第61話 アルバム
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「ふぅ……」
湯船で一息吐く。
夕海さんが体を拭いてくれたと言っていたが、一週間お風呂入っていなかったことと同じ状態だったはず——絶対汚かった……臭いとか……あぁもう!
ものすごく恥ずかしい! めちゃくちゃ入念に体を清めたが、まだ足りないくらいだ。
恥ずかしいのはそれだけじゃない。夕海さんに洗い浚いすべて話してしまった。泣きながら、子供返りしたみたいに。
しかも陽キャの集合写真見て救われるとか……いやホントに救われたんだけど……私って実はチョロくて簡単な人間なのかな……うぅ~~~はずい~~~…………!
湯船のお湯を顔にかけまくり恥ずかしさを紛らわせる。
膝を抱えて水面に映る自分を見つめる。
すっぴんの……深咲里桜の素顔。化粧をしてないと一七歳らしい顔だと自分でも思える。瞳がオレンジ色……カラコンを外してなかったみたいだ。一週間ぶりの封印をぐにっと摘まんで解く。張り付いていてそこそこ痛かった。
出てきた灰色の瞳。このブラウンの髪も元はもっと明るい。伸びてきた根本は亜麻色とかに近い色だろう。肌も白いし、私はいろいろと色素が薄い。みんなお母さん譲りのものだ。
……お母さんのこと嫌いになったはず……なのに……。
お母さんを思い出させる何かに安心を覚える。そしてあゆのことを思い出した。あの子にキスされた額に触れる——酷いこと言っちゃったな……。
「服、置いとくから」
「は、はーい!」
脱衣所から夕海さんの声がする。着替えを持ってきてくれたようだ。
湯船から出て脱衣所へ。バスタオルで体を拭いていく。
用意された服。可愛らしい薄いピンク色のシンプルなパジャマ。今日も泊まれというメッセージが見える。もう夜だし、当然か。
下着も縞々でシンプル。お風呂入る前に着てた服もこのパジャマもあゆの物だろうけど、あの子の選ぶ服してはシンプル過ぎるな……と、着替えながら思った。だって水着選んでた時だってあり得ないものばかり持ってきたし。
私がこれまで隠してきた秘密を全て告白した際、あゆの話をした時だけ夕海さんは首を傾げていた。クリスが目覚める前後で性格とか変わってしまったんだろうか。記憶もないんだし、白紙になった心に別の心が目を覚ましたらその色に染め上がってしまうものなのだろうか。
リビングに向かうと、夕海さんはテレビを見ながら頬杖ついていた。私を見ると微笑んで迎えてくれた。
「温まった?」
「はい。ありがとうございます」
「ただいまぁ」
お礼を言った直後だ。玄関から男性の声がした。
「おかえりー!」
夕海さんが快活に返事をしてパタパタ駆けていく。おそらく旦那さん——あゆのお父さんだろう。私は丸一日寝たままだった。当然お父さんも私の存在は知ってるだろうから、お礼と謝罪をしなくては。
玄関を見ようと私は顔を覗かせて、そして引っ込めた。二人がめちゃくちゃ熱いキッスをしていたからだ。
えぇ……。
再び覗く。一度唇を離したが、再びくっつく。おかえりのちゅーが凄まじくお熱い。
うわぁ……うわぁー……と見ていたら、旦那さんが私に気付いた。目を細めてこちらを見ている。
「おや、目が覚めたんやね?」
「あ! あの! はい、お邪魔してます! ……じゃなくて、ご迷惑をおかけしました。助けてくださりありがとうございます」
「かしこまらなくてええですよ。僕は【広瀬広】。広そうやろう?」
キスされまくりながら旦那さん——広さんが自己紹介した。
最後のは……持ちネタ? 何が広いか聞くのが礼儀だろうか……。
広さんはなんというか……ゆるーく背広をキメた中肉中背の普通のサラリーマンって感じだ。でも、登場してから空気がほんわかした気がする。目も口もぽわーっとしてて、見てるとこっちの気が削がれるようだ。
「えっと……綾見さあやです」
「あ、そっちの名前で自己紹介するんだ」
夕海さんがちゅーしながら言った。
「……深咲里桜です。どちらの名で呼んでもらっても構いません」
「いい子そうやねぇ」
「そう。ビビるほどいい子なのよ。そんでビビるほど重い子なのよ。いじめとか受けてた単なる家出少女かと思ってたのに、想像してた八〇倍は重かったわ」
「そかそか」
「えっと……ラブいですね」
「そお? 普通じゃない? ねーねーヒロ君、お風呂にするー? ご飯にするー? そ・れ・と・も~~~」
定番のやってるじゃん。
「アルバムにする!?」
「そうしよそうしよ」
……なんで?
