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第44話 ナイトプールの戦い

♠♠♠


「のび太っ! おっぱいっ! ジェットストリームアタックを仕掛けんぜっ!」

「それは!?」

「なに!?」

「知るかっ! あーしに続けっ!」


 リオが先行してにょろにょろに突っ込む。

 向かってくる無数の触手たちが縦横無尽に襲ってくる。


「ナメんなよ……あーしはっ!」


 リオが両手を構え、


「浜名湖でっ!」


 にょろにょろたちを捕まえ、


「ウナギのつかみ取り体験をっ!」


 強化された握力で握り潰そうとし、


「端から見てたことがあるっ!」


 にゅるんと逃げられた。

 そのまま両肩両足を絡め取られ宙に囚われてしまった。


「うおーっ! やめろてめーっ! 規制されるーっ! R18+になるーっ!」

「なにやってんだあいつ……」


 呆れて見上げるオレの横をリルルが颯爽と抜け、バネ状に変化した足でジャンプ。すぐさま両腕両足を両刃の剣に変身。身を回転させ、リオを捕らえる触手たちを切り刻んだ。

 自由となったリオが着地し、その傍らにリルルも着地する。


「クソが、さっきは掴めたのによー。危うく捧げちまうとこだったぜ。あーしのケツ処——」

「リオ様、ご無事でございますか!?」

「おうのび太。やるなおめー。映画版か?」

「あやとり、射撃以外もお任せくださいませ」

「そういや銃持ってねーんか? マッポだろ?」

「現在水着ですし」

「メガネは持ち込んでんじゃんよー。水滴びちゃびちゃだぜ?」

「メガネは体の一部でございます。といいますか、本件プライベートでの対処。銃の携帯はできかねます」


 リルルは両腕両足の刃を華麗に振るい、話の片手間に触手たちを切り裂いている。リオは守られて当然みたいな顔で尻を掻いていた。

 オレはその横を駆け抜けていく。


「リオ、邪魔すんなら帰れ!」

「ほな帰ります―って帰るかボケッ!」


 リオが怒りに顔を歪ませてオレと並走した。

 リオには構わずオレは跳躍。向かってくる触手たちを太陽ピンで切り伏せながらクラーゲンのぶよぶよ——シイナの頭上に達する。身を回転しながらピンの太陽飾りを斧のように振り下ろす。

 しかし、束になり大木のような触手に横から薙ぎ払われた。ホテルの壁に叩きつけられたがすぐに身を起こして壁を蹴り降りる。

 クラーゲンを見ると、オレと同じように跳躍していたリオがシイナの頭上から落ちていくところが見えた。触手たちが再び束になり、今度はリオの真正面から掌底のように突き出される。


「あーしが邪魔だと? あーしがモブじゃねーとこ見せてやんよっ!」


 リオは落ちながら仰仰しく両拳を構えた。


「オラオラって言いたくなるぜーっ! チョレチョレチョレチョレチョレチョレチョレチョレチョレチョレチョレチョレチョレチョレチョレチョレチョレチョレッ!」


 言えよ。


 リオのラッシュパンチは触手の先端に当たりはするものの、にゅるにゅると滑って有効打になってない。打撃はダメだ。

 シイナを見ると、触手の一本に乗り静かにリオに近づいていた。短いナイフじゃない、祭り会場で打ち合った真っ黒の靄を立ち込める刀を携えている。リオの位置からは見えていないだろう。


「リオ、あいつ来てんぞ!」

「迎えうーつっ!」


 パンチを止めたリオが触手に飲まれていく——なにやってんだあいつ!


「あゆ様!」


 触手たちの真下に来たオレは、プールサイドを駆けてくるリルルを見る。足がバネ状だ。

 意図を察し、ピンの太陽飾りを地面と平行に向きを変え、始点を上に円を描くようにスイング。太陽飾りを足場にリルルが大ジャンプした。


「被飾魔法【キャン・ソー】」


 身を丸め回転して空へ登っていくリルルがピンクの光に包まれる。光が弾け飛ぶと巨大な丸鋸が現れ触手の束を両断。切断面から勢いよく魔力が溢れ出ていく。

 上空で丸鋸がリルルの姿に戻った。遠目に見えるリルルの顔は渋い。理由は切断した触手が瞬時に再生したからだ。

 加勢しようと、オレも太陽ピンをプールサイドに突き立て【パオン】。肥大化する柄にしがみ付いて戦場を上空へ。【ピエン】で元の剣サイズに戻しつつ戦況を見る。


「こんなのが初のローションプレイになるとは、このリハクの目をもってしても」


 なんか言いながらリオが触手の中から這い出るところだった。這い出たのはちょうどシイナの足元。奴の足首を掴み引きずり込もうとしている。

 シイナは抵抗する様子がない。それどころか、上空へ移動したオレとリルルへ向けにたりと笑った——誘われた!?

