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第31話 タクティクス

♠♠♠


 ブンサブローは短い脚を若干落とし、背に乗るオレたちも身を低くする。

 ハナビのより高く跳ねたナメキンは目が無いくせにこちらを的確に捉えている。今度は跳んで落ちるだけではない。巨体を捻り、各ひれから伸びる羽衣みたいな毛の束が遠心力で勢いをつけ鋭く横殴りしてくる。

 ブンサブローは短い脚を細かく動かし、素早いステップでナメキンの横殴りの鞭を躱す。オレも槍サイズまで伸ばした三日月オリハルピンを毛の束へ突き刺し、隙間をこじ開けて回避をアシストする。ちょうど三日月部分が鎌のように鋭利になっており、斧槍のように扱える。切断も容易だが、切った先からすぐに毛は再生している。

 両胸びれの帯鞭をやり過ごすと、次は上空から尾ひれの縦振りされた帯鞭が襲ってくる。

 ブンサブローは左に大きくステップして鞭の縦振りを回避。鞭に触れた地面は水性に変質し、水しぶきのように土砂や樹木が舞い上がる。降ってくる土砂はすでに土や石に変わっており、オレたちを押し潰そうと降ってきた。


「怖い―!」

「魚のくせに体操選手みたいな空中捻りを……」


 ビビりまくりのヨシカに対しさあやは落ち着いている。オレの腰にしがみつく腕は震えているが、決して目を閉じようとしない。一層マホに似てきたと感じる。

 振ってくる土砂のつぶてを槍ピンで弾き、ブンサブローと協力して避けていると、宙に浮く巨体が自由落下を始めているのが見えた。


「落ちるぞ! バカでかい津波が来る!」

「じゃあ作戦通り空へ! 芳華さん!」

「あいよー!」


 ヨシカが左手にぶら下がる水風船を一つ、さあやに手渡した。さあやはバッグの中からメイク道具の小さなハサミを取り出す。

 巨大化して多少太く長くなったブンサブローの体毛をハサミで切り取り、それを水風船へ貼り付けていく。川のしぶきで毛は濡れているから容易に貼り付けられた。たくさん貼り付けたら水風船をオレにパス。

 オレは川の上空へ思いっきり水風船をぶん投げた。屋台通りでかけた強化魔法【コサミン】はまだ効いている。水風船は高く高く昇っていく。


「【トードル】!」


 ブンサブローが迅雷魔法で自らの体毛を辿り上空の水風船の元へ。鋭い雷電に水風船は割れてしまう。掴まる場所を失った毛が風にあおられヒラヒラと周囲に散っていった。

 宙に投げ出された状態で、ブンサブローはさらに魔力を込める。


「迅雷魔法【レ・トーリバン】!」 


 ブンサブローの鼻先から細く弱々しい雷電が走る。雷電は散っていく毛の一本に触れるとそこから雷の線が他の毛に走る。線で繋がり六芒星を、星の点を繋ぎ円を結ぶ魔法陣の力場となった。先ほど屋台通りで巨大化したポイに使った魔法だ。

 ブンサブローが力場に着地したと同時にナメキンが地上に落下した。スミダ川に落下したが、津波となったのは川の水だけに留まらず、水性に変質した土砂や舗装された道も巻き込んで一帯を押し流している。津波が引くと、川の水ではなかった物たちは水性を失い再び元の土砂へ。元の地形は跡形も無い。

