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第64話 ガマぐっさん

♠♠♠


 真っ黒卵の真下……シンジュク駅だった。

 ビル伝いに跳んできたおかげか、駅の屋根の上にユッキーの姿が見えた。

 周りに人の姿は無い。駅回りは車が数台と人がちらほらとだけいるくらい。あんなに人だらけだった駅が今はガラガラ。ほとんどの人が避難しちゃったり、家に閉じこもってるんだろう。オレたちが入院していた病院はまだそこそこ人がいたけど、逃げられない怪我人とか受け入れられる他の病院がないとか、大変な状況だったのかもしれない。

 大きく跳び上がり、みんなのいる屋根に着地する。


「倒したかァ?」

「あぁ。楽勝だった」

「そうか」


 特に疑いやからかいの言葉もなくブンサブローは頷く。ユッキーも言葉なく、ガマぐっさんを抱きしめて正面にいる赤ん坊を見据えていた。

 おしゃぶり咥えたハルキは黒い触手を背から何本も生やし宙に浮いていた。ベビー服の胸にクマちゃんのワンポイントがかわいく笑っているが、ハルキは薄く目を開き、並び立つオレたち三人を品定めするように見ていた。


「デルクス……なんだよな?」

「しょうだ」


 おしゃぶり咥えたまま舌足らずの声であっさり認めた。


「ひしゃしいにゃ弟弟子よ」

「ロクに喋ったこともねーし」

「師もご健じゃいにゃようで」

「てめェでぶっ殺しといてよォ言うなァオイ」


 ブンサブローが歯茎剥き出しで威嚇する。しかしデルクスは一切の怯みも見せずおしゃぶりをちゅぱちゅぱ音を立てて吸った。


「滑稽だぜェ。戦争仕掛けたバカが今やおっぱい恋しい赤子とはなァ。体は正直ってかァ?」

「不しちゅけでしゅまにゃいこの体はわちゃしだけのものではにゃいのでこうして意識と体の取り合いとにゃるのだ」

「あなただけの体じゃないってことはー、中に元々のハルキちゃんの魂があるってことなのー?」

「しょの通りだ安心しゅるといい今も元気ににゃき喚いているわちゃしとは違い言葉も使えにゃい赤ん坊だ」

「オレと仲良しになってくれたのは本来のハルキか」

「しょうだ最後に殺し合っちゃ相手とは演技でも親密とにゃるのは困難を極めるおしめ交換しゃれるだけで膨大な魔力のちゃかまりを感じちゃぞ」


 息継ぎもなく早口でその上舌足らず……おしゃぶりもちゅぱちゅぱさせて、話を頭に入れるのがものすごく億劫だ。

 デルクスも自分の喋りに嫌気が差していたのか、小さな溜め息を吐く。直後、瞳が黒く光った。


「伝心魔法【キューリン】」


 黒い光がデルクスとオレたち三人を繋ぐ。


『これで少しは話しやすいだろうか?』

「あなたも伝心魔法をー?」

『成熟した精神のまま赤子となると様々な願望が生まれるものだ何せできないことが多すぎる伝心魔法は非常に有効な魔法だ周囲の人間の心を読み取り続け言語の学習にも使える反芻させたい記憶を留めておけば睡眠学習も可能だ』

