町に行こう
この世界の服(各々1着ずつ)
ペットボトル500㏄ 3本
靴に、靴下。
タブレットに入力していく。
この世界の服は、抽象的でエラー表示が出たので、中出くんのアイデアで、具体的に変えたら受理された。
リガロの服屋で売ってる一番比率の高い、デザインで、色のもの。成人女性用M1着、成人男性用M1着、8歳~10歳児用1着としたのだ。
靴や靴下も同じように注文した。
よく咄嗟に思い付いたものだ。これで、具体的なデータに基づいたものになり、服装で浮くことはないだろう。
本当は、替えの服も欲しいのだが、ボックスの容量上、本日のところは、各々1着ずつになった。
衣類だけで箱の容量オーバーになりそうだったのだが、そこは私のアイデアで、圧縮袋に入れて送ってもらうように記入したら、解決した。
容量はまだ少し残ってるようだ。
「ねぇ、念のため、パンも少し頼んでいいかな?」
ドキドキしながら提案してみる。
「ほら、まだ辛うじて容量残ってるみたいだし、言葉が通じなかったら困るし……」
瞬間、中出くんの顔色が変わった。みるみるうちに青ざめていく。
「言葉か……盲点だった……。そうだよな、文字だって読めなかったんだ、その可能性は考えるべきだった。」
「美桜ちゃん、かしこーい。いっくん、美桜ちゃんが班長で正解だったねっ。」
「あぁ、そうだな。」
二人に笑顔で見つめられる。
褒められてしまった。
とても、くすぐったくて、暖かい気持ちになった。
私たちは着替えを済ませ、また町に向かって歩き出した。
女性陣が着替えてる間は、中出くんには後ろを向いてもらった。
野外で生着替えなんて、日本にいたら絶対にできなかっただろう。
アウターは、ニットみたいな感じだった。
ただ、何の動物の毛かは、分からない。
肌触りは滑らかで独特だった。色はカーキに近い。
スカートは、Aラインでベージュのみのシンプルなものだった。
そこに、シンプルな皮のブーツ。
とても動きやすく私は気に入ってしまった。
中出くんは、帽子なしのパーカーみたいなアウターだ。
これまた、素材はこの世界独特のものらしい。
色は青みがかったグレーだ。
パンツは、黒で、とても似合っている。
靴は、同じく皮のブーツだった。
イケメンは何を着ても似合うのかもしれない。
美月ちゃんは、淡い水色のワンピースだった。
デザインはレトロな感じ。
靴は何かの毛で編まれたムートンブーツのような形状だ。
それがまた、めちゃくちゃ可愛い。すごく、似合っていた。
美月ちゃんも「どうかな?」言いながら満更でもなさそうだ。
町に着いた頃には、辺りは薄暗くなり始めていた。
急いで町に入ろうとしたところで、あることに気付いてしまった。
町には入るには、身分証明が必要だったのだ。
町は、四方に広がる街道の合流地点にある。
私たちの街道では、誰も通行はしてなかったのだが、他の街道からの旅人はいたようだ。
各々身分証明書を提示して入場していく。
「やってしまった。」
中出くんが頭を抱えた。
「身分証明書をボックスで頼むべきだった。」
私はそうは思わない。
「身分証明書は、頼んでも無理じゃない?異世界の身分証明書なんて、地球上にはないと思うよ。」
私たちは早速、詰んでしまったかもしれない。
「うぅ……」
中出くんは今だ頭を抱えている。
そのとき明るい声が聞こえた。
「私は野宿でもいいよ。キャンプみたいで楽しそう。」
「ええ!それはダメだって!」
中出くんの悲痛な声が、静寂な夜更けに響いた。
結局、私たちは野宿をすることになった。
無くしたと言い訳して町に入ることもできたかもしれないが、ここで目を付けられるのは避けた方がいいとのこと。
それに日の入りまでに、町に入れなかった旅人や、商人っぽい人たちも、つぎつぎ野宿の準備を始めたので、不安はなかった。
「おーい、嬢ちゃんたち。リガロのもんか?日の入りまでに町に入りそびれたんなら、テント貸してやるよ。1000エールでどうだ?」
商人風の男性がニヤニヤ笑いながら話しかけてくる。
どうやら言葉は通じるようだ。
口の動きは違うので、翻訳されて、聞こえているみたい。
そこは、調査上、便宜を図ってくれたのだろう。
「えー、高くない?もうちょっと負けてよ。子供から、ぼったくらないでよ。」
突然、美月ちゃんが、男性に詰め寄っていく。
私は焦る、焦る。
相手は、異世界の男性だ。美月ちゃんとは、体力も比べものにならないだろう。
フォローに入ろうと近づこうとした私を止めた人がいた。
中出くんだ。彼の目は、大丈夫だと私に無言で訴えていた。
「わかったよ。500エールでどうだ。これ以上は負けられねーぜ。」
「わかった」
これにて交渉は成立した。
テントに入ってから、私は美月ちゃんに聞いてみる。
「ねぇ、どうして高いと思ったの?ぼったくりとか言ってなかった?もしかして、この世界の相場知ってるの?」
美月ちゃんは、きょとんとした顔をして、私を見上げた。
「えっ、知らないよ。でも、あのおじさん、ニヤニヤ笑ってたでしょ?きっと、ろくでもないこと考えてると思ったの」
としれっと返答してくれた。
私たちは、3人でパンを分け、早めに休むことになった。