 跳ねて落下のワンループ。やり過ごしたらまたインターバルだ。


「エリアを広げましょう! 芳華さん!」

「おけおけ!」


 さあやは再びハサミを手に、ヨシカは水風船を用意する。


「次はどこ投げたらいい!?」

「川じゃない地面の広いところ! 人も避難させたし、さっきいた屋台の通りがいい!」

「よっしゃあ!」

「待て! なにか来るぞォ!」


 ブンサブローが叫ぶ。オレも遅れて気付いた。真下から強烈な魔力が渦巻き、垂直に放たれた。噴射された黒い水がオレたちの立つ力場にまっすぐ向かってくる。


「潮吹いたァ! マジに鯨じゃあん!」

「逃げて! ブンサブロー!」


 さあやの叫びにブンサブローが力場からジャンプ——したけど、飛距離が全然無い。力場からちょっと出ただけだった。足が短いから。


「ぎぃやああああぁぁぁぁぁ!!」


 全員で絶叫しながら落ちていく。ナメキンの魔力の潮吹きがすぐ横を掠める。垣間見た黒潮の中で何かが蠢いている。姿は見えない。


「早く、迅雷魔法!」

「あァ——うッ!」


 すぐ横の黒潮の中から光線が放たれた。ブンサブローの肩や腰に直撃する。

 魔法を行使できず、そのまま落ちてブンサブローは川に腹打ちした。ブンサブローが「ギャッ」と短く悲鳴を上げて静かに、そのままぶくぶく沈んでいく。


「起きろブンサブロー!」


 オレとヨシカが叫ぶがブンサブローは完全に気を失っていた。さあやはハルキを守ろうと抱き締めるのに必死だ。

 頭まで川に沈み、ギョッとしてすぐ横を見る。巨大な影。ナメキンの目の無い頭部があった。


 こいつ、目が無いくせにどうやって宙に浮くオレたちに的確な攻撃を——。


 地上にいた時はまだわかる。ナメキンだって川や地底にいるんだから、足音とか水を伝わる振動とかで察知してるんだろうと推察できる。

 なんで——その疑問はすぐに解決した。

 ナメキンががばっと口を開けたのだ。中には牙や舌などはなく、ギョロギョロした数えきれないほどの拳大の目玉があった。ワニワニの巨大な一つ目をそのまま小さくしたような燃える細い瞳。沸々とした怒りを感じる。


 目、あるじゃん。いっぱいあるじゃん!


 がぼぼと水泡を吐くと口の中の目玉が一斉にこちらを向いた。瞳に十字の筋が入り、四方へ捲れ上がる。闇のように暗い奥底で魔力が収束されていく。


 ブンサブロー! ブンサブロー!


 叫んでもがぼがぼと泡を吐くだけだ。ブンサブローの背中を叩いても水の中じゃ効果が無い。一か八かで手綱のように握っていた毛の束を思いっきり引っこ抜いた。

 水の中だから「がぼっ!」としか聞こえないが、たぶん痛みに叫んだと思う。目を覚ましたブンサブローも事態を飲み込めたようだ。

 迅雷魔法で再び空へ。潮吹き攻撃を受けた力場だったが、辛うじて維持されていた。

 力場に着地し、全員がゲホゲホと咽てから大きく息をする。


「ジャンプして腹打ちする犬の動画思い出したわ……」

「そのまんまでしたね……」

「足が短けーから……」

「ワシのせいかァ!? てかてめェ毛ェ引っこ抜いたろ! ハゲてねェだろうなァ!?」

「大丈夫だ! 数本しか抜いてねーから!」


 本当は大量に抜いて拳大のハゲができている。黙っとこう。

 ハゲたところを見ていたら、隣に別の視線を感じた。あのナメキンの目玉が一つ宙に浮き、一緒にハゲを見ていた。ハゲからオレへ。目と目が合う。パカッと瞳が捲れ上がった。


「うおっ!」


 咄嗟に上を向く。

 目玉から放たれた細く青い光線がオレの顎を掠めて遠く彼方へ消えていった。

 目玉をぶん殴って吹っ飛ばす。周りを見ると、大量の目玉が宙に浮いてこちらを観察していた。さっき黒潮の中で蠢いてたのは目玉たちだったようだ。こいつで地上の様子を見ていたに違いない。

 目玉たちの瞳がまた裂けて捲れ上がる。

 オレはブンサブローの背から降り、力場に立って三日月ピンの斧槍を構えた。太陽ピンも外して【パオン】。魔力出力がデタラメだ。調整が難しく太陽部分がかなり大きくなってしまったが、むしろ好都合。ブンサブローの背に立てかけ、盾としてさあやたちを守らせる。

 無数の光線が浴びせかけられる。光線を避け、弾き、ピンを振って目玉を潰していく。避けきれず肩や脇腹を掠め、浴衣が裂かれ血に染まる。深手じゃないが長引くとマズイ。どんどん傷が増えていく。


「キモいーーーっ! キモキモキモキモキモキモ!」


 ヨシカの悲鳴がうるさい。オレだって叫びたいのに。

 もう限界……そう思い始めた頃だ。目玉たちが急に攻撃を止めて落ちていく。ナメキンの鎮座するスミダ川へ帰っていった。


「助かった……」

「あァ? なんで川へ戻ってったんだァ?」

「そりゃあ目玉だし、乾いたんじゃない?」

「……待って、これ使えるかも」


 さあやが何か閃いたようで「さすが!」とオレは感嘆の声を上げる。しかし、さあやから飛び出した言葉に「えぇ……」とドン引いた声を出してしまった。


「ブンサブロー! さぁ、おしっこ! やっちゃって!」

「え、マジで? 粗相しちゃってい? やったぜェ」


 ブンサブローは片足を上げ、そこからチョロチョロ……上空からスミダ川に向け、ションベンが月明りとハナビの光に負けないくらいキラキラと煌めいて注がれていく。

 膀胱からションベンが減っていっているだろうが、ブンサブローの纏う魔力は強く高まっていく。スッキリする気持ちはわかるが、こんなことが心の解放に繋がるのは気持ち悪い。