「その使い方アタシ知らな―い……すっごくべんりー!」

「なるほどなァ。確かに赤ん坊がいきなり喋ったら気味が悪りィもんなァ。それであのシイナの野郎とコンタクト取ってたわけか」

「喋るイヌもじゅーぶん気味悪いぞ——って感心してる場合か! こうして喋って時間稼ぎか!? 上の卵が成長するのに、まだまだ時間が足りないみたいだけど」

『おまえたちも私に手を出せないでいるこの赤子の魂が人質として機能しているからだ』


 その通りだった。ユッキーの伝心魔法で一つの肉体に二つ魂があると知り、デルクスの口からも語られ不用意に攻撃できない。


『だが時間が足りないのも事実……私の目的にはほど遠い……』


 デルクスが空を見上げて呟いた。


「おまえの目的って結局なんなんだよ」


 前世から抱えていた疑問をまっすぐぶつける。


『仕返しだ』


 これまたあっさり返答された。


「仕返しって……ガキかァてめェ」

『そうとしか答えようがない』

「前世で酷いことされたのー? 世界を滅ぼしたんだからー目標達成でしょー?」

「確かてめェ孤児だったよなァ? 迫害でも受けてたかァ?」

『私個人の問題ではない……前世では失敗したあの小娘の奇策が狂わせた』

「マホのことか?」

『見事な一手であった結果私の策は頓挫した充分な時間がなかった消化できなかった……転生し全てを諦めただが! ……【彼】もまた純然たる怒りと憎しみを抱えていた』

「彼ってー……誰の話ー?」

『時に……おまえたちは【声】を聞いたことがあるだろうか? 意識に直接語りかけてくるような……』

「伝心魔法のことか?」

『違う【声】だ……嘆き叫び苦痛恨み……届かぬ声を叫び続け解消されることのない苦しみ……』

「結局よォ……いってェ誰の声だっつーんだァ?」

『……星だ』

「ほし? ほしって……これ?」


 オレは右足でだんだん地面を叩く。地面じゃなくて駅の屋根だけど。


『そう星だ……彼は我々の想像域を遥か超える時の流れの中様々な苦痛を受けてきた取り替わる生物の頂点による破壊蹂躙……尊さを武器に守られる文化や進歩が彼をいたぶり虐げてきた』

「あァ? じゃあなにか? てめェ自然保護っつー高尚だがありがちな理由で人類滅ぼしたっつーわけかァ?」

「環境汚染とか酷かったのは昔の話でしょー? アタシたちの時代はじゅーぶん改善していた……地球だって良い方向に向かってるんだよー? アナタ個人でやっていいことじゃないのー!」


 そうだ。スミダ川はすっごくキレイになったってさあやが言ってた。人は反省して、過ちを正せるんだ。


『良い方向に向かっていたことも理解しているだが……虫がいいとは思わないか? 気が遠くなる時の中で虐げ続けふと我に返り「悪かった」「ごめんなさい」「これからは優しくする」……そんな言葉をかけ行動で示したとして遺恨が消えたとでも? 星は生物だ寿命がある他者からの攻撃で寿命が縮んでしまった結果はもはや戻らぬのだおまえたちは重篤な怪我を負わせれ明日の死を待つ中加害者から深い謝罪と手厚い看護を受けたとしてその者を笑って赦し死を受け入れることができるのか?』

「でもー……アナタ自身自然破壊を繰り返してたじゃなーいー? 矛盾してると思うんだけどー……」

『我々の星は近い未来まで死が迫っていた命尽きる時までに彼に人類への復讐をさせたかった私は手助けをした彼の寿命と引き換えに武器を兵士を用意したそして彼をスモックとして顕現させたのち体を譲るつもりだった』

「……体を?」

『スモックはいずれ消える魔法だその命を人類滅亡へ追いやるほど保持するために心の闇の供給が不可欠だ私が永久機関となる予定だったしかし小娘の転生魔法のおかげで先に全生物が滅ぼされた……行き場を失った怒りは転生魔法の動力として全て消費されたか凪いだ世界で孤独に暴れ続けたか真実は定かでないが彼の悲願は達成されなかっ——』

「だぁぶだぶだぶだぁあああぁーーーーっ!」


 突然デルクスが……ぐずった? 伝心魔法じゃなく、赤ちゃんの口から発せられたものだ。泣き出したというか……むしろ怒ってる?


「ハルキ……?」

「あだだだぁぶだぁああ——」

『失礼した』


 ハルキはすん……と怒り顔から真顔に戻った。デルクスが戻ったらしい。


「前世と違って随分とおしゃべりだなァおい。おっぱい飲んでガキに精神引っ張られたかァ?」

『肯定しよう私も人並みに自身の主張を他者に理解してほしいという欲望がある赤子となり虐待を受け言葉を発することも許されなかった今ここで自由に発言できる喜びを享受していることも認めよう……邪魔が入ったが……つまり私はこの地球という星が叫び続ける人類への怒りを手助けしようというわけだ……だが赤子の肉体ではこの強大な魔力の器としてあまりにも懦弱……』


 デルクスは段々と上へ宙を昇り始めた。纏う靄が濃く、広く強まり背から生える吸盤付きの触手が数を増やしながら肥大し、オレたちの目線の高さから見上げるほど高く昇っていく。

 オレは太陽ピンを肥大化させ構える。ユッキーとブンサブローも身構えて上空を見上げた。しかし注意すべきは足元だった。ぬるんと触手がオレたちのの足を絡め取り宙へ吊り上げた。そのまま高く高く空へ。

