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女番長はインテリに屈しない!  作者: 温泉の素
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幼馴染の手紙

椿と静流の過去についてです。

椿は体育館ならぬ「烈火の屋敷」で床に突っ伏していた。翠に「汚いわよ」と言われる。


「廃校かあ……どうすればいいんだよ、あたしは」

「とりあえず詳しい話を聞いてみたらいいんじゃない」

「白樺にか!!」

「別に彼じゃなくても、教師とかでいいじゃない」


なるほど。でも、と椿がうなる。聞けるなら聞きたいのだが、この学園の教師は椿を怖がっているようで、話しかけても「忙しい」とやらですぐ逃げていってしまうのである。そんな中きちんと話が聞けるとは思えない。


「そういえば、前から思っていたのだけど」


翠がパイプ椅子の上で足を組む。


「椿って、白樺ともともと知り合いだったりした?」


椿はギクッとして、すぐに苦笑いを浮かべた。


「まさか!白樺が一方的に説教しにきてるだけだぜ」


こうして静流が向日葵の前を訪れるのは初めてではない。蝶ノ丘の視線にさらされながらも、パトロール帰りの椿を捕まえては何かと叱ったりするのである。


「なんだか、二人の会話見てるとお互いの事良く知ってるような感じがするのよね。白樺もおせっかいすぎると思うし、なにしろ名前で呼んでるじゃない、つばきって」


鋭い。普段は馬鹿なのに、翠はこういうとこだけ優れている。おそらく、彼女が愛読している何冊もの恋愛小説がそういった知識や見方を与えているのだろう。


「違えよ。白樺もあたしも、お互いにとってただの邪魔者。これ以上関わろうなんてめっそーもない」

「あらそうなの。まあそうよね犬猿の仲だしね」


椿には犬猿の意味がわからなかったが、とりあえずうなずいておいた。


「そういえば、樺たちは報告だけじゃなく提案をしにきたんじゃなかった?」


翠は髪を指にくるくると巻き付けながら言う。これは彼女が何かを考えているときに出る癖である。


「廃校っていう提案か?ますます趣味悪いな」

「いや、さすがにそれはないと思うけど……。廃校を踏まえての提案とか?もしかして、廃校阻止に向けて何か手があるとか」


椿は唇を噛んだ。


「白薔薇の手など一切借りん」

「まあ椿ならそう言うと思っていたけど」


翠はわかっていたようにうなずいた。


「そんなことしなくたって、あたしらの力で廃校を防いでやる。見てろよ白薔薇!!あんたらの思い通りにはさせねえからな!!」


とは言ったものの。教師をたずねようとしてやはり逃げられ、廃校の理由も詳細もわからぬまま悶々として一日を終えた。これでは防ぐどころの話ではない。

椿はどうしよう、と思考を巡らせる。白樺に聞くか。いや、それはだめだ。あっちは向日葵を廃校に追いやった張本人だ。敵に手のひら見せては仕方がない。


午後7時。あたりは暗く、ポツリと立っている電灯が微かな光で道を照らしてくれる。椿の家は向日葵から徒歩30分、雑草町の端にあった。町で栄えているのは白薔薇の通学路くらいなもので、坂を下りれば簡素な住宅街や畑が並んでいる、ただの田舎である。


椿は家に着くなり、ほどほどな力で玄関を開けた。


「ただいま」

「椿ちゃんおかえりぃ!!ご飯できてるわよぉー?」


鋼の拳を持つヤンキー娘の両親はコワモテなのにいつも明るく穏やかである。いや、穏やかすぎるのである。娘がどんなにボロボロな格好で帰ってきても言及せず、どう睨まれようがいつもニコニコ笑顔を浮かべている。数回椿の暴力沙汰で学園に呼び出されたが、「わるい人たちをこらしめてるんだからいいんじゃないですかねぇ」と教師もびっくりな返答をしたらしい。

椿も反抗期というのは経験したことがあるが、この両親の前では、何も通用しなかったのを覚えている。ある意味最強の夫婦だ。


椿は自分の部屋に入り、制服からラフなパーカーとジーンズに着替えた。鞄を机の上において、たまたま引き出しに目がいく。

この引き出しの中には、「紅林椿様」と書かれた手紙が何枚も入っている。


白樺静流は、椿の幼馴染だ。もともと椿の家の向かいに住んでいた。


そのとき白樺家はまだ大金持ちのお屋敷ではなく、平凡な一般家庭だった。静流自身もエリート王子様なんかではなく、いたって普通の、それか少し美形の小学生だった。

椿と静流はよく遊んだ。周りから茶化されることもあったが、いつも学校では行動をともにし、お互いの家を行き来する仲だった。


しかし、ある日静流の家は大金持ちになった。もともと静流の父はIT企業の社長だったのだが、そこで開発したプログラムがバカ売れし、一気に大手企業へと進化したのである。

静流は父の会社を継ぐため、エリートのレールを走ることになった。

もともと自頭は悪いほうではなく器用な少年だったが、名門中学へ通うため猛勉強を始め、高学年からは椿と遊ぶことはなくなった。

そうしていつのまにか卒業が訪れ、静流は遠い名門中学へ進学し、加えてその近くに引っ越すことになった。公立中学に進学した椿が気付いたころには、もう静流はいなかった。


しかし中学一年生の秋、静流から手紙が届いた。

久しぶり、元気だった?という手紙。椿は一目散に返事を書いた。

それからというもの、二人は文通を続けた。椿は学校で起こったこと、家族の話、最近読んだ漫画の話。静流は椿を懐かしみ、会いたいという話。主に静流が忙しく実際に会うことはかなわなかったが、椿は文通だけで充分だった。

この引き出しに入った何通もの手紙はそんな静流から送られてきたものである。


だがある日、静流からの手紙がぱたりと来なくなった。

忙しいのだと思った。椿は負けじと手紙を送り続けたが、半年、一年経っても返事が来ることはなかった。高校に上がる頃に椿は手紙を書くのをやめた。白樺静流という過去は捨てることにしたのだった。


しかし、椿は静流と再会した。

思いもよらぬ形で。

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