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月夜の代行者  作者: うた
第二章
86/330

86 薄っぺらい言葉

「ターエーちゃん」


 涼香と稔明と別れて帰宅途中。河原から離れた道を歩いていたのに、紗楽がいた。ふわふわ漂いながら、にこにこ笑ってこちらに来る。

(もうすぐ結界に入る所だったのに……)

 高龗神が花村家の周りに張ってくれた結界だ。紗楽は入れないので、結界の前にいたらしい。


「昨夜はお疲れ様でした」

「紗楽はここにいたの?」

「京都市内に大きな結界が張られてましたからねぇ。行ける所までは行きました。遠くからタエちゃんを応援していましたよ。ご無事で何よりです」

 薄っぺらい言葉。全く心がこもっていない。タエはとりあえず返事をする。

「ありがとね」

「おんや? 元気がありませんねぇ」

「そう?」

「失恋したとか?」

「……」

 この男、どこかから見ていたのだろうか。

「何言ってんの。お腹が空いて元気がないの。だから家に帰る所」

 適当に流して、結界に入ろうとした。

「そうですか」

 紗楽は顔に貼り付いている笑みを深くして、タエの前にするりと回り込む。

「相手が欲しいなら、あたしがなってあげましょうか?」

「は?」

 紗楽の細く長い指が、タエの頬を撫でた。すり抜け触れられるはずがないのに、タエはぞくりと背中が冷たくなる。

「冗談やめてよ。あんたは幽霊やろ? 私はまだ生きてるんで、お断りします」

「おやおや、残念」

「じゃあね」


 最後はおどけて肩をすくめていたので、タエは深い意味はなかったと思い直し、笑顔を見せて爽やかに別れを告げた。結界に入り、家に向かう。


 その姿を見送り、紗楽はキセルを取り出した。

「本当、残念ですね」

 灰色にくすんだ煙が空に消えていった。


読んでいただき、ありがとうございました!

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