半ば強制的に私が寝ていた部屋——あゆの部屋に連行された。
「えーっとアルバムアルバム……」
夕海さんが本棚をごそごそ。取り出した本や飾られている写真立てなどをポイポイ床に放っていく。娘の不在時に部屋をこんな荒らしていいのだろうか。
一緒についてきたポメラニアンが尻尾を振りながら放られる物を軽いフットワークで躱している。——かぁいい……。
「アルバムはっけーん!」
小さなテーブルに見つけたアルバムをドカッと置いて広げた。カーペットに座って覗き込む。
中学の卒業アルバムだ。夕海さんがページを捲っていき「ウチの子発見!」と指を差す。かつて見たあゆの高校の生徒手帳にあった写真と同じ、直毛黒髪ロングの色白少女だ。
「一応確認だけど、あんたの言う【あゆ】はこの子で合ってるのよね?」
「はい。お宅のあゆさんです。今はゆるふわ金髪の小麦肌ですが」
「そうよね……あのSNSの写真もそうだし……あんたの話のあゆが全然違う子みたいだったから、一応ね、確認」
「あの、一つ疑問なんですが……どうしてお二人とも私のことこんなに信用してくれるんですか?」
「今更聞く〜?」
「すみません、やっぱり気になって……見ず知らずの私を娘の部屋に寝かせたままなんて……」
「それもSNSのおかげやなぁ」
広さんがはんなり答える。夕海さんが頷き、自分のスマホを操作。
見せられた画面はまた芳華さんのインスタタイムライン。さっきお昼に見た病室での写真から遡り、見覚えのある写真が現れた。
花火大会の日、芳華さんのヘアサロンで浴衣の着付けした際の写真だ。眩しい笑顔のあゆと芳華さんのツーショット。その背後に私が映り込んでいる。芳華さんに削除依頼しなきゃと思っていた写真だった。リルルさんに見せられたその日のうちに依頼してたけど、忘れられてたみたい。
「これ、あんたでしょ?」
「……はい」
「このアカウント、フォローして毎日チェックしてたからね。昨日あんたがふらふらでやってきてぶっ倒れて、あの集合写真見て、んでこの写真のことも思い出して、写り込んでるあんたがただの他人じゃないってわかったのよ」
「それだけで?」
「ウチの子をこんな屈託のない笑顔にしてくれてる子で、その笑顔を向けられてる子が悪い子だとは思わないわ」
「そう……ですか」
「お、照れてる照れてる? ——でもウチの子って影響されやすいのかもね。いきなり髪染めて肌焼いてきた時も驚いたけど。あれも中学からの友達に誘われてやったそうだし。わかりやすく感情出す子でもないけど、この写真もすっごい笑顔だし。今まではおしとやか~って感じだったのに、こんな絵に描いたよーなギャルみたいになっちゃって……親として心配もしたけど嬉しさのが勝ってるわ」
確かに、この卒業アルバムを見ていると私の知ってるあゆはどこにもいなかった。
どの写真も楽しそうではあるが、小さく笑ってる感じで感情豊かとは言いづらい。京都美人って印象は物凄くある——京都と言えば……。
「広さんは京都弁ですけど、夕海さんは標準語ですね」
「夕海ちゃんは埼玉出身なんよ。高校ん時な、転校してきて目がおうたらビビッときたんや」
「ビビッとね。そんでそのまま学生結婚したのよ」
「へー……」
すごっ。一目惚れこわっ。
「あゆも標準語だったのでちょっと気になって……」
「そうなのよ。私のほうが家でよく喋るから自然にね。でも学校の友達とかはみんな京都弁だし、使い分けてるけど素は京都弁なのよね。緊張した時とかは京都弁で喋ること多いわよ? 聞くことなかった?」
「え? ……そうですね」
「小学校の授業参観で作文朗読とかあってね、書いてあることは標準語文章なのに京都弁になってて笑ったわー」
あゆの京都弁……聞いたことない。イントネーションも標準語だ。
あゆと一緒にお風呂入った時に一度聞いただけだが、クリスたちの生きた前世界の言語は日本語ではない。
