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第69話 パパとリインフォース

♦︎♦︎♦︎


「いた! ド派手なキャバ嬢だ!」

「ラジオで言ってた通りね!」

「腕の骨が折れた……」


 パジャマのおじさんや私みたいな水商売っぽい恰好の女性、警官、ホームレス、犬猫に至るまで、様々な人が私を頼ってやってくる。

 リルルさんと共に新宿を走り回り怪我人を探しているところだ。

 キャバ嬢が衛生兵だとはラジオやSNS拡散されており、私を見つけるとみんなほっとして駆け寄ってくる。

 私はひたすら【いたいのいたいのとんでけ】! 


「……ど、どうも……」

「……いえ……」


 ……子ども扱いしてるみたいでお互いちょっと恥ずかしい。


 でも治癒能力は完璧だ。

 問題は取り出した傷の行き先。一度取り除いたら放たないと次の治癒ができない。「いたいのいたいの」で吸収し「とんでけ」で放つ。放つ先は主に地面や空、それから襲ってくるスモックだ。吸収した怪我の度合いにもよるがそれなりのダメージを与えてくれる。打撲は衝撃、切り傷は斬撃。骨折でも火傷でも、その特徴を残したまま吸い取って飛ばせる。怪我人ありきだが私も戦えるんだ。

 戦闘員も怪我人もどんどん増えていく。聞いた話だとストップしていた交通機関も動き出しているそうだ。日本人の八割転生者なのだから、鉄道会社や交通省のお偉いさんにも仲間がいるのかもしれない。ブンサブローに連れてこられたという人も多く、戦況は五分になりつつあるようだ。

 しかし転生者だから魔法は使えるみたいだけど、誰もが戦闘に適した魔法が使えるわけでもないみたい。ましてや徴兵もない日本で肉体は一般人の人がほとんど。あゆみたいに肉体を強化する魔法を持つ人は多いみたいだけど、武器が無いのが取り分け辛いところだ。劣勢には変わりない。


「くっそ前世では剣士だったのに!」

「ドンキ行こうドンキ!」

「行くならホームセンターじゃね!? 立てこもって迎え撃とう!」


 ああやってゾンビ映画あるあるに頼る始末だ。


「さあや様! やはり拠点を設けるべきでは!? もしくは少々距離を取るべきかと!」


 スモックに応戦しながらリルルさんが叫ぶ。


「黒い水がもう膝の上まで溜まってます! 倒れたら血も止まらないし溺れちゃうし、動けない怪我人がいたら助けられません! 被害が甚大なここ駅周りを巡回するべきです!」


 私はリルルさんが抑えるスモックに向け、吸収した痛みを放った。スモックの顎から下が消える。結構グロい。動きを止めたスモックの首をリルルさんが剣化した手刀で落とした。

 駅ではデルクスとジャイアントハルキが戦っている。デルクスに近い程量産されるスモックも怪我人も多い。危ないけど直接私が戦場に赴けば戦士たちの戦線復帰も早い。私に大したことができるかわからないが、少しでも力になりたい。


「しかしここは戦いの余波が——さあや様!」


 正面の建物がズバッと切り裂かれ、目の前に黒いザリガニみたいなスモックが現れた。

 普通のザリガニと違うのはハサミじゃなくて死神が持ってそうな鋭利な鎌を構えていて、二階建ての家くらい大きいってこと。さらに無数にある足が節足動物のそれじゃなく人間みたいな足だ。最高にキモい。


「【……とんでけ】!」


 【いたいのいたいの】で吸収していた痛みを飛ばした。狙いは鎌の付け根。しかし——弾かれた!?

 私の「とんでけ」を弾いた鎌が振り下ろされる。リルルさんと治療した味方が間に入り鎌を受けたが——。


「重……い……!」


 押され気味……! ヤバい……!


