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月夜の代行者  作者: うた
第二章
53/330

53 命を繋ぎとめる方法

 代行者の仕事をしている事が母にバレてから、数日経った。母は朝にタエが目を覚ますか心配で、しばらく部屋に様子を見に来ていたが、今は気持ちも落ち着いて普段通りに接してくれる。夜、仕事に行く時は見送ってくれるようにもなっていた。高龗神と相談し、母には護符と、神水が水晶に入ったネックレスのお守りを渡した。護符はタエの部屋に貼り、お守りは肌身離さず首から下げている。花村家一帯の結界も強化した。

 休日の昼間、タエは母と一緒に電車に乗って、貴船神社に参拝に行った。

「娘がお世話になってるのに、挨拶に行かなくてどうするの!」

 宮司は知らないのだと説明して、高龗神を祀る社を念入りに参る。本宮を参拝して結社、そして奥宮と来た。

「娘がお世話になっております。これからもどうぞ、よろしくお願い致します」

 手を合わせ、うんうん念を送っている母。それを高龗神が社から微笑ましく見ていた。タエはそれに気付く。奥宮は、本宮に比べるとこじんまりとしているが、タエの目にはその後ろの空間に、高龗神のいる聖域が見えていた。

「さすが、タエの母親じゃな。律儀じゃし、度胸が据わっておる」

 普通、幽霊や妖怪が見えるなど、怖くて耐えられるものではない。しかし、この母は、ハナが見えなくなるのが嫌だという理由だけで、耐える事にしたのだ。実際、人混みの中に混じる浮遊霊と目が合いそうになった時は、ダッシュで家まで帰って来ていた。ただ、良い事と言えば、見えるけれども近付いて来ないし、手を出して来ないという点。母は最近、普通の人とあの世の住人の区別がつくようになってきたらしく、スルースキルのレベルが上がっているらしい。

 高龗神は、タエが、ハナを一人にしたくないと言う理由で、代行者を引き受けたその威勢の良さは、母譲りだと確信を得ていた。

「あはは。恐れ入ります」

 社に向かって話し出したタエを見て、母は目を丸くした。

「お母さん!」

「ハナちゃん!!」

 社から飛び出して来たハナを見て、大声を上げてしまった母。周りには観光客や参拝客がいる。ちらりと見られた。後ろに参拝の順番待ちをしている人がいないので、まだ社の前にいる。

「来てくれてありがとう。高龗神様にも、ちゃんとお母さんの言葉は伝わってるし、喜んでるよ」

「本当!?」

 神様が人間に気安く姿や声を出すわけにはいかないので、ハナが代弁した。

「お姉ちゃんの事、納得してくれて感謝してる」

「親は心配するものだけど、タエちゃんが決めた事だからね。私は信じるだけよ」





「高様。代行者が消えかける時、助かる方法ってないんですか?」

「何じゃ、いきなり?」

 夜。聖域にて。タエは素朴な疑問を上司にぶつけてみた。

「私、絶対に死ねないんで、最悪の事態を回避できるものならしたいなって」

 タエの状況を分からないではない。ハナも側で聞いている。高龗神は腕組みをして、ふむ、と考えた。

「通常は、回復出来ない。代行者が致命傷を負って、消える時はわしの加護の力も及ばんからな。現地に助けに行くにも間に合わん。じゃから、どの代行者もそこから回復したという話は聞いた事がない」

 方法はないのかと、眉を寄せるタエ。しかし、と高龗神は続けた。

「理屈で考えれば、魂が消える前に魂を補ってやれば、助かる事も可能じゃろう」

「魂を、補う?」

「要は生命力じゃな。底を尽きかけている魂に、他の誰かの魂の力を注いでやるんじゃ。かなりの力を要するじゃろうから、与える方も覚悟がいる」

「それって、妖怪や幽霊の魂を入れるって事ですか?」

 首を横に振る高龗神。

「眷属の魂は特別でな。同じ代行者の魂でなければ無理じゃ。代行者は基本一人で動く。その為、回復に駆け付けられる代行者もいない。じゃから瀕死から助かった例は、一つもないんじゃ」

「そうなんですね……」

 理屈の上では方法がある。しかし、そんなうまいタイミングで、回復に力をくれる代行者がすぐ側にいるとは考えにくい。現実的ではなかった。

「お姉ちゃん、そんな事にならないように、強くなろう」

「うん」

「万が一は、私がいるから、大丈夫やよ」

「ダメっ! 危ない事はしたらあかん。負けなければいいんやもんね。変な事を聞いて、すみませんでした、高様」

「気にするな。二人なら大丈夫じゃ」



 今夜も、上司に見送られ、鳥居を抜ける。絶対に負けられない戦い。タエとハナは、迷う事無く刀と爪を振るった。


読んでいただき、ありがとうございました!

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