【Deficiency of mind】
♣♣♣
コバンザメかっ! いい加減にしろ、どうもありがとうございました!
「あんた……やっぱ芸人向いてないわよ」
えーっ!? ダメっすか?
「一発ギャグもコントも漫才もなにもかも面白くない。ていうかなんでピン芸人なのに二人漫才形式なのよ」
いやー新鮮かなーって……。
「クソよ、全部。歯抜けのおじさんと会話してたほうが面白い」
歯抜け……。
「芸人やめてコメンテーターとかやんなさいよ。あんたアレやってるじゃない。ラジオの。グチ聞くやつ。あたしアレ好き」
えーありがとうございます! アツコさん聞いてくれてんですかー!? 感激だなー!
「バラエティより情報番組出たほうがいいわよ。例えばほら、今新宿近辺ヤバいじゃない? アレについてどう思うのよ」
あーヤバいですよねー。化け物出るとかなんとか……自衛隊配備するかどうかとか、ただのオカルト話とか……実際映像とかなにも証拠ないみたいですしねー。
僕もラジオのスタジオ新宿なんで、怖いは怖いんですけどねー……今日も夜放送なんですが、休みませんよ。スタッフさんたちもやる気満々なんで。
こんな時こそ言葉が力になると思うんですよねー。「がんばれ!」「僕たちもついてるぞ!」って、呼びかけが人を助けると思うんですよ。僕はラジオで一方通行の言葉しか送れませんが、リスナーたちは僕の言葉を聞いて、その言葉に納得できれば周りにもそれを伝えますよね? 言葉は巡るんです。小さな力が、大きな流れになるんです。
「ほらー良いこと言ってるじゃない。やっぱコメンテーター向きよ」
いやーでも僕偽善者とかよく言われますよー?
「いいじゃない偽善者。悲観的なことばっか言ってる奴よりずっといいわよ。別に裏があるわけでもないから偽善でもないし。いろんな意見が出るから議論になるでしょ? 後ろ向きなことしか言えない大御所の隣にあんた置いとけばいい感じに回るわよ」
そーですか? 言うことクサすぎませんかねー?
「クサいぐらいでいいわよ。悪いことはダメだけど、良いことは大袈裟にしていいのよ。凝った意見で一部に刺さるより大勢に刺さること言うのがいいし、J-POPの歌詞くらいわかりやすくて広く共感できればいいわ」
いやー自信つくなー……って僕が満足しちゃってるじゃないですかー。この番組アツコさんを満足させなきゃいけないのに。
「じゃあアレ。またラジオのやつ。グチ溢すからなんか言ってちょうだい」
よし来ましたー!
「ちょっと重くてもいい?」
問題ないです! なんでも言ってください!
「……普通に生きてても、やっぱり『あたしなにしてんだろ』って思うことあるじゃない? 今の自分に至るまでに色んなことがあって、些細な切っ掛けがターニングポイントで、好きに生きてきたつもりでも間違いだったんじゃないかってふと思うわけ。あたしって特殊でしょう? 鏡見てるとたまに『これあたし?』『これでいいわけ?』って思っちゃう時があるのよ」
いやいや特殊だなんて。多様性の時代ですから。
「その多様性の『多』を増やす側にいると、やっぱり変じゃないかとか思う時があるのよ。今のあなたみたいに優しくされるのも特別扱いみたいでしょう? でもそうしなかったらあなたが批判浴びるじゃない? めんどくさって思うのよ。で、結局間違いなんじゃないかって思うわけ。自分を飲み込んで生きたほうが苦労せず人生を送れるんじゃないかって後悔しちゃうのよ」
あの時あーしてれば、こーしてれば……そう思うことは誰にでもありますよね。僕だって思いますもん。でも、選択した答えが間違いだと思うことが間違いだと僕は思うんですよ。
「でもベストな選択とは言えないことってあるじゃない」
ベストじゃないだけです。最良じゃない選択は間違いじゃないんですよ。間違いだって思ってしまうのは、それはアツコさんが優しすぎるからです。
自分が他と違うこと……それをとやかく言われることを人のせいにもできるじゃないですか。でもアツコさんは自分の選択のせいだって言って、後悔してるんですよね?