リルルさんたちは説明がつく。転生して赤ちゃんからこの世界で再スタートをしたわけだから、これまでの経験から話せるのはわかる。
対してあゆは今までの記憶が無いのに日本語が喋れる。脳の記憶野に無くても言語野にある経験がそうさせてるとしたら、今の夕海さんの話通り思わず京都弁が出るのが普通だと思うが……魂と脳には結びつきがないのだろうか。でもそれだとクリスの記憶しか持たないなら日本語喋れないはずだし……。
考えながら卒アルのページを捲っていく。部活動の記録ページが出てきた。あゆは新体操部……だからあんなに体柔らかかったのか。
「これ、中二の関西大会の時の写真ね」
「関西大会入賞……すごい」
「中三で引退後はやめちゃったけどねー」
「え? それはもったいないですね」
「この時はまだ胸もそんなに大きくなかったから気にしてなかったんだけど、中三になってから一気に実っちゃってね。やっぱ血だわ」
確かに今のあゆの体型でレオタード着るのは勇気が要るだろう。本人は気にしなさそうだけど。クリスが目覚める前のあゆは今と正反対で、周りの目をそれなりに気にするおとなしい子だったみたいだ。
一通りアルバムを見終わり、私は改めて部屋を眺める。
白が基調の部屋……新体操のトロフィーや症状も飾られている。棚には猫とか犬のぬいぐるみもある。普通の女の子の部屋だけど——あれ?
並んでるぬいぐるみの最後尾……見慣れた青筋を浮かべるカエルがいた。私は立ち上がりブサイクなカエルを抱き上げる。
「ガマぐっさん……」
私が持っていたボロボロでほつれ糸だらけのカエルとは違い、新品でふかふかのぬいぐるみだ。
「あぁそれ? 先週届いたの。ラジオ番組のキャラでね。ほら、お昼に見てたあのつまんない芸人さんがやってるやつ」
「これ……あゆが?」
「ハガキ出してたみたいやなぁ。教えてくれたらラジオ聞いたんやけどなぁ。僕どんな番組か知らんけど」
「悩み事相談番組よ? まったく……なんの不満もないでしょうに、この平和すぎる家で」
「僕らがラブラブすぎんのが不満なんかも知れへんよ?」
「えーそんなことないでしょー。私たちのほうがグチグチ言いたいわよ。入院中にいきなり行方不明になって一ヶ月連絡ないのよ? 心配させて……帰ってきたらぶちギレよ」
「……入院?」
ガマぐっさんを抱いたまま振り返り、夕海さんに疑問の眼差しを向ける。
「そうよ? あゆから聞いてない? あの子、学校の終業式帰りに舞鶴まで一人で行って海で溺れたのよ。しかも制服のまま。人も多くてすぐ助けられたけど、意識なかったから搬送先の病院で入院してたのよ。夏休みに入ったからって謎テンション発揮させないでほしいわ」
「制服のまま……」
そういえば、芳華さんのインスタに来た夕海さんからのDM……広瀬家の住所と電話番号、他に京都府警察……それから大学病院も連絡先も書いてあったってリルルさん言ってたっけ……。
「最初はまさか自殺かと思うて、連絡受けた時は内臓全部吐くかと思たけどなぁ……」
「ないない。そんな予兆まったくなかったもの。学校でも友達たくさんいるし前日まで普通に家族団欒してたわよ? 第一自殺考えてたらこんな笑顔で写真撮れる? ムリムリ。だって私自殺考えてた子の顔見ちゃったもん。絶対あり得ないわ」
夕海さんは私の顔と、芳華さんのインスタタイムラインにある写真のあゆを交互に見ている。
私は再び部屋を見渡す。何の変哲もない女の子の部屋……想い合う両親がいて、かわいいペットがいて……平凡で平和な生活の中に生まれた違和感が、私にパズルを解かせる。ピースは今まで耳にした単語、言葉、事象……。
自殺……海……入院……。
ガマぐっさん……ラジオ……ポメラニアン……。
お母さん……練炭……心中……。
記憶……言葉……京都弁……。