 直後、リオたちの足場になっていた触手がぶわっと横に広がる。隙間をすり抜けてリオとシイナはプールサイドへ落ちていった。

 広がった触手はターゲットを上空のオレとリルルに定める。二人で触手を切断するがなかなかプールサイドへ降りられない。人の手から逃れようともがく小動物みたいな気分だ。切ったそばから触手が絡みついてきてきりがない。

 眼下では着地したリオがシイナに殴りかかっていた。


「てめーなんざサシでいけんぜっ! あーしはなーっ!」


 拳がシイナの頬を掠め、


「毎日っ!」


 蹴りが脇を抜け、


「空手道場に通ってるっ!」


 チョップが頭上で止められ、


「ダチがいたっ!」


 キメ顔で叫んだ。


「すげーだろ。通信空手じゃねーんだぜ?」

「すごいすごい」


 冷たく称えたシイナは黒刀の柄でリオの腹を打った。苦悶に顔を歪ませたリオを見て、さらにシイナの声が高ぶっていく。


「イイなぁ……自分が一番って顔した奴を沈ませんのがクるんだよなぁ……!」


 シイナがリオを突き飛ばし、黒刀を振りかぶる。

 間に合わない! そう思った矢先に、シイナの頭に何かがぶつかった。

 真っ赤な玉がぽよんぽよんと跳ねてプールサイドを転がる。プールに大量に浮かぶカラフルなボールだった。

 投げたのはさあやだった。走った後でもないのに息が「ふぅ……ふぅ……」と乱れている。顔は真っ青で目に光が無い。今にもぶっ倒れそうだった。そして体を覆う靄……祭りの時と一緒だ。いつスモックが飛び出してもおかしくないほど、魔力が膨れ上がっている。


「あぁ……でも、自分が底辺って顔した奴のその先はもっと見てぇよなぁ……!」


 シイナの殺意がさあやへ向いた一瞬の隙。太陽ピンをシイナへ向けぶん投げた。ピンはシイナとリオの間を隔てるよう突き刺さる。

 シイナが飛び退くのを見て今度は三日月ピンを【パオン】。ものすごく長くしたピンを縦振り。シイナとさあやの間に三日月の先が突き刺さる。柄を握ったまますかさず【ピエン】で縮小し、突き刺さった三日月の元へ移動した。オレはさあやの盾になるようシイナに立ちはだかる。

 太陽と三日月の二連撃に臆せず、シイナはこちらへ向かってくる。揺らめく靄から覗き見る視線はオレを見ていない。背後のさあやをべたべた触るように見ていた。


「離れてろさあや! こいつはオレが……さあや?」


 返事が無い。さあやもオレを見ていない。その先にいるシイナの顔は決して見ないように、奴の足元だけ見て後退りしている。自分の右腕をぎゅっと掴み震えていた。


「大変だよな、役立たずが多いと」


 耳元で舐るような声——さあやに気を取られた一瞬の間に、シイナの暗黒面が目の前にあった。直後に頬を殴られた。よろめいたところ、脳天に黒刀が振り下ろされる。


 受けちゃダメだ!


 屋台通りでの戦いを思い出す。こいつの刀は靄となり武器をすり抜けて切りつけてくる。

 咄嗟に三日月ピンで地面を刺して支えよろめいた体を垂直に。黒い刃は鼻先を掠め空振りに終わる。渾身の振りだった。奴もまだ刀を振りかぶれない。

 シイナの顔面は目の前だ。お返しにと正面から拳を叩き込む——が、目の前に暗闇が広がる。奴の顔から小型スモックが大量に吹き出てきたのだ。これも屋台通りの戦いの時と一緒だ。


「くそ……顔からも出せんのかよ……!」


 振り払えない。生温かい風と共に怒号と嘆きが共鳴する。凄まじい圧で吹き飛ばされ、プール端のフェンスに叩きつけられた。そのまま小型スモックたちに磔のように拘束される。

 顔にもスモックが張り付いて視界が狭い。僅かな隙間から状況を見る。

 リルルはクラーゲンの相手でこちらへ来られない。リオは苦悶の表情で今やっと立ち上がったところだ。そしてさあやは——。


「誰がいいんだ? どいつが死ねばおまえは解放される?」

「あっ……!」


 シイナがさあやの髪を掴み高く引っ張っている。


「簡単だよな? 初めてじゃねぇんだ。同じことするだけ。しかもやるのは俺だ。おまえじゃねぇ。俺も二度目だが、興奮が収まんねぇよ……! しかもおまえが選んでいいんだ。あの時は選択肢が一つだけだったもんな」

