再会
まだ回想です。
静流の存在を知ったのは2年の秋。椿が烈火の薔薇団の番長となり、名を轟かせて少ししたあとである。
向日葵に白薔薇の生徒が突撃してきたのである。
白薔薇の生徒会長だという男は、烈火の薔薇団団長を呼び出した。
「何用だ、白薔薇!あたしが向日葵学園烈火の薔薇団団長の紅林椿だ!!」
「椿……、やっぱり椿なのか?!」
整った顔立ちにモデルのような容姿、清涼感のある透き通った声。こんなイケメンは知らない。
「頭でも打ったか?あたしとお前が知り合いな筈は99.9%ない。あるとしたら見間違えだ!帰れ!!」
「待って!俺だよ、覚えてない?静流!!白樺静流!!」
……静流?
忘れたことはない。幼いころはよく一緒に遊んで、手紙を交わしていた人物。だがしかしいやしかしそんな静流が白薔薇の制服を着てここにいるはずがない。
「どこでその名を知ったのか知らんが知人の名を出すとは卑怯なやつめ!あたしは騙されないぞ!」
よくよく見るとその顔つきはたしかに静流を彷彿させるものがあった。だがそれを認めたくないのも本心で、椿は白薔薇の生徒会長を追っ払おうとした。
「待って椿!」
無理矢理追い返そうとする椿を、静流は足を引っかけて体制を崩させ、そのまま地面に押し倒す。椿の正面には、静流のきれいに整った顔立ちがあった。
「な……」
「ねえ椿、よく見て」
澄んだ瞳がこちらをじっと見つめている。
「覚えてるよね?俺は白樺静流」
……これがイケメンパワーか。こんな至近距離で言われると黙るしかなくなる。
「椿は嬉しくないの……?俺はずっと君にあいたかッ――」
「椿様!!」
次の瞬間、静流は外部から非常に激しい飛び蹴りを食らい、そのまま吹っ飛んだ。会長!!と白薔薇の生徒たちが寄っていくのが見える。
「お怪我はありませんか椿様!おのれ白薔薇、汚らわしいことこの上ない!!許しませんわ!!お覚悟!!」
自分を庇うようにツインテールの生徒が立つ。椿ははっとした。
「まて百合絵。今日のところは退かせてやろう」
「でもっ、敵を討たねばこの百合絵気分が晴れませんわっ!」
「なに、さっきのはボス同士の会話をしてただけだ。だが百合絵、ありがとな。白薔薇のペースに押されていたから助かった」
「あら、そうでしたの。……まあ先程の蹴りで十分痛い目は見たでしょうしね。椿様が言うなら、見逃してやりますわ。だけど白薔薇、次はただでは済まされなくってよ」
当時烈火の薔薇団1年だった桃井百合絵は可愛らしい見た目にしてかなりのキックの腕を持つ。小学生の頃キックボクシングで全国大会までいったんだとか。静流は脇を抱えながら、白薔薇の生徒たちに支えられて学園に戻っていった。
その日、椿は小学生時代の写真を見返していた。自分と楽しそうに笑う静流が写っている。たしかに、見れば見るほど静流は白薔薇の生徒会長に似ていた。当時の自分にはそういった見方はなかったので気づかなかったが、幼少期の彼もなかなかの美貌の持ち主である。
「白薔薇の、生徒会長か……」
白薔薇と向日葵に直接的な関りはない。しかしながら、彼らはよく向日葵を侮蔑する。下校中、ふと鉢合わせする向日葵の生徒を聞こえる声で馬鹿にしたり、あざ笑ったりするなど、良い印象はなかった。そういうわけで蝶ノ丘とは反対に、向日葵は全ての生徒が白薔薇を嫌っているのである。
でも、と椿は思う。静流が白薔薇の生徒会長だったとしても、以前のように仲良くなることはないだろう。そもそも静流は手紙の返事をくれなかった。きっと椿のことは久しぶりに会った知り合いとしか思っておらず、本人も仲良くしようといった気持ちはないだろう。少し寂しいような気もしたが、幼馴染の白樺静流はもう捨てた過去なのだ、と割り切った。
どうせもう会うこともない。椿はアルバムをそっとしまった。
しかしながら、静流は次の日もその次の日も向日葵にやってきた。
無茶をするな、危ない、暴れるな、大人しくしてろ、そういった説教の繰り返しである。幼馴染をいいことに白薔薇の思い通りに動かすつもりだろうか。そうはいかない。椿は負けじと反抗を繰り返した。
こうして向日葵の番長紅林椿と白薔薇の生徒会長白樺静流は犬猿の仲として向日葵の校内中に広まり、静流は向日葵にその名を轟かせた。いまでは白薔薇は完全なる敵の城である。
「そんなやつらに協力なんて頼むかよ」
椿はベッドの上に寝転がり、天井を眺める。
それならそれで、自分たちで対策を打っていかねばならない。だが教師とまともに話せそうにもないし、そもそもことの発端は白薔薇が握っている。
「……詳細だけでも、聞いてみないとか」
椿はベッドから起き上がり、リビングに向かった。