表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月夜の代行者  作者: うた
第二章
44/330

44 学校にて

 翌朝。

「花村さん、おはよ」

 学校の昇降口で、上履きに履き替えていたタエの後ろから、声がした。

「安倍くん、おはよ」

 稔明としあきは周りをきょろきょろ見回す。誰を探しているのか、すぐに分かる。

涼香りょうかちゃんは日直やから、今日はもう教室にいるよ。昨日はお疲れ様。涼香ちゃんを送ってくれて、ありがとうね」

 考えを読まれてしまった気恥ずかしさから、頭をぽり、とかく。

「いや、俺は後ろにいただけだったし。花村さんこそ。ちゃんと戻れたか、心配した」

 異空間の中で別れた為、稔明にタエがその後どうなったのか、知るよしもなかった。今朝、普通に登校する姿を見て、ホッとしたのだ。

「ありがとね。でも、安倍くんに助けてもらったのは事実やよ。明かりがなかったら、洞窟を把握できひんかったし、苦戦してた。涼香ちゃんも守ってもらったし」

 タエの言葉に、稔明は驚いていた。

「俺、力になれた?」

 笑顔で頷くタエ。

「当たり前やん! あの後はね、大阪の代行者に助けてもらって、洞窟から出たよ。それから熊野本宮くまのほんぐうの神様と宮司さんに連絡を取って、警察が来て、被害者の四人が救い出されるのを見届けた。ハナさんが迎えに来てくれて、戻ったの」


 朝のニュースで速報が流れた。四人の行方不明者が発見されたニュースだ。全員死亡が確認され、家族の元に無言の帰宅をした事。晴明神社に依頼に来た岩本真紀の家族には、淳明あつあきが直接連絡を入れ、居場所が分かったので、和歌山県警が捜索をするむねを伝えていた。稔明も、その電話を後ろで聞いていたので、タエが無事だった事も分かり、胸をなでおろした。犯人の男は捜査中で、詳しい事は、事実が判明次第、発表するという事になっている。報道陣用に辻褄つじつまが合うよう、多少情報操作されるという。祟り神が関わっていたなど、今の世の中では信じる人はいないからだ。本当の事実を知っているのは、ごくわずか。


「あんなに戦えるなんて、思わなかった」

 今思い出しても、タエの戦いぶりに感心する。

「そりゃあ、地獄の鍛錬したからねぇ。強くて当たり前の世界やから、必死やよ。こうやって、普通に学校に来て、普通の時間を過ごすとホッとするんよ。平和でいいなぁって」

 タエは軽く言うが、それがどれほど辛く大変かを、稔明はちゃんと理解していた。とてつもない努力をしたのだと、素直に思う。それ故、平和を噛み締めるのも、うなずける。

「本当すごいよ。俺、修行がんばる」

「うん、がんばれ。共闘する日が来るかもしれへんしね」

「共闘……」

 タエと肩を並べて、共に戦えるのだろうか。父親の淳明は、何度かタエと共闘したと話を聞いた事があった。稔明は心臓がどくんと跳ねる。

(俺も、父さんと同じようになれるのかな)

 ぎゅっと拳を握った。

「俺も、強くなる」

「おう!」

 にっと笑い合う。もう教室まで来た。まだ授業まで時間があるので、クラスメイトはほとんどいない。教室も静かだ。

「タエ、安倍くん、おはよー」

 涼香が教室からひょっこり顔を出して、美人な笑顔を炸裂させた。稔明には破壊力抜群だ。

「おはよー」

「おっ、おは……、お、おっ」

「そこまで?」

 タエはもうあきれている。挨拶が出来ないほど緊張するのだろうか。稔明の、さっきまでの自然な姿はどこへ行ったのか、背筋がぴんと伸びたまま、固まっている。涼香は、稔明が挨拶をしようとしているのだと分かっているので、くすりと笑う。

「お二人さん、仲良いね。一緒に来たなんて」

「下で会ったの。まぁ、マブダチよね」

 ね、と顔を見る。稔明も頷いた。

「う、うん」

「そっかぁ。なんか、タエを取られた感じやけどねー」

 冗談めかして話す涼香。言いながら日直の日誌を書きだした。その後ろ姿を見て、タエと稔明はまずい、と顔をしかめる。こっそり廊下に出て、小声でひそひそ。

「変な誤解をしだしたよ。ちゃんと女の子と話しなよ」

「話したくても、うまく声が出なくて」

「私と話してるし、いい加減いけるやろ?」

「花村さんは別格なの」

「女と人間、否定してましたもんね」

「ごめんて。あの……花村さんに相談が」

「何?」

 じろり、と稔明を見れば、彼はタエを拝むように手を合わせている。

「頼むよ。宮路さんとうまくいくように、協力して」

「はあ!?」

 大声になった。涼香が何だと振り向いたが、何でもないと手を振った。

「何で私が」

「頼むって! 彼女は俺の運命の人なんだ」

「はあ!?」

 二度目の大声。

占星術せんせいじゅつでも出てるんだよ。間違いない! たのむよぉ~」

 最後はすがりつかれてしまった。彼の人間性は、大体分かっている。一言で言えば良い奴だ。裏表もない、真っ直ぐな人間だ。涼香と縁を結んで欲しいと、頼んできたやからは今まで何人もいた。それは全て断ってきた。


 稔明に協力してもいいが、大事なのは涼香の気持ちだ。タエにとっては、それが一番だった。


「まぁ、仲良くなりたかったら、私を利用していいよ。とりあえず、あんたはまず、女子と普通に話せるようになりな」

「!!」

 稔明の顔がぱあっと晴れた。見た事のない笑顔だったので、タエも面食らってしまう。

「ありがとー!!」

「抱き着くな、おバカっ! 誤解されるでしょっっ」


 その素直さを、涼香にも見せろと思ったタエだった。


読んでいただき、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