 もう片方の鎌も振り上がる。その時だ。

 一瞬の煌めきが横一閃して鎌は切り落とされた。バシャッと黒水の中に沈んで靄となり消える。

 凶悪なザリガニはエビみたいに飛び退き、自らの鎌を落とした敵と向かい合った。大きな道路の真ん中。パーカーとショートパンツ姿の女の子がいた。栗色のツインテールを雨に濡らし、ザリガニと対峙している。あれは……。


「みゃーちゃん?」


 花火大会の日、迷子になってた中学生の女の子。あの時の不安を悟られぬよう強がった顔じゃなく、瞳は真に強い威圧を湛えて煌めいている。

 夥しい数の足を動かし、先にザリガニが動いた。胴体の節が開き、そこから新しい腕が生えてくる。例外なくその先は鋭利な鎌だ。

 みゃーちゃんは動じず、携えた棒を縦にして体の前に。キンッと音がして煌めきが見える。居合刀だ。

 瞬きの間に、もう決着はついていた。

 刀を抜くところは見えなかった。みゃーちゃんは片膝を着きすでに刀身を鞘に納めるところで、再びキンッと音を立てると突進していたザリガニは彼女の背後で縦真っ二つにおろされていた。綺麗にその身を開き、倒れると靄と化し消えた。


「ふんっ。ざこめ。よわよわ太刀筋」

 

 みゃーちゃんは私たちの方を見るとジャバジャバ水音をさせて走ってきた。

 目の前まで来ると相変わらずちんまりしている。あゆよりも背が低い。ランドセル背負ってても違和感ないだろう。


「さあや姉! へーき!?」

「うん、ありがとう」

「ピンチのところ感謝致します」

「……だれ?」

「友達のリルルさん。護衛してくれてるの」

「友達ぃ? 護衛ぃ? 今さあや姉死ぬとこだったけどぉ? 頼りなー。弱すぎ。みゃーのほうがずっと強いしさあや姉のこと守れるんですけどぉ。このおねーさん弱そーだし、クビにしてみゃーを護衛にしたら?」


 みゃーちゃんは腕を組み、片目で私たちを流し見した。ナマイキでかわいい。懐かない猫見たいで頭撫でたくなる。


「まぁ、なんともお可愛らしく頼りがいのあるお申し出……さあや様、是非お頼み致しましょう」


 みゃーちゃんも転生者……見た目がこんなかわいくても中身は熟練の戦士。さっきの戦いでそれは分かる。


「じゃあ三人で回りましょう」

「はぁ? 護衛みゃーだけで充分なんですけどぉ!」

「お願い……みゃーちゃん」


 両手合わせて見つめると、みゃーちゃんは渋い顔で口を閉じた。


「……まぁ……いいけどぉ? みゃーは器おっきいしぃ? 感謝しなさいよね!」

「誠にありがとうございます。改めてわたくしはリルル、前世ではリルテッタと申します」

「リルテッタ!?」


 みゃーちゃんはリルルさんを見て叫んだ。目をまんまるにしている。


「もしかして前世で知り合いだった?」

「……別に~? みゃーは知らんけどぉ?」

「ラジオ聞いて助けてくれたの?」

「そーだけどぉ? キャバ嬢がナースしてるって聞いて? まさかなーって思ったけど、でもマジだったしぃ?」

「そっか。一緒にいたのお祭りの短い間だけだったけど、私のこと覚えててくれたんだ……」

「……みゃーはそんな薄情な人間じゃないしぃ」

「友達だもんね? ありがと!」

「い、一々言わなくていいからぁ! もう……この辺回って怪我人治してんでしょ? みゃーはおねーさんたちと違ってつよつよなので、じゃんじゃん頼んなさい? ——ほら、治してもらったヤツはさっさと行く! よわ~いおじさんたちはチーム組んで突撃してきなさいよね! こっちは忙しーんだから、しょっぼい怪我でわざわざ来んじゃないわよ!?」


 みゃーちゃんはその後もナマイキな口調で叱咤や指示を出しまくった。しかも私の警護や苦しい戦闘を強いられている場への援護をしながらだ。指示も的確で戦闘の効率化や士気を上げる結果となっている。前世では人の上に立つ人物だったのかもしれない。

