真、料理をする
料理は苦手だ。味付けなど塩と胡椒があれば良いのだ。
「美しくありませんですわね。料理は芸術ですわ」
「美味しい食事は芸術なのー」
「食事とは、観て、音で、味で楽しむものですわ」
いつの間にかエプロン姿なふたりが、まな板の上にいる。
「今しがた全身を洗い尽くしてきましたので、肌の艶もうるるんですわ」
「身も心もさっぱりー」
ドールハウスに風呂はなかったはずだが。
まあいい、まな板の上にいてもゆるされるくらい清潔だと言いたのだろう。
「さ、まずはキャベツを思い切ってちぎりましょう」
この素晴らしく切れ味のいい包丁の出番はいつだろうか。
ともあれ、キャベツを水洗いして、葉を剥ぎ取り、適当な大きさに裂いていく。
昔、とんかつにはキャベツの千切りだと主張したら面倒だからご自分でと突き返されてキャベツをちぎったことがあったな。
「食材の形は大事ですが、味わい方次第で、化けるものですわ」
「よいっしょー、よいっしょー」
ビーちゃんのちぎった葉は、米粒よりも小さいな。
「これ、たべてー」
ビーちゃんがひたすらキャベツを、細かく細かく、ちぎっている。
私が食べる量になるまで、あと何時間かかるだろうか。
もしかしたら、待っている時間も料理なのかもしれないと思い始めた。