 太陽ピンで触手を切断するが切り口がすぐに再生する。クラーゲンの時と一緒だ。ブンサブローも迅雷魔法で瞬間移動ができない。


「ブンサブロー、迅雷魔法!」

「ダメだァ……上手く魔力が練れねェ……」

「アタシもー……」


 オレも触手に掴まってからオリハルピンに魔力を供給できない。

 デルクスはスモックを操る魔法の使い手。スモックは魔力そのもの……魔力自体を操作し妨害する魔法なのかもしれない。

 オレたちは成す術無く上昇を続け、真っ黒の卵のすぐ下で静止した。


『提案だか……私に体を譲る気はないだろうか?』

「譲るって……そんなことができるのー!?」

『赤子として目覚めた時は絶望した様々な魔法を考えたがあの小娘の転生魔法は良いヒントとなったすでに完成された肉体に乗り移るまさに転生だあの父親から受ける虐待の日々から抜け出したい願望が魔法の完成を早めたのだ……転生魔法【レム・オード・フィリア】』


 デルクスが魔法のコトバを唱えると、ハルキの肉体から群青色の靄が立ち昇る。魔力の靄ではない。靄の中にはいくつもの星が煌めき、やがて星たちは星座のように線を繋ぎ目と口を模して動き始めた。


『奇妙な感覚だこれが魂からの視点幽体離脱というものか』

「うわぁーアニメっぽいひょーげんー」

『ニチアサというものに影響されたか……まあいい……誰が私の受肉先となってくれるのだ?』

「時間が足りねェんじゃなかったのかァ!?」

『トウキョウが生んだ魔力は絶大だここから世界へ蹂躙を広げつつ魔力を吸い上げ続ければよいすでに前世で確保した魔力量のおよそ三分の一だ自らの祖先たちの凄惨な過ちを恨むがいい』


 魂となったデルクスはオレたちを宙に並べ吟味し始める。


『元々はあの父親の肉体を奪おうとしていたのだが……肥えた中年に脆弱な獣……どちらも先は長くない……この広大な世界を蹂躙し尽くすのにどれだけの時がかかるか計り知れぬ……となるとやはり若さか……』


 吊り上がる星座の目、輝く一番星の瞳がオレに焦点を合わせる。


 オレの中にデルクスが入ってくる……すると今のハルキと同じ状態ってこと? 

 体の取り合いになる……魂の戦いでオレが勝てばいいんだ! どう戦うかはわかんないけど、赤ちゃんのハルキが時たま勝てるくらいの勝負……なにより人質のハルキが解放される……ぜってー勝つ!


「いいぞ! 来い!」

「あゆちゃん!?」

「クソガキ!?」

『いい返事だ』


 デルクスの魂が大口を開いたように広がり、夜空のような靄に飲み込まれる——が、いきなり夜が明けた。眩い白い光が夜を押し退けたのだ。眩しすぎて目を開けていられない。


『くっ……! まさか貴様……』


 苦し気なデルクスの声が響いた。何とか目を薄っすらと開く。強烈な光の中で夜が再びオレを飲み込もうと襲ってくる。


「だめぇーーーーっ!」


 ユッキーの叫びがこだました。視界の端っこから何かが投げ込まれる。

 朝と夜の中に投げ込まれたのは夕焼け色のカエル——ガマぐっさんだった。

 ガマぐっさんがオレの盾となり、夜が小さな体に吸い込まれていった。朝みたいな光も消えて世界が元のシンジュク駅上空となる。

 ハルキを見る。泣いている。赤ちゃんらしいギャン泣きだ。背にあった触手は消えている。オレたちの拘束も解けていることに気付いた時、全員自由落下を始めた。

 オレが全員をキャッチして元居たシンジュク駅の屋根へと着地。互いに顔を見合わせた後、空からガマぐっさんが落下してきた。屋根の上をボンボンと跳ねて静止する。

 泣いてるハルキをユッキーに預け、オレはガマぐっさんを両手で持ち上げた。青筋をピクピクさせて分厚い唇が開く。


『ふむ……これは想定外だ』

「ウワーッしゃべったー!」


 驚いて投げ捨てる。また屋根を数回跳ねてガマぐっさんは静止。そして自らの足で立ち上がった。


『受肉先を誤った布と綿の体だというのに話し歩けるのはどういった作用だ興味深いしかし今は急務がある転生魔法【レム・オード・フィリア】』


 息継ぎなしで唱えた魔法によりガマぐっさんの体が魔力を帯びる。しかし先ほどのような夜みたいな魂は抜け出てこない。ぐに~っとぐぬ~っと中身の綿が暴れてるみたいにぬいぐるみが歪むだけだ。よく見るとガマぐっさんの体には白い何かが巻き付いている。


 白い……鎖?


