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第40話 保留

♠♠♠


 さあやの秘密、リオの豹変、燃やされた本と紙の内容……気になりすぎて、結局あまり眠れなかった。目がとろんとしてきて、やっと頭がフワフワしてきたと思ったら朝日がカーテンの隙間から射してまぶたを焼いた。

 もそっと起き上がると、ほぼ同時にリオももそっと上体を起こした。二人で顔を見合わせる。


「ひでーな。目の下クマさんだぜ?」

「リオもな」

「……まだ六時前かよ……だる」


 リオは気怠そうに立ち上がり、カーテンを開けた。

 その後シャワーに代わる代わる入り、うーばーって人から料理を受け取って朝食にした。


「朝はバーガーに限るぜ」

「……オレちょっとキツイかも」

「ウメーだろ?」

「うん……うめーけど……重い」


 ちょっと苦しいけど、ムリヤリお腹に押し込んで完食。

 それから服を貸してもらい、着替えて二人で外へ出た。早朝だが日差しは相変わらず強い。この世界の夏季は本当に暑い。多分この黒い地面のせいだ。空の日の熱を吸収してじわじわ放出している。ミンミン鳴いてる虫の声も寝不足の頭には煩わしく、より暑さが増してくる気がした。

 リオも額に汗をかいている。でも表情は涼し気で足取りも軽い。


「どこ行くんだ?」

「どこも……ただの散歩だ」

「どのくらい? 明後日とかには帰れるか?」

「アホか、どこまで行く気だおめー。その辺ぐるっとして帰るだけだっつーの。てか今晩ナイトプール行くんだろーが」

「あ、そうだった」


 歩きながらリオの顔を窺う。

 機嫌悪そうだったが怒ってる様子はない。ふざけたりからかったりするような会話はないが、話しかけたらちゃんと返答がある。昨日の不安な表情や気持ちは見えない——聞いてもいいのかな?


「昨日は悪かったな。急にあんな……バビったろ?」


 ドキリとする。

 こいつ、謝れたのか。


「うん、ちょっと」

「約束したさあやの秘密だがな……」


 教えてくれるのか……?


「保留な」

「ほりゅー」

「ちょっと待ってろ」

「わかった」

「……意外と聞き分けいいな。喚き散らすと思ったのによー」


 気持ちはそうだ。約束通り言われたことこなしたのに、成果を挙げたのに、結局何も得られなかった。

 でも昨晩のリオの様子は尋常じゃなかった。理由は分からない。でも何かあったはずだ。知り得た情報を全て破り捨ててしまうような何かが。

 リオは青褪めてた。気持ちが小さくなってた。それをムリヤリ拾い上げて「どうした?」「なにがあった?」「約束を果たせ」……そんな自分の気持ちだけの言葉を浴びせたくない。


「わかんねーけどさ、待ってるよ」

「すまねーな」

「いいよ。別に急いでるわけじゃねーし」


 でもやっぱり、がっかりだなぁー……。


「……おめー、結構かわいいよな」


 リオが唐突に言ってきた。唐突すぎる。


「……かわいくねーし」

「分かりやすくしゅんとしたり拗ねたりしやがって……うっせーお子ちゃまと思ってたがよー、さあやが気にかけんのも分かってきたぜ。これが姉心か」

「なんの話だよ」

「おめーがバカだって話」

「バカじゃねーし!」

「どーどー落ち着け。さあやのこと好きだって言ってたよなー?」

「い、言ったからなんなんだよ!」

「あーしのことはどーだ?」

「えーリオー?」

「心底ウザそうだな。いーい反応だ。悪くねー。学生ん時思い出すぜ」


 喜ぶ要素あったか?


 ともあれ、少し普段のリオが戻ってきた感じがする。さっきまでの暑いのにひんやりした空気が嫌だったから、それは純粋に嬉しい。


「んま、あーしのことは置いといてだな……おめーはそのままさあやのこと大好きでいろ。な?」

「うー……うん」


 すっごくこそばゆい。一昨日もそうだったけど、なんでこう何度も言わされなきゃいけないんだ。こういう気持ちって、もっと自分の中だけであっためるもんじゃないのか?


 それからオレに彼氏が過去にいたかどうかとか、クラスに気になる男子はいるのかとか、そんな質問をされた。さあやが好きって言ったのに……と思ったが、オレ今女だから聞かれるのか、と改め直す。

 彼氏や気になる男……いるわけないが、オレじゃなくて広瀬あゆにはいたんだろうか……ムリ! 想像できねー! もしいたとしたら、その男には諦めてもらおう。

 その後もとりとめのない会話は続き散歩が終わる。こんな短い散歩は初めてだ。

 リオの家に帰って、だらだらして、昼飯食って、だらだらして、日が傾いてきて、「あ、もう時間だ!」ってなって、慌てて家を出て、約束のナイトプールへ向かった。


「でっっっけー……!」


 横にも縦にも大きな建物だ。親指をグッと立てた形に似てる。

 ここがシブヤ……人だらけだ。だいぶ暗くなってきたが、それでも人々が帰る様子はない。その辺りはシンジュクの街とかと変わらない。なんかでも、シンジュクよりも人の活気が瑞々しくて華やかな感じがする。この世界って夜でも明るいところばっかりで、ずっと起きてる人もいるのかな?