生き方は良し悪しじゃないんです。多数決でもないんです。自分の選択ですからね。これまで抱えてきたものが今の自分を作ってるんですから、過去に戻って違う選択をしたとしたら、それは自分ではない誰かですよ。
悲しいことや辛いことがあると、そればかり心に残りますよね? でも、楽しいことや嬉しいことだってたくさんあったはずです。
あーしたから誰々に会えた、こーしたから何々をしている……出会いも仕事も、たった一度の挨拶だって、過去の選択が無ければ存在しなかった今かもしれない。だから間違いじゃないんですよ。
間違いだ間違いだ……そう思い続けることが間違いです。そんな気持ちだと前に進めません。次の分岐点がいつまでも見えてきませんよ。
「……そうねぇ。でもやっぱそう前向きになれない心の弱い人だっていると思うわよ?」
そんな時こそ僕の出番ですよ。
生き方の選択は自身の選択です。多数決じゃないと言いました。でも、後押しをすることはできるんです。
アツコさんは今日僕に相談してくれました。僕がお勧めする選択はこれです!
【笑顔でこの生き方を続ける】!
アツコさんはこれまでの選択で自分をさらけ出して、芸能人になって、大御所になって、発言力があります! これって素晴らしいことです!
多様性の『多』の側だと言いましたね? その『多』の人は世界中にたくさんいます。その中でもアツコさんは自分の言葉を強く発信できます。
アツコさんが強くて明るくて優しくて、僕や皆さんや他の『多』の方々、どなたとも仲良く笑顔でいられる。その姿がテレビで放映され、それを見て心強く思う人が必ずいるはずです!
これ、アドバイスですから。当然違う選択するのもアツコさんの自由です。アツコさんの言う『特殊』ではない生き方。もちろんそれも間違いじゃないです。でも今の生き方を続ければ、他の誰かの選択の後押しになってくれます!
その選択がどこかの誰かを、その誰かの選択がまたどこかで後押しになる。どの選択でも、前に進めば誰かに響くんです。励ましの連鎖ですよ。
多様性の時代と言いましたが、ここ数年がその時代の日の出ですね。時代は回ります。でも、アツコさんや僕ら次第で夜は来なくなります。生き方のマイノリティ、マジョリティが無くなるんです。
ライフスタイルの夜明けぜよ!
そんな感じで今日の曲はこちら。
【座馬智明/知らなひ名】。
「ちょっと、なに曲紹介してんのよ。流さないわよ」
あ、すみません。つい癖で。
それで、いかがでした? 最後ちょっとテンション上がっちゃったんですが。
「んーまぁ……悪くなかったんじゃない?」
あれーなんか思ったほどお気に召さなかった感じですか?
「いや、良かったわよ。結構嬉しい感じ。けど……」
けど……なんですかー? 教えてくださいよー。
「恥ずかしいのよ! クサいクサい! あー首かゆっ!」
えー!? クサいくらいでいいって言ったじゃないですか!
「クサすぎるのよあんた! あんたがラジオばっか仕事くる理由わかったわよ! 面と向かって言われると……もうムリ! かゆいかゆいかゆい!」
そんなにっすか!?
「もうヤバいわよあんた。ホント。ラジオがホームよ。顔合わせないからリスナーも聞けるんだと思う」
あーでもそれはあるかもですねー。
SNSとかもそうじゃないですか。恥ずかしい内容でも攻撃的な言葉でも遠慮なく言えちゃいますもんねー。一枚壁を壊したコミュニケーションですよ。
「ヒートアップしちゃうのは困り事よね。でも発言しやすいというのは利点だと思うわ。相手が見えないからこそね。教会の懺悔室みたいな?」
直に話す場合でも、知らない相手なら以外と話せたりすることもありますもんねー。相手が大事な人だと不快にさせたくない、迷惑や心配かけたくないとかで。
信頼だけが心を開く鍵じゃないんですよねー。
「まぁそうね。あんたがあたしにとってどうでもいい人間でよかったわ」
ひどー!
