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第38話 ミッション

♠♠♠


「あゆちゃーん、はいあ~~~ん……」

「あ~~~……」


「ん!」と差し出された物にパクついた。もにゅもにゅした触感にほっぺももにゅもにゅしてくる。


「んみぇ~~~!」

「生八つ橋って言ってね、お餅の中にチョコ入ってるの」

「もういっこ!」

「はい、あ~~~ん」

「あ~~~……」

「あむあむあむ!」

「ちょっとリオさん横取り~」

「……なにしてんですか?」


 出勤してきたさあやが呆れた目を向けて言った。

 リオの家に泊まって一緒に出勤してきたオレは、他のキャストからお菓子を貰っていたのだ。クラブに出入りするようになってから何かとお菓子を貰ったり遊んでもらったりしているが、今日はさあやが一緒じゃなかったので特に囲まれている。

 キャストたちはさあやを見ると「あゆちゃん借りてるよー」と笑顔で迎えた。その後一部のキャストがベビーカーで眠るハルキを囲みだす。


「さあや久しぶり!」

「一日ぶりでしょ」

「一日は久しぶりだ!」

「……餌付け、慣れてるね」

「餌付けって?」

「自覚無いし……すっかり妹ポジだし……リルルさんの話通りか。姿変わっても中身一緒なら同じところに落ち着くんだね」

「なんの話?」

「なんでもない。——あんた、リオさん家泊ったんだ?」

「あぁ! すげー汚かったぞ! あでっ!」


 隣に座るリオにデコピンされた。


「寝るとこ無かったんじゃない?」

「寝るとこ? リオと一緒に寝たぞ」

「……ふーん……そう……私とは寝ないくせに……ベッドもおっきいのに……ドキドキした?」

「え? なんで?」

「……私着替えてくるから、あんたも営業開始したらオーナー室に引っ込んでよね」

「はーい」


 さあやがオーナー室にいる銀次ママにハルキを預け、そしてロッカールームに入っていった。着替えてフロアに戻ってきたところで、営業時間を迎える。キャストや黒服にーちゃんたちもわらわらと仕事の準備に入った。

 オレとリオは視線を示し合わせる。リオは顎でクイッと、オレはこくんと頷いてオーナー室へ。


「別に毎回お店来なくても、留守番や外で遊んでたっていいのよん?」

「いーんだ。オレこっちのが楽しいし」

「そーおん?」

「うん。ハルキもオレがいて楽し―だろ?」


 ハルキの小さな掌に指を差し出すと、ぎゅっと握って笑顔になった。


「お、今日は仲良しの日だな」

「うふふ、じゃあ今日もお守よろしくねん」


 銀次ママは安心しきった顔で机に向かい、薄っぺらな折り畳みできる板とにらめっこを始めた。ぱそこんっていうらしいが、オレにはテレビとの違いは分からない。

 しばらくはハルキと遊ぶだけで時間が過ぎていった。オレが掌を差し出すと、ハルキはちっちゃな手で引っ掻くようにぺシペシ叩いてくる。


「連続珍獣チョップ……いいぞ! もっと強くだ!」


 以前テレビで見せてもらったプロレスの技だ。【ダーク・パンダ】こと銀次ママの得意技だ。


 強くなれハルキ……【ふれあい破壊獣ギンギン】の名を継ぎ世界を白と黒で染め上げるのだ……。


 まったりとした空気を壊したのはオーナー室のドアを叩く音だった。ドアが開き、血相変えた黒服のにーちゃんが一人入ってくる。


「ママ大変です!」

「邪魔するなら帰って~」

「ほな帰ります~」


 ずこーっとママがイスから転げ落ちた。満足そうに笑っている。

 このやり取り、オーナー室で過ごすようになってから何度も見ている。このにーちゃん以外の黒服やキャストの奴らも銀次ママと同じことをよくやっている。流行ってるのか、それともこの世界では一旦帰るふりするのが礼儀だったり?

