閑話 一般人の独白
作者が読みたいので閑話を投稿します。
あれは中学二年の時だったか、世間では謎のヒーローと当時言われていたスカイカフカが表れだしたのがこの頃だった。
ニュースやワイドショーでは連日のように未知のヒーローを取り上げ、批判や好奇の目で見られていた。
俺の中学校ではスカイカフカは芸能人のような扱いだったと思う。クラスの男たちは情報も少ないスカイカフカの真似をして女子たちに白い目で見られていた事を当時を振り返り思い出す。
当時はそれでも実在するスーパーヒーローに憧れもした。それこそ周囲の女子達を無視して、教卓の上でポーズをとる学生が出る程に。
それが少し変わったのがその数ヶ月後の事件だ。池袋怪生物発生事件と呼ばれる死者12名、負傷者106名を出した正真正銘の怪生物事件だった。
それまではヒーローが間に合ったのか怪生物は被害無く目撃者が呑気にカメラを回す暇がある程に気の抜けたものだった。
その日現れたのは二体の怪生物、出現したのは人通りの多い区画だったと聞いている。
それまでは目撃者も少ない場所での出現だった、だからヒーローは間に合い人的被害を出さずに片付けられた。でも今回は都市部の人口密集地に現れて暴れ始めた。
ヒーローは間に合う事無く、12人の死者を齎した地獄は更に被害を広げると考えられた。
その時、その場に似つかわしく無い少女が二体の怪生物の前に舞い降りた。
当時の画像や動画は見る事は出来ないが彼女が始まりの魔法少女アルジェントクロノスだと言う事は想像に難く無い。
アルジェントクロノスはまるで未来を予知したかの様な動きで怪生物を完封していたらしい。
その日から俺の中学校は男子はスカイカフカを女子はアルジェントクロノスを持ち上げて空前のヒーローブームへと発展していった。
そして俺が大学一年の頃、少し老けた様に見えるスカイカフカは未だにテレビ出演を頑なに拒絶し、他のスーパーヒーロー達は人によってはテレビに映る毎日だ。
俺たち一般人が知れる彼らの能力取得の過程は思った以上に様々あった。
曰く死ぬ直前に精霊が力を貸してくれた、曰く目が覚めたら力に目覚めていた、曰く自分の子供が自身の異能を引き継いだ等、挙げ始めればキリがない。
アルジェントクロノスは何故か五年経っても少女のまま存在しているのはある種の不死性があるからという仮説もあったりはする。
ここ数年で様々な異能力者が現れたと思う。しかし、何故善意的な異能力者だけが俺たちの情報網に入っているのかが理解できない。
当然、居るのだろう?物語で言う所のヴィランというやつが。というのは斜に構えた見方なのだろうか?
新聞やテレビで報道されてはいないが居るはずだと憶測はするが確証はない。
所詮は一般人の想像ではあるがヴィランは居ないと不自然だと思い、俺は当時の卒業論文へと書き記したが何故かそのまま通ったのは同期の笑い話だ。
社会へ出てヴィランとは言えない程度の軽犯罪で逮捕される異能力者が現れているが尋常ではない数の逃亡、脱獄率だ。
その率、脅威の70%だと言うのだから驚きを通り越して感心した程だ。確かに異能者は拘束不可能なタイプも居るだろう、例えば今や一流スター並の知名度と人気を誇るアルジェントクロノスの異能は未だに不明だが彼女に攻撃が命中した話が無い事から予知系では無いかと推測されている。このように予知だとすればそもそも捕まる事すら無いのだ。
異能犯罪は各国で重く受け止められ対策が幾つも立てられたという。その中でも目立つのが国営の対異能力犯罪機関といった異能力者に対抗する異能力者を国が雇い、捕縛・収監をする機関が各地で増えて行った。
それが出来てからは脱獄率や逃亡率は比較的にだが落ち着きを見せだした。
暫くすると世間では異能力者の二世が犯罪に走らない様にする為の国際異能力者学校を設立するべきだという様な動きが活発になり、教員にスカイカフカが採用されると報道されると世間は相当ざわついた。
また同時期に怪生物を異能力者が倒すと産出される謎の鉱石の利用方法が確立される。曰く石炭火力発電の燃料への代替が可能な二酸化炭素を出さないクリーンなエネルギー源らしい。
意味が分からないが、意味の分からない存在から意味の分からない方法で生成されたものなのだからそういう事もあるのだろう。またそのファンタジックな特性から魔石と命名された。
それを発見した団体が魔石の安定供給を目的とした組合を設立、異能力者支援組合と名付けられたその組合は世界各地へ瞬く間に支部を置いて急成長していった。
今ではヒーロー達の収入源だと言うのだから凄いものだ。
近頃はインターネットの掲示板などでヒーロー人気投票みたいなモノや、SNSでのヒーローの目撃情報などや変身系ヒーローの変身前といった暴露などが世間を騒がせている。
そして来たる2020年某日。
世界を震撼させた人類共通の敵と謎の組織シャイタン。この出来事から世界は大きく変わっていく事になるだろう。
それと同時に俺はこう思った。
―――嗚呼、やっぱりヴィランは居たんだ、と
これは少しばかりヴィランが好きな一般人の独白である、過度な期待はしないで貰いたい。