 みゃーちゃんの剣技は居合だけじゃない。中段からの刺突や下段からの切り上げ、水没する膝をものともしない流麗な足捌き。研ぎ澄まされた型を感じさせた。

 しかし気になるのは携えた刀だ。転生者はみんな武器を持たないのに、いったいどこから——。

 疑問符浮かべていると、疑問の行き先である刀がポキッと折れた。スモックの胴体を切り伏せた時だった。私もリルルさんも思わず「あっ」と声が漏れる。


「はーサイアク。なに勝手に折れてるわけぇ? だっさ。ホント使えない。もうあんたいらなーい。ばいばーい」


 折れた刀と鞘を捨てると、みゃーちゃんは建物の崩壊した壁に触れた。


「武装魔法【フェル・イーロン】」


 山吹色に輝く掌が壁に減り込む。引き抜くとその手には無骨な刀が握られていた。


「コンクリ刀……使えな。こんなんじゃ倒せないって……もう! 都合良く三トンの鉄の塊とか落ちてないわけぇ!?」


 どうやら武器を生成する魔法のようだ。壁にはくっきり大刀の形をした穴が残っている。武器の強度は素材そのままみたいだ。


「あの方……」

「リルルさん、やっぱり知り合いですか?」

「今の魔法の使い手に心当たりが……しかし、あまり知られたくないご様子でしたし、ご本人様のお気持ちを尊重致しましょう」

 

 そう言って教えてくれなかったが、リルルさんはハッとして私に向き直った。


「……さあや様! 見つけました!」


 リルルさんには私の護衛の他別の任があった。

 分身した複数人のリルルさんは意識を共有できる。これで戦況が苦しい地や怪我人多数の場所を見つけて向かえるわけだ。そしてもう一つ。病院から出ていって行方知れずの友人たちも探していた。


「ユッキー様です! ボロボロの大変ピンチでございます! スモック複数体! 味方も多数おりますが劣勢にございます!」

「向かいます! どの辺——」

「どこ!? どこどこどこ!?」


 私よりもみゃーちゃんがめっちゃ反応した。お父さんがボロボロだって言われたら当然か。


「どこなのよ!? さっさと教えなさいよ!」

「——お待ちを! ……あれは?」


 リルルさんは急に立ち止まり虚空を見つめた。分身の意識に集中しているようだ。


「ちょっとぉ! なに黙ってんのぉ!? 戦いの手も止まってるし、あんたサボる気ぃ!? みゃーに全部押しつけよーってわけぇ!? そんなのマジ許せんけどぉ!」

「ご安心を、こちらへお越しになるようでございます」


 どうやって!?


 そう疑問を叫ぶ前に、大きな十字路の真ん中で空間がやぶられたみたいに裂かれた。輪郭をライム色に輝かせる宙の裂傷。その中は別の景色が広がっている。

 中から人が数人飛び出してきた。戦ってた人だろうが、知らない顔数人の中に見知った顔が二つ。


「楓パパ!?」


 ユッキーさんを背負った楓パパが飛び出してきた。

 楓パパが空間を飛び出すと、後を追って向こうの景色からスモックが走ってくる。足の生えたウツボみたいな奴だ。大きな頭が空間の隙間を通り抜けると同時に楓パパが掲げた掌をくるんと返す。すると宙の裂傷は中央にすぼんでいき、スモックの首を刎ね飛ばして閉じられた。ライム色の光も消え、元の十字路の風景だけが残る。

 驚きを隠せない私の元に楓パパが駆け寄り、言葉はなく一筋涙を溢し、優しい掌で私の頬に触れた。私も涙を流し、一言「ごめんなさい」と告げる。


「いいんだよ。無事であれば……」

「パパも……転生してきた人?」

「そうさ。名をフェニアという。マホ君の所属する組織の長を務めていた。——呼び起こされた記憶の海の中にいるマホ君と君が重なる……だが……君はまだ……?」

「うん。私はさあや」

「そうか……ではマホ君は——」

「パパ!?」


 みゃーちゃんが青褪めた顔で走ってきた。楓パパが背負うユッキーさんの腕にひしっとしがみ付く。


「君のお父さんかい?」

「俺の娘——あ、いや、みゃーのお父さんなんだけどぉ?」


 ん?


