第70話 天授魔法
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「天授魔法【ラファーナ】!」
ヨルの魔法でオレの背に翼が生える。
「この魔法使ってもらったことない。どうやって飛ぶんだ?」
「思う通りに。君は自由だ」
「……おーけー!」
ハルキの肩から飛び降りた。上昇、降下、急発進。翼はオレの意思を受信して自在に動いてくれる。自分の手足を動かすのと一緒だ。
オレの少し後ろをヨルが追走し、ハルキも地響き立てるハイハイで追ってくる。
「作戦はあるのかい!?」
「モヤモヤ魔力の鎧が分厚い! 二連撃だ! マホ、動き止めろ!」
『了解……極大迫縛魔法【ヤン・ドゥレ・マリス】』
デルクスの頭上に白い魔法陣。中から巨大な白光する鎖が三本。素早く伸びてデルクスの両手と首を絞め上げてバンザイさせた。
「合わせろ!」
デルクスの左方から旋回し、上昇しながら右腕を太陽ピンで切り裂いた。黒い靄の鎧が裂かれてぬいぐるみの肌が露わになる。そこを同じ軌道を飛行するヨルが三日月ピンで切り裂いた。
「ダメだ! 傷つかない! 中身も硬化してる!」
「腕力足んねーな!? 鍛えてないだろ!」
「君だって強化魔法の仮初の力だろう?」
「ならおまえも使えよ!」
「強化魔法が誰でも使えると思うんじゃない!」
「兵士なら大体の奴が使えるぞ!」
「僕は訓練は受けてたが温室育ちだ! 強くなるための願望が純粋な兵士と比べ薄いんだ!」
『情けない報告してないで、もっと勝つために考えたら?』
「変わらず厳しいなぁ……」
『いつもの「えっとぉ」は聞きたくないからね』
「じゃあこうだ。天授魔法【ファタ・ルフィール】!」
ヨルが三日月ピンを放り投げ掌から水色の光を放つ。
光を受けたピンの両端に小さな羽が生えた。ヨルの指や掌の動きに合わせて自立飛行する。
「これなら非力な僕が振る必要はない」
「ならでかいほうがいいな。拡縮魔法【パオン】!」
飛行する三日月ピンに触れ、四階建ての雑居ビルくらいの背に巨大化させた。
「んじゃもっかい——」
『悪いけど拘束解けるから』
「え!?」
オレとヨルが叫んだ瞬間、デルクスをバンザイさせていた二本の鎖が千切れた。黒い靄が侵食して鎖がボコボコ穴だらけになっている。魔力を奪ってスカスカにさせたみたいだ。
デルクスは残った一本、首を絞め上げていた鎖を自由になった手で握り引っ張った。上空の魔法陣がガラスを割ったみたいに破壊される。そのまま鎖を振り回し、ハイハイで突撃するハルキに向けて振り下ろした。
ハルキにぶつかる直前に鎖は解除された。マホが魔法を解いたのだろう。
しかし振り下ろす手は拳に変わり、アッパーとなってハルキの顎を狙う。
「天授魔法【ファタ・ファリス】!」
ヨルの魔法によりデルクスの手首に四枚の大翼が生えた。翼は地上へ向け羽ばたきアッパーに抵抗する。勢いを殺され、デルクスは反対の手で翼をむしり取った。
その隙にハルキの頭突きがデルクスを襲う。しかし何度も受けてる攻撃だ。デルクスの胴体から黒い靄が集まり槍を形成。急速に伸びて突き出されるのが見える。このままじゃ脳天串刺しだ。
『空裂魔法【アイリス・レイ】』
冷静なマホの声。
槍の伸びる先の空間に穴が空く。別の穴がデルクスの頭上に出現し、黒槍が飛び出す。しかしカエルの脳天を貫く前に霧となり消えた。
ハルキの頭突きが再び見舞う。巨大なカエルは並ぶ建物を潰して仰向けに倒れた。頭突きの勢いそのままにハルキがデルクスにマウントを取る。
「あだだだだだだだぁーーー!!」
赤ちゃんのもちもちな腕が上下し、ボコボコにカエルを殴り始めた。殴られた箇所の靄が晴れてきている。
「首を取る!」
オレとヨルが操る三日月ピンは倒れたデルクスの上空へ。三日月ピンが処刑鉈のように落下。オレはその三日月に対し太陽飾りを突き立てて急降下。渾身の力と落下の勢いを三日月のギロチンに乗せる。真っ黒の首目掛けて一直線。
墜落の衝撃で水飛沫と瓦礫が舞い上がる。そしてカエルの頭部も宙へ飛び上がった。
「やった! 勝った!」
『まだ!』
マホの怒声が頭に響いた瞬間、オレの体は地上から再び上空の雲の下へ。眼下では飛ばしたカエルの首から先端が鋭い剣になっている無数の触手が伸びてやたらめったらに突き刺さっていた。そのオレがいた空間には穴。オレの頭上にも穴。マホが空裂魔法で逃がしてくれたらしい。
『すぐチャンスに飛びつくのクリスの悪い癖だからね! ちょっと優勢になると緩んだり調子に乗ったり……こっちの世界でも何度も見たから! いい加減学んで!』
「ご、ごめん……でも首飛ばしたら勝ったと思うし!」
『そういうところが抜けてるの! あれが生き物に見える? もこもこで目がボタンのヤツが!』
そうだった。ぬいぐるみだった。でもじゃあどうやって倒すんだ?