『施錠されたか……つまりこの体から解き放たれるには行使者を殺める他道はない』


 ガマぐっさんのボタンでできた黒い目がオレたちへ向いた。

 ハルキを抱くユッキーは離れ、オレとブンサブローは並んで身構える。


「はっはー! 情けねェ! 笑っちまうなァおい! それで戦うつもりかァ!? ちょうどワシ専用のオモチャがズタズタになっちまったとこだぜェ! ご主人にねだらずに済むなァがっはっは!」

『師の仰せの通りだこの小さき体で勝てるはずもない……では再びニチアサに倣うとしよう……深淵魔法【マドゥルタ】』


 ガマぐっさん——デルクスの頭……ちょうど青筋のある辺りから黒い閃光がまっすぐ上空へ放たれる。

 黒い光線は空の黒い卵に直撃。すると卵がゆっくり降下してきた。徐々に速度を速め、そのままシンジュク駅に墜落した。物理的な破壊は無い。黒い嵐が吹き荒び、オレたちは吹き飛ばされないよう身を寄せ合って踏ん張るので精いっぱいだ。

 黒い嵐は段々と小さくなりぬいぐるみの中に取り込まれているのが見える。暗黒に包まれ、ボタンの目はより深く黒く輝き、毛羽立った表見が霧のように捉えようのない輪郭を帯びてきた。


『壮絶で凄惨で悲痛な……酷な魔力だ……極大拡縮魔法【パノン・テルノ・オゥン】』


 デルクスはさらに魔法を唱える。オレがよく使う肥大化の魔法。その極大版。

 暗黒を宿すガマぐっさんの体が大きく、大きく……ミシミシと駅の屋根が悲鳴を上げ始めた。

 ブンサブローが雷化。オレとユッキーに触れ地上へ。駅から少し離れた大きな道路だ。駅方面から人々が逃げ走ってくる。

 真っ黒のカエルは立ち並ぶビル群よりも大きくなり、星の見えない夜空に咆哮した。デルクスの叫びなのか星が生んだスモックの慟哭なのか、それはわからない。

 追い詰められて巨大化するなんて、ニチアサで見た何とかレンジャーとかの敵みたいだ。


「……ありゃあ……オモチャにゃできねェな……ご主人家には入らんし」

「ウチの本社ビルよりずーっとおっきー……」

「さあやの宝物が……また怒られる……」

「アタシのせいだしー……一緒に謝ろーねー……」

「うん……ありがと……」


 三人で現実逃避するしかない。

 ぴちょん……逃避してた意識を呼び戻すように、額に何かが落ちてきた。触れると指が黒く濡れていた。


「雨……?」


 ぽつぽつ、ザーザー……段々と勢いを増してすぐに大雨となった。目に見えるような黒い風も吹き始める。地表が黒い水で覆われていくと、そこから吸い上げるように魔力が立ち昇る。星の魔力、さらに水に浸かる人々の魔力も吸収しているようだ。魔力の行き先は巨大なカエル。卵だった時と比べ吸収速度も速い。

 足元に溜まる水に気を取られていると、不意に巨大な影がオレたちを覆った。見上げて小さく悲鳴を上げる。ガマぐっさんの巨大な足の裏だ。


「【トードル】!」


 すぐにブンサブローが雷化。全員を一瞬で移動させ回避。駅から少し遠ざかった同じ道路だ。


 ズゥンッ……!


