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月夜の代行者  作者: うた
第二章
45/330

45 体育祭準備

 五月も下旬に差し掛かる頃。タエ達が通う高校では、体育祭が一学期に行われる。中間試験が終わると同時に、準備にかかる。そちらに浮かれ、試験勉強がおろそかになりそうだが、そこは先生方のやり方が一枚上手(うわて)であった。中間試験で追試になった人数が、体育祭の得点に影響するのだ。一人に付き一点減点。たかが一点。されど一点だ。過去には、その一点により、大どんでん返しがあったという話があり、全校生徒は必死に勉強する事になる。もちろん、追試の最低ラインは若干高めに設定される。


 この高校は、イベントに力を入れている。勉強ばかりをやらせてもしんどいだけだ。学ぶ時はしっかり学び、楽しむ時はしっかり楽しむ。それがこの学校のモットーである。そのやり方は周りに知れ渡っており、通いたいと思う中学生が多い。公立高校ながら、競争率が他の高校よりも高い。生徒達もノリノリで、この時だけは団結力が半端ない。


「今年は青組だ」

「がんばろうね」

 タエ達のクラスも、意気込んでいる。一学年は八クラスあるので、二クラスずつ四チームに分かれる。今は出場競技を決めている所だ。

「この学校って、体育祭とかすごいって聞いたけど、そんなにすごいの?」

 稔明としあきは今年が初参加。皆が熱くなっているので、どこも同じだろうと首をかしげていた。

「とっしー、ここのイベントなめたらあかんで」

 仲の良いクラスメイトが答える。

「普通の競技とちょっと違うんだなぁ」

「へぇ」

「体育祭、二日あるからなぁ。一人当たりの出る種目も多いし、早いもん勝ち」

「え、二日もあんの!?」

 驚く稔明。

「一学期の一大イベントやからな。校長がポケットマネーで優勝チームにご褒美くれるから、皆、それで必死なのもあんの」

「ポ、ポケットマネー」

「去年は何やったっけ? あぁ、フルーツバイキング。各教室に持ってきてくれて、羨ましかったなぁ」

「すご……」

 校長の熱の入れようも本気らしい。

「俺、玉入れ出たーい!」

「俺も、俺も!」

 やたら玉入れが男子に人気だ。玉入れは普通、ボールをかごに投げ入れる競技のはず。

「そんなにやりたいもん?」

 稔明は分からなかった。


「タエ、二人三脚出よ」

「いいよ」

 中には普通の競技もある。無難にこなしたい女子達は、普通の競技に出ている。それでも、ムカデ競争、パン食い競争、大玉転がしなど、まだまだ参加種目が沢山あった。


「リレーは、全員の五十メートル走の記録から選定して決めます」

 記録重視。立候補は受け付けないらしい。勝ちにこだわるゆえ、体育委員もガチだ。

「まだ決まってない人は、種目表を置いておくから各自記入してください。今日決めなくちゃいけないのは、一日目のトリ競技、“侍無双さむらいむそう”に出てくれる人です。誰か立候補いる?」


「侍無双?」

 ゲームにありそうな名前だ。初めて聞く競技なので、稔明は疑問だらけ。

「背中と両肩、両足首にカラーカプセル付けて、割り合うんよ。剣道部の見せ場ってやつ。これがやりたくて、うちの高校入る奴もいるし、剣道部が人気な理由」

 この高校は剣道や運動部が強い事でも有名だ。現在の主将は沖田総一おきたそういちと言い、家が代々剣道の師範しはんをしている道場の息子で、立ち居振る舞いも、顔もかっこいいと、女子から凄まじい人気がある。

「剣……。花村さん、戦えるでしょ?」

「は!?」

 いきなり聞こえた声に、タエの声が裏返る。クラスの全員がタエを見た。

「花村、剣道部やったっけ?」

 担任がタエに問うた。

「違いますっ。剣なんて握った事ないですぅ」

 ははは、と笑って誤魔化す。稔明をキッと睨んだ。実は、タエの後ろの席が稔明だった。

「安倍家の後継ぎさんよ。余計な事言わんといてくれます?」

「神社の事は内緒にして。勝ちにこだわるなら、花村さんが適役だろ?」

 小声でバチバチ火花が散っている。

生身なまみの体の時は、普通の女の子なの。あの力は出ぇへんのっ」

「何何? 花村さん、とっしーと仲良いの?」

 稔明の友達もタエに話しかけた。あまり男子と話さないタエは、少し緊張する。

「まぁね。友達です」

「でも学年から各色三人ずつ出るだろ? あっちのクラスが何人出るかやな。聞いてくる!」

 フットワークの軽いクラスメイト。そしてすぐに戻って来た。

「五組は出る人いいひんて。こっちから三人出してくれってさ」


 嫌な予感。


「立候補は?」

 担任の声に、クラスがしん、と静まり返った。正直、この競技はやる方はしんどくて、見ている方が楽しいのだ。残念な事に、タエのクラスに剣道部員はいない。同じチームの五組にもいなかったようだ。

「花村、さすがに女子に本気で向かってくる奴はいないはずだから、人数合わせで、名前出しとくか? 怖かったら当日棄権でいいし」

「え゛」

 それはそれで後味あとあじが悪い気がするが。全員の視線が痛い。タエは、はぁ、と息を吐くと、渋々(しぶしぶ)頷いた。

「名前だけね……」

「ありがとう、花村さん」

 体育委員が出場表に名前を書く。

「だったら、安倍くんも道連れで出しますっ」

「ええぇ!?」

 タエの言葉に、クラスがわっとなった。



「タエ、安倍くん、大丈夫?」

 さすがに涼香りょうかが心配する。

「まぁ、何とかなるでしょ」

 タエは顔が引きつっていた。


(どうなるやら……)


一度も妖怪・霊が出て来なかったのは初めてです。

次は出すつもりです。

読んでいただき、ありがとうございました!

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