第32話 手の感覚
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力場からジャンプして飛び降りる。
落ちながら浴衣をはだけさせ、胸の谷間——ヨシカに教えてもらったおっぱいポケットにさあやから渡されたスマホを挟んだ。
スマホがブルブル震える。谷間から半分飛び出した画面に緑のボタン。ボタンを指でスライドすると電話が繋がった。すかさず教えてもらった別のボタンを押す。すぴーかーって名前らしい。
『もしもーし。あゆたん聞こえる?』
「ヨシカ、聞こえるぞ!」
『はーい。じゃあさあやたんに代わりまーす』
『あゆ、上から誘導するから。状況次第でブンサブローも寄こすね』
「わかった!」
ブンサブローは上空の力場に残りさあやたちを守る。オレはナメキンの位置をさあやたちから教えてもらい追い込む役だ。お椀になるでかい力場内でナメキンを掬い上げる必要がある。
舗装された地面に着地。衝撃で地は割れ陥没し、破片が宙に散らばる中、強く踏み出して駆ける。出力全開の強化魔法【コサミン】はオレの体をこれまでにないほどの頑強さ、そして身軽さを与えた。迅雷となるブンサブローには負けるが、まさに疾風の速度だ。
周りは大きなビルが並ぶ街並みだ。人の姿は無い。シイナが出した人攫いスモックがこの辺りでも行動していたのだろうか。停車している車やビルの窓にも人の影すら見えない。代わりにナメキンの目玉がそこら中に浮いており、こちらを見て襲ってくる。
目玉の光線を躱しつつ、身の丈三倍はあるオリハルポイを斧のように振るい叩き潰す。足は止めず、さあやが指示したポイントを見定めた。地面が水面のように揺らいでいる。
高く跳躍し、オリハルポイを頭上で回転。勢いを乗せ思いっきり振りかぶり揺らぐ地面に叩き落とす。
ボオオオオオォォォォォ……!!
ナメキンの悲痛な咆え声と共に魔力の飛沫が上がる。
水性を持った地面に抵抗はほとんど無い。ナメキンは浅いところを漂っていたのか、オリハルポイの斧は深く肉に食い込んだようだ。暴れる巨体が浮上してくる。刺さっていたのは平べったい頭だった。
オレは頭に乗り、何度もオリハルポイを振り下ろした。噴き出す黒い魔力の中にはスミダ川に浮いていたゴミも混じっている。臭いも酷い。
ナメキンが体を捩り、頭が下を向こうとする。オレはジャンプして信号機の上に着地した。
「潜るのか? 見えてるならわかるだろ? あの目玉だけじゃオレを倒せねーぞ!」
深く潜れば安全だがオレへの攻撃が手詰まりとなり、かといって飛び跳ねれば上空で完成を待つ力場の罠にかかる。強いジレンマに押し潰されそうだろう。
居場所もバレている。そうなると逃げ込む場所は——。
『あゆ、光の反射が移動してる! スモックが動いた! 行き先は——』
「スミダ川だろ!」
胸に挟むスマホからのさあやの声と重なるように言った。
光をキラキラ反射する地面が猛烈な速度でスミダ川方面へ移動していく。
行動範囲を狭めることになるが、スミダ川に逃げ込めば川全域の水面が光を反射しているから潜伏場所が特定できなくなる。でもそこはオレにとって水槽の壁に等しい。
ここで地上に降りたらまた沈んでしまう。オレは信号機や街灯を跳び移り、ビルの壁を蹴り走ったりしてナメキンを追う。
ナメキンは潜るのを止めて背びれを地上に出した。背びれから伸びる幾千本の毛が再び束となり鞭を打ってくる。目玉の光線も健在だ。逃げながらも攻撃は止まない。
オレもオリハルポイを振り回し、体を捻って避けながらも追いかける。キンギョ掬いで水槽の壁に追い込んでいく気分だ。
スミダ川が見えてきた——今だ!
