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女番長はインテリに屈しない!  作者: 温泉の素
7/10

来襲!雄猿学園 その3

とさっ……。

ボロボロな椿の体は、地面にはつかなかった。

彼女を抱える人物がいたからである。


「メレンゲで気絶するわけないだろ」

白薔薇学園生徒会長、白樺静流だった。


「な、白薔薇……?!エリート坊ちゃまたちが、なんでここに……」

餅助は困惑しながら辺りを見回している。

そのとき、椿は意識を取り戻した。


「……えっ?はっ?白樺?」

「椿、大丈夫?派手にやられたね」

「え、いや、でもなんで、白」

「そりゃ目の前でこんな大騒動あったら目そらすわけにいかないだろ。しかも大男たちが女の子相手に本気出してるんだよ」

「だ、だけど……」

「いいよ、椿は休んで。早くこの騒ぎを終わらせよう」


でも、と椿は思う。白薔薇は学力だと無敵だが、暴力では到底雄猿に及ばないはずだ。

なにせ喧嘩とは無縁のお坊ちゃまたちなのだから。

「こいつら、かなり強いぞ」

「知ってる。だからハンデがあれば、問題ない」

そういって静流はポケットから何かを出した。つややかな黒いボディ。線の先の青白い光。


「チャッカマン……」

「スタンガンね」

静流は椿をそっと床に寝かせると、一瞬で姿を消した。


そういえば、静流は小学生のころ武道をならっていた。たしか、空手だったかな。可愛らしい顔には似つかないほどの才能を発揮し、教室ではトップだったという話を聞いたのを思い出した。

中学以降、椿はあまり静流を知らない。もしかしたら、向こうでも空手は続けていたのかもしれない。

バチバチバチィという電気の音、何かが地面に突き付けられた音。それは椿の目の前だけでなく、至るところから聞こえていた。


そんな。

白薔薇が、向日葵を助けるなんて。


10分ほど経ったか。あたりに静寂が訪れた。砂埃がはけていき、情景がいっきに鮮明になる。

そこには凜と立つ白薔薇の生徒と、無残に横たわる雄猿の生徒がいた。

向日葵の生徒たちはどうやら校舎に近い安全な場所に避難していたようだった。いや、もしかしたら白薔薇の男たちが運んでくれたのかもしれない。

椿はその光景を、目を丸くして見ていた。


「間抜けな顔だね、椿」

そんな椿の顔を静流がのぞき込む。

「とりあえず、病院に行きなよ。少し休めば、君ならその足でここから10分の病院に行けるだろ。俺はこの後片付けをしなくちゃ」

そう述べる静流の体には傷ひとつなかった。


そんな二人の姿を、木の上から見下ろす影があった。

「ふうん、女番長とエリート生徒会長、ねえ」

影は悪戯っぽく笑い、その場を去って行った。


翌日。椿は烈火の屋敷で体を休ませていた。普通の人より回復は早いほうだと自負しているが、さすがに負った怪我が大きすぎた。体中に包帯が巻かれている。

ちなみに百合絵と翠は欠席。そりゃああそうだ、あんな怪我の翌日は休むのが普通だ。

椿が怪我の部位を撫でていると、ガラッと屋敷の門があいた。誰だろう。翠がやっぱり登校してきたのだろうか。

次の瞬間、椿はおもわずげえっと声を出した。


「なんだ、助けてあげたのにその反応はないだろ」

静流だった。


椿はあまり静流に会いたくなかった。それは昨日、向日葵は宿敵白薔薇に助けられたからである。彼らが来なければ、向日葵は再起不能になっていたかもしれない。だけど宿敵に礼を言うのもどこか気が引けて、どんな顔をしたらいいかわからないのだ。


「怪我、大丈夫?今日くらい家で休んでもいいのに」

「別にいいだろ」

椿には、喧嘩の翌日番長が学園を欠席しては、みんなを不安にさせるのではないかという考えがあった。やはり頂点に君臨するもの、弱っていてはいけないのである。


「つーかお前、なんで向日葵に入ってきてんだよ」

「用があるってここの教師に言ったら入れて貰えたよ」

馬鹿高校の教師たちにとって、名門学校の生徒会長は逆らえない存在のだろう。昨日の騒動についても教師側が知らないわけがなく、白薔薇が事態を治めたと考えれば頭が上がらないのかもしれない。


