表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月夜の代行者  作者: うた
第二章
74/330

74 約束

 タエは仰向けになり、潰される事に少しでも抵抗しようと、目を瞑り、腕と足を曲げて丸くなっていた。

「……?」

 あの大きな足の重みが来ない。タエが目を開けると、信じられない光景が目の前にあった。

「く、黒鉄さん!?」

「……っく……」

 タエに覆いかぶさるようにして、黒鉄は腕を突っ張り、背中で叉濁丸の足が下ろされるのを防いでいた。

 黒鉄は稔明と涼香をホテルの屋上に下ろすと、そのままタエとハナの元へ飛んできていたのだ。二人が叩き落とされ、巨大な足がタエの上に落ちてくる。寸での所で、黒鉄はタエの上に滑り込んだ。

「晶華!」

 晶華を立て、押し上げようと力を籠める。しかし、砂の足にずぶずぶと晶華も埋もれていってしまう。

「黒鉄さん、早くここから出てください!」

「なら、お前から出ろ」

 ずしっとまた押される。黒鉄の腕は震えていた。支えるので精一杯なのだ。タエは身動きをしてみたが、地面にめりこんでいるので横に動けない。

(こんな所で死ぬつもりはない。諦めない。でも、どうすれば――)

 晶華も砂に埋もれている。タエは焦りながらも、必死に思考を巡らせる。黒鉄の腕と背中の骨がミシミシと、怖い音を上げていた。

「晶華、大きくなって! もっと、もっと!!」

 力を籠められるだけ籠め、晶華をどんどん巨大化させる。押し上げられないのなら、晶華を叉濁丸の中で貫通させ、バラバラにしてしまおうと考えたのだ。

「黒鉄さん、早く逃げて!」

 叉濁丸はなおも足に体重をかけてくる。その重みに、黒鉄は声を上げた。

「あぁっぐ!」

「骨が砕けます! 私は何とかなりますから、早く――」

「お前が潰れるだろうが……。黙ってろ」

 苦し気な彼の声。タエは必死に晶華に念じた。

「晶華、水を」

「やめろ。今奴の体を砕けば、生き埋めになる。……死ぬぞ」

「じゃあ、どうすれば!」

「心配するな。お前は……守ってやる」

「くろがねさ――」

「あいつと、約束したのだ……」

 必死の形相の中、目に宿っているのは、諦めていない強い光。タエは何の事か、分からない。

(あいつ? 約束って、何?)

 しかし、今はこの状況を何とかするのが先だ。タエはどうすればいいのか結論が出なかった。



 みしっ。



「!」

 タエの真下から音がした。叉濁丸が起こした音ではない。地中から、何かがせり上がって来る。

「来た」

 黒鉄がホッとした声を出した。すると、タエと黒鉄の周りから、一斉に木の幹が生えてきたのだ。幹は叉濁丸の足を押し上げ、体に巻き付き、動きを封じる。

「行くぞ!」

 黒鉄がタエを抱き上げた。その瞬間、眩しい光がタエの目をくらませる。何だと思った次の瞬間には、タエの体はとても軽くなっていた。そして気付く、一つの変化。



「え? 何、コレ……」



 タエは宙に浮いていた。ばさりと羽の音がしているので、黒鉄が助けてくれたのだと分かるが、彼の姿がどこにもない。背中越しに後ろを見て度肝を抜かれる。黒く大きな翼が、タエの背中から生えていたのだ。

「く、黒鉄さん、どこ!?」

 よくよく観察すると、肩から胸にかけて黒い防具がタエの体に装着されている。その背中から羽が出ている形だ。

「力を貸せと言っただろう」

 防具の中から声が聞こえた。黒鉄は、タエが飛べるように変化したのだ。

「まだ戦えるな?」

「はい。でも、いいんですか? 山を守らなくても……」

「父上は山が一番と言ったが、戦わないとは言っていない」

「え?」


「精霊達の避難と、山の結界は完了した。昔やられた借りを返してやるわ!!」


 大きな声がしたので見てみれば、双風道が一族と共にこちらに向かってくる。タエはその雄々しい姿に鳥肌が立つ思いだった。幹を出して救ってくれたのは、鴉天狗だったのだ。木の属性の彼らは、木を生やし、どんどん叉濁丸を締め上げる。

「代行者、お前の封印術が頼りだ。いつでもいけるよう準備しておけ。者共っ、手加減無用! 叩き潰せぇ!!」

「おおっ!!」

 鴉天狗の声が辺りに響く。それはとても頼もしい響きだった。

 タエも晶華を握りしめた。

「俺達も忘れんなよ」

「っ君は!」

 タエの鍛錬に協力してくれた、車輪を背中に背負っている妖怪が側に来てくれたのだ。彼だけではない。鴉天狗と一緒に、様々な妖怪達がいる。


「大事なモンは、自分で守る。遅れて悪かったな」


 タエは泣きそうだった。こんなに力を合わせて戦ってくれる仲間がいた事に、感動しているのだ。

「お姉ちゃん、皆で勝とう!」

 ハナも回復した。木に縛り上げられている叉濁丸は、砂となり、木から逃れた。それを捕まえて離さない木が一本ある。

「戦っているのは、ここにいる者だけではない。安倍の後継ぎも、お前の力になろうとしている」

「安倍くんが!?」

 ツルのようにしなり、叉濁丸の足に絡みつく木を操っているのは、稔明だった。


「体がでかすぎて、動きを抑える事しか出来ないな……」


 他に何か方法はないだろうかと、稔明も必死に頭をフル回転させていた。



「この羽は、お前の思うままに動く。思い切り飛べ、戦え!」

「はい!」



 全員で勝ってみせると、タエ達の気持ちは一つになった。


読んでいただき、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