「ブンサブロー!」
通話中のスマホに向かって名を叫ぶと、ブンサブローが雷鳴と共にオレの隣に瞬間移動してくる。
背に跨り、再び雷鳴が轟く。瞬きの間にオレたちはスミダ川上空へ。一番最初に作った力場だ。一瞬で先回りできた。
街の方向から光る地面が向かってくる。タイミングを見計らい、ブンサブローの背をポンと叩いて合図を送る。ブンサブローもそれに応え力場から飛び降りた。ナメキンを九時の方角に捉える。
最大出力で魔法と使うため、エナドリの味を思い出す……あの旨味……冷たさ……血液に乗り全身を巡る感覚……。
「激ウマーーーーーーーーーーーー!!」
出力全開の【パオン】で魔力をオリハルポイへ送る。前世でも成し得たことがないほどの巨大化に成功した。街に並ぶビルとなんら変わらない。
「おらああああああぁぁぁぁ!!」
柄を脇に抱え、全身を使いポイを振るう。
掬う時は頭から……!
水へ入れる時、出す時は斜めに……!
水中では水面と平行に……!
キンギョ掬いでのさあやのアドバイスを頭で反復する。
一度成功したんだ……大丈夫……手が感覚を覚えてる!
巨大なポイが豪快な水飛沫を上げてスミダ川に入水し、そのまま土手向こうへと差し込まれていく。スプーンでアイスの表面を抉り取るように、緩やかな弧を描いて地上へ突き抜ける。
巨大な魚影が空へ投げ出された。ハナビの光を浴び、夜よりも深い黒に鮮やかな色が塗り重ねられる。
「ブンサブロー! 今だ!」
「あァ! 迅雷魔法【レ・トーリバン】!」
ブンサブローの鼻先の雷電がスミダ川上空の力場へ走る。瞬間、閃いて遠くの各力場へと稲妻が駆け巡り六芒星を生成。円状にぐるっと稲妻は走り続け巨大な魔法陣となった。
雷のお椀にナメキンが落下して地鳴りが響く。少し後に吹き飛ばされそうになる風圧も襲ってきた。
「いよっしゃあーーーっ!」
ブンサブローと共に歓喜の声を上げる。スマホからもさあやとヨシカの歓声が上がっていた。
「このままたたみかけるぞっ!」
オリハルポイを【ピエン】で縮小。調整にも慣れてきてうまく斧槍サイズにできた。迅雷魔法で力場へ移動した後、ブンサブローの背に乗ったまま帯鞭を躱しつつ突撃する。
びったんびったんと暴れるナメキンの元に、展開していた目玉たちも四方から集まり主の周囲を囲んで守りを固めていく。でもそれは悪手だ。なぜなら、ナメキンも目玉たちもションベン臭いからだ。
ブンサブローが迅雷魔法【トードル】を唱える。一瞬の閃きで浮かぶ目玉の一つへ移動して潰した。稲妻となった際、すれ違いざまにナメキンの体もオリハルポイの斧槍で切り裂いている。背後で切り口から血潮のように靄が噴き出す音が聞こえた。
再び雷となりナメキンを挟んだ対角にいる目玉へ。さらに対角へ——取り囲む目玉へ移動を繰り返しナメキンを切り刻んでいく。速度は増し、線の閃きは次第に厚みを増して収束し光の球となっていく。
飛んでる目玉を全て潰して移動先が消える。ナメキンは多方向からの斬撃で身を捩り頭を高くもたげていた。頭をかち割るチャンスだ。
移動先をさあやたちのいる中央上空の力場へ。力場の上ではなく裏に移動し、ブンサブローの短い脚が接地。再び体が雷へ変化していく。
最後の一撃を叩き込もうと眼下のナメキンを見据えた。しかし——。
「やべェぞ! 読まれてた!」
ブンサブローの焦った叫び声。
傷だらけのナメキンは上空のオレらへ向け大顎を開けていた。中にある夥しい目玉たちが青く光り始める。あれだけの数の光線……力場ごと吹き飛ばされるだろう。
迅雷魔法で避ける? ダメだ! 上にさあやたちがいる!
このまま稲妻になって突っ込む? あの大量の目玉を一撃で全て潰すのはムリだ!
