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第48話 チェイス

♠♠♠


 どうなってる……!?

 リオは……リルルは……?

 さあやは……どこだ!?


 両腕をぶん回しても何も掴めない。何も見えない。

 手探りで前髪を留めるオリハルピンの内太陽ピンを外す。【パオン】! ……魔法が発動しない。


 魔力がもう残ってないのか……?

 もっと怒れ……不安なことを探せ……!

 油断した……みんな無事なのか……さあやは……。

 さあやに……嫌われちゃった……。


「【パオン】!」


 涙を堪え鼻を啜りながら魔法のコトバを唱えた。暗闇の中に青い光が灯る。


「伸びた!」


 微かに見える視界。伸びていくピンの先、太陽飾りが暗闇の中へ消えていった。そして手に響く衝撃——なにかに刺さった!


「【ピエン】!」


 剣サイズへまで縮んでいくピンに引っ張られる。闇を抜け、眩しい都市の灯りを全身に浴びる。そして耳に飛び込んでくる人と車の悲鳴。

 太陽が突き刺さったのは道路。大きな通りだ。オレが向く方へたくさんの人たちが駆け逃げていく。

 振り返る……息を呑んだ。

 地響きを立てながら街を闊歩する巨大なスモックの後ろ姿だ。

 ビルと背を並べるほど大きい。短い手足、肥え太ってずんぐりした靄の塊。二本足で歩き人に近い形を成しているが、輪郭がぼやけて定型がないようにも見える。小型のザコスモックがそのまま肥大したような見た目だ。


「【パオン】! ……くそっ!」


 太陽ピンは沈黙している。やっぱり魔力がもう無いんだ。みんなの無事がわからないから不安でいっぱいだけど、魔法を発動できるまで魔力が溜まるには時間がかかる。待ってる時間なんてない!


「今……水着? 水着姿の少女が怪物のお尻から飛び出してきました! 他にも人が怪物の中にいるのでしょうか——え? 映ってない?! ちょっとカメラさん!?」


 道の端っこで変な道具を持った男女数人が見える——かめら……映る……あれって……。

 考えてる暇はない。手を振りながら喋っていた女に駆け寄る。


「あ、飛び出してきた少女がこちらに来てくれました! 大丈夫ですか!? あれはいったい——」

「なぁなぁ! これテレビ!?」

「え? は、はい!」

「喋ったら遠くに届く!?」

「えぇ生中継だから……映像はなぜかダメみたいですが、音声なら——」


 オレはカメラの一つ目に顔をくっ付けるほど近づき、大きく息を吸う。


「ユッキー! ブンサブロー! だれか―! 聞いてたら助けてくれー!」

「来たぜェ!」

「来たよー!」


 足元に雷撃。背後に車のブレーキ音。

 迅雷魔法で瞬間移動してきたブンサブローと、車でやってきたユッキーが現れた。

 オレと話していた女は雷鳴に驚き「ひぃっ!」と声を上げて尻もちをつく。


「早っ!」

「水着でお出迎えとは出来た弟子だぜェウエッヘッヘッヘ」

「乗ってー!」


 涎垂らしているブンサブローの首根っこを掴み車の後部座席に乗り込む。楓パパの車と違って角張っててなんかちょっと頼りない銀色の車だ。口先に黄色いプレートが付いていた。

 アクセルを踏み込み、車は猛スピードで走り出した。


「ご主人とニュース見ててな、即行来てやったぜェ! ワシ偉い! 敬え!」

「アタシはホテルからずっと追ってたからー! ナイトプールのお客さんたちは大丈夫ー! 避難させた場所はずーっと後ろだから心配しないでねー! あー車で来ててよかったー!」