厚化粧……日焼け……生まれ変わり……。
恋愛……幼馴染……スモック……。
旅の魔法……。
まさか……もしかして……でも……。
ピースが足りない。そうかもしれないってだけで……確証がない。
そして考えを邪魔するように「ぴんぽーん」と来訪を知らせるチャイムが鳴った。
「え~だれ~? こんな時間に~」
「僕が出るよ」
広さんが部屋を出て階段を駆け下りていく。
部屋の時計を見ると、もう午後八時を過ぎていた。
少ししてから広さんが戻ってきた。
「さあやはん、お客ですよ」
「私……に?」
「ささ、どうぞ~」
広さんに手招きされ顔を出した誰か。丸縁のメガネを掛けた、きっちり目元の姫カット……一瞬で目が潤んだ。
「リルル……さん……」
「さあや様……!」
目が合うと、リルルさんは駆け出して私を抱きしめた。強く強く抱きしめられ、苦しいけど離れたくなくて、私もぎゅっと抱きしめる。
「よかった……本当に……ご無事で……」
「ご、ごめんな……さい……」
「そうですね……皆様にも謝罪しに行きましょう……皆々様、お帰りをお待ちしておられます……」
「はい……」
もう一度ぎゅっと力を込めた抱擁の後、互いに解放した。顔を見つめ合い、リルルさんが私の涙を指で拭ってくれた。私もリルルさんの涙を拭い返す。お互い笑ってしまった。
「でもどうしてここが?」
「以前、喫茶店であゆ様のご実家のお話をしたでございましょう? ご住所もお見せしましたし、責任感の強いさあや様ならこちらに伺うやもと思った次第でございます」
その通りであった。
「あなたがリルルさんね」
長いハグが終わるのを待ってくれた夕海さんが言った。
「はい。リルルでございます。わたくしをご存じで?」
夕海さんがまた芳華さんのインスタページを開いて説明している。もう何度目だろう。
様子を見ていると、広さんが私の肩をポンと叩いた。
「夕ご飯にせん? 僕もうぺこぺこや。リルルはんも食べてくやろ? なんなら泊って、ゆっくりしてから東京に一緒に帰ればええ」
「そうでございますね……さあや様も可愛らしいおパジャマ様でございますし……ではお言葉に甘えて」
みんなでリビングに向かいテーブルに着く。
私がお風呂中にすでにおかず類は出来上がっていたようで、レンチンしてご飯をよそい、すぐに食卓は彩を得た。手を合わせ「いただきます」。
広さんがからあげを箸で取り、リルルさんがお味噌汁を啜り、私も箸を持とうとしたところで、夕海さんがテレビのリモコンに手を伸ばした。
「一ヶ月ぶりね~夫婦だけじゃない食卓は」
そう言いながら電源ボタンを押す。
『——こちら新宿駅前です! 見えますでしょうか!? 一週間前突如上空に出現した真っ黒の球体が、今度は突如形を変え……あれはなんでしょう!? カエル!? 巨大なカエルとなり街を破壊しています! 空からはべたついた黒い雨が降り始め、まるで台風のように猛烈な暴風雨が吹き荒れています! 地上も冠水して新宿一帯はまるで洪水のようです! それだけではありません! そのカエルと超巨大な——あれ? カメラさんその頭の黒いのは……え? 私の頭にも!? な、なにこれ!? うわっ、やめて! やめ——』
ガシャン、と音を立ててカメラが倒れた。真っ黒でノイズの走った映像の中に、巨大な黒い影が一瞬だけ映った。大きな口と印象的な青筋……映像はそこで消え、スタジオの映像に切り替わった。
広さんがからあげを落とし、リルルさんの口から味噌汁が垂れ、私は箸を掴みそこなった。静寂の中、落ちたからあげをポメラニアンが食べている。
「なに……今の……」
夕海さんがやっとの声を出した。
私はリルルさんの顔を見つめる。リルルさんも私を見ていた。
「……私のですか? あれ……」
「……いえ……」
「大丈夫です。言ってください」
「……左様でございます。さあや様が生み出したものと思われます」
