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11/11

11:痛み

 その日、朝から腹部に鈍い痛み有。自分の痛みではない。しかも未来の痛みだ。

 家族に注意喚起メールを送る。息子関係では無いのは判っていたが何か遭った時の為に保育士の先生方には伝えていた。

 成人が対象…誰だ?

 問題無く通勤、上司にも伝える。

 知らない番号から何度も着信履歴。勤務中だ。対応は出来ず。午前の10分休憩中に気付いた。一つは沖縄。一つは静岡…橋本さんが赴任している地域の電話番号だ。

 昼休みまで待ち、とりあえず沖縄の番号に掛ける。

 橋本さんの父…義父から生活保護申請が出たが金銭的支援が何故出来ないのかと市役所からだった。

 何故出来ないのか、という質問の仕方自体がおかしい。その話は嫁ではなく、先ず実子で長男の義兄へ連絡すべきだと進言。

 橋本さんは長男は長男でも義母と義父が再婚してから出来た子供。義母からしたら三男、義父にとって次男。複雑な出生だ。

 義父と名前が似てるから自分が実子と思ったと言う役所員。本人の意志や意思…許可すら関係無く戸籍調査し、勝手に電話番号も調べて架電しておいて何を言ってるのか?

 義父の長男は大阪で飲食店をしていると聞いてはいるが、自分は連絡先等は知らないし会った事も話した事も無いと伝えて終話した。

 余りに恐ろしい。架電前に番号を調べたから間違い無く、市役所職員だ。

 次に静岡の番号に掛ける…自衛隊基地だった。橋本さんがケガをして入院してると言う。

 腎臓破裂。

 おかしい。昨日は24時間勤務明けの休みでフットサルなんかする元気がある筈もないし、する筈も無い。

 嫌な予感がした…橋本さんの愚痴には濁しながらも上司のパワハラやいじめの話が出ていた。24時間勤務後、入れ違い勤務の上司に無理矢理強制フットサルをさせられ、ケガさせられたんじゃないのか?

 この痛みは橋本さんのものだったか。

 それとなくフットサル時に一緒だった上長や同僚の名前を聞くが開示拒否。

 成る程。労災扱いにもならない、と。

 対応者の名前を聞くが電話を切られた。…拒否、と。

 以前聞いた自衛隊の闇話は都市伝説かと思っていたが、都市伝説ではなかった様だ。

 尚…この約10年後に自衛隊内での酷いセクハラが裁判になったのは、別の話。

 勤務中の継父に連絡、事情を話す。母へも連絡し、事情と息子の事をお願いした。

 そのまま上司に報告。幸い明日は休暇だったが、今後、平日昼間でないと事足りなくなるだろうから事前報告だ。

「貴方の勘は良く当たるから、当たって欲しくはなかった。気を付けていってらっしゃい」

 すんなり。報告相談魔なのが功を奏した様だ。

 静岡。新幹線だとお金が掛かる。新宿から出ている高速バスを利用する事にした。静岡から現地までバスを乗り継ぐかなりの距離と時間だ。回数多く訪問するには仕方が無い。

 自衛隊員の話では命に別状は無いと言う。

 別状が無いからなんだと言うのだ。内臓破裂!遊びスポーツで内臓破裂する程の行為を受けるとは異常。他者行為が有っての事しか考えられない。他に何が有ったら内臓破裂になるのか。

 何故、状況の詳細を開示しない?フットサルは個人競技ではないのだから加害者の他にも目撃者がいるのは確実。何故、謝罪すらない?

 業務後、世話になるバスに乗り込み笑顔で運転手に挨拶とお茶を差し入れながら、心の中では自衛隊の対応への違和感と激しい苛立ちを覚えていた。

 橋本さんからパワハラやいじめを散々聞いていた自分が過敏なのか?

 自席につき、持ち込んだ大量の飲食料を出す。昼飯として持参していた梅おにぎりを食す。次に夕食として購入したコンビニ飯を食し終わると、順番に一つずつ出し、食す。よく噛んで飲み込んでいく。

 ムシャクシャするのは空腹だからだ。腹が満たされれば苛立ちも治まるだろう。

 それにしても…余りにも色々と起こり過ぎる。

 小学生。男子に眼鏡をかけている事をからかわれ、その男子達に好意を持つ女子に嫌がらせを受け、暴力も性的暴力をも受けた。父親がPTA会長を数年やった事でも「生意気だ」と無視や暴力を受けたものだ。それと父親からの性的暴力。

 中学生。姉弟の濡れ場を強制的に見せられる。弟に気絶する程の暴力を何度も受ける。親友だと思っていた人に裏切られる。助けた人にも裏切られる。

 高校生。友人3人が失踪。親が原因だが失踪直前に口論していた事が原因でその親族らに責められる。結局、そいつらはお金欲しさで売春していたのが真相。謝罪も無し。継続される暴力に耐えられず、バイト三昧の日々。

 成人。心の支えだった祖父母の相次ぐ死亡。母と叔父の確執。両親の離婚、母親や父親の再婚、姉の結婚と姉弟からの精神的・性的マウント。上司からのパワハラ。恋した男達からの手酷い裏切り。