「ありがとう! 二人は会うの初めてだったよな?」


 ユッキーがノーラ、ブンサブローがターゲンのジジイと二人に説明する。

 するとユッキーはプレゼントを貰った子供みたいに瞳を輝かせ、ブンサブローは死んだ魚みたいに瞳の光を失った。


「きゃ~~~! ターゲンおじ様がコーギー犬!? 喋ってる~きゃわわわ~~~!」

「ノーラたんが……ワシのノーラたんがおっさんに……」

「感動の再会は後にしろ!」

「そうだねー、愛でるのは後ー!」

「あァ、嘆くのは後だ……状況はどうなってんだァ!?」

「あのバカでかいスモックの中にさあやたちがいる! たぶんシイナも……!」

「あの野郎かァ……!」

「あの海坊主みたいなのの中にリオちゃんとリルルさんもー!? 明日同伴の約束してるんだからー! ぜーったい無事に助けなきゃー!」


 車は乗り捨てられた無人の車たちを避けながら巨大スモックを追う。


『怪物は明治通りから渋谷駅方面へまっすぐ向かっています! 近隣の方は避難を——』


 車に備え付けられた小さなテレビからさっきの女の声がする。画面は濃い魔力のせいで真っ暗だ。


「駅まで行ったら被害は只じゃ済まねェぞ! どう止めんだァ!?」

「オレは魔法がもう使えない……二人と、あと中にいるリルル頼みだ! ユッキー、伝心魔法でリルルに話しかけられねーか?」

「やってみるねー! 伝心魔法【キュー・リーリン】! ばきゅーん!」


 左手でハンドルをきりながら右手の指先から赤色の光弾が放たれる。一方通行じゃなく、想いや言葉を互いに伝心させる魔法。つまり、電話みたいな会話が可能になる魔法だ。

 光弾は巨大スモックの中に吸い込まれていった。直後、ユッキーの顔に苦悶が広がり、チョロ毛がビンッと緊張する。


「これ……スモックの中で叫びがこだまして……罵詈雑言の嵐の中泳いでるみたい……! 残業代払えとか、満員電車ゴミとか、有給通らない経費落ちない十八連勤中でもうムリとかいろいろー……!」

「それそんな酷い不満なの?」

「そりゃ酷いよー! 心が病んで死んじゃう人だっているんだからー! アタシたちの前世では無かった不満だし、くだらなくて小さなストレスに感じるかもしれないよー? でもアタシたちの物差しで計っちゃいけないのー! この国は平和だし平和だからこそ小さな不満が大きい……それが積み重なった時の爆発はとんでもないことをしでかす……人は人の心が分かるけど、完璧に計れはしないんだよー!」


 人の心は計れない……。

 オレもさあやのことなにも分かってなかったのかな……どうして怒っちゃったんだろう……どうして嫌われちゃったんだろう……。

 嫌われた……言葉を頭に浮かべると、また泣きそうになった。


 ——私はマホじゃない!!


 さあやの言葉が追い打ちをかける。

 ちゃんとさあやを知って、理解して、謝りたい。

 だからちゃんと無事でいろ……がんばれ! さあや!


「追いつくよー!」


 オレたちを乗せる車が巨大スモックの足元までやってきた。


「……繋がったー! リルルさん、聞こえるー!?」


 伝心魔法でスモックに取り込まれるリルルと通信が成功したようだ。


「……うん! 分かったー! そのまま撃ってー! みんな伏せててよー!」


 巨大スモックの背中から何かが飛び出してくる。返しのついた銛だ。柄の先がロープでスモックと繋がっている。

 ユッキーは車の速度を調整し銛の落下地点へ。銛は車のフロントガラスを突き破り引っかかった。直後、ユッキーがブレーキを思いっきり踏む。銛に繋がったロープがピンと張るが、その先にいるだろうリルルを引っ張り出せない。それどころか車が引きずられている。


「ダメー……勝てないー……!」

「任せろォ! 速度は力だぜェ!」


 ブンサブローが車に引っかかる銛をペロペロして噛みつく。


「迅雷魔法【トードル】!」


 雷が進行方向から四時の方角へ走り、ブンサブローと銛の姿が消える。同時にスモックの背中からリオが飛び出してきた。トッコウフクは着ていない。銛に繋がっているロープを掴んでいる。