「……行きましょう!」
私は席を立ち、リルルさんも続く。
「夕海さん、私の服はどこに?」
「え? 洗濯してかごに——」
「ありがとうございます!」
「え、ちょっと!?」
指差されたかごから元々私が着ていた服を取り出す。脱衣所に向かい、パジャマを脱いで着替えた。白いプリーツスカートはところどころ破れて穴が空いている。ジャガード編みのサマーニットのトップスはいたるところでほつれ糸がびょんびょん出ている。ボロボロだけど、そんなのどうでもいい。
リビングに戻ると、リルルさんはスマホを耳に当てていた。しかし手を降ろして首を振る。
「芳華様も楓様もお出になられません。ブン様を頼りにしたかったのですが……もしやすでに……」
「あの騒ぎですから、気付いてないだけかもです。新幹線は?」
リルルさんは再びスマホを見てタップスワイプ。
「のぞみ、動いています! 上りはがら空きでございますね……席確保致しました! 九時発でございます!」
私たちは急ぎ玄関へ。私の靴は片っぽだけ。
「靴借ります!」
靴箱から白のスニーカーを取り出す。たぶんあゆの物だろう。履こうとした時、私の腕を夕海さんの手が掴んだ。
「待ちなさい! あんたたち、今から新宿へ行くつもり?」
「はい」
「あゆが……いるのよね? なら私たちも——」
「ダメです。危ないですから」
「それはあんただって同じじゃない!」
「大丈夫です。私の……私の友達、みんな強くて頼りになりますから!」
そう告げると、私は腕を掴まれたまま夕海さんに抱き着いた。夕海さんは驚いていたけど、私の腕から手を離し、そのまま背中をポンポンと叩いてくれた。
「本当に……本当にありがとうございました……!」
「……人は簡単に変わらないって言ったけど、良い方向には簡単に変わるみたいね」
「みたいです」
隣にいる広さんにも笑みを贈る。
「広さんも、お世話になりました」
「もっと話したかったんやけどなぁ……また次、一緒にご飯食べよぉなぁ」
「はい、必ず」
ハグを解き、温かさに名残惜しさを秘めつつ離れる。靴を履いて玄関外で待つリルルさんと並んだ。
「では広瀬様、この度はお夕食にお誘いいただいたのに誠に申し訳ございません。慌ただしいお別れとなったこと、お許しくださいませ」
「いいのよ。あなたもまた一緒にいらっしゃい」
「是非、その日を楽しみにしております」
「夕海さん……あゆは私が必ず連れてきますから……」
「お願いね! 待ってるわ!」
「はい!」
温かく迎えてくれた家に背を向ける。歩き出した時——。
「里桜! さあや!」
呼ばれて振り返った。夕海さんと広さんが手を振っていた。
「行ってらっしゃい!」
「……行ってきます!」
大きく手を振って……振りながら歩いて……見えなくなってきて……前を向いた。
隣から鼻をちーんとかむ音が聞こえた。
「おぉ推しが……少々見ない間にこんなにも素直に笑顔を……失礼致しました。まずは京都駅までの足、タクシーを捕まえましょう」
「はい。お金後で払いますね。ここまでの交通費も」
「不要でございます。そのようなこと、子供が考えることではございません」
「子供……ですか……バレちゃったんですね」
「ご安心を。いくらでもお助け致します。これまでのことも、これからのことも……わたくしは味方でございます」
「ふふっ……知ってます」
大きな通りに出るまで、スポットライトみたいな街灯の灯りから灯りへ……駆け足に近い速度で進んでいく。歩幅は大きく、飛ぶように軽かった。
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■■■お知らせ■■■
次回、本日18時頃に更新します。
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