63 報告会①
「ちょっと聞いてよっっ!!」
肝試しの翌日。涼香がタエの家に乗り込んできた。興奮冷めやらぬと言った所で、いつも冷静な彼女がハイテンションだ。
タエは部屋に彼女を入れ、テーブルにお茶とお菓子を置いて座る。それで? と促すと、涼香はお茶をぐびっと飲んで意気込んだ。
「あのね、昨日の肝試し、試す前に大変な事になったんよ」
「どんな事?」
「ウソちゃうよ。驚かんといてよ。……本物が出た」
「ほんもの?」
笑ってしまいそうになったので、タエはお茶を飲んで誤魔化した。涼香は真剣そのものだ。
「幽霊! クラスの子じゃない誰かが、肩をたたいたり、髪の毛引っ張ったり、皆逃げ帰っちゃって」
(ごめん。その犯人、私だわ)
うんうんと頷きながら、ポテチを数枚一度に頬張る。
「タエの言う通り、神様の前で悪ふざけはあかんかったよ」
肝試しの誘いを断る時、タエは彼女にそう返事を書いていた。
「それからさ、タエ、安倍くんに連絡してたんやね」
「ああ。私は夜一人で出歩けへんから、頼んだんよ。涼香ちゃんが心配やったから」
「ありがと。おかげで、良い事あった」
涼香の頬がぽっと赤くなる。突然、女の顔になったので、タエは驚いた。目を丸くする。
「何があったの?」
邪魔をしちゃいけないと、見送るだけにしたタエ。その後の事も聞けるのだろうか。
「聞きたい? 聞きたい!? タエにしか話さへんのやからねっっ」
どうやら話したいらしい。
「私は見えなかったけど、皆が帰った後、何かが私達に襲ってきたの!」
(あのヤモリの妖怪か)
でかくてつるつるして、厄介な奴だったと思い出す。
「そしたら、安倍くんが守ってくれて! 衝撃とか、すごかったんやから!!」
身振り手振りで話してくれる。
「内緒にしてるんやけど、安倍くん家、陰陽師の家系で幽霊とか妖怪とかを退治する仕事をするんだって。あの晴明神社の神主をしてるって。結界とかホントに張るんやよ!!」
「内緒にしてるのに、私に話して良いの?」
「だから、タエにしか話さないって言ったやろ? 安倍くんも、タエになら良いよって了解取ってるし」
(まぁ、知ってるしね)
ずずず、お茶がなくなってしまった。
「襲ってきた相手は見えへんかったけど、怖かったよ。そしたら、『ちゃんと守るから』って! 守るからって!! はぁ、……かっこよかった」
「二回言ったね」
上がり過ぎたテンションがMAXを越えたらしい。テーブルにへちょりとうなだれてしまった。タエは涼香の言葉を聞き逃してはいない。
「かっこよかった? 安倍くんが?」
こくり。頷く涼香。それを確認して、タエはガッツポーズだ。
「眼鏡取った顔がイケてるって言ってた子ら、正しかったわ。思い出しただけで、顔が熱い」
今度は大の字で仰向けに倒れる始末。タエは肘を着いて頬を乗せ、にまにまと笑っている。
「それから? ちゃんと送ってもらったの?」
「うん。その時に家の事、教えてもらった」
「それだけ?」
「手は、……繋いだけど」
(がんばったなぁ、安倍)
そうかそうかと聞くタエは、もはやお母さんのようだ。大分進展したようで、タエもホッとする。
「アドレスとか、ラインの交換は? もちろんしたよね?」
「……してない」
「え?」
がばりと勢いよく起き上がる涼香。タエは少したじろいだ。
「それなのよっ! なんか緊張しててさ、私も何も考えられなくて、気付いたら自分の部屋にいたんよ。気付いたらバイバイしてたんよ!」
「安倍ぇ!」
はぁー。タエから大きなため息が出た。最後の最後で、そこは決めなくてはいけないだろう。
「タエは連絡先知ってるんでしょ? どうしよう。タエに聞いていいの? どうしよう。私、お礼言ったかどうかも、よく覚えてない!」
珍しく狼狽えている。こんな女子な感じで、かわいい涼香は初めて見たかもしれない。
タエはうむ、と考えると、一つ提案した。
「連絡先交換は、自分でした方が良いよ。一回、二人で出かけてきたら?」
「えっ、それって」
「デート。夏休みだし」
その響きに、涼香の顔が一瞬で真っ赤になった。ここまで初心だっただろうか。彼女はずっとその美貌故に、言い寄る男共が多く、あしらい方はよく知っていたが、自分からとなると初めてで、どうしていいか分からなくなるらしい。
(かぁわいいなぁ)
タエは純粋にそう思っていた。
「日時と集合場所の連絡は、今回は私がするよ。涼香ちゃんが行きたい場所の方が、安倍くんもプランに迷わなくていいでしょ。その時に、ちゃんと二人で交換しな」
「おねがいします!!」
「ね、涼香ちゃん。安倍くんの事、好きになっちゃった?」
一応、確認の為に聞いてみる。涼香は、顔を真っ赤にしながら、眉を寄せて困った表情をした。
「私を守ってくれた顔が、頭から離れない」
「そっか」
微笑ましくて、タエまで嬉しくなった。
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