 オレは車のドアを開けて身を乗り出しリオを抱きとめた。後部座席へ引き込む。そしてブンサブローが銛から変身を解いたリルルと一緒に再び迅雷魔法で助手席に戻ってきた。


「なんだっ!? なんなんだこれはよーっ! ユッキーっ!? な、なんでいるのー? リオちゃんわかんなーいっ!」


 運転席のユッキーを見てリオが急にきゃぴった。結構余裕ある様子にひとまず安心する。


「い、一瞬代々木公園の景色が……あゆ様!」

「リルル、リオ、無事か!?」

「はい、問題ございません。皆様、感謝致します……そちらのお犬様は?」

「ブンサブローだ。前世はターゲンのジジイ!」

「あぁあなた様が……変わらずセクハラ三昧でございますか?」


 リルルが凄く冷めた視線をブンサブローに向けた。水着姿のリルルを舐めるように見ていたブンサブローの視線が泳ぐ。


「ワ、ワシ犬だもーん。同族のメスにしか当然興味ないもーん」

「それ嘘だぞ。リルル、さあやは!?」

「申し訳ございません、あの中のどこかにいるとしか……取り込まれる際リオ様はすぐ隣にいらっしゃったので確保できたのですが……今探しております」

「今って?」

「わたくし、分身体でございます。本体は奴の腹に残ってさあや様を捜索中。場合により攻めに転じます」

「南海大冒険かおめー。だがさあや助けてからだ。さっきみてーに銛ぶち込んで傷負わせたら国ごと起訴してやっからなー」


 めんどくさくなったのかきゃぴるのをやめていつものリオに戻った。がっかりするかと思えば、ユッキーは「リオちゃん男前……きゅん」と逆にキラキラな目でバックミラーを見つめていた。


「なんかいって……それどんな大冒険?」

「たぬきとおっさんと夢か現実かわからせる機械がバケモンの腹ん中でいちゃつくシーンがあんだよ」


 そう言ってリオはオレのほっぺたを抓った。「いふぁいいふぁい!」と叫びつつオレもリオのほっぺを抓り返す。同時に離して二人して赤く腫れたほっぺを摩った。


「夢じゃねーのかよクソが……返事はどうしたのび太ぁっ! マジで訴えっぞっ!」

「心得ました。ちょうど妙案が浮かんだところでございます……しかし、あのスモック内はまるで魔力の乱気流。感情の圧で潰されそうで、内部での魔法維持は非常に困難でございます。リオ様の特攻服然り、さあや様の特攻服も椎名を拘束した手錠も消えているでしょう。先ほどの銛もギリギリでございました」

「アタシの伝心魔法も弾き出されそうー……さあやちゃんの声が見つからないー!」

「位置なら分かるかもだぜェ?」


 得意気なブンサブローが再び迅雷魔法で消えた。雷撃の先を辿ると、巨大スモックの後頭部に雷が落ちたのが見えた。しかしスモックには何のダメージも無いのか怯みすらしなかった。

 雷鳴と共に再びブンサブローが車内に戻ってくる。


「クッソ弾かれたァ! だがさあやたんはあの野郎の頭にいるみてェだな」

「犬もユッキーもZ戦士かよっ! 今の雷で過去に戻ったりできねーのか!?」

「んなことできるわきゃねェだろォがァ!」

「1.21ジゴワットにも満たねークソザコ雷め。デロリアンにはなれねーか。ユッキー、ワイスピ並みのドラテクで頼むぜ!」

「任せてー!」

「やいリルルっ! なんか道具出せっ!」


 リオの乱暴な言葉に応えリルルが分身し、片方が黒い服に変身した。受け取ったリオはすぐに羽織る。


「長ランにしてみました。分身の分身なため、強度は先ほどの特攻服の半分以下でございます。重々お気を付けを」

「構わねーっ! おい犬っ! あーしを連れてもっかい飛べっ!」

「前みてェにブンちゃんと呼んでくれリオたん!」

「おめー芳華んとこの犬かよっ! 思い出が途端にキショくなったわっ!」


 リオがブンサブローを抱え、リオの手を一舐めしてからブンサブローが迅雷魔法を唱えた。二人の姿が消え巨大スモックの頭上に雷鳴。運ばれたリオが頭頂部に着地したのが見えた。頭に正拳を叩き込んでいるようだがびくともしていない。