「そうか。安心したまえ。傷の具合は酷いが無事だ。気を失っているだけさ」

「んん……あれ? みゃーちゃん?」

「お父さん!」


 ユッキーさんが目を覚ました。

 背負われたユッキーさんに私は【いたいのいたいのとんでけ】。傷を一瞬で癒すと、みゃーちゃんの表情も安らいでいった。

 ユッキーさんはみゃーちゃんと楓パパ、それから私を見ると曇り空から晴れ間を覗かせたみたいに明るく笑った。


「さあやちゃん! よかったーもー心配したんだよー!?」

「ごめんなさい、ホントに」

「ちょっとぉ! みゃーのことはぁ!?」

「ごめんねーもちろんみゃーちゃんのことも心配——みゃーちゃんなんでここに!? お母さんとおじいちゃん家に避難したんじゃー……」

「それは……えっと……」

「みゃー様も転生者でございます。わたくしたちのピンチに駆けつけ、見事救ってくださったのでございます」

「わぁ! そうなのー!? すごいすごーい! だれなのー!?」

「感動の再会のところ申し訳ないが、ブラトス殿。私はフェニアだが、急ぎ頼みがある」

「はぁ!? フェニア!? だれが貴様の頼みなんか聞くかぁ! 貴様がマホを独占したせいでウチの娘はハレンチ服を——」


 激怒していたみゃーちゃんがハッとして口を押さえた。


「やはりブラトス殿か」

「お……お父様……なの? ……お父様~~~!」


 ユッキーさんがみゃーちゃんに抱き着いた。みゃーちゃんは顔中汗だらだらだけど。


「え……これ……前世での父と娘が転生して入れ替わった……ってこと?」

「そのようでございますね」


 なんとも数奇な……死別した親子再会という感動の場面なんだろうけど、心の動線がハッピーな方を辿ってくれない。


「ちょっとぉ離しなさいよぉ! みゃーはブラトスなんて知らない! あんな筋肉だるまなんかじゃない!」

「だれも筋肉だるまだなんて話していないが? 観念したまえ」

「ぐぬぬ……」

「ね~お父様? 別にアタシが娘でみゃーちゃんも娘であることは変わらないんだから~素を出してくれると~ノーラすっごく嬉しいな~。それにお父様がお父様じゃないって言うとー……ノーラ泣いちゃうかも~……」

「ち、違うのだノーラ! じゃなくて違うからね、パパ!」

「わぁ……久しぶりに『パパ』って呼んでくれたー! 嬉しー!」

「パ……お父さん! 違うから! つーかマジ抱き着くなし……! 加齢臭キッツいから!」

「え!? ほんと~!? パパショックー……」

「あっ、嘘だからね!? ホントは臭くは……うん……ないから……ノーラ、だから泣かないで——違くて! みゃーはみゃーでしかないの!」


 ガラガラの外れくじ並みにボロが出てくる。

 思春期だし、急に子持ちの父親の記憶が蘇れば認めたくないだろうけど、ノーラちゃんのこと大事に想ってるみたいだし、どうしてそんな頑なに——。


「どうして頑なに認めないのー!? もーお父様なんかキライ! イーだ!」

「そ、そんな……だって、だって……JCめっちゃ楽しーんだもん……!」


 あぁ、そう……。


「友達とダンス動画撮ってUPすんのも、ファンシーショップ巡んのも、部活とか、クラスの男子からかったりすんのちょー楽しーんだもん……来週シー行く予定だったのに、こんなおっさんの記憶いらない——」