「あれからどうなった。雄猿のやつらは」

「家に帰したよ。勿論白薔薇の名誉は金の力でどうにでもなるから」

「別に、白薔薇のことは心配してない」

「でもすごいよね、烈火の薔薇って全く武器という武器持ってないんだもの。俺たちなんてスタンガンに金属バット、ヌンチャクに弓矢だよ。剣道部は竹刀も持ってたかなあ」


「……白樺、空手やってたよな。中学も続けてたのか?」

滅多にない質問に、静流は目を丸くした。


「やってたよ。といっても、受験シーズン入る前までだけど」

椿はどこかほっとするのを感じた。そんな姿を見て静流は優しく笑う。


「ねえ椿、抱きしめてもいい?」


衝撃の発言に椿はすごい勢いでせき込んだ。


「ごめん、幻聴が」

「現実だよ。俺、椿を抱きしめたいんだけど」


何故だ。訳が分からない。


「やっぱお前昨日の騒動で頭打ったんじゃねえの」

「いや、いたって正気……。まあいいや。頭打ってるんでもいいから、抱きしめていい?」


静流の美しい顔が迫ってくる。駄目だ、室内でもこいつの金髪は電気が反射して眩しい。


「いいわけなッ」

次の瞬間、椿は暖かくて大きい静流の体に包まれる。


「もうほんと、焦ったんだから……」


静流がボソッと言った。


「ん、なんか言ったか?」

「ううん、何も」

静流は数秒間して体を離した。


「椿、白薔薇と向日葵のことなんだけどさ」

「お、おう」

「やっぱり俺と手組む気、ない?」


椿は顔をしかめた。こんな迷惑をかけたあとで?向日葵はまだしも白薔薇はごめんだろう。

「向日葵は白薔薇に対して多少なりとも好感度が上がってる。白薔薇は俺がなんとかするから、やるなら今だと思うんだ」

「え、でも、なんとかって」

「駄目だったらその時はまた考える。だけど俺がやりたいんだ」

椿は更に眉間に皺を寄せる。前から思っていたが、この話に静流が積極的なのは何故なのだろう。


「どうしてお前がやりたいんだよ」

「俺は白薔薇と向日葵が仲良くなったほうがいいと思ってる。それだけだ」

椿は笑ってもいられなかった。おそらく、今回白薔薇の生徒たちを集めて向日葵を救おうとしたのは静流の考えだ。あの白薔薇のことだ、かなり説得に時間を要したに違いない。そんな彼の言葉を簡単に聞き捨てるわけにはいかない。


「向日葵で反対する人もいるだろう。そしたら、俺に提案されたことを昨日の件で断れなかった、と言えばいい。そしたらみんな理解するさ」

椿は暫くうなってから、頷いた。


「……わかった。お前の提案、呑もうじゃないか」


静流はありがとう、と笑った。


「しっかしまあ、手を組むっつってもなにすんだよ」

「厳密にいえば交流を頻繁に行う。白薔薇と向日葵の合同企画を開催するんだ」

「合同企画……?」


「俺が考えたのはこれだ。10月、合同文化祭を行いたい」


「合同文化祭?!」

 思ったよりも大イベントで驚いた。


「そう。向日葵ってその時期なにかイベントある?」


白薔薇の学園祭と言えば日本トップ5に入るというほど有名な文化祭で、豪華な装飾、完成度の高い企画で学園ならぬ白薔薇テーマパークと呼ばれる。日本中の人々がその光景を一目見に集まり、入場制限が設けられ門には長蛇の列ができるという。

一方、向日葵と言えばいつのまにか文化祭という行事は消え去っていた。本来はあったのかもしれない。しかしながら向日葵の生徒はまったく時間を守って動かず、言う事を聞かないため文化祭どころか体育祭や送別会などありとあらゆる行事が消え去っていた。


「無理だ、価値観が違いすぎる」

「大丈夫、大事なのは白薔薇と向日葵の交流。いろんな準備を共に行うことで関りを深めればいい。どうしても無理そうだったら開催を諦めよう」

つまり、ダメもとでやれ、と。椿はうなった。


「まず君と烈火の薔薇の数人だけでいい。このことについて白薔薇生徒会と話し合って準備しよう」

烈火の薔薇と白薔薇の生徒会が話し合う……?!そんなことが実現するのだろうか。椿や翠ならまだしも、百合絵は必ず銃を構える。それは白薔薇の雪村もまた同じだろう。


「やっぱり無理じゃないか?」

「ものは試しだよ。明日の放課後、白薔薇の生徒会に来て。白薔薇の生徒達には話しておくから。勿論、誰を連れてきてもいいよ。椿だけでも構わない」

椿は即座にいきたくねえ、と思った。


「そろそろ時間かな、白薔薇に戻るよ」

そういって静流は立ち上がる。

「まッ……」

「明日、待ってるから」

そう残して静流は去っていった。

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