「うぅ……!」

「泣くなよ。方法は違うが母親だって同じことしたんだ。やれるだろ? それでおまえは助かるんだ。安心しろ。ファンタジーは俺たちを守ってくれる。バレやしない。大丈夫だ。お兄ちゃんを信じろ」


 さあやの苦悶の表情とぼろぼろ落ちる涙に、怒りがブチ上がる。


「おまえ——」

「しを……!」


 怒りに任せ叫ぼうとしたが、別の怒声が上がりオレは声を飲んだ。怒りに満ち満ちた、地底から登ってくるような声だった。


「塩?」

「推しを……曇らせやがったなぁあぁぁぁ!!」


 思わずリオを見る。リオは首を横に振り、空を見上げた。

 視線の先には触手に四肢を絡め取られ身動きできないでいるリルルがいた。彼女の顔を見て、オレはごくりと喉を鳴らす。

 子供の危機に直面した獣みたいに目が血走り、それだけでは収まらないのか血涙していた。ギリギリと歯を食いしばる口元は、普段のきゅっと締まりある形からは大きくかけ離れた歪みを帯びている。額と首筋には血管と筋が浮き出て、今にもはち切れそうだ。前世のリルテッタの時でも見たことがない表情だった。


「た、ただでさえくくく曇っているのに……! ああ、あまつさえ、あぁ間に入りやがってぇ! ブチギレにございます!!」


 スモックを生み出さない許容ギリギリまでリルルの魔力が膨れ上がったのを感じた。直後、ピンクの閃光がリルルを包みその身を二つに分身。さらに片方を鋭く凶悪な返しのついた矛に変身させた。

 矛は自ら乱回転して触手たちを切り刻む。瞬時に触手は再生するが、また捕縛される前に人のままのリルルが矛を手に取り投合。切っ先はシイナの額だ。

 シイナは即座にさあやを盾にし、その陰で黒刀を構える。

 矛はさあやの目の前でバウンドした。リルルが二人に増員していた。一人の背を踏み台に跳び、もう一人が矛を持ちシイナを跳び越えたのだ。

 背後に回ったリルルが矛を横薙ぎ。踏み台役のリルルは正面からさあやを奪う。

 脇腹に矛を受けたシイナは地面を転がりプールへ。石の水切りみたいに三、四度跳ねて沈んだ。

 唖然とし声も出なかったが、自分よりブチギレているリルルを見て逆に冷静になれた。

 【ピエン】で磔にされるフェンスだけを縮小。地面に押さえつけられる前に自由になった手足を振り、なんとか小型スモックたちを体から引きはがす。未だ青筋を走らせるリルルも手伝い自由を取り戻した。

 オレはリルルに肩を掴まれ強引にさあやの隣に立たされる。さあやは涙混じりの瞳を俯かせ震えていた。


「……してない……お母さんは……違う……あの人は……」


 聞き取れないくらい小声で何か呟いている。名前を呼んでも声は返ってこない。

 冷静だった頭にまた血が昇ってきた。


「許さねー!」

「えぇ。ギッタンギッタンのメッタンメッタンにして差し上げます!」

「そーだそーだ、やっちゃえジャイアン!」


 いつの間にかリオもリルルの背から顔を出して叫んでいる。

 怒りの矛先であるシイナはプールから顔を出さない。


「油断なさらぬように。隠れてどこからか刃先をチラつかせていることでしょう」

「あぁ。分かってる」

「んじゃ、とりまアレからどーにかしてやろーぜ」


 リオの指差す先に大量の触手を蠢かせるクラーゲンがいた。矛を投合したリルルの分身を捕まえようと躍起になっている。なかなか手掴みできず零れ逃げる魚みたいな分身リルルに、クラーゲンはオレたちには目もくれず夢中だ。

 こいつはデルクスの魔法で作られた人工スモックで間違いない。でも、前世で戦った奴らよりも弱そう。でかいし強大ではあるがそれだけだ。再生力は尋常じゃないが他に凶暴性のある能力や魔法はない。デルクスの兵隊たちはもっと強かった。自発的に凶悪な魔法を使ってきたし、デルクスの指揮の元統率も執られていた。

 クラーゲンはデスクスじゃなくてシイナが造ったんだろうか。シイナには魔力は無い。魔法の知識技術もないなら粗雑な造りになるのも分かる。そもそも魔力も無いのにどう造ったのかという疑問があるが。