「シー? ディズニーの? 聞いてないけどー!? お母さんは知ってるのー? 勉強はー!? 予備校でしょー!? 受験生だってわかってるのー!?」

「夏休みなんだよ!? いーじゃん一日くらい!」

「家族会議中すまないが、周りを見てもらえるかい?」


 楓パパがそっと促す。

 リビングの一幕みたいな会話の中でも周りは戦いを続けている。私だって治療や周りの状況見ながらこの会話を聞いている。ものすごく気が抜けそうで困る。

 しかしその抜けた気もすぐ張り詰める。

 頭上で大きな崩壊音がした。背の高い雑居ビルの屋上が崩れ看板が落ちてくる。間一髪リルルさんが私を抱えて飛び退いた。

 屋上を見ると顔の無い恐竜みたいなのが頭を垂らしていた。ヤモリみたいにビルの壁を這ってこちらへ向かってくる。

 地上へ降り立つと私とリルルさんに真っ黒な頭を向けてきた。表面にぷつぷつと無数の穴が開いて、中がぴかーっと——。


 ずん……!


 光線でも飛んでくるかと思ったが、響いたのは地鳴り。屋上からさらに何かが降って来てスモックを押し潰したみたいだ。黒い水飛沫が上がり、スモックを潰した人影が現れる——。


「芳華さん!?」

「あれ? さあやたんじゃん! 無事じゃん無事じゃーん! やっほー! いぇあ!」

「芳華さん、下!」


 スモックはまだ消えてない。まだぷつぷつ穴だらけの頭が光っている。


「あーごめんごめん、今黙らすわー。増幅魔法【グロ・アサミン】」


 芳華さんの両腕が紫に輝き、ビキビキと血管と筋が浮き始めた。太さは変わらないのに威圧感はアームレスリング全米チャンピオンって感じ。

 芳華さんは私の前に降り立ち、光っている敵の顔を鷲掴みにした。たくさんの穴に指を刺し入れ。そのまま引きちぎる。両手で何度も……えっぐ……。

 頭がなくなるまで千切るとスモックはビクンビクンと痙攣し、体も消滅していった。

 芳華さんが振り返り二カッと笑った。返り血みたいな黒い水を顔に垂らしている。その顔のまま私とリルルさんは抱き着かれた。耳元で「すぅー!!」と物凄い鼻の吸気音が聞こえる。


「良がっだよー!! リルたんと一緒ってことは……京都にいたんだね!?」

「い、痛いです……」

「芳華様……苦し……」 

「あははは! パワーありすぎたよねー!」


 ハグの強さじゃない。解放されて目に入った芳華さんの二の腕はパンパンに筋肉で張っていた。タイトな黒パンツもパンパン。首の筋も浮き出ていて、脱いだら相当な美マッチョ感だと窺える。


「ね? ね? びっくりした? ボクも転生者だったよーあはははは!」


 なんか一人称『ボク』になってる……前世に引っ張られたんだろうか。元々ポジティブだったけど、より明るくなった気がする。


「クゥシャ君、朗報だ」

「お、なになにフェニたん?」

「ブラトス殿を見つけた。そちらのお嬢さんだ」

「え? え!? マジなん!? わらけるー! おっさん超かわいくなってるし―! あははは!」

「撫でんな! 貴様クゥシャか……貴様が近衛兵に誘ったからウチのノーラが……!」


 知ってる人が知らない人になっていく……頼もしいけど疎外感もあって複雑だ。


「ユッキーさんがノーラたんだから……揃ったわけだ! だよね? ね?」

「その通り」

「なんの話なわけぇ? 勝手に進めないでよね!」

「武器が無いって話! ね? ね? 出せるよね?」

「人数分出せってことぉ?」

「女子中学生を謳歌していた君にはもう難しい案件だったかな?」

「ナメんな! こちとら受験のストレスで魔力大量……バラ色高校生活夢見て、ノーラにも会えて……出力まっくすなんだから! 極大武装魔法【フェン・ルメロ・アーリン】!」


 片腕を前に伸ばし、指先から山吹色の光が雫となって落ちる。地面に満ちる黒水の中に落ちると、暁のような光が地上から溢れてくる。光と共に何かが突き出してきた。

 光が止むと、黒水の水位が少しずつ下がっていく。そして顔を出したのは大量の剣や槍、斧……ゲームとかファンタジーな映画とかで見る中世で振るわれた武器の数々だ。アスファルトを素材に作られたようで、足の感覚で地面は穴ぼこだらけだと分かった。地面から突き出る武器たちはかなり遠くまで広がっているようだ。新宿中に武器が配られたのかもしれない。


