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超真面目ホラー

ハムスター

作者: 七宝

 こんな話を聞いた。


 後輩のKが高校生の頃の話だ。


『クラスのいじめっ子と、いじめられっ子と、僕の3人で肝試しに行ったんです』


 なんでもKは高校生時代、そのいじめっ子の腰巾着だったそうなのだ。当然彼はその事を恥じているが、当時はその子のことが怖くて逆らえなかったのだ。


 Kを含む3人はある日、学校から3駅ほど離れた場所にある廃墟に訪れた。

 ここでは十数年前に一家心中事件が起きているのだが、それ以降霊が出るという噂が絶えないのだ。


 いじめっ子のSは、行きの電車の中で何度も

「今から行く豪邸には今にも首がちぎれそうな女の霊がいる」「そこの亭主が突然狂い出して家族を皆殺しにしたあと自分も首を吊って死んだ」「行ったら呪われる」などと話し、いじめられっ子のHを脅かした。


 Hはただ俯いて恐怖するしかなかった。

 霊の話など聞かなくても、ただSが目の前にいるだけで怖かった。


 HはSから日常的にいじめを受けており、持ち物を隠されたり、鉛筆で刺されたり、生きたままのカエルを食べさせられたりしていた。


『で、その廃墟に着いたと同時にHが震えだして』


「入りたくない」と泣き出したそうなのだ。

 Sに逆らうことになると分かっていながら、勇気を振り絞って言ったのだ。そこまでしてでも入りたくなかったのだろう。


『でもSがそんなことを許すはずもなく、無理やりHを連れて中に入りました』


 中は暗く、戸の隙間から僅かに差し込む光だけが家の中を照らしていた。


「家族が殺されたのは2階の寝室だ。だからそこは最後に回ろう」


 Sがそう言って先頭に立った。

 玄関に上がり、階段を無視してキッチンへ向かう一行。


 磨りガラスの出窓から光が入っていたおかげで、キッチンはそう暗くはなかった。

 床を見ると、ホコリにまみれたネズミや虫の死骸、落ち葉などが敷き詰められていた。


「あっ!」


 Kさんがあるものを見つけ、指さして言った。


『小さくて真っ黒な四角いものが、10個落ちてたんです』


 それはおそらく爪だった。家族の誰かのものなのか、はたまたそれ以降にここで起きたなんらかの事件によるものなのかは誰にも分からなかった。


「も、もう嫌だあああああああ!」


 爪を見たHはまた泣き出し、キッチンから飛び出て行ってしまった。


「チッ、根性なしが。⋯⋯仕方ねえ、2人で行くか」


 こうしてKはいじめっ子のSと2人きりで肝試しを続行することになった。


 風呂場の浴槽には落ち葉の浮いた黒い雨水、その壁には何年ものか分からないようなシミがいくつもあった。床には家庭ごみと思われるゴミが散乱していた。


「そろそろ2階の寝室に行ってみるか」


 Sがそう言うのでKはこくりと頷き、同行した。


 階段には何センチもホコリが積もっており、いくつも足跡があった。肝試し目的の輩が多いのだろう。


 2階に上がってすぐの部屋の前には、汚れて臭くなったカツラのようなものが落ちていた。

 Sがそれを蹴り飛ばすと、その下の腐った床が露わになった。


「肺が死ぬ前に出ねぇとな」


 そう、10年以上掃除のされていないこの廃墟はこの上なく汚かったのだ。


「ん?」


 Sがカツラのあった近くの床を見て言った。

 ホコリを数本の指で掬い取ったような跡がいくつもあったのだ。


「まだ新しいな⋯⋯ていうか部屋の中から物音しねぇか?」


 2人は静かにして耳を澄ました。


 ゴソゴソ ゴソゴソ


 やはり誰かがいるようだった。


「お前、開けて先に入れよ」


 SがKの足を蹴って言った。

 逆らえなかったKはSの言う通りドアを開けた。


 すると、そこには窓の方を向いたHの姿があった。


「おいH! お前帰ったんじゃなかったのかよ!」


 Sが怒鳴ると、Hがゆっくり振り向いた。


 口がパンパンに膨れていた。

 両手には、ホコリと落ち葉が握られていた。


『それ見て怖くなっちゃって、Sに「もう帰ろうよ」って言ったんです。でも⋯⋯』


 Sは帰るどころか、Hに近づいた。


「Hの分際で俺を脅かすんじゃねぇよ!」


 そう言って床に散乱していたホコリとゴミを手で集めて、Hの口に押し込んだ。


「ほら、もっと食えよ! すげぇなぁ! ハムスターみてーにパンパンだぁ! はっはっはぁ!」


 口の中に大量のホコリとゴミを詰め込まれたHは、呻きながら苦しそうなジェスチャーをしたあとその場に倒れ、動かなくなった。


 Sは笑っていた。


『Sがおかしくなったと思って1人で逃げました。必死で走ったもんだから帰りの電車の中でもずっと汗だくでした』


 翌日、2人とも学校には来なかった。


『それから結局卒業するまで1回も来なくって。多分2人とも死んじゃったんでしょうね』


 そう言ってKは笑った。

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