「でもあんたの言葉が励ましになったのは事実よ。そこはありがとうって言わせてもらうわ。あんたすごいじゃない。毎回結構な数のグチ捌いてるんでしょ?」
一度の放送で四つか五つですかね。曲も流すんで。
アツコさんのほうがすごいですよー。平日の帯でゲストとトークしてるんだから。僕週一ですからねー。
それに「小指ぶつけた、ムカつく」とか驚くほど軽いのも多いですよ。
「でもたまに重いのも来るのよね? 聞いてるほうが潰れちゃいそうなやつ。あたし耐えられそうにないわ。あたしはもう人生折り返してるけど、若い人は特に悩むわよねぇ? 親が求める理想とか、学校の先生が求める完璧とか、友達が求める同一感とか。で、ちょっと間違えると後ろ指差されるんでしょ? 演技してても疲れるし、でもあたしみたいにさらけ出すのも勇気がいるのよねぇ」
だからこそ、さっき言った後押しが必要なんですよ。そしてどの選択を取っても支えられる関係が大事です。
人間って、やっぱりどこか欠けてるじゃないですか。
「人間性がってこと? ディスるじゃない。重いハガキくれた子泣くわよ?」
いやいや、人間性って言うと誤解がありますが……そうじゃなくて、心の話です。
人って、心の中のなにかしらが欠けたまま成長していくんだと思うんですよ。性格や環境で左右されると思いますが、なにかが足りてないんです。
だから悩んで、その欠けた部分を補うために親や先生を頼ったり友達を作ったりするんです。さっきの生き方の選択もそうです。自分じゃ迷ってしまうから相談するんですよね?
完璧な人はいないって言うじゃないですか。その通りだと僕は思います。いたら神様とか化け物ですよ。だって自分の選択全てに満足して、誰にも頼らずに生きていけて、後悔もなく前だけ見て進み続けられるなんて……怖いですよ、僕は。なにも言葉が届きそうにないですから。
「一理あるかも。独裁者みたいな人ってことでしょ? そう思うと、あの時の選択が間違いだったかも……そう思ってるうちがかわいいのかもね。——じゃあそろそろ番組もお開きの時間になってきたけど……」
どうです? 満足できました?
「まぁ合格でいいんじゃない? 前半はつまらないギャグで吐きそうだったけど後半は結構有意義だったわよ。ただねぇ、過去の選択が今に繋がって、あの人との関係がある、ここに居場所があるって考えるのは素敵なことなんだけど、いつだって重大な選択があるわけじゃないじゃない? たまたま連絡取ってみたとかすれ違っただけとか、ほんの些細な出来事とかでも交流ができたりするけど、それをいちいち『この時の選択のおかげ!』って思うのはちょっと大袈裟だし、そもそも忘れてる気がするわ」
あ、忘れない良い方法ありますよ! もっと大袈裟にすればいいんです!
運命とか天の導きとか、仰々しく呼んじゃえばいいんですよ! ありふれたことや偶然に、特別な名前をつけてやるんです! 恋人同士が作る記念日みたいなものですよ!
重要な選択だったかわかるのは未来ですが、その日の出来事がなんでも特別なら、きっと忘れません。その未来が来た時、より感慨深く思えるはずです。ほら、未来が輝いて見えませんか?
「気持ち悪いわよ。あんたとこうして仕事してるのも運命とか考えたくないわ」
えーそうですかー? 僕はアツコさんと運命共有したいですー。
「気持ち悪いわねぇ! あとそれから……あんた芸人になった選択は間違いだと思うわ」
えーっ!?
「それでは、【アツコの接待部屋】。また月曜にお会いしましょう~」
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