「一階から十階が商業施設、それより上がホテル。プールは商業部分の屋上、ホテル部分に隣接するとこだな」

「オレの知ってるホテルとちょっと違う」

「どんなのだよ」

「もっと背が低くて、横にも広くなくて、なんかぺらぺらの変なのが入り口にある。のれんってヤツ? 通りに人も少ないし、居ても男と女の二人組ばっかりだった」

「……おめーそこ入ったことあんの?」

「ない。親切なおっさんに相部屋で泊めてもらえるよって言われたけど、さあやが家に泊めてくれたから」

「……おめー、ぜってー一人で街歩くなよ?」

「それさあやにも言われた」

「リオお姉さんとも約束だ。いいな?」

「はーい」

 

 指切りし、二人で建物内に入る。どこを見ても人とお店だらけだ。美味しそうな匂いと化粧品の匂いがふんわり漂っている。それぞれはいい匂いなのに、一緒に嗅ぐとちょっと気持ち悪い。

 スマホを見てるリオが言うには、さあやはもうプールの受付に来てるみたいだ。えれべーたーって乗り物に若干ビビりつつ上階へ向かう。窓からの景色がどんどん空へ。人々が小さく豆粒みたいになっていく。ビビりは興奮に変わり、はしゃいでるとリオにデコピンされた。

 えれべーたーの扉が開くと、見慣れた顔があった。


「あ、さあや! 久しぶり! リルルも!」

「昨日会ったでしょ……デジャヴね」

「お久しゅうございます、あゆ様。そしてそちらがリオ様でございますね?」

「よろしくな。あんたがマッポか」

「はい。マッポでございます。鳴海リルルと申します。本日はよろしくお願い致します」

「本名なん? 歳は? どこ中? 納豆にネギ入れるほう?」

「本名でございます。歳は今年で二五でございます。出身中学は神奈川の——」


 リオとリルルは向かい合ってな何やら話している。身長で少し勝るリオは腕を組んで偉そうだ。対してリルルは淡々と話している。


「——彼氏様はおりません。たけし様にはいらっしゃいますか?」

「いねーよ。今はいらねー。男友達は多いけどよー。今度のび太に紹介してやろーか?」

「大変嬉しいご提案でございますが、わたくしも当分は不要と考えております」


 この短いやり取りでもう仲良さげだ。なんか呼び名も変わってるし。


「はいはい、みなさん邪魔になるから行きますよー」


 さあやに連れられみんなで更衣室に。

 みんな各々着替え始める。オレはずっと目を瞑ってたけど。「いい加減慣れなさい」と言われながら、さあやに着替えを手伝ってもらった。

 目を開けた時、皆着替え終わっていたがさあやだけ上着を着ていた。長袖のフード付きの服で前が開けられるヤツだった。開けた隙間からキレイな胸の谷間が覗いてる。ちょっと見て、ずっと見てられなくて目を逸らした。リオとかリルルのは普通に見てられるのに。

 リオの水着は真っ黒で胸と尻で別れてるヤツ。オレと同じタイプのヤツだ。びきにっていうらしい。でも上は紐を肩に回さず背中で結ぶタイプだ。下も腰の左右で紐を結んでいる。リルルはピンク色で同じく上下に分かれるヤツ。下はオレと似た物だけど、上は右肩だけ露出し、布地に沿って斜めにカーテンがかかったみたいになっている。わんしょるだーっていうらしい。

 更衣室からプールに向かう時、リオに耳打ちされた。


「あんまりさあやから離れるな」

「え? リオに言われなくてもそーするけど」

「ならいい……あと、リルルにも注意しろ」

「なんで?」

「なんでもだ」


 リオは理由を話さず小走りになり、さあやと腕を組んで一足先にプールへ向かって行った。取り残されたオレは、同じく取り残されたリルルの顔を窺う。


「あのお二人……キテいるのでしょうか……」


 なんかボソボソ言ってる。


「わたくしたちも参りましょう」

「うん……あっそうだ。なぁリルル」

「はい。なんでございましょう?」

「なんか文字書くの持ってねー?」

「これからプールに向かうのでペンや紙は……スマホでよろしいでしょうか?」


 リルルは自分のスマホを差し出す。文字を読めないオレのために、指でなぞって文字を書ける画面にしてくれた。

 オレは昨日リオに探すよう指示された四つのカンジを一文字ずつ書いた。形は覚えている。歪だがしっかり書けた。

 リオの言葉は待ってられる。でも自分が何を探していたかくらいは知っておきたい。リオは昨夜の豹変ぶりもあって直接聞きづらいし、さあやに聞いたら理由を聞かれそうだし、リルルを頼ることにしたのだ。


「これなんて読むの?」

「……名前でございますね。【深咲里桜】」

「ミサキリオ……リオ?」

「リオ様のフルネームでございますか? ……少し聞き覚えのあるお名前でございますね」

「テレビ……とか?」

「そうだったような……どうでしょう、うろ覚えにございます。ご相談は以上でございますか?」

「……うん」

「では、参りましょう。お二人を見失ってしまいます」


 リルルが歩き出し、オレも歩調を合わせて歩いた。歩きながら考える。


 ばれーで有名になってテレビに出たことあるっていうのはリオの友達の話だし……というか、リオは自分自身のことを調べてたのか?


♠♠♠

■■■お知らせ■■■

次回、明日9/7の7~8時頃に更新します。

面白いと思っていただけた方、またその逆の方。

高低関わらず評価いただけると大変ハッピーです。

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