんな話も聞いていない。

 迎えに来いと言われ、苦しいが迎えに行く。

 途中で合流したが、橋本さんの様子がおかしい。橋本さんは沖縄出身。お酒は弱くはない。しかし今はかなりベロンベロン。

 橋本さんは足をもつれさせ、飲食店のゴミの中に倒れ込んだ。盛大に倒れ込んだのでゴミがそこら中に散らばる。素手で汚したものを片付ける。しかし橋本さんはそのまま昏い目で座り込んだまま。

「どうしたの?何かあったの?」

 昏い目をした橋本さんは私を見上げた。涙でグシャグシャだ。

 異様だ。おかしい。

 一瞬、遠くで「逃げろ!」とルキの声が聞こえた気がした。

 瞬間、私は橋本さんに腹部を殴られ、蹴られていた。

「何故?」

 その問いに答えは無い。

 お腹の子供は大丈夫だろうか。私の元に来なければこんな苦しい思いをさせずに済んだのに。

 いや、私の為にこの子は来てくれたのかもしれない。

 守れただろうか。苦しい。

 この苦しみはお腹の子にはいかないで。私だけに留めて欲しい。私が苦しくても、この子には何も影響が無い様に。

 あの人を想っているのに、他の人と一緒になってしまったからか?

 でもそれは私が悪いのであって、この子は無関係だ。

 どうか。

 この子を守って。守りたい。

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