1話 サブカルと情報収集
西暦2000年は残念ながら無事に迎えられたらしい。
恐怖の大王とやらが現れなくて非常に悲しいが、私はこれ迄の私とは違い不貞寝などしている暇はない。
そこまで考えると氷漬けになった全身に熱を循環させ、ゆっくりと放熱する。そして周囲の氷は見る間に水へと溶け出し地上への道となった。
そうして地上へ上がり、凝り固まった身体を解すように伸びをする。数回軽く咳きをし、肺に空気を送り込む。
「…あー、あぁ~」
などと無意味に声を出したりしながらこれからの事を考える。
もう私は遠慮はしない事にしたのだ。その為にも世界へパラダイムシフトの種を撒かなければならない。
それも私が楽しめる状況でだ。
その為の情報収集を始める。これまでは噂や伝説を中心に聞き集めていたが、それらの元となった物は大概が創作だ。
創作、作り話には嘘や誇張があるがそれは今回問題ない。
これは私が撒く種の案として集めるものだ。
嘘を真実に変える程度、私には造作もない事だ。
そうして情報を集めている内に私は物語という長編の作り話を知る事になる。
知るというのは語弊があるが概ね間違ってはいない。伝説なとがその物語に類する物だと知ったのが今なのだから。
閑話休題
物語、その中でも取り分け気になったのが、超能力者や魔法使い、ミュータントやヒーローと言った人類由来の特殊能力を操る者らの物語。
ある日突然、何らかの要因で力に目覚めそれを使って何者かを救えばヒーロー、私欲の為に使えばヒールとそんな感じだ。
私が容易に撒ける種の撒き方がそこには書かれていた。
原案としてはこうだ、種を撒く用に様々な姿の私の分体を創って各地に放つ。一方には「正義の味方に選ばれた」と言い、一方には「それを使って好きにすると良い」等と言えば勝手に争って強く、強靭な者が誕生するだろう。
その為の支援も最大限すれば尚良い。
世界を滅ぼす勢力からの尖兵といった設定を与えた雑魚でも創ればそれを倒す為に適応を始めるだろう。
その頂点に私を置けば私と対等に触れ合える可能性のある者が勝手に向こうからやってくる。
また世界を滅ぼすというのも全く嘘ではない所がまた良い。私が齎した環境に適応出来なければ滅ぶのは必定だ。
これ以上の案は私には思い付かない、少なくともこれ以上に楽しそうに私自身が感じられる者の方が少ないだろう。
思考を分離し各地に視線と聴覚を向ければありとあらゆる雑多な情報と僅かに興味深い情報、視覚に聴覚に新しい情報は増え続けている。
だが、私の中の構想は概ね完成したと言っても間違い無い程にこの世界観に魅了されていた。
この創作を実現しよう。
世界中に超能力者や異能力者、ミュータント的能力者が現れて、それに呼応するように現れる異形。
暴れ回る異形へ立ち向かうヒーローに異形に与するヴィラン。
異形を倒せば手に入る不思議なエネルギー体何て物も付けていい。
初めは正義感の強そうな人類にしよう、そいつの前に異形を出して周囲を襲わせるんだ。立ち向かえば力を与えて戦わせる。立ち向かわなければ適当に暴れさせて消す、それを繰り返す。
そして最後は私の生み出した異能者たちによって私が倒されるか、それとも私がこのシステムを維持し続けるかの二者択一。
あぁ、彼らを煽る為の文言も考えないといけない。生存競争をしよう何て中々に皮肉が効いているのではないか?
私は今、最高に楽しい。この考案している時点でこれならば計画が始まれば更に楽しいのだろう事は火を見るより明らかだ。
組織的な何かを作ってその組織が狙っているかの様に装えばそこに異能者が加入するかもしれない、しなければ勧誘したっていい。
私の名前だって考えるべきだ、名無しの黒幕も悪くは無いが名前があった方が私好みだ。せっかくだから神話も絡めて私に相応しい悪役の代名詞のような名前を考えたいものだ。
どうせなら様々な世界観を踏襲して混ぜて混沌としていこう。ヒーロー、魔法、超能力の創作たちを引っ括めて叩き付けてやろう、誰は憚る事無く無遠慮に私の世界を押し付けてやる。
ある意味人類が望んだ世界に作り替えて、染め上げて、私の楽園へと世界を再構築し異能が当然の世界になった時、初めて私という存在が触れられる世界になる。
そうこう考えている内に月日は流れていく。
世界へ向けての宣戦布告の日は刻一刻と進んで行く。