どうしたら——。
「……すけて」
空から消え入りそうな声が降りてくる。
見上げると、ハルキを抱き締めるさあやが膝を着いて目を瞑っていた。震えて、眉間に力を入れ、強く何かを祈っている。
「助けて……マホちゃんっ!!」
さあやがそう叫んだ瞬間、接地する力場から白光する矢じりのついた鎖が何本も生えてきた。
鎖たちは長く伸びてオレとブンサブローの前でギュルギュルととぐろを巻く。大きな円盾を形成した瞬間、ナメキンから光線が放たれた。鎖の円盾は少しの光も漏らさず受け止め、オレたちを守ってくれた。
マホ……!
「行って! あゆ!」
空から今度は力強いさあやの声が降ってきた。目は開かれ、一心にオレの瞳を見ている。
オレは強く頷き、再び真下のナメキンを睨みつける。
ブンサブローが接地していた力場を短い脚で蹴る。オレはオリハルポイで鎖の円盾を突き、そのまま落下していく。光線の衝撃はまるで感じない。円盾が全てを吸収し逃がしているようだ。
「悪いな、ウチじゃ飼えないんだ……水槽ないから!」
雷となり、光線を吐き続けるナメキンを口に円盾ごと侵入。口内の目玉たちを押し潰したと同時に円盾は光の粒となって消失。渾身の突きは勢いを失わずナメキンの体を貫通し、力場に突き刺さった。
ナメキンは穿たれた風穴から黒い魔力を全て放出。咆え声と力場に伝わる地鳴りを残しつつ、その巨体を靄と化して消えていった。
「…………ぶはぁ!」
息をしていたはずなのに、ずっと潜水していたような気分だ。肺の中の空気を全て吐き出し、大きく吸って酸素を取り込む。空の空気は地上と違い少し冷たくておいしく感じる。
ブンサブローも同じ気持ちだったようで、ぜぇぜぇと苦しそうに息をしている。短い四足を曲げ、腹を力場にべちゃっと着けてその場に伏せた。オレもブンサブローの背から降り、ぺたんと力場に座り込んだ。
疲れた……ワニワニの時よりも。
光線にやられた傷も、シイナに殴られ蹴られた傷も痛い。回復魔法【アザマル】を唱える。出力のタガが外れているためケガはすぐに治ってくれる。しかし疲弊した精神は回復しない。
よく見たらブンサブローも傷だらけだ。体毛が白と茶色のエリアとは別に血で染まった箇所がいくつもある。労りを込めて【アザマル】をかけてやる。ハゲは治らなかった。
このまま寝ちゃいたい……いや、その前に風呂に入りたい……。
そう項垂れて思っていると、隣のブンサブローが口を開いた。
「おめェやるじゃねェか。パイパイに比例して実力もでかくなったみてェだな。また弟子にしてやってもいいぜェ? 毎日一緒に風呂入ってシャンプーする条件付きだがなァ」
「だれがするかバカイヌ……でも助かったよ。おまえがいなかったら勝てなかった。シイナからも助けてもらったし、ハルキのこともありがとな」
「ハルキ……ってあの赤ん坊だよなァ? なんのことだァ?」
「ん? だってシイナがハルキをぶん投げた時、迅雷魔法で助けてくれたろ?」
「知らねェなァ。ワシはお散歩のつもりで飛んできただけだ。たまたまご主人のピンチだったがよォ」
「ブンサブローのおかげじゃないなら……」
どうやってハルキは助かったんだ? シイナの企み? でもさあやと合流した時はすでにハルキがいた。さあやはどうやってハルキを見つけたんだ?