「はあァァァァ……んぎもっちいィィィ……」

「でかいからちょー出るじゃん」

「さいってーだな、クソジジイ」

「ごめんなさい隅田川……ごめんなさい都民の皆さん……」


 ブンサブローのションベンが終わったのを見計らい、さあやがヨシカの持っていた水風船をオレに手渡してきた。互いに視線を合わせ頷く。

 さっき引っこ抜いたブンサブローの大量の濡れた毛を水風船にべちゃっと貼り付けた。屋台通りの方向へ水風船をぶん投げる。

 肥大化させていた太陽ピンを【ピエン】で剣サイズに。本当は槍サイズにしたかったが小さくしすぎしまった。太陽と三日月……剣と槍を携えてブンサブローの背に再び跨る。


「【トードル】!」


 タイミングを見計らい迅雷魔法でぶん投げた水風船の元へ。ちょうど寺の境内、屋台通り上空だ。

 水風船は割れ濡れた毛が宙で散らばる。ブンサブローが迅雷魔法【レ・トーリバン】で再び力場を作った。

 次の水風船にもハサミで切ったブンサブローの体毛をくっ付ける。今度はさらに上空へ投げた。スミダ川と境内にある力場のちょうど中間地点の上空だ。同じように移動して力場を作る。

 上空は風が強い。打ち上がるハナビと同じ高さだ。


「見て!」


 さあやが遥か下の地上を指差す。先ほどまでいた屋台の通り辺りだ。地面の一部が色鮮やかに変色している。


「思った通り月明りや提灯、街灯、花火の光を反射してる。あそこ一帯が水の性質を持ってるってこと」

「つまりあの辺りにあの鯨がいるってこと?」

「そういうことです。上空からなら一目瞭然。川の中だと一面反射して居場所がわからないけど、地面のあるところに誘導すればあの反射で居場所がわかる」

「すごーい! さあやたん天才! 吸ってい? い?」

「今吸ったらたぶんさっきのあゆみたいに臭いですよ。みんなスモックのいる川の水被っちゃったし」

「やんやんやーん! 全然構わないわ! むしろプレシャス!」

「後にしてください。まだ終わってないんですから」


 さあやはまたハサミでブンサブローの毛を切り水風船に貼り付けていく。力場生成キットをいくつも作り、オレに渡した。


「今いるここが中心。下の階層……さっき作った二つの力場と平行な高さに、後四か所作って六芒星を展開する。そうしたら大きな力場が作れる? ブンサブロー」

「あァ! 最初は自信なかったけどよォ、あの神の飲み物とションベンのスッキリ感のおかげで魔力出力の穴がガバガバになっちまった! これならバカデケェ力場も作れるぜェ! 魔力もまだ潤沢だァ! なんせクソガキと逐一ケンカしてっから、魔力が溜まる一方だぜェ!」


 それにはオレも同意する。オレの魔力もまだ枯渇が見えない。それほど互いに気に入らないってこと。

 さあやの作戦は大きな力場にナメキンを乗っけてじっくり料理してやるってことだ。地上に降りさせなきゃただのでかい魚だ。無数にある遠隔操作可能な目玉から光線出したり、大地を抉る取るくらい強くて長い髭を蓄え、真っ黒な黒潮を高圧で噴射したりしてくるけど。


「大きな六芒星の中央で跳ねてくれたらタイミング見て力場作るだけだから楽なんだけど——」


 ボオオオオオオオォォォォォォォ……!!


