#04
夜が来て、明日が来たので、扉の前で彼が来るのを座って待っているとグレモールに聞かれた。
「魔王様、眠れないのでしょうか?」
「ううん、夜が来て明日になったから、あの人がブレッド? を持って来るでしょ? だから待ってるの」
「……な、なんと健気な……」
「いつ来るかな?」
「くっ……、分かりました、私が迎えに行って来ます」
人間を連れて来ると言い、グレモールは城を飛び出して行ったけど、わたしも連れて行って欲しかった。その方が早く会えるのに……、と少しだけグレモールのことをズルイと思う。
そう言えば、あの人間はこの城に何しに来たのかな? と今更だけど考えた。この城に来る人間の大半は魔王を倒しに来ることが多い、だから、わたしを倒しに来たのかな? と思う。
――もし、そうなら、ヤダな……。
わたしは、まだ小さくて人間の扱いが分からないし、大きくなるまで待ってて欲しいって、お願いしようかな? と自分の考えが纏ると、早く人間が来ないかなと待ち遠しくなる。
わくわくしながらグレモールの帰りを待っていると、外が明るくなり、ちゅんちゅんと鳥が鳴き始めた。ずっと座り続けていたせいで、お尻が痛くなったので、一旦立ち上がり、外の様子を覗いて見ることにした。
何時になったら来てくれるのかな、と城を出て辺りをフラフラ歩いている最中、グレモールと昨日の人間が、大きな声で言い合いながら前方からやってくる。
彼は、わたしを見つけると「あー! 俺と約束したでしょ?」と言う。
「約束……?」
「お城から出ないことって言ったの忘れちゃったの?」
「あ……」
そうだった。
そう言えば、お城から出ないように人間に言われていた。でも、わたしは彼が来てくれるのを、ずっと扉の前で待ってて、来るのが遅いから本当に来てくれるか心配になって見に来ただけだし、少しくらい出てもいい気がした。
けど、人間はニターと不気味な笑みを浮かべて……
「あーあ、約束破ったから、俺はもう来ないよ」
そんな悲しいことを言う人間に、わたしは寂しくなってしまい、涙が溢れて来た。「うえっ……ぅ」と声を出した瞬間、彼は慌てて、わたしを抱き上げ「うそうそ! ごめん」と言って謝ってくれる。
彼の顔が近くて、ぶわっと身体が熱くなってしまい、ちょっとだけ恥ずかしいと思う。
取りあえず、わたしは、彼に説明をすることにした。
「人間が来てくれるか心配になって見に来たの」
「そっか、俺のせいだったんだ」
「うん、明日って言ってたから、夜からずっと待ってた」
人間は溜息を吐きながら「彼女が言ってたのは本当だったのか」と呆れた顔をした。
どうやら、わたしが寝ないで扉の前で待っていることを聞いて、グレモールが大袈裟に言っているだけだと思っていたらしく、彼は申し訳なさそうに眉を下げる。
「来る時間は決めてなかったね、ごめんね、今度からはちゃんと言うよ」
そう言って彼は謝ってくれた。けど『今度』と聞いて、わたしは「ここには住めないの?」と聞いて見た。
「え……」
「人間もここに住んだらいいと思う」
驚き困った顔をしている彼を見て、何故か分からないけど、切ない気持ちになった。
「ここに住むねぇ……」と彼が城を見上げるので、わたしも釣られて見上げた。
淀んだ周りの空気と岩に囲まれた城は少し朽ち果てており、お花が飾ってあった方が彼の好みだったのかも知れない、と思った。
「人間は、ここには住めない?」
「いいよ」
え? と思った。
彼は帰る家が無くなったからと、後ろにいるグレモールを睨んだ。
どうやら彼女の馬鹿力のせいで、家は崩壊してしまったと言い、それについての賠償金の話で揉めていたと教えてくれた。
だからわたしは……
「あ、あのね、だったら、わたし責任を取って婚姻する」
「……え、いや、それはいいかな」
「どうして? わたし責任取る!」
「……」
ぎゅっと彼に抱き付きながら、ああ、良かった、と思う。
これで、この人間とずっと一緒に暮らして行けると、わたしは微笑んだ。
END.