 スモックは最初こそオレたちを取り込んだが、もう必要ないのかリオを取り込まない。ブンサブローも弾いたし、さあやだけが目的なのだろうか。


「兎角動きを止めましょう! ユッキー様、お車に失礼致します! 被飾魔法【キャン・ベロー】!」


 車がピンク色の光に包まれ形状が変化。左右に翼が生える。鳥とかのじゃなくて、なんか角張って「ジャキーン!」って感じの鋭利な翼だ。


「アタシのドライブの軌跡……輝け―! 極大変転魔法【ネル・マ・ンドゥール】!」


 正面に出現した真っ赤な魔法陣を突き抜ける。この車をオリハルコンに変質させたのだろう。

 オリハルコンの車体と剣化した翼。攻守ともに完璧な車となった。

 巨大なスモックの足元を一台の車が駆け抜ける。降ってくるような足を避けながら、その足の接地の瞬間を狙い横を抜ける。抜きざまに翼で切りつけて攻撃。

 降ってくるのは足だけじゃない。一度足を踏み抜くと停止している無人の車が振動で動いたり跳び上がったりする。さらに走るスモックが触れて崩れる建物の瓦礫や倒れる信号機など、それらもすべて避けながらの運転だ。

 運転席のユッキーは血走った目と荒い息遣いでハンドルを握っている。集中力が半端じゃない。


「アタシは今メル・ギブソン……アタシは今ポール・ウォーカー……アタシは今ジェイソン・ステイサムー!」


 何度か集中して後ろ足を切りつけていると左足が千切れた。千切れた足が小さなスモックたちに分裂して霧散していく。どうやら巨人スモックは小型スモックの集合体みたいだ。

 一旦スモックの後方に回り今度は右足に狙いをつける。丁寧な楓パパの運転とは対照的だが、凄いドライブテクニックだ。


「上手い!」

「もういっぽーん!」


 掛け声と共に右足へアタック。右足も切り刻まれ千切れた。巨大な黒い靄が貧弱そうな短い膝を折り前屈みに倒れていく。

 しかし巨大な掌が道路を突いた。あまりの衝撃で道路がめくれ上がり、バランスを失った車がスピンする。車内にユッキーの悲鳴が響いた。

 巨大スモックは二足歩行から四足となり走る速度を上げる。巨大すぎて動きは緩慢に見えるが、小さなオレたちにとってはすごい速度だ。


「負けない……んだからー!!」


 ハンドルを掴むユッキーの手が力む。スピンを収め車体を整える。再びスピードに乗り巨大スモックを追う。しかし速度が足りず追いつけない。


「やばいよやばいよー! 駅がもうそこー!」


 正面にシブヤ駅。並び立つビル群に突っ込む——かと思ったが、スモックは高架線路を乗り越え始めた。よじ登り反対側へ行こうとしている。


「なんだ? どこへ行く気なんだ!?」


 疑問を叫ぶしかない。そこへ車内に雷鳴が轟く。ブンサブローとリオが帰ってきたのだ。


「ダメだっ! どんだけぶん殴ってもきかねーっ! ありゃあ外からはムリだっ!」

「中からは!?」


 リルルが叫んだ。


「わたくしが放った銛が外へ突き抜けたのが証明でございます! 現在対象は四足歩行、頭は進行方向へ向いております。わたくし本体が奴の腹部付近。正面に再び放てば、さあや様を確保しつつ外へ抜け出せます!」

「いいじゃんそれ! ユッキー! あいつの正面に先回りできるか!?」

「キビシーかもー! あっちの方が速いしーこっちは障害物多いしー! う~楓さんみたいな高スペ外車だったらなー……!」

「まァたワシの出番だなァ! この辺ならあちこちマーキングしてるぜェ! いざ旧友の元へ!」


 ブンサブローが再び迅雷魔法。車体に電撃が走りオレの視界もぐにゃりと滲む。瞬く間に景色が一変した。車ごと瞬間移動したようだ。

 駅の近くというのは変わらない。でもここは道路じゃない。歩道だ。窓から外を覗くとイヌの銅像が建っているのが見えた。


「旧友ってーハチ公ちゃんー!?」

「あまりにも雅麗しい佇まいに思わずケツをペロペロ——」

「あれオスなんだよなー」

「早く奴の正面へ! スクランブル交差点でございます!」


 リルルの焦る声にユッキーが再びアクセル。

 巨大スモックは線路を乗り越えて再び道路に降り立った。スモックを見てすでに車も人も道路から離れ逃げている。

 乗り捨てられた車たちを避け、オレたちの車は交差点の真ん中へ進み停車。正面には両腕で地面を抉り掻くように進んでくる巨大な化け物。二つの大きな瞳は炯々に光り、まっすぐにオレたちを見ている。