 スモックは魔力を——不満を解消するための願望の暴走。願望の質や方向は人により違う。このスモックを構成する魔力もバラバラだ。縄で繋がれた躾けられてない獣たちが皆違う方向に進みたがってるみたいな……だから自分で魔法も使えないし暴れるだけ。「死にたくない」「消えたくない」……そんな思いだけが一丸となって再生という能力として発現したのかもしれない。

 クラーゲンはただ暴れるだけの子供みたいな奴……つまり——。


「なんかあいつバカっぽくねー?」


 リオが代弁してくれた。


「脳みそねーしな。パピちんが脳みそ代わりになってんじゃん?」

「遠回しにパピをバカって言ってねーか?」

「弟は愛され系いじられおバカのため、お気遣いは不要でございます」


 ひどっ。


「それに、弟が本件の主柱であることはあながち間違いでもございません。戦いを交え分かりましたが、あの量の触手を切断しているというのに魔力の消耗が見えない。そしてあの再生速度……魔力の供給先があると見ております」

「それがパピ?」

「そうとしか考えられません。捕縛された恐怖から魔力は際限なく湧き上がっていることでしょう」


 リルルのせいでもあると思うけど……つまり——。


「パピの魔力供給を上回るほどにょろにょろをかっさばき続けるか、パピを救出できれば……」

「まどろっこしーんだよ。あのクラゲの首をちょんぱすりゃあいーんだろーがよー」

「左様でございます」

「だろ? ちょうどいい。見せてやんぜ。あーしの【お水の呼吸】一の型……」

「いえ、リオ様はさあや様に付き護りに徹していただきたく存じます。今のさあや様はお一人で動けません故」

「でもよー」

「お願い致します」

「あ、はい、了解です」


 リルルのピキッたままの額を見てリオはすんと了承した。

 クラーゲンの首を切る……あのぶよぶよの頭部は巨大化した太陽のオリハルピンでも貫けなかった。元々刃物ではないけど触手は切断できていた。あの頭部が特別刃を通さない特性を持っているんだろう。

 ぶよぶよとにょろにょろの境目は切断できるだろうか。あの無数の触手たちを掻い潜りながらそんな芸当ができるかは怪しい。


「リルル、なんかいいアイデアない?」

「ございます」

「ホント!?」

「はい。あゆ様の武器は元々はただのヘアピン。ユッキー様の変転魔法で強靭な武器となってますが、刃物ではございません。そこをわたくしの被飾魔法で、あの頭部を切断できるほど薄く鋭利に変身させればよいのです」

「おお! 早速頼む!」

「いえ……触れた感じ、あの頭部はそこらの刃物では切れません。思ったより分厚く弾力がございます。より鋭利に、そして勢いが必要。かつてないほどのブチギレによりわたくしの魔力は潤沢でございますが、武器の頑強さを保ちつつアレを切断できるほど鋭く精巧な武器にするには……残念ながら出力が足りません」

「出力か……そのブチギレで出力も高くできないのか?」

「元々わたくし、怒りでストレス発散するタイプではございません。ただただ魔力が溢れるばかりでございます。そこで、あゆ様にお願いがございます」

「オレに?」


 心の解放……花火大会の戦いでは、ヨシカが用意してくれた最高にヤベー飲み物のおかげでとんでもない出力の魔法が使えた。今それはない。それにリルルがオレみたいに美味いモンの思い出とかで解放するタイプじゃないなら意味無さそうだし。

 持ち前の心の願望をどれだけ解放できるかで出力が決まる。

 普段何かを我慢している奴は出力の調整が上手く、限界値も高い。

 リルルはリルテッタの頃から無表情で何考えているのかわかんない奴だった。心の解放条件が見当つかない。でも——。


「どうすりゃいい!? なんでもするぞ!」

「では……」


 リルルはオレの耳にごにょごにょ……は?!


「お願い致します。さぁ戦闘再開でございます!」


 呼び止めようとしたが、リルルはクラーゲンに向かって走って行ってしまった。

 どぎまぎしてリオを見る。耳打ちが聞こえていたのか、リオはにんまりする口元に手を添え「あら~」と声を漏らした。

 リオの陰にいるさあやを見る。変わらず震え、視線は下を向いたまま。状況も分かってないようだった。


 なんで……なんで!

 なんでオレがさあやにちゅーしなきゃいけないんだ!?


♠♠♠

■■■お知らせ■■■

次回、本日12時頃に更新します。

面白いと思っていただけた方、またその逆の方。

高低関わらず評価いただけると大変ハッピーです。

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