「このままじゃただのよわよわアスファルト……ノーラ! 変転魔法の出番だからね! さっさとつよつよに鍛えちゃいなさいよ!」

「でもみゃーちゃん……今のアタシじゃ……」


 ユッキーさんが顔を暗くして俯いた。新宿全域に広がった武器を変質させるなんて、出力が足りないってことだろう。


 ユッキーさんの心の解放になり得ること……ユッキーさんの……ノーラちゃんが我慢してた好きなこと……。


 考えがあるのか、俯くユッキーさんの手をリルルさんが取った。


「ユッキー様……思い出してくださいませ、かつてのご自身のお姿を……あなた様の本質は『お可愛い』ことであったはず……今こそ『お可愛い』を強さに……!」

「そう……そうだねー! ノーラの時はかわいくてーエロエロでーかいほ―的な服がアタシを強くしてくれた……」


 ユッキーさんはチラリとみゃーちゃんを見る。メチャクチャ渋い顔してるが、みゃーちゃんは腕を組んで頷いた。お許しが出たようだ。


「ユッキー様、伝心魔法でわたくしの心に直接イメージを……被飾魔法で変身させて差し上げます」


 真っ赤な光と桃色の光が混ざり合い、ユッキーさんを包み込む。螺旋する光が両腕、両足、胴体で弾けて……ハルキとニチアサ見てたからか、魔法少女の変身シーンが重なる。四〇代男性の変身バンクはキツい……。


「きゅーきょく☆マジカワ! ユッキー課長だゾー!」


 チェック柄のスカートに白シャツ、赤い大きな胸元のリボン……学生服だ。丈が合ってなくてたるんだお腹が出てる。


「あれ……みゃーが受験する第一志望の高校の制服……都内でもめちゃ人気のやつ……」


 死んだ目でみゃーちゃんが言った。ご愁傷様……。


「あはははは! ユッキーさんめちゃかわ! ノーラたんの制服姿も簡単に想像つくし、一粒で二度おいしい的な?」

「大変お可愛らしくおセクシーでございます」

「ノーラ……パパ…………かわいい……」


 芳華さんとリルルさんの言葉にみゃーちゃんのほっぺがぽっと赤くなった。


 なんか歪み始めてる……。


 子煩悩を父親に向けてる歪な光景。みゃーちゃんの将来が心配になってきた。


「ぱわーまーっくす! んじゃーやっちゃうよー! 極大変転魔法【ネル・マ・ンドゥール】!!」


 赤い光が地面に超巨大な魔法陣を作り出し、浮かび上がって消えた。アスファルト製の武器たちは見た目こそ変わらないが青鈍色の煌めきを放つオリハルコン製に変質した。

 転生者たちは支給された究極の武器を手に雄叫びを上げる。容易にスモックの体を切り裂き、潰していく。RPGとかなら装備ゼロからいきなりゲーム終盤武器手に入れたキャラみたいな戦力アップだ。人数、装備も揃い、戦力差はひっくり返る。


「ね? ね? ダメ押しでさーみんなの魔力出力もブチ上げてかない?」

「なにかいい方法あるの? 芳華さん」

「も~さあやたん知ってるくせに~」


 芳華さんは身の丈以上ある斧を左手で軽々担ぎ、右手でスマホをいじりだした。画面を私に向け、どやぁと笑みを浮かべる。画面を見て私も頷く。


「行きましょう!」


 まだ戦力は上がる。希望が膨らむ。でも際限なく生まれるスモックを倒し続けても意味がない。あの大きなカエルを倒さない限りは……。

 そして心配事がもう一つ。ユッキーさんにも芳華さんにも楓パパにも会えた。でももう一人、大事な人に会えてない。


 リオさん……どこに行ったの……?


♦︎♦︎♦︎

■■■お知らせ■■■

次回、明後日9/25の8時頃に更新します。

面白いと思っていただけた方、またその逆の方。

高低関わらず評価いただけると大変ハッピーです。

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