「あーーーー!! うえぇぇぇぇん!!」
空気を震わすハルキのギャン泣きが聞こえた。頭部の無いカエルがハルキを押し返しマウントの攻守が逆転している。切り別れた頭部は蠢く触手で歩いて首に辿り着き、触手同士が絡み合って接合していく。触手は体からも伸びていて、ハルキの体を這いまわっていた。
『赤子を殺めるのは人心が痛むな……いやもはや人ではなかったか』
「ハルキ……!」
『待ってクリス!』
マホの声を聞かずすぐさま翼を羽ばたかせてハルキの元へ急行する。
太陽ピンでハルキに纏わりつく触手を払おうと振りかぶる——が、触手は自らハルキから離れオレを捉えた。ギュルギュル巻き付いてあっという間に拘束される。
『言ったそばから……!』
「ごめん……」
『デルクスはいつだってハルキを殺せる。彼にとって厄介なのはあなた。ハルキを守らせてその隙を突くのが狙いなの。容易に近づくべきじゃない。わかるでしょ?』
マホの言う通り触手たちはハルキを簡単に解放した。ハルキには怪我してる様子はない。先ほど舌で一度頬を打たれたくらいでハルキはほぼ無傷。さっきの黒槍も転移されたとはいえ消すには反応が早すぎる。最初からハルキを殺すつもりはないみたいに……奴にとってハルキが邪魔なのは変わらないはずなのに……。
触手たちはオレを逃がさないよう縛るとデルクスの手の中へと運んでいった。カエルの拳が握られ、オレは顔だけ拳から出された状態で身動きができない。ガマぐっさんの顔が目の前に。昏く光る黒ボタンがオレを睨みつけた。
『赤子は見捨てられぬ素晴らしい道徳心だ今後もその常識とモラルを守っていくといい』
拳の力が増していき的握り潰される。太陽ピンと両足を突っ張って堪えるが、どんなに体を強化しようとも体格差に圧倒される。羽虫は巨人には勝てない。
「あゆ!」
ヨルが上空から見下ろしている。両手を大きく動かし、三日月ピンを高速回転。オレを封じるカエルの手首を切り落とした。だが、あんな苦労して首を飛ばしたんだ。こんな簡単に手首を切断できるとは思えない。
切り口が微かに見える。繋がった首と一緒で黒い触手が切断面を繋ぎ止めていた。
手首は切断面から靄を噴き出して体から打ち出された。猛スピードで空を飛びビルに突っ込む。強化した肉体だが、受ける凄まじい衝撃に目に映る景色がチカチカする。
『この地球という星は楽しいことが多いだろうおまえは興味深々で楽しんでいたな……ドライブはどうだ?』
カエルの手首はさらに次々ビルを貫通し、黒水の溜まる地上に落ちた。
『プールは?』
黒水のプールの中を猛進していく。——息ができない……!
