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三題噺もどき

2人の話

作者: 狐彪

三題噺もどき―ひゃくごじゅうさん。

 お題:憎い・扇子・プライド



 これはまだ、世界に魔法があふれていた時代。

 人々が、生まれ持つその才能を、力を、人目をはばかることなく、存分に発揮していた頃。


 ―その、昔々の、話だ。


 :


 大陸の東の方に、自然豊かな国があった。

 四方を大きな山で囲まれたその国は、他国からの侵入を拒み、独自の文化を築き、生きてきた。

 その国に住む者たちは、生まれと同時に一つの力を授かり、共に一本の扇子を賜る。彼らの持つ力は、すべてが自然に由来するものだった。風を操り、水を流し、炎と共に舞う。地面を揺らし、草木を生やし、動物たちと共に生きる。

 彼らは、その力を悪用などすることもなく。ただ自らの生活を、皆の生活を、国の大地を。守り、育む為だけに使った。

 生まれ持ったそのちからを、扇子に乗せ、ゆらりと舞い踊り、今日も幸福に満ちた生活をしていた。


 しかし彼らとて、人間ではない、わけではない。

 すべてを許す、神では、ない。

 他人を憎むし、羨む。


 先に言ったよう、通常、彼らの力は、1人一つ与えられる。大抵はそうだ。大人であろうと、子供であろうと、老人であろうと。国王であろうと、王妃であろうと、平民であろうと。

 生まれ持つ力は、たった一つ。彼らは、その力をどこまで美しく、強く、操れるか、使えるか。日々暮らしながら、追い求める者もいる。


 たいていはそうなのだ。普通は。

 ―けれど、何事にも異常は付きまとう。異例が生まれる。忌み児が―生まれる。

 忌み児とは言ったものの、能力としてはとても優れているのだ。1人で、二つ以上もって生まれるのだから。

 1人で風を操り、炎を起こす。1人で草木を生やし、動物を操る。とても、とても、優れているのだ。


 しかし彼らは、例外なく、短命だった。

 その力を恐れた同僚に突き落とされたり。その力を羨み、憎み、首を絞められたり。はたまた、自らの力を操りきれずに、自ら死に追いやるか。

 だから忌み児が生まれた親は、子を必死に隠したりもした。その力を使わぬように諭したりもした。―それでも、彼らは例外なく短命だった。生きて居れば、その力は露見するのだ。使わずとも、蝕まれるのだ。

 人間に、完璧な隠し事など、不可能なのだ。


 だが。

 そそれにすら、例外がいる。

 ―いや、いた、という方が、今は正しいのかもしれない。


 :


 ある二人の男が、その国にいた。

 1人は、柔和で温厚な男。

 1人は、苛烈で粗暴な男。

 ―しかし、二人ともが、同様に人々に好かれていた。

 その二人は、幼い頃から共に在り。良き友。良きライバルとして。共に切磋琢磨し、歴代の中で1,2を争う程の実力を持っていた。

 その国の王すらも、彼らを絶賛し、褒めたたえ、褒美をとらせようとしたまでだ。だが、彼らは王の施しを丁重に断ったのだ。

 彼らは二人。お互いがあったからこその、今であると言った。1人であれば、これ程ではなかったと。だから、と、共に口を揃え

「「その褒美は、彼に与えてくれ」」

 と、言ったのだ。

 そんな関係の二人を、痛く気に入った王は。二人に、これからも、これまでのように。互いに切磋琢磨し、その力で、国を守り、民を守ってくれ、とだけ告げたそうだ。


 その言葉通り、二人の男は、良き友、良きライバルとして。それからも、互いの力を高め続けた。


 しかし、ある日。

 二人に、大きな亀裂が走った。


 その日、苛烈な男は、山の中腹あたりに住んでいる、もう一人の男のもとに向かっていた。

 そこで、目を疑うようなものを見た。

 山で1人暮らしているその男。見慣れた、扇子を持ち、ひらりと揺らめかす。―すると、風はびゅうと吹き、水は舞い上がり、炎は一層強く唸る。小さな畑からは野菜が掘り起こされ、周囲に生きる草木はみずみずしさを取り戻す。声に呼ばれて、どこかから、動物たちが集まってきた。


 それを見た男は、裏切られたと、思った。

 一つの力しか、持っていないと思っていたのに。あの男の操る水は、美しいと、思っていたのに。

 すべての力を意のままに、その上、あそこまで美しく。操るのか。私の使う、炎すらも。そんなに美しく、操って見せるのか―と。

 それと同時に、男の中に、今まで感じることのなかった、憎しみの情が生まれた。

 互いが、互いを、いなくてはならない存在だと思っていたのに。

 あの男は、1人でも。実に美しく、強い。

 自らの努力が、血の滲むような日々が、馬鹿にされたようで。


 殺したい―――刹那的にそう思った。


 だが、男には、あの男を殺すことなどできなかった。

 粗暴な性格の持ち主ではあったが、それでも長い間共にいたというのが、どこか根深く住み着いていた。 その上、その男はプライドが高く、自らの手を汚すことをよしとしなかった。


 だから、その日のうちに、彼は伝手を辿り、1人の刺客をよこした。「金はいくらでも積むから、必ず殺せ」と命じて。


 しかし、その刺客は、あの柔和で温厚な男を、殺す事は出来なかった。

 なぜなら、向かったその家は、すでにもぬけの殻だったのだ。


 そして、それを伝えようと、命を下した、あの苛烈で粗暴な男の元へ戻った。

 ―しかしながら、その男すら、忽然と、姿を消していた。


 二人の男が、その後、どうなったのかは、誰も知らない。


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