 爆発みたいな音がして駅前の道路が崩壊し捲れ上がった。地響きがここまで伝わってくる。ぬいぐるみの足のくせにめちゃくちゃ重いらしい。

 巨大なガマぐっさんと化したデルクスは街を破壊しながら歩き始め、黒ボタンの目玉でオレたちの姿を捉え続けている。耳を劈く咆哮をし、それに呼応して雨風は勢いを増していく。


「はわわわわ……どどどどどーするのー!?」

「知るかァ! おめェらワシよりでかいんだからどうにかしやがれェ!」

「ニチアサではいろんな乗り物が集まって合体してたぞ!?」

「んなもんあるかァ!」

「あゆちゃんウルトラの戦士になれないー!? 巨大化巨大化!」

「できてもあいつの膝下くらいだ……あんなでかいのさすがにムリ——」

「あーだだだぶっあぶぶぶっ!」


 ユッキーが抱いていたハルキが急に叫んだ。泣いてはない。さっきデルクスの言葉を切った時みたいに怒ったような声と顔だ。小さな腕を振り回してギャンギャン叫んでいる。


「わわわっなになになーにー!?」

「自分だけの体になってハイになってらァ」

「ハルキどうした!? ミルクか!? こんな時に——」

「だぁーぶっ!」


 ハルキは咥えていたおしゃぶりを手に取り天に掲げる。すると全身が白く眩い光に包まれた。抱いていたユッキーは思わずハルキを手放してしまったが、ハルキの小さな体は宙に浮き、ぐんぐんぐんぐん……巨大化していく。

 驚き焦りながらもブンサブローが再び雷化し、オレとユッキーを避難させた。


 ズシン……ッ!


 さっきのカエルの足踏みと同じような爆発音が聞こえ、超超超巨大化したクマちゃんの顔が目に入る。ハルキのお尻にあるベビー服のデザインとわかったのは、放心した意識が戻ってきてからだった。


「う……ウルトラのベビー……」

「なんで……ハルキ……」

「おめェあんな赤ん坊を戦場に送り出すとは……正気かァ?」

「オレなんもしてねーし!」

「じゃああれってー……ハルキくんの魔法ってことー?」

「もしかしてハルキも……転生者!?」


 巨大ハルキは地を揺るがすハイハイでデルクスに迫る。カエルの顔面に頭突きを見舞った。

 デルクスはよろめき、しかし腰を捻って大振りの右フック。

 まともに頬に受けた。ぷるんと柔らかい赤ちゃん肌が波打つ。バックハイハイで距離を取りデルクスを睨む。ぺっ……折れた歯や血痰を吐くみたいにおしゃぶりを吐き捨てた。

 巨大おしゃぶりが道路に落ちる地響きでオレたちの足が少し浮く。脳への振動で冷静に……なるわけもないが、やることは決まってる。


「さあやを守るぞ!」

「えー!? さあやちゃんー!?」

「さっきデルクスの体に白い鎖が巻き付いてんのが見えた! マホの魔法だ! ぜったい近くに来てる! たぶんデルクスの転生魔法を封じたんだ! デルクスはもっかい転生するためにマホを殺そうとするはず……さあやが危ない!」

「だがハルキはどうすんだァ!?」

「オレが一緒に戦う! ユッキーとブンサブローはさあや探してくれ!」


 三人で顔を見合わせ同時に頷く。

 再び地響き。ハルキがまたハイハイアタックを仕掛けたようだ。強烈な頭突きを受けたデルクスが仰向けに倒れる。土埃の爆風が襲ってくる。


『思わぬ試練だ……深淵魔法【ドゥマルドゥ】』


 大きなガマ口が開き、中から闇が噴き出す。魂みたいな無数の靄の塊たち。ふわふわと地に降りて沈む。すると魔法陣が展開し、中から醜い獣の腕が伸びて道路を叩いた。這い出てきたのはスモック。以前戦ったワニワニみたいなヤツだ。

 他の魔法陣からも次々召喚されていく。魚みたいだったり鳥みたいなヤツだったり、見た目は様々だがどれも醜悪で凶暴そう。よく見る小さなザコスモックはいない。

 スモックたちはオレたちに狙いを定め襲ってくる。一部は街の破壊や逃げ惑う人たちを追い始めた。オレたちは逃げながら人の救出と討伐へシフトする。

 オレは拡大太陽ピンで戦い、ブンサブローは迅雷魔法でサポート、ユッキーは複数枚の名刺を五指に挟んでナイフみたいに扱っている。たぶん変質させたオリハル名刺だ。

 方針が決まったばかりなのに行動に移せない。もどかしさに焦りが募る。こうしてる間にもさあやが散っていったスモックに襲われてるかもしれないし、ハルキだってどれだけもつかわからない。


 足りない……味方が欲しい!


♠♠♠

■■■お知らせ■■■

次回、明日9/20の8時頃に更新します。

少々リアルの都合で予定していた更新時間に更新できませんでした。

申し訳ございません!

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