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月夜の代行者  作者: うた
第二章
63/330

63 報告会①

「ちょっと聞いてよっっ!!」

 肝試しの翌日。涼香がタエの家に乗り込んできた。興奮冷めやらぬと言った所で、いつも冷静な彼女がハイテンションだ。

 タエは部屋に彼女を入れ、テーブルにお茶とお菓子を置いて座る。それで? と促すと、涼香はお茶をぐびっと飲んで意気込んだ。


「あのね、昨日の肝試し、試す前に大変な事になったんよ」

「どんな事?」

「ウソちゃうよ。驚かんといてよ。……本物が出た」

「ほんもの?」

 笑ってしまいそうになったので、タエはお茶を飲んで誤魔化した。涼香は真剣そのものだ。

「幽霊! クラスの子じゃない誰かが、肩をたたいたり、髪の毛引っ張ったり、皆逃げ帰っちゃって」

(ごめん。その犯人、私だわ)

 うんうんと頷きながら、ポテチを数枚一度に頬張る。

「タエの言う通り、神様の前で悪ふざけはあかんかったよ」

 肝試しの誘いを断る時、タエは彼女にそう返事を書いていた。

「それからさ、タエ、安倍くんに連絡してたんやね」

「ああ。私は夜一人で出歩けへんから、頼んだんよ。涼香ちゃんが心配やったから」

「ありがと。おかげで、良い事あった」

 涼香の頬がぽっと赤くなる。突然、女の顔になったので、タエは驚いた。目を丸くする。

「何があったの?」

 邪魔をしちゃいけないと、見送るだけにしたタエ。その後の事も聞けるのだろうか。


「聞きたい? 聞きたい!? タエにしか話さへんのやからねっっ」

 どうやら話したいらしい。


「私は見えなかったけど、皆が帰った後、何かが私達に襲ってきたの!」

(あのヤモリの妖怪か)

 でかくてつるつるして、厄介な奴だったと思い出す。

「そしたら、安倍くんが守ってくれて! 衝撃とか、すごかったんやから!!」

 身振り手振りで話してくれる。

「内緒にしてるんやけど、安倍くん家、陰陽師の家系で幽霊とか妖怪とかを退治する仕事をするんだって。あの晴明神社の神主をしてるって。結界とかホントに張るんやよ!!」

「内緒にしてるのに、私に話して良いの?」

「だから、タエにしか話さないって言ったやろ? 安倍くんも、タエになら良いよって了解取ってるし」

(まぁ、知ってるしね)

 ずずず、お茶がなくなってしまった。

「襲ってきた相手は見えへんかったけど、怖かったよ。そしたら、『ちゃんと守るから』って! 守るからって!! はぁ、……かっこよかった」

「二回言ったね」

 上がり過ぎたテンションがMAXを越えたらしい。テーブルにへちょりとうなだれてしまった。タエは涼香の言葉を聞き逃してはいない。

「かっこよかった? 安倍くんが?」

 こくり。頷く涼香。それを確認して、タエはガッツポーズだ。

「眼鏡取った顔がイケてるって言ってた子ら、正しかったわ。思い出しただけで、顔が熱い」

 今度は大の字で仰向けに倒れる始末。タエは肘を着いて頬を乗せ、にまにまと笑っている。

「それから? ちゃんと送ってもらったの?」

「うん。その時に家の事、教えてもらった」

「それだけ?」

「手は、……繋いだけど」

(がんばったなぁ、安倍)

 そうかそうかと聞くタエは、もはやお母さんのようだ。大分進展したようで、タエもホッとする。

「アドレスとか、ラインの交換は? もちろんしたよね?」

「……してない」

「え?」

 がばりと勢いよく起き上がる涼香。タエは少したじろいだ。

「それなのよっ! なんか緊張しててさ、私も何も考えられなくて、気付いたら自分の部屋にいたんよ。気付いたらバイバイしてたんよ!」

「安倍ぇ!」

 はぁー。タエから大きなため息が出た。最後の最後で、そこは決めなくてはいけないだろう。


「タエは連絡先知ってるんでしょ? どうしよう。タエに聞いていいの? どうしよう。私、お礼言ったかどうかも、よく覚えてない!」

 珍しく狼狽えている。こんな女子な感じで、かわいい涼香は初めて見たかもしれない。


 タエはうむ、と考えると、一つ提案した。

「連絡先交換は、自分でした方が良いよ。一回、二人で出かけてきたら?」

「えっ、それって」

「デート。夏休みだし」

 その響きに、涼香の顔が一瞬で真っ赤になった。ここまで初心だっただろうか。彼女はずっとその美貌故に、言い寄る男共が多く、あしらい方はよく知っていたが、自分からとなると初めてで、どうしていいか分からなくなるらしい。

(かぁわいいなぁ)

 タエは純粋にそう思っていた。

「日時と集合場所の連絡は、今回は私がするよ。涼香ちゃんが行きたい場所の方が、安倍くんもプランに迷わなくていいでしょ。その時に、ちゃんと二人で交換しな」

「おねがいします!!」



「ね、涼香ちゃん。安倍くんの事、好きになっちゃった?」

 一応、確認の為に聞いてみる。涼香は、顔を真っ赤にしながら、眉を寄せて困った表情をした。


「私を守ってくれた顔が、頭から離れない」


「そっか」



 微笑ましくて、タエまで嬉しくなった。


読んでいただき、ありがとうございました!

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