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月夜の代行者  作者: うた
第二章
39/330

39 醜いストーカー

「お前、何故こんな事をした?」


 晶華しょうかを構え、タエが冷静に問うた。目の前にいる男は、どこにでもいそうな、普通の人間だ。ぽっちゃり体形。腹が出ていて、頭髪少なめ。偏見ではないのだが、彼女いない歴イコール年齢、と言った所か。それが、四人の女性の遺体の側にいる。明らかにこの男が、女性を殺害したのだ。

「ころしてない……。俺は、殺してないっ。これは神聖な儀式だ!」

 首を思い切り横に振っている。

「真紀ちゃんが悪いんだ……。俺というものがありながら、他の男を見るから!」

 タエが壁にはりつけにされている女性を見た。他の三人には悪いが、この人だけ扱いが違う。この空間は時間が止まっているのだろうか。最初の行方不明の事件が報道されて数か月が経っている。朽ちる気配もなく、彼女は眠るようにキレイな顔をしていた。本当に美人だった。

「ストーカー、か」

「違う! 俺は彼女の彼氏なんだ! 何で他の男といるのか問いただしたら――」



「誰!? あなたなんか、知らない!」

「俺は、真紀ちゃん、君の――」

「いやっ、触らないで!!」

 その一言で、自分の中の何かが切れた音がした男は、彼女を力一杯押し倒していた。ガツ、という音がすると、彼女は動かなくなる。頭から血が流れていた。



「それを、殺したって言うんだよ」

 タエが真実の言葉を放つ。男は目を見開き、吠えた。

「うるせぇ! てめぇに何が分かる!!」

 男がタエに掴みかかるが、タエの体術で瞬時にねじ伏せられる。足を払われ、倒れた所を腹に一発。そして晶華を首に当てられると、動けない。

「ぐ、ぅ……」

「それで、他の三人は何故殺した?」

「ま、真紀ちゃんを目覚めさせるには、似た女の魂がいるって言われたんだ」

 ニュースで見た彼女達の顔。雰囲気が似ていると思ったのは、間違いではなかった。

「誰に言われた?」

「カ、カミサマ……」

「神様ぁ?」

 タエの怒りが沸点に達する。男は晶華を手で握ると、斬れて血が出るのもお構いなしに、タエを振り払った。

「妖怪の入れ千恵か」

「俺の邪魔をする奴は、許さない!」

 人間の力を越えた腕力で、タエに殴りかかる。タエは避けたが、男の拳に当たった壁は亀裂が入り、砕けてしまった。男の中から妖気を感じる。

「魂が合わない! しばらく動くけど、すぐまた寝ちゃうんだ。早く次を入れないと、真紀ちゃんが起きられない! お前が逃がすからああああああ!!」

「お前なんかに捕まって、利用されて、可哀想に」

 メキメキと音を立て、男の腕が大きくなる。それでもタエは晶華で攻撃を受け流す。黒鉄くろがねとの勝負に比べれば、天と地の差だ。無駄のない、最小限の動きでかわしている。

 突っ伏して、重ねて置かれている女性達。もう動く事はない。彼女達にも人生があった。幸せになれていたはずなのに。タエは心底怒っていた。



「目的を成す為に、人を殺せなんて言う神様なんて、いねぇんだよ!!」



 今度はタエが吠えた。その瞬間、男の両腕がスッパリ切断され、肘から先がなくなっている。男は痛みに絶叫した。

「痛い、痛い、いたいいいぃ」

「痛いか。そこに倒れてる人達は、もっと痛かった!」

 タエが男に詰め寄る。男は恐怖を覚え、後ろに後ずさった。

「く、くるな」

「てめぇのくだらねぇ目的のせいで、この人達は人生を奪われた。その罪を背負う覚悟があんのか、ああ?」

 タエは怒りで口調が荒くなる。晶華を鼻先に突きつけると、男は涙を流しながら懇願こんがんした。

「わ、わ、わるかった……。た、助けて……」

「もう無理だ。今の自分の姿を見てみろ。水鏡みずかがみ

 晶華で丸く円を空中に描く。すると、水が現れ、丸い形になると、ぴしりと固まり鏡になった。男の顔を写す。

「俺の、顔?」

 男の額には二本の角が生えており、口からは鋭い牙が生えていた。

「人を殺せば鬼になる。妖怪に魂を乗っ取られれば、そいつの言いなりだ。本体の目的は知らないけど、ていよく遊ばれただけだろう」

「あ゛、あ゛……」

 男の周囲に四つの赤い炎が近付いてくる。それが人の形を成し、男の首に手をかけた。

「許さない……」

「なんで私が……」

「帰して……」

 男が殺した女性達だ。怒りに燃えている。

「ひいっ! や、やめろぉ!!」

「お前さえいなければ……」

 最後は、男が惚れていた岩本真紀だ。彼のせいで命を失い、恨みが強い。しかも、他の人間の魂を入れられ、もてあそばれていたも同然だったのだ。

 ぐっ、と女性達の手に力が入った時だった。


 ざしゅ。


 ごとり。

 男の首が落ちた。首は、すぐにち果て、ちりとなった。四つの人魂がふわりとタエの前に浮いている。

「あなた達まで、鬼になる必要はありません。鬼を斬るのは、私の役目。悲しみも、悔しさも分かります。ちゃんとご家族の元に、あなた達を帰します。供養してもらって、浄化して、生まれ変わって、今度こそ幸せになってください」

 タエの心からの言葉が届いたのか、赤い炎のようだった魂が、徐々に白さを取り戻していく。本来の魂の色に戻り、ホッと息をついた。


 一つ、気になる事があった。

「体が、塵になってない」


 頭部と共に消えるはずの体が、まだ形を止めているのだ。タエはハナがいない事も含めて、まだ終わっていないと悟る。そして、邪悪な気配がこちらに向かって来ている事に気付いた。



「元凶のお出ましか」

読んでいただき、ありがとうございます!

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