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月夜の代行者  作者: うた
第二章
46/330

46 特訓

「あ、結構柔らかい剣やね」

 体育祭、“侍無双さむらいむそう”の練習をすることになったタエ。放課後、タエ、稔明としあき、彼の友人である赤坂悠馬あかさかゆうまは、本番で使われる道具を借りた。他の色の出場者も同じく、練習を始めている。安全に配慮して、剣の長さは短めで、ウレタン素材。良い感じにしなる。両手で構えてみた。

「花村さん、絶対剣道経験者やろ?」

 赤坂がにやりとした。

「まぁ、ちょっとだけ、教えてもらった事があるくらい」

 曖昧にぼかして返事をした。

「俺、瞬殺される」

 稔明はひぃ、と今から怯えている。

「とっしー、早い目に終わっといた方が、楽やで」

 彼も人数合わせで出るくらいなので、あまり本気ではない。それでも剣を振れるというのは、男子にとってはわくわくする事のようなので、楽しそうだ。

「ね、相手を倒すコツとかないの?」

 聞かれて、タエはうーん、と考える。

「見て、避けて、剣を下ろす、かな」

「そのまんまやーん」

 赤坂がけらけら笑っている。彼はクラスでもムードメーカー的な存在で、場を明るくする特技があるようだ。

「いや、これしかないでしょ。いっちょ、やってみますか」

 タエが赤坂の頭めがけて剣を振り下ろす。驚いた彼は咄嗟とっさに剣を交えて受け止めたが、ウレタンでしなる為、剣先が頭をかすった。

「ふぅん。おりゃっ」

「わわっ!」

 しなり具合を確かめるように、タエは胴や足も狙い寸止めで打ってみた。代行者の時ほど速くはないが、それなりに素早く動けている。

「私も結構動けるな」

「花村さん、隠れた特技発見」

 赤坂は驚いていた。稔明はふぅ、と座り込んで二人を見ている。剣を立てて、そのつかに手をかけ、あごを置いている。

「魂があの動きをするんだから、体も少しは反応出来るよな」

「安倍くん、瞬殺されたら涼香りょうかちゃんに笑われるで」

「!?」

 稔明が固まった。赤坂もひひ、と笑っている。

「やっぱりなぁ。とっしー、バレバレやもん」

「な、は……」

「せめて一つは割るようにしいひん? 良い所見せようよ」

 その言葉で改心した。

「どうすればいい!?」

「まずは前髪を切りな。前から言ってるでしょ」

 うっとうしい前髪。顔の半分を隠しているそれは、前髪を上げているタエにしてみれば、見ているだけで邪魔でしょうがない。稔明は前髪を押さえる。

「ここっ、これは……俺、自分に自信がなくて」

「それで隠してたんか? さっぱりしたら、見る目も変わるかもよ?」

 赤坂が後押し。

「とりあえず、ゴムでくくるか」

 タエが持っていたヘアゴムを取り出し、前髪をしばろうと、稔明のおでこを全開にした。そして静止。

「お?」

「へぇ」

 赤坂も稔明の顔を覗き込んで、同じように声を漏らした。

「眼鏡もっ」

「あっ!」

 タエは彼の眼鏡も分捕ぶんどった。そこで気付く。

「これ、伊達だて眼鏡?」

「これは外せない!」

 眼鏡を取り返し、再びかける。タエは思い出した。

「そうだ、あの時、眼鏡かけてなかった。記憶違いじゃなかった」

 討伐とうばつの邪魔をされて、初めて河原で会った時、稔明は眼鏡をかけていなかった。だから思い出すのに時間がかかったのだ。そんなに気にも留めていなかったが、ここに来てようやく知る事実。

「目、悪くないのに眼鏡かけて、前髪のれん? 目、可哀想ちゃう?」

「いいの。ずっとこうだったから」

しいなぁ。とっしー、なかなかイケメンやのに」

 赤坂の一言で、稔明が固まった。

「……は?」

 タエも頷いた。

「顔出さなもったいないって。私もかっこいいと思ったよ。涼香ちゃんも見直すんちゃう?」

「えっ」

 稔明の顔色が変わる。しかし、またうつむいてしまった。

「自分に自信が持てたら、そりゃ良いだろうけど」

 前髪を元に戻そうとしたので、タエがぎゅむっと掴み上げる。

「いだだっ」

「誰が下ろして良いって言った? 練習すんのに邪魔やろ」

「……はい」

 大人しく前髪をくくられる。ぴょんと立ち、ちょんまげのようだ。

「あ、とっしー、かわいい」

「それはそれでいいかもねー」

 二人が茶化す。



「青組の二年だな?」



 別の方向から声がして、三人が振り向くと、スラっと長身の男子と、冊子を持った男子生徒が側にいた。

「ええと、赤坂悠馬くん、安倍稔明くん、花村タエさんやね?」

「はい」

 赤坂が返事をした。

「こいつは青組団長の沖田聡一おきたそういち。俺は副団長の永倉新司ながくらしんじ。よろしくね。無双出場者の挨拶回りで来ました」

(この人がモテ男の!)

 確かに姿勢も良く、端正な顔立ち、足も長い。女子が騒ぐのも無理はない。タエも見とれてしまうほどだ。

「剣道部じゃない女子が無双に出るなんて珍しいね。剣道経験者?」

「そこまでじゃないですけど……」

 探るような目つきの沖田。タエは若干居心地の悪さを感じていた。

「さっきの動きは、悪くない」

「え」

 最初動いていた所を、沖田達に見られていたらしい。

「俺と勝負しろ」

「無理です。瞬殺されます」

 即、辞退した。

「聡一、女の子に決闘はあかんやろ。無理はせんようにな。怖かったら棄権って手もあるし」

 副団長の永倉は優しく、皆をまとめるお兄さんタイプだ。そして、時計を見て眉を寄せた。



「もう六時回るし、今日は帰った方が良い。“足引あしひき”に捕まらへん内にね」



「足引き?」

 初めて聞く単語に、タエと稔明は首を捻った。

「聞いた事ある。部活動してたら、いきなりグラウンドから手が出てきて、誰かの足を引っ張るって怪談話」

 赤坂は知っていた。

「おばけ?」

 タエが聞いた。目の前にいる先輩達は、いたって真剣だ。

「いや、これ実話なのよ。今の時期から体育祭が終わるまでの期間限定やけど、ほら、運動部の奴ら、もう帰ってるだろ?」

 見れば、本当に野球部、サッカー部、陸上部が引き上げている。テニス部もネットを片付けていた。

「この学校では有名な話やよ。体育祭前に亡くなった女の幽霊が、出たかったと悔やんで、生徒に悪さをするって」

「幽霊、ねぇ」

 タエと稔明が顔を見合わせた。



幽霊の名前だけでした。

読んでいただき、ありがとうございました!

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