「なァ、さっきの鎖の魔法……ありゃあマホのだよなァ?」
疑問が頭でぐるぐるしてる中にブンサブローが別の問いを投入してきた。
「あぁ、さあやが出したんだ。前にも一回だけだけど、ピンチの時出してたぞ。そろそろ目覚めてくれたらいーのになー……」
おっぱいポケットに挟まるスマホを見る。さあやとヨシカの喜びの声が絶えない。スマホを耳に当ててないのか、オレたちの会話は聞こえてないようだ。
「……転生の魔法もマホのなんだよなァ?」
「あぁ、旅の極大魔法だ」
「……ワシらが前世を思い出したってェのは、その魔法が解けたっつゥことなんだよなァ?」
「そーなんじゃね?」
「随分と時間に差があると思わねェか? ワシとおめェは同時期に。ノーラたんは一週間前で屋台通りにいた野郎共はついさっき。それも同時に何十人もだ」
「個人差があるだけじゃねーの?」
「個人の魔力は恐らく関係無ェ。マホの魔力依存じゃあねェかとワシは思う。そうじゃねェと魔力が水溜り程度のおめェと、湖くらい量があるワシが同時期に目覚めたのはおかしい」
言い方にムカつきが呼び起こされるが、疲れていて怒鳴る気にもならない。黙ったまま続きを聞く。
「マホの魔力依存ならよォ、そいつが尽きた時点で一斉に解けるはずだ。そうじゃねェなら、魔法は解けたんじゃなく解いたっつゥことだ。意図してか無意識かは知らねェがな」
「え? じゃあそれって……」
「あァ。マホはもうとっくに目覚めてんじゃねェか?」
「でも、だって、さあやはマホじゃないって……自分はさあやだって……」
「さっきの鎖魔法だってよォ、眠ったまま出せるとは思えねェ。さあやたん、嘘ついてんじゃねェのか?」
「嘘……」
そんな嘘……必要あるのか?
なにか理由があるなら言ってくれたらいい。隠す必要なんかない。どんなことでも聞いてやる。
オレはすっごく会いたいのに、マホはオレに会いたくないのか?
オレのこと……嫌いになっちゃったのかな……。
『あゆ、私たちもそっち行きたいからブンサブロー寄越して?』
スマホからさあやの声がする。一緒に聞いていたブンサブローはパリッと稲妻となって消えた。そしてすぐに戻ってくる。背にはさあやとハルキ、ヨシカの三人の顔があった。
ハルキはぐっすり眠っている。あんな激しい戦闘の中で泣き声一つも聞かなかった。なんなら川にも沈んだのに。いつから眠ってたんだろうか。
さあやとヨシカはブンサブローから降り、再び歓喜の声を上げている。
座り込んだままさあやの顔を見た。濡れてメイクは崩れ、目元を拭ったのかつけまつ毛は両目とも消えている。目元だけならすっぴんに近かった。勝利の喜びや興奮で気付いてないようだ。
髪も目も金色じゃない。顔は少し似てるけど、やっぱりマホの顔じゃない……当たり前だけど。それでもマホの顔が重なる。
「あゆもブンサブローもカッコよかったよ! ほんとーにお疲れ様!」
「マ……」
名を呼びかけて止めた。
「さあや……」
「ん? なあに?」
濡れた髪を耳にかけながらさあやが笑いかけてくる。
どうしよう、聞きたいけど……聞きたいのに……。
出そうとする言葉を臆病な自分が心に仕舞い込んでしまう。
知らなかった。考えたこともなかった。「嫌われちゃうかも」って、こんなに怖いものだなんて。
「えっと……えっと……」
「どうしたの? ——って、あんたなんてとこにスマホ入れてんの!?」
「え?」
さあやがオレのおっぱいポケットを指差して目を吊り上げた。やっぱりさあやだ。
「帯に挟むとか、他にいろいろあるでしょ!」
「いや、これはヨシカが!」
「芳華さん?」
さあやはヨシカをしっとりした目付きで睨んだが、ヨシカはぴーぴー口笛吹いて知らん顔している。
さあやはため息一つ、それから笑みも一つ溢してオレのおっぱいポケットからスマホを抜き取った。
スマホの裏に白い何かが張り付いている。さあやもすぐに気付いた。何かを剥がしてまじまじ見つめる。
「なにこれ、濡れてべちょべちょ……名刺?」
「あ、忘れてた!」
「【鳴海修一】……だあれ?」
「えっと……あのもじゃメガネ」
「もじゃ……」
さあやの顔がサッと陰る。悲痛な面持ちで俯いてしまった。
やっぱりなにかされたんだ! ナルミシュウイチ……シュウイチか。覚えたぞ! 許さねー! ぜってー謝らせる!