 最初は面白く見ていたが、さすがに何度も見てるからオレもハルキもしらーっと眺めるだけだ。


「良いじゃないん。良いリズムだったわよん」

「へへ……いや違くて! リオさんが!」

「お客様泣かせたのん!?」

「リオさんが泣いてます! 体触られたとかで……」

「……嘘くさいわねん」

「えぇ」

「あの子なら多少触られても気にしないしん、気に障ったとしてお客様ボコでしょん」

「そう思います」

「……まぁ本当なら問題だしん……あゆ、あたしちょっと出てくるわねん」

「うん」


 慌ただしくバタバタと銀次ママと黒服にーちゃんが出ていった。ドアが閉められ、静けさの中に「あーうー」とハルキの声だけが聞こえる。

 数泊置いて「あ、リオの言ってたアレか」と気付いた。

 部屋にはオレとハルキだけ。リオの指定した変な紙を探すチャンスだ。


「ハルキー、ちょっと待ってろ、な?」


 断りを入れると、つぶらな瞳は何も分かってなさそうにうるうる。「あややー?」と首を傾げた愛らしさに後ろ髪引かれつつも、オレは部屋を探り始める。

 無機質で白く冷たい棚、部屋の端っこにある寂しそうなダンボールの中、黒くてどっしりした偉そうな箱……これは開けられないな。なんかくるくる回せる変なのが付いてる。たぶん鍵だ。ヘアピン挿し込める穴も無い。無視無視。

 目的の紙は意外とすぐ見つかった。銀次ママの大きな机。その一番下の引き出し。他の引き出しと比べて底が深い。ガラッと開けると、十数枚が束になって入っていた。

 一枚一枚確かめる。リオに見せてもらった紙とだいたい同じ見た目だ。同じような枠があって、ここのは文字がたくさん書き込まれている。それから人の顔が書いてある絵。メチャクチャ精巧な絵で本物と瓜二つ。顔をそのまま貼り付けたみたいだ。

 みんな知った顔ばかり。さっきお菓子をくれたキャストや黒服にーちゃんたちの顔だ。リオの顔が貼ってある紙も見つけた。でもさあやのは見当たらない。


「アレも無いな……リオが重要、最優先だって言ってたカンジ……」


 紙にはカンジもヒラガナもたくさん書かれている。でもリオが指定したカンジ四文字は見当たらない。一つ一つのカンジは見ることもあったが、四つが連なって並ぶものはどこにも無かった。

 とりあえず紙の束はリオから渡されたトートバッグに突っ込んだ。

 それから部屋中を探したが見つからない。どこにも無い。あの紙以外の紙も探したが、やっぱりどこにも無かった。もうすぐ銀次ママが戻ってきちゃうかも知れない——あと探してないのは……。


