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月夜の代行者  作者: うた
第一章 契約・修行
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04 契約

「お姉ちゃん、断ってもいいんやよ……。いや、断って!」

「ハナさん……」

 ハナはタエにこの仕事をやらせたくないらしい。

「代行者の仕事は、私一人でもやれます」

「え、ハナさん、代行者なん?」

「前の代行者が倒されて、私に声がかかったの。お姉ちゃん達の世界を守れればいいと思って、引き受けた。でも、高様の本当の目的は、別の所にあった。お姉ちゃんを引き込むつもりだったの」

「人聞き悪い言い方じゃのぉ。人ではないが」

 高龗神タカオカミノカミは腕組みをした。しかし、ハナの言葉を否定しない。

「そなたらの絆、気に入った。信頼、自己犠牲、互いが互いを想い、その種族を越えた心。悪霊共に対抗する、最高の強みじゃ。戦闘力だけでは、決して埋める事ができん特別な力」

「聞いちゃダメ!」

 ハナが首を振った。

眷属けんぞくの契約をすれば、お姉ちゃんは輪廻りんねの輪から外れて、死んだら魂のふるさとには帰れない。それに、その魂が戦いに負けて消滅する時まで、永遠にこの地を守る為に戦い続けなあかんのやよ! そんな事、させられへん!」

「ハナさん……」

 ハナの言い分はよく分かった。契約した後、どうなるのかも。

「でも、ハナさんもそうなんでしょ? 輪廻の輪から外れて、永遠に戦い続けなあかん運命なんでしょ?」

「私は納得して契約した。後で高様のたくらみに気付いたけど、お姉ちゃんを契約させなければいいと思って……」

「わしはおぬしら二人がそろって、初めて最強になると思うておるぞ?」

 にやりと笑う。彼女はタエを引き込む事をあきらめていないのだ。

「やめてください! お姉ちゃんは普通に生きて、天寿てんじゅまっとうして欲しいんです」

「ハナ、決めるのはそなたの姉じゃ。おぬしではない」

 気付いたように黙るハナ。高龗神の目が、真剣だったからだ。相手は契約主。ハナの主だ。そこは主従の関係。逆らえるはずがなかった。

「さぁ、わしの願いを聞いてもらえるじゃろうか?」

 願いと言うが、命令にしか聞こえない。考える時間を下さいとも言えない。今、決めなければいけないのだ。イエスか、ノーか。

「具体的な事を聞いても良いですか? もし、契約したら、その仕事は何時ごろにするんでしょう……。私、学校もあるし……」

「悪霊共は夜に活動する。そなたの現世での生活には、支障ししょうきたさん。そなたが眠りについたら、ハナが体から魂を抜き、代行者としての仕事をすることになる。いわば、今の状態じゃな。今、そなたの体は家で寝とるじゃろう」

「え、そうなんですか?」

「意識を内側に集中してみろ。寝床で眠るそなたが見えるはずじゃ」

 言われた通りにしてみる。自分の体はどうなっているのだろうと意識してみた。すると、自分の部屋で、布団に横たわっている姿が見えた。

 他に聞く事はないかと、必死に頭をフル回転させる。後から聞いていませんでしたという事では手遅れなのだ。ちゃんと自分も納得した上で、答えを出さなければいけない。

「あ、あと、私はちゃんと人並みの生活が出来るんでしょうか?」

「人並み、とは?」

「学校を卒業したら、働いて、結婚とかもしたいし……。おばあちゃんに、なれますか?」

 高龗神はくすりと笑った。

「人の寿命はそれぞれじゃ。そなたの運命がおばあちゃんまでしっかりあるならば、それは叶えられるじゃろう。わしはそなたの睡眠の間、代行者として仕事をしてもらえればそれで良い。現世の生活に干渉したり、邪魔したり、壊したりするつもりはない。そこは安心してほしい」

「そうですか」

 ホッとした。実生活全てを、代行者として生きなければいけないわけではないのだ。


 そこでふと思った事。


(いやいや、さすがにそれを神様に言うなんて……。契約する前に消されるんじゃ――)



「ほう、神に報酬ほうしゅうを要求するか」


「な゛っ!! なななんで……」

「神様の前で隠し事なんて、出来ないよ」

 やれやれ、とばかりにため息をつくハナ。

「だ、だって……、実生活でもバイトとか、やりたいなぁと思ってるけど……。命がけの仕事がボランティアってさぁ……」

 ぼそぼそとハナに話す。ハナは今までの緊迫きんぱくした空気はどこへいったのかと、つい笑ってしまった。それを見て、高龗神も笑いだす。

「そんな事を言う者は初めてじゃ。おぬし、なかなか大物じゃのぉ」

「す、すいません……」

 恥ずかしすぎて、顔を上げられない。

「恥ずべき事ではない。確かに、命がけの仕事に報酬が発生しないのは納得いかんな。その気持ち、分からんでもない。会社の給料が上がりますようにと、願っていく参拝者も多いのが実情じつじょうじゃ」

 そうじゃな、と考え、一つ提案してきた。

「給料は1ヶ月ごと、最初じゃから基本給五万円。それと倒した悪霊のレベルに応じて、1体いくらと出来高制できだかせい。その合計を支払うということにするのはどうじゃ?」

「基本給五万!?」

 十六歳のバイト料にしては良いお値段。それプラス悪霊を倒せば倒すほど上乗うわのせされていくという、とても魅力的な報酬だ。

現世げんせ税徴収ぜいちょうしゅうにひっかからないようにして下さいね」

 ハナがしっかりと釘を刺した。

「お、詳しいな」

「天界での知り合いに、税務署ぜいむしょの職員さん家で飼われていた方がいたので。ボーダーコリーです」

「その辺は任せておけ。非課税ひかぜいにしておく」

 なんだかすごい事になってしまった。これがアメとムチというのだろうか。

「さぁ、どうする?」

 高龗神が確認した。

「私が引き受けなかったら、ハナさんは一人で戦い続けるんですよね?」

「そうじゃ。永遠にな」

「私は、ハナさんと一緒に戦えますか?」

「お姉ちゃん!」

 ハナがたまらず声を上げた。

「ハナさんの足を引っ張らずに、出来ますか?」

「それはそなたの努力次第。じゃが、わしはそなたとハナだから声をかけた。つとめを果たせんと思う者に、最初から勧誘かんゆうなどせん」

 タエが、高龗神の顔を見た。彼女はとても優しい表情をしていた。

「ハナの為に、ここへ来たじゃろう? 今も覚えておる。己の願いではなく、ハナを想い願った言葉を。“苦しまずに逝けるように”。これは普通に言えたものではない。その時から、そなたは他の人間とは違うと、目をつけておったんじゃ」

 少し、目の前が明るくなったような気がした。やはり自分の想いは、しっかりと届いていたのだ。それを、目の前にいる神様はちゃんと聞いてくれた。



(よかった……。ハナさんは、ちゃんと神様の加護かごを受けてたんだ。だったら――)



 タエの答えは一つしかなかった。この神様に受けた恩を、返さなければ。その気持ちが分かったのか、高龗神は満足そうにまた笑った。



「やります。ハナさんと一緒に、“代行者”やります!」

「よく言った! これから頼んだぞ。タエ」


読んでいただき、ありがとうございました!!

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