『花火は美しかったな』
急上昇して手首から触手が弾けた。ハナビとは欠片も似つかない黒い血管の広がりだ。土台となるものもないのに宙に固定されている。オレは磔状態——またか……。
「お……オレの思い出を汚すな……!」
『今のように超速で宙を飛ぶものはロケットというらしい空の遥か先の星の海まで行けるという驚くべき技術だまだまだおまえの興味を引くものは数多にあるだろうだがそのどれもが人工物……【彼】を削り汚し痛めつけた結果のものだいずれ別の星や世界でも同じ過ちを起こす犠牲の上で成り立つ発展をおまえは純粋に楽しめるのか?』
「チキュウの人たちはちゃんと考えてるぞ……キレイになってるって……さあやが言ってた」
『他人からの言葉でしか語れない哀れな頭だ地球はまだ間に合う今人が滅びれば——』
『あなた……は? 【彼】と……話したの?』
息が切れているマホが割り込んで質問した。
『……なんだと?』
『【彼】はなんて? 地球君はどうしてほしいって言ってるの?』
『恨み辛みを叫び続けている人は膿だと——』
『わたしにはそう聞こえない。【彼】は人を隣人として迎えてる。確かに酷いことされた、辛いことが続いた……でも意識は変わってきてる』
『なにを言っている?』
『何十億という長い命の中で人の時代はまだほんの一瞬……これからどれだけ続くかはわからない。今後ずっと苦しい時が流れるかもしれない。でも【彼】は人を諦めてないし人も諦めてない。あなたは会話をしてない、心の側面しか見てない……あなたこそ他人の言葉でしか話せない悲しい人よ!』
デルクスは何も言わずオレを指で拳の中に押し込め、さらに潰す力を強める。
「うぐっ……!」
『あぅ……!』
頭の中のマホの声も苦しそうだ。さあやの身に何か起きてるのかもしれない。
「マホ……だいじょうぶか!?」
『問題……ない……! ちょっと熱いよ、クリス! 恢炎魔法【フラン・コーサス】!』
突如、オレの体が発火した。
『ピンを……!』
「あぁ! 【パオン】!!」
オリハルピンの太陽飾りを巨大化。ギザギザの飾りがデルクスの拳を貫いた。その切り口、触手で接合はされているがぬいぐるみの綿も見えている。オレが纏う火炎が飛び火し、一気にカエルの拳が炎上した。
オレを握ったまま拳は地上へ墜落し、溜まる黒水に浸かった。しかし先ほどよりも黒水の水位がなぜか下がっている。衝撃と痛みの中水面を見ると、大量の武器が突き出ているのが見えた。さほど硬い素材じゃないのか、デルクスの拳には突き刺さらずに潰れている。しかしおかげでオレの体を貫くこともなかった。
拳の炎は鎮火されず燃え続け、灰となって消えた。オレも解放され、朦朧する意識の中翼を羽ばたかせる。
再び上空へ舞い上がった時、遠目に見えるデルクスの黒ボタンと目が合った。
「手が燃えちまったぞ。痛みに叫ぶくらいしたらどうだ」
そうじゃないとダメ―ジが入ってるかも実感できない。
『ぬいぐるみの体なものでな痛覚が無いのだ消えた拳の心配は要らぬこうして賄えるものでな』
そう言い、デルクスの消えた手首の先が真っ黒の靄で覆われ手が形成された。
「あーそーかよ! クソ……でもわかったぞ」
相手はぬいぐるみ……千切れてもぶっ叩いても死なない。だから、今みたいに燃やし尽くしてしまえばいい。それがぬいぐるみの死だ。そりゃそうだって案だけど。
「マホ! もっかい炎で攻めてこう! ……マホ?」
返事がない。頭に何も響かない。
「おいマホ! マホ……さあや!」
『なに……? 聞こえてるから……』
「平気か!?」
『えぇ大丈夫……炎ね……恢炎魔法【フラン・ヴェリタス】!』
オレの目の前に魔法陣。中からごんぶとの熱線が放たれた。黒い雨の中でも勢いは失われず、まっすぐデルクスの腹目掛け飛んでいく。
デルクスは四つん這いになり、ガマ口を大きく開けた。山でも呑み込めそうな大口だ。
『深淵魔法【ドゥル・カシモフ】』
ガマ口の中に夜空のような景色が広がる。星々が煌めく先へ炎の柱が突っ込んでいくと、ごくごくと飲み干されてしまった。口を閉じたガマ口から炎が溢れ漏れている。
『お返ししよう』
一度大きく空を仰いだ後、再びこちら向けガマ口が開いた。蓄えた炎が黒く色を変えて吐き出される。
『……颶風魔法【ウェンディ・ロア】!』
地上に魔法陣が発生し、凄まじい風切り音と共に爆風が昇ってきた。黒炎を巻き込んで竜巻となりそのまま上空へ。暗雲を吹き飛ばし空を焼いたが、暗雲がすぐに集まって来て炎を消してしまった。
焼けた空を見て思い出した。かつて雹が降り注ぐ霊峰でマホと一緒にでかい水玉のスモックを倒した日のことを。