「偉そうな黒い箱……」


 くるくる回せる鍵……どれだけ回しても開く気配がない。


「うーう!」


 ハルキがなんか大声出している。直後——。


「んもう! 痴漢冤罪なんてジョーダンでも止めてちょうだいん!」

「いや触ったんだってあいつっ! あーしの脚をぺとぺとぺとぺとってよー」

「あんたから触ったんじゃないのん?」

「七〇近いジジイだぜ? あんなカサカサスキンなんざ触っかよ。こっちが干上がるぜっ!」

「とにかくん、後は部屋で聞くからん」

「あーちょい待ちっ! 急に腹痛くなってきやがったっ! ほら見てみっ!? あのジジイに触られたとこかぶれてるっ! あいつビョーキ持ちかもっ!」

「なんでかぶれて腹下すのよん」


 ドアの向こうから銀次ママとリオの声がする。立ち止まって話をしているのかまだ入ってこない。リオが引き留めているようだが苦しそうだ。


「ヤベーヤベー開かねー開かねー……」


 くるくるくるくる……焦るほど手汗をかいて指先が滑る。

 全然開かない……挫けそうだ……。


「うぅ……ぴえん……」


 泣きそうな声を出した瞬間、回していた鍵が箱の扉ごと小さくなった。無意識に拡縮魔法を使ってしまったらしい。扉を除き箱は元のサイズのまま。扉の蝶番は壊れている。


「ぴわわわ〜……」


 一瞬血の気が引き、しかし開けられた喜びに血の気が満ちてきた。小さな扉を箱の上に置き、中を確認する。

 中にはこれまた数枚の紙と、それから本が一冊。

 本は開くといろんな紙がペタペタ貼ってあった。カラフルだったり灰色だったり。本の前半十数ページだけで、そこから先のページは白紙だった。

 紙は三枚。リオの指定した紙とは違う。どれも文字だけがびっしり書かれているだけだ。けど——。


「あった! あのカンジだ!」


 バラバラじゃない。四つの文字が順番通りに連なっている。一か所だけじゃなく、いくつか他の文にも混じっていた。


 これでさあやの秘密が分かる!


 紙を本に挟み、トートバッグに突っ込んだ。


「あーうっ!」


 ハルキが騒ぐ。背後でドアノブが開く音がする——ヤベーッ!


「【パオン】!」


 箱の扉を元の大きさに戻し、ムリヤリはめ込んだ。蝶番壊れてるからただはめただけ。トートバッグをハルキのベビーカー近くに放った。


「あらん、あゆ、どーしたのん?」

「え、えへへへ。なんでもない」


 箱を背に隠し笑って誤魔化した。誤魔化せてるかわからないけど、そのまま笑いながらハルキのところへ移動し、何事も無かったようにハルキと遊び始める。

 銀次ママは不思議そうに首を傾げたが——でかすぎる顔が重力に負けて頭から落ちそうで心配になる。心配を他所に、ママはふんと軽い鼻息を漏らして椅子にどかっと座った。リオをキッと睨みつけて説教が始まる。

 リオはママのでかい顔を避けてオレの顔を窺ってくる。オレは頷きながらトートバッグを指差した。リオは満足そうに頷き、腕を組んでママの説教を受け始める。


「なんなのよんそのドヤ顔は。あんた反省してんのん!?」

「してるしてるー」

「んもう! お触りは絶対NG! お触りした客は叩き出すけどん、それを許したのはあんたの慢心よん! いつもなら簡単に躱すでしょん!?」


 怒鳴られてるけど全然平気な顔だ。さあやに同じように怒鳴られたらオレはあんな顔できない。たぶん、爪先をじっと見つめることしかできないだろう。初めてリオの尊敬できるところを見つけた。

 なが~い説教が終わると「今日はもう帰んなさいん」とリオに告げ、銀次ママは机にある薄っぺら板に向き合った。


「んじゃ、お疲れーっす」


 リオは去り際にオレを見て顎をクイッとさせてドアを閉めた。


「あーママ?」

「なぁにん?」

「オレ、そろそろ帰る」

「そーおん? あ、そう言えばリオの家に泊まってたわねん。今日も泊ってくのん?」

「うん、約束してる」

「仲良くなるのはいいけどねん、悪い遊びは教わっちゃダメよん? リオは悪い子じゃないけど良い子じゃないんだからん」


 じゃあなんの子なんだ?


「ナイトプールにも一緒に行くのん?」

「リオは行くって勝手に言ってる」

「気を付けなさいねん? 花火大会もそうだったけどん、最近物騒でしょん? 変な騒ぎが多いしん、危ないことに巻き込まれそうになったらさあや連れてすぐ帰ってくるのよん?」

「はーい。じゃあハルキのことよろしくな」


 ハルキの手を摘まんで軽く振る。さよならの合図だ。

 銀次ママにも手を振って別れを告げる。部屋を出る時、小さくを拳を振り上げた。


 みっしょんかんりょー!


♠♠♠

■■■お知らせ■■■

次回、本日12時頃に更新します。

面白いと思っていただけた方、またその逆の方。

高低関わらず評価いただけると大変ハッピーです。

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