 ナメキンの咆哮が轟き、全員耳を塞いだ。先ほどさあやが指差した屋台の通りからナメキンが跳び上がっている。

 ひれから伸びる帯鞭をしならせる。さらに体を真横に捻った時、こちらを向いた頭頂部から黒潮を吹いた。水平に飛んでくる黒潮とその中に蠢く目玉、さらに様々な角度から帯鞭が襲い掛かってくる。

 六芒星になるようにさあやが指定した四か所、その内隣り合う二か所に向けオレは水風船を投げた。

 放たれた攻撃を避けるために迅雷魔法【トードル】で一度スミダ川の力場へ。タイミングを見計らい再度ブンサブローが【トードル】。先に投げた水風船の元へ移動して力場作成。

 だがナメキンもバカじゃないのか、浮遊する目玉を広く展開させていた。移動先に漂っている目玉から光線が放たれる。ピンで光線を弾くが数が多すぎる。その上毛束の帯鞭も襲ってくる。この応酬を躱しつつ他の地点へ行かなくちゃならない。せめて縦横無尽に素早く移動してくる目玉の数を減らせれば……。


「臭う……臭うぜェ! だァはははは、ワシの臭いだァ!」


 突然笑いながら叫んだブンサブローがオレの持つ槍サイズの三日月ピンを咥え奪った。そして再び迅雷魔法で瞬間移動。対象は投げた水風船じゃない。浮遊する目玉の元だ。

 移動してすれ違いざまに咥えた三日月ピンで目玉を叩き切る。さらに移動、攻撃、移動……横に走る稲妻の如き動きで次々と目玉を潰していく。

 なるほど。さあやがブンサブローにスミダ川へションベン引っ掛けさせたのは、川の中にいる目玉たちにマーキングするためだったのか。川に混ざって広がって……つまり浮遊する目玉はみんなションベンまみれ……汚ねー!

 オレも太陽ピンを振るい目玉を潰す。繰り返しながら投げた水風船二つ目へ到達。再び力場作成。


「目玉はここら全域に展開してる! 残り二か所には直接行こう!」

「おう!」


 オレの提案にブンサブローが応える。

 再び目玉への移動と攻撃を繰り返し、もう二か所の力場も作成。一度上空に浮かぶ中央の力場へ移動し、眼下を見渡した。

 これで六芒星を成す点六つの力場が完成した。後はナメキンが跳ねた時に力場を展開すれば——。


「まな板の上の鯉をガチでできるってわけね!」

「でも、都合よくはいかないでしょうね……」


 楽観的なヨシカに対しさあやは慎重な声で言った。

 ナメキンは先ほどのジャンプを終えすでに地中深く潜っており顔を出さない。目玉たちも一度主の元へ帰っていったが、再び黒潮を吹いて展開しだす。


「もしかしてこのまま出てこねーつもりじゃ……作戦に気付かれたんじゃねー!?」


 また敵の飛び跳ね待ち。結局後手に回ってしまった。

 頭を悩ませている間も浮遊目玉が段々距離を詰めながら光線を撃ってくる。どうすれば——。


「ぴえん」

「え?」


 声に振り向くと、さあやが真顔でピースしていた。そしてその二本指でオレの持つ太陽ピン、ブンサブローが咥えている三日月ピンを指した。

 オレは言われるがまま【ピエン】。二つのオリハルピンを小さく戻す。調整が難しく、元のサイズよりも少し大きい。手頃なナイフくらいの大きさだ。

 掌に二本のヘアピンを乗せ、上目でさあやを見る。さあやは小さく息を吐き、お団子ヘアに刺さっているかんざしを取りながら笑った。お団子が解けて濡れた髪が肩に落ちる。


「作戦、まだあったでしょ?」

「え……あ、そっか!」


 さあやの作戦はまだ終わってなかった。

 思い出したオレは出力全開で強化魔法【コサミン】を自分にかけ直す。漲った力で二つ折りのオリハルピンを直角になるまで開いた。二本とも開き、先をくっ付けて正方形を作る。

 さあやがまたブンサブローの毛をハサミで切る。太く丈夫な毛でピン同士の接点を硬く結びつける。四角の中に六芒星が作れるように、他の位置にも毛を結び付けた。さらに外したかんざしを四角形の角に毛で結び付ける。

 そしてブンサブローが迅雷魔法【レ・トーリバン】で四角の中に力場が発生する。つついても破れない。


「ね? ね? 四角いとハエ叩きみたいじゃない?」


 オレの持つ手作り道具をスマホで撮影しまくっているヨシカを無視し、数時間前の屋台での光景を思い出す。

 地上はすべて水槽……月明りやハナビの光が反射する場所でターゲットの位置はわかる。

 手間かけて作ったでかい力場……捕まえたターゲットを放り込むためのお椀。

 手作りの変な道具……ターゲットを捕まえるためのポイ。オリハルポイだ。


「【パオン】!」


 オリハルポイを拡縮魔法で巨大化。かんざしでできた柄を持って姿を現さないナメキンのいる地上へ振りかざす。


「スモック掬いだ!」


♠♠♠

■■■お知らせ■■■

次回、本日12時頃に更新します。

面白いと思っていただけた方、またその逆の方。

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