 …正気を保つのは難しかった。

 だからひとり、またひとりと作られた。

 佐藤さんに恋したのは死希(しき)だった。死希が恋する事でどうにか長らえた。その間は記憶が欠落した、

 橋本さんに恋したのは裂希(さき)だ。裂希も破壊衝動が抑える事が出来た。だが、橋本さんがこうなった今、彼の状況次第ではどうなるか不明。

 さて、どうするか。



 数時間で静岡駅着。次に乗るバスの時間迄、5時間待ち…こんな早朝ではカフェも開いていない。

 漫喫ならやっている。久々に入ってみるが地方都市の漫喫なだけ有り、衛生管理や顧客管理が甘かった。危うくレイプされる所だった。相手と話をつけ、利用料は相手の支払いとなる。前科つくより安いものだろう。

 2時間程バスに揺られ、病院に着いた。かなり立派で綺麗な病院だ。病院内は入り組んでおり、南海トラフ等の災害発生時は逃げるのが難しい様に思えた。

 ナースステーションで声掛けし、訪問者名簿に記入。病室に着く。深呼吸をする。落ち着かせてから、病室に入る。

 6人大部屋だが、3人利用だった。

准一じゅいちくん」

 声をかける。橋本さんのまぶたが(かす)かに動いた。裂希に突き飛ばされた。仕方無い。

「准一くん…」

 手を握り、頬に当てる。あたたかい。脈も落ち着いていつもの速度。生きてる。目を開ける。

「あれ…どうしているの?」

 ぼんやりした、か細い声。

「もう…馬鹿、馬鹿」

「なんで泣いてるの?」

「知らない、泣かせたのは准一くんだ、馬鹿、馬鹿」

「あぁ…ゆきの別の子だね。泣いてくれるんだ」

「うるさい、准一くんは私のだ。私以外が壊したら駄目なんだ。易々と壊されてるんじゃない、この愚か者が」

「そうは言われてもねぇ…」

 ぼんやりした顔で笑みを浮かべて応じる。

 橋本さんは気付いていた様だ。

 今回の子細を聞く。しかしなかなか口を割らない。

 裂希が苛々し出す。直ぐ壊そうとする裂希にしてはまだ温厚な態度だ。

 重傷者にこれ以上の負担はよくないと判断。

 丁度、担当医師の巡回もあり詳細確認した。緊急手術も成功しており、後は回復を待つだけなので問題は無いそうだが…。本人はゴールポストにぶつけたというが、フットサルのゴールポストにぶつけた様なものではない。准一本人が否定してはいるが自衛隊内での嫌がらせの末の暴行ではないか…と危惧していた。

 裂希の様子がおかしくなっていく。だが、こらえさせた。

 入退院窓口で手続き。洗濯等は病院着で済ますので不要…後日清算でいいと言われる。東京から来ているので頻繁に病院訪問が出来ない事や診断書作成についても確認した。

 病室に戻り、手続きをやった事と、帰宅することを伝える。自衛隊の対応の事も話しあい、帰宅する事にした。

「ちゃんとゆっくり養生しろ。これ以上、私に心配かけさせるな。でないと准一くんの好物のローストビーフはもう作らないからな」

「それは困る。夢で見て今すぐ食べたい位なのに。ゆっくりするよ」

「当たり前だ、愚か者めが」

 3時間に1本のバスの時間が近づいている。

 病室を出てナースステーションへ。本当に入り組んでいる…入院棟とはこんな作りだったか?

 苛々しながら、出口に向かい、バス停へ。もうバスは来ていた。

 慌てて乗り込む。

 自衛隊内でのいじめ…いじめとは生易しい表現だ。傷害事件だ。しかし今後も橋本さんが自衛隊に勤めるなら泣き寝入りしかないだろう。

 末端の人間がやった事とはいえ、隠蔽体質の組織でもある。脅迫された可能性もある。

 橋本さん本人が否定しているのだから何もできない。

 何も、出来ないのだ。



 週一で橋本さんのお見舞いに行く。

 結局、3週間程で退院となった。退院日は事前に訪問しないで良いと言われていたので、止めた。自衛隊の方で迎えに来るのだそうだ。

「大丈夫だよ。何も起こらないし、起きないから」

 その言葉が答えだと思った。彼が選んだ道だから口出しはしない。

 しかし暫くして

「やっぱり営業職をやりたい。不動産とか面白そうだ」

と言うようになった。

 …限界、か。

 出戻りだが、また脱隊を選ぶと最初から解っていた。しかし不動産の営業職。何を言っているのか。また自分を追い込む道を選んでいる。

「脱隊するのは構わないが、キチンと熟考してから職種を選ぶ方が吉。出戻り隊員だから最低でも三年は所属しないと今後の就職に不利。せめて不動産以外の営業はどう?」

 橋本さんは気付いてるから、隠さなくなった。

「熟考したよ。散々、した。半年後に脱隊する」

「そうか。承知した」

 橋本さんは、ホッとした声を出した。

「ゆきがそう言ってくれるかが心配だった。ごめんな、ありがとう」

 裂希が反応する。

「准一くんの人生だ。准一くんが後悔しない納得する行動をしないでどうする。配偶者といっても私達は他人だ。自分設計の出来ない、颯の事を考える事もしない出来ない、先見性のない、自己愛の強すぎる弱い男はいらない。それは解ってるだろう?」

「…」

「最低限の事すらしない・出来ないなら、いらない」

「手厳しいな…考えて行動してるよ」

「それなら、いい」

 裂希は微笑んだ。

 しかし、直後に色々とまた後悔する事となる。

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