シュウイチとは屋台の通りで別れた。シイナのスモック生成魔法の影響で、他の人たちと同じくスモックを生み出して気絶していただろう。ブンサブローが避難させてるはずだ。
「……こんなのどうでもいいの。それよりほら! 早く!」
さあやの顔が打って変わり日が昇ったようにぱっと明るくなった。オレの手を強く掴むと強引に引っ張り起こし、そのまま駆け出した。
「さあや、オレもうへとへとなんだけど……」
「あぁごめん。少しでも近いほうがいいかなって思ったけど、別にいっか。他に誰もいないし」
「近いほうがって……なにに?」
さあやが足を止め、正面の空を見ている。オレもさあやの目線を辿り、正面を向いた。
「あっ……ハナビ!」
あんなに楽しみに、そして邪魔されて怒ってたのに、いつからかナメキン探知の道具としか見てなかった。
ハナビを見て、さあやの横顔を見る。濡れた赤茶色の髪が赤青黄色、たくさんの光を受け煌めいている。
「キレイだ……」
「でしょ?」
「え、あ、うん!」
こっちを向いたさあやと目が合い、慌ててハナビに視線を戻した。
「こんなの初めて……」
「あれ? さあやもハナビ初めて?」
「真横から見るのはね。普通は下から見上げるものだから。……あんたが来てから疲れることばっかりだったけど——」
「ゴメン……」
「あーそんなつもりじゃなくてね? あんたと会えて、こうやって違った景色が見られるならファンタジーも悪くないなって思ったの。考え方の角度も変わったかな? きっと今日みたいに疲れたり、死んじゃうかもって時がまた来るかもしれないけど」
「ゴメン……なさい」
「だから違うって。怒ってるんじゃなくて……ピンチになったら頼んでなくてもまた助けてくれるんでしょ?」
「うん……それはとーぜんだし」
「でしょ? これは『ありがとう』って気持ち。だから『ゴメン』じゃなくて、違う言葉が聞きたいなー?」
「……どう……いたしまし……て?」
「そ。私もあゆがピンチの時は、今日みたいに少しは役に立てるようにするね?」
「……うん! さあやの作戦すごかったぞ! めっちゃ助かった! ありがとー!」
「どういたしまして」
さあやが微笑んでまたハナビを眺めた。オレも同じように眺める。
マホに……さあやに嫌われたくない……もう少し待っていたい……大丈夫、きっと自分から話してくれる。だって、あんなに仲良しだったし! 今だって仲良しだし!
「ん?」
さあやがふと何かに気付き眉を上げた。右手を顔の高さまで上げる。オレと手を繋いだままだけど——。
「恋人繋ぎ……」
「え? あっ!」
普通の手繋ぎじゃなくて五指が絡んだ握り方になっていた。祭りに来る時恋人たちがやってたヤツだ。
なんだかメチャクチャ恥ずかしくなってきた。
あれ? なんで? 無意識で!? ウソ!? オレーーーッ!?
「ここ、これは! その——」
誤魔化そうとわたわたしていると、さあやは何も言わず上げていた手を下ろした。微笑んだままチラッとオレの顔を見た後、視線は再びハナビへ。オレは目をパチクリさせてたが、同じように黙ってハナビを眺めた。
握る手を緩めるとさあやが強く握り返してくる。少しためらったが、オレも同じだけ強く握り返した。
なんだろう……この手の繋ぎ方、初めてじゃない気がする。
記憶に無いけど……最近なのか、ずっと昔なのかわからないけど……手が感覚を覚えてる。
だれとの? ……わからない。でも今と同じで……あったかかったと思う。
さあやと一緒に眺めたハナビは一〇分にも満たない時間で終わった。
でも充分だ。思い出は時間の長さじゃない。ハナビみたいに打ち上がって、消えていって、一瞬の煌めきだったとしても決して心からは消えない。
ずっと残り続ける……このキラキラも、あったかさも。
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■■■お知らせ■■■
次回、本日21時頃に更新します。
面白いと思っていただけた方、またその逆の方。
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