「リルル、危ない武器はやめてな? さあやに刺さっちゃうかも」

「承知しております」

「ブンちゃんー後ろには飛べるー?」

「問題ねェ。そこら中ワシのションベンの臭いが——」

「リルル、ぜってーさあや捕まえろよ。ミスったらギッタンギッタンにしてやるからよー」

「承知致しました……では皆様ご準備は?」


 全員で頷く。


「射出致します!」


 向かってくる巨大スモックの額から白い何かが飛び出してきた。白くて人の手首を模した物。手首の根本にロープが繋がっている。


「【夢たしかめ機】じゃねーかっ!」


 リオの叫びを楔に全員が手を伸ばした。すでに車のフロントガラスは粉々で無いに等しい。手首はすっぽり車内に入ってくる。

 助手席に座る分身リルルが射出された手を掴んだ。次いで運転席のユッキー、後部座席のオレとリオも身を乗り出して掴む。


「絶対離すな! ブンサブロー!」


 オレの声に応え、ブンサブローの短い前足が重なるオレたちの手に触れる。

 瞬間、雷鳴と共に景色が滲んだ。

 後方へ瞬間移動して変化した景色。同じ道路の延長。前方の離れた場所に走ってくるスモックが見える。そのスモックの頭部付近——。


「さあや!」


 ロープを手にする本体リルルと、彼女に抱えられるさあやの姿。ぐったりとして動く様子がない。そしてそのさあやの足首を掴む手——シイナの姿もあった。

 本体リルルがシイナを蹴落とそうとしている。しかしシイナの持つ黒の刀が伸びてリルルの肩を突いた。

 刀が貫通する。リルルの手がさあやから離れてしまった。

 リルルは伸びていく刀の勢いに押され、並ぶビルに激突。窓ガラスを割って姿が見えなくなった。同時に助手席に座っていた分身リルルの姿も光となって消えた。掴んでいたロープとリオの着るチョウランも消える。

 次にブンサブローが動く。瞬時に雷となり消え、瞬く間にさあやの元へ。

 短い脚がさあやに触れる直前、シイナの顔から大量の小型スモックが放たれた。ブンサブローの小さな体は吹き飛び、道路の隅に泥の塊みたいに落ちた。

 ユッキーがアクセルを踏む。

 走ってくる巨大スモックの直前でブレーキを踏みながらハンドルを切り反転。さあやとシイナの落下地点を探りながら、巨大スモックに背を向けて逃げる。しかし速度は負けておりすぐに距離が縮んでいく。

 オレは後部座席から出て車の上に乗った。リオも続く。

 上空のさあやを見据え、跳んだ。

 さあやから引きはがそうとオレはシイナにしがみ付いた。リオはさあやを抱きとめる。

 足場だった車が波打つ道路にバランスを取られ、道の端へ突っ込んでいくのが見えた。ユッキーが無事かはわからない。

 シイナを睨みつける。奴の顔は闇が晴れ、焦りと怒りに歪む顔がはっきりと見えた。刀も消えている。さっきブンサブローに放ったスモックたちで手持ちは尽きたようだ。

 オレも魔力が尽きている。強化魔法はかけられない。純粋な力で女のオレは敵わない。

 顔面をぶん殴られる。その手に噛みついてやった。シイナの手がさあやの足首から離れる。

 すぐそこにスモックの巨大な闇。空中で逃げられるはずもない。

 思いっきりリオを蹴り飛ばした。リオとさあやの体はなんとかスモックの直撃から外れる。

 安心の後、オレの体を闇が覆った。

 完全に闇に覆われる中、道路に見覚えのある何かを垣間見た。

 真っ白で滑らかなかっこいいフォルム。風を切ってビュンビュン走り景色がどんどん変わっていく爽やかな気分が、一瞬だけ心に灯った。


 楓パパの……車……。


 闇がオレの全てを飲み込み、そこで意識の灯が消えた。


♠♠♠

■■■お知らせ■■■

次回、本日18時頃に更新します。

面白いと思っていただけた方、またその逆の方。

高低関わらず評価いただけると大変ハッピーです。

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