「マホ!」
『……えぇ……天授魔法【フォンデュラ】!』
マホも同じ考えだったようで即座に魔法を唱えてくれた。オレの持つ太陽ピンに白い膜が張られる。さらに先ほど撃った炎の魔法も唱え、オレはその火柱を太陽で叩き切る。煌々と炎を纏う太陽ピンが出来上がった。
『再び物理で来るか……ならばこうだ深淵魔法【ドゥル・アムー】』
デルクスが魔法を唱えると上空の暗雲が奴の頭上に集まり、一つの塊となって落ちた。さらに地上からいくつもの黒い塊が吸い込まれていく。地上を荒らしまわっていたスモックたちと溜まっていた黒水だ。吸収され、奴の纏う靄の体積がどんどん増していく。最初に巨大化した時の一回りも二回りも大きくなってしまった。
『もうおまえたちの貧弱な武器が私の本体まで届くことはない』
勝利のカギを見つけた途端対策される。歯がゆいけど、他に良い手がオレには思いつかない。このまま炎の太陽ピンで切りかかっていく以外には……。
「あゆ、無事か!?」
ヨルが飛翔して駆けつけてくれた。
「あぁ大したことない。それよりなんかいい案ねーか? ハルキが狙われるのがマズイっぽいから下がらせるべきだと思うんだけど」
話してる間にも、デルクスはオレたちを横目にハルキへ方向転換。巨体を揺らしながら歩き始めた。ハルキはハイハイで後退りしつつ、不安そうな瞳をオレたちに向けていた。
あれは誘いだともうわかる。でも放っておくわけにもいかない。
「でも奴と組み合えるのはハルキ君だけだ。僕たちだけじゃ一発叩かれただけで致命傷。僕らは虫けらみたいなものだね」
『地上を……見た?』
「マホ……大丈夫かい? かなり苦しそうだ」
『いいから……もっと視野を広げて……地上で武器が量産されてる……ブラトスおじ様がやってくれた』
「おーブラトスのおっちゃんかー!」
『そして地上のスモックや魔力吸収の雨水、空の暗雲までもデルクスは纏った……今持ち得る全力の魔力武装のはず……それは地上を無視してもこっちの対処に当たるって表れ……全てを持ってわたしたちを潰してくる……でもそれは、デルクスもこちらの炎魔法を見て警戒してるってこと……それに地上のみんなもスモック兵が消えてこちらに参戦できるかもしれない……これはチャンスよ……』
「総力戦か……」
『戦士はかなり増えてる……ヨル、得意な魔法があるでしょ……?』
「あぁ! 君と作った魔法だ! 極大天授魔法【ファタ・ルイン・フィーリア】!!」
ヨルが両手を天に掲げる。煌々と太陽のように光り始め、弓を引き絞るように構える。地上へ狙いを定めて矢を放った。
太陽の矢は駅のあった瓦礫の山に突き刺さり、波動となってシンジュクの地を染めた。光はすぐに消えてしまったが、すぐにポツポツと小さな光の粒が地上に灯り始め、どんどんと数を増していった。
光に見惚れていると、隣で飛んでいたヨルががくんと高度を下げた。オレは慌ててヨルの腕を掴み肩を貸す。背中の翼から羽根が抜けていっていた。
「へーきか!?」
「大丈夫、まだ翔べる。魔力がごっそり無くなったから不安定になっただけだよ。——正念場だな……」
「あぁ……マホも大丈夫か? ……おい、さあや!?」
『……だい……じょうぶ……まだ……いける……!』
マホの声は痛みに耐えるような、やっとの思いで立ってるような、そんな声だった。思い出すのは前世の最後の光景……死ぬ間際のマホの顔、か細い声——重なる……。
スカートのポケットに入ったままのスマホからラジオが流れ続けている。さっき回復魔法を使えるキャバ嬢がいる、怪我人はそこへ向かうよう言っていた。そのキャバ嬢がさあやだと思うが、そっちで何かあったのだろうか。苦しい中でオレたちを助けてくれてるんだろうか。
マホはオレよりもずっと強い。けど、さあやはオレよりずっと弱い。
『クリス……ヨル……もうひと踏ん張りだから……ね……!』
加速していく不安をマホの声がかき消した。
マホはオレたちを信じてる。だからオレも……!
「マホ……さあや、全部終わったら言いたいことあるから……だから……ぜってー勝つから!」
『……わかった……!』
マホの「わかった」は、再び立ち上がる力の漲りを感じ、オレもまた全身が勇気に満ち溢れた。
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■■■お知らせ■■■
次回、本日18時頃に更新します。
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