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女番長はインテリに屈しない!  作者: 温泉の素
8/10

雄猿高校のトモダチ

椿は手で顔を覆いながら廊下を歩いていた。

白薔薇と合同文化祭。そんなものが本当に実現するのだろうか?それ以前に明日白薔薇学園に行って男たちから嘲笑を浴び、侮蔑されるのは想像しただけで気分が悪い。しかも向日葵は昨日白薔薇に絶大な迷惑を掛けた。悪口を言われるのは想像するまでもない。


「最悪だ……いきたくねえ……」

「なかなか大変そうだね」


ビクッ!!椿は飛び跳ねた。辺りに人のいる気配はない。今が授業中だからだ。しかし今、確かに椿の近くで声が聞こえたのだ。

しかもそれは女子のものではなかった。


「誰だっ、どこにいる!!」

「ここだよ、ここ」


椿ははっとして窓に視線を移した。そこには木の枝にぶら下がって、逆さまになっている猿のような男の姿があった。


「……誰だお前は!!」

「ええ、見て分からない?これ」

男が自分の服を指さす。椿はそれをまじまじと見た。しばらくしてあっと声を漏らす。


「雄猿……!!」

雄猿にしてはあまりにも傷も汚れもなく、きちんと着こなされている制服なので気付かなかったが、真っ青なブレザー、猿のマークが入った校章は紛れもなく雄猿のものだった。


「昨日ぶり?まあでも僕らは対面してないもんね」

「おっまえ……不法侵入!!だぞ!!」

「あはは、大丈夫。今授業中でしょ?誰も見ないって。それに僕逃げ足早いし」

「非常識だ!」

「君が言う?」

「……まあいい。なんのつもりだ。宣戦布告か?それともスパイか」

「スパイだったら自分の正体教えてちゃ意味ないでしょ。ま、どっちも違う」


男子は一本下の枝へ飛び移り、体勢を正常に戻した。背丈は椿より少し高いくらいか。すこしぼさっとしたの髪の毛に、少年のような顔立ちをしていた。

「雄猿としてじゃなく、僕個人として、君と話したくて来たの」

椿は頭の上にはてなを浮かべる。


「一応僕も疾風の鳶の一員ではあるけど、あんまり干渉してないっていうか。僕強いから、餅男に従わなくても大丈夫なんだよねえ」

餅男とは、餅助のことだろうか。とにかくすごい自信だ。椿には弱者の戦わない口実にしか思えなかった。


「喧嘩で制服ボロボロにしちゃうとか、ほんと滅茶苦茶。あいつらは効率の悪い殴り方しかできないんだよね。でも女の子相手にメリケンサックは流石に引いたなあ。あれは男として終わってる」

メリケンサックとは、メレンゲサックのことだろう。こいつも所詮は馬鹿。自分より知能の低い男に対し、椿は余裕の笑みを浮かべた。


「で、本題ね。椿ちゃんは白薔薇の生徒会長と仲良いの?」

椿ちゃん。慣れない呼び名に驚いたが聞かなかったことにして返答した。

「仲良くねーよ。あたしも白樺の考えることはよくわからん」

ふうん?と男が首を傾げる。

「君との会話、どうしても単なる知り合いには見えなかったんだけど。なんか、幼馴染、みたいな」

椿はぎくっとする。

「んんんんなわけないだろ!!向かいの学校の会長と番長ってだけだよ!」

「ムキになってるー。めっちゃあやしいけどまあいいや。まさか白薔薇が向日葵を助けるなんて、大層なもんだと思ってね」

「何が言いたい」

男はふふんと笑みを浮かべた。


「その理由、僕は白薔薇の生徒会長と君にあるとおもってる。まさか真逆の君たちが仲良しだなんてね。面白い!ってことで、君に興味があるんだ」

「ハア?」

椿は意味がわからないという表情で男を見た。


「てなわけで、椿ちゃん、僕と友達にならない?」

「ハアア!?」

さっきよりも大きい声が出た。


「お前、アタマ狂ってんのか!」

昨日あんなことをしてきた雄猿と手を組めと?どうかしている。

「やだなあ、仲良くしようっていってるだけじゃない」

「雄猿の思惑どおりにはさせんぞ」

「だあから雄猿は関係ないって。僕個人の提案」

「なにが目的だ雄猿の犬め」

「もうほんと、考え一方通行なんだから。僕は椿ちゃんに興味があるから、椿ちゃんと友達になりたいの」

「そうして向日葵の情報をかき集める気だろ……!!思惑がスケスケだぞ」

「それ言うなら透けて見える、でしょ。別にそんなつもりないし、第一向日葵がそんなに価値のある話してると思えない」

「なっ……!さりげなく馬鹿にしたろ!雄猿の分際で!」

「それに向日葵のこと話さなければいいじゃん。椿ちゃんのマイブームとか、特技とか、朝ご飯の話をすればいいでしょ。ただのお喋りでいいんだって。ね?僕を話相手の妖精とでも思って」

「そんなものはいらん。あたしはそんな淋しい人間じゃない!」

男ははあ、とため息をついた。


「ほんと、気軽な付き合いでいいんだけどなー。ま、そういうことだから。仲良くしてね!」

男はひょいと体制を変え、椿に背を向けた。

「どうしてそうなる!!あたしはなんも言ってねーぞ!!」

「もうめんどくさくなってきたから僕行くね。そういや友達って気づいたらなってるもんだもんね」

「おい話聞け!!」

「というわけで、これからよろしくー。じゃね、椿ちゃん」

「ちょ、待て!名前くらい名乗れよ!」

男が振り返る。


「あ、まだだったっけ。ごめん、僕のことは、そうだね……」

男は悪戯っぽく笑った。


「スルメ、とでも呼んでもらおうかな。じゃ!!」


そういってスルメは木から姿を消した。椿は窓から身を乗り出したが、スルメの姿はもう見えない。たしかに身体能力はかなり良いようだ。


「く、くればやしさん、ちち、ちょっとしずか、に……!」

教室から震えた教師が顔を出す。

椿の頭の中ではイカの干物が泳いでした。


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