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月夜の代行者  作者: うた
第二章
37/330

37 同行

 夕方。晩御飯の手伝いをしながら、聞こえてくるニュースの声に耳を傾けていた。


 先月6日から行方不明の川崎あき子さんは、未だ行方不明。足取りも掴めておりません。土田誠つちだまことさん、玉長たまながさちさん、岩本真紀さんの行方も分かっておらず、捜索が続けられております。


 タエがテレビの前に移動する。ニュースキャスターが話す隣に、行方不明者の写真が表示されていた。

「女の人ばっかり」

「場所がバラバラでも、立て続けに不明者とか、物騒やね。気を付けるんやよ」

「うん」

 キッチンから母が声をかけた。それにうなずきながら、画面を見つめる。

「なんか、皆、雰囲気似てるな」

 タエは何とはなしにつぶやいた。顔写真が並べられると、髪の毛の長さは違うが、顔つきや雰囲気が四人とも、似ているように感じたのだ。

「やっぱりそう思った?」

 母もタエの呟きに同意する。

「お母さん、涼香りょうかちゃんに似てるなぁと思ったんやけどね」

「え!?」

 タエがテレビをもう一度見たが、もう次のニュースになっていて、写真は消えていた。

「そう、かな」

「確か、バイト始めたんでしょ? 夜遅くなる時もあるかもしれへんし、気を付けるように、声かけてあげなよ。お母さんも、会ったら言うけど」

「うん」

 いつも見ている顔なので、タエは行方不明者と涼香が似ているとは感じなかったが、母が言うなら、似ている部分もあるかもしれない。タエは胸騒ぎがした。



「あ、もしもし涼香ちゃん?」

 タエは電話をすることにした。夕食前で忙しいだろうが、こればっかりは仕方がない。

「今日、バイトやったん?」

 以前相談された、ファミレスのバイトだ。あれから彼女の両親とも話し合い、平日は夜九時まで、休日は昼間に仕事をすると決めたのだという。要領が良い涼香は、仕事を覚えるのも早く、楽しんでいる。

「ううん。今日はこれから」

「え!? 休日は昼間って」

「それがねぇ。今日だけ代わってくれって頼まれちゃって。いつも通り九時までやから、心配せんでいいよ」

 タエは少し不安になる。

「そう。物騒な事件もあるし、気を付けてね」

「ありがとよ! じゃあね」

 通話終了。タエはスマホ画面を見つめたまま、動かなかった。

「何も、なければいいけど……」




 貴船きふね神社。高龗神タカオカミノカミは、タエとハナが仕事に行く前に呼び止めた。

「安倍家から依頼が来ておるぞ」

 そう言って、彼女は手に一枚の紙を持っていた。人の形をしたそれは“人形ひとがた”だ。術者がそれに力をめれば、その人に成り代わる事も出来るし、思い通りに動かす事も出来る。

淳明あつあきの人形じゃ。安倍家の後継ぎが、現地見学を求めておる」

「え」

 稔明としあきの事だ。タエとハナが顔を見合わせる。

「タエの同級生らしいな」

「はい」

 高龗神は楽しそうにしている。

「安倍くんのお父さんから聞いたんですか?」

「いや、式からの報告じゃ。淳明は知らん口ぶりじゃったな」

 稔明はまだ言っていないらしい。

「見学と言っても、必要なら手伝わせればいい。実戦経験も大事じゃからな」

「そうですね。安倍くんて、本当に力が強いんですか?」

 何となく聞いてみた。高龗神は頷く。

安倍晴明あべのせいめい末裔まつえいの中で、五本の指に入る力の持ち主じゃ。血が薄くなる中で、そこまで強い者は珍しい。先祖返せんぞがえりとも言われておるようじゃな」

「先祖返り……」

 親にはない先祖の特徴が、子に現れるという意味だったなとタエは思っていた。先祖である安倍晴明の力の一端が、稔明に現れたのか。それほどならば、妖怪に狙われるのも、頷ける。

「晴明神社で待っておるらしいぞ」

「了解しました!」

 タエが元気に返事をする。うむ、と頷く高龗神だが、真面目な表情になった。

「タエ、ハナ。現世で行方不明者が増えていると知っておるか?」

「行方不明者?」

 ハナは首をひねった。

「タエは紗楽しゃらくから聞いたか? 近畿各地で三か月の間に四人、行方が分からなくなっている人間がいる。その犯人は妖怪によるものじゃが、なかなか尻尾をつかません。この京都に入って来た事だけは察知した」

 紗楽の言った通りだった。彼女も気付いたのだ。

「今も京の地中をいずり回っておる。気分が悪い。二人はそいつの討伐とうばつを中心に、仕事をしてくれ」

「はい。あの、大阪でも行方不明者がいるって聞きました。せきも仕留められなかったんですか?」

「ああ。追ったが、逃げられたと報告を受けた」

 実力者の釋が取り逃がすとは。タエとハナは驚きの表情になった。

「わしもに落ちん。二人とも、現世への干渉かんしょうは出来たかの?」

「はい」

「現世に干渉?」

 ハナは頷いていたが、タエは何の事か分かっていない。ハナが説明してくれた。

「私達は魂だから、普段は触れる事なんて出来ないけど、現世にある物や人に触れたいと念じれば、触れる事ができるの」

「そうなの!?」

 初めて知る事実。

「必要に応じて教えようと思ってたら、その機会がなくて、今になっちゃった。現世に干渉すると、多少なりとも疲れるの。だから、触れる手だけ干渉させるとか、範囲をせばめて力を使うようにね」

「へぇ」

 自分の手を見る。触れようと思えば触れられるとは。すごい。

「安倍の後継ぎと行動を共にするなら、干渉を覚えておいた方が便利じゃろう。京でも不明者を出すわけにはいかん。頼んだぞ」

「はい!」

 二人は返事をして、鳥居を抜けた。




 晴明神社上空に来た。鳥居の所に人影が二人ある事に気付く。淳明と稔明だ。タエとハナが空から降りてくると、稔明は驚いていた。

「こんばんはー」

 タエが挨拶すると、淳明が深く頭を下げる。

「おお、代行者様。今回の依頼をお聞き下さり、ありがとうございます。この子が息子の稔明と言います。挨拶は!」

「は、はじめまして……」

 さっさと頭を下げろと言わんばかりに、手で無理くり頭を下げさせる。タエは笑いそうになってしまった。

「こちらこそ、はじめまして」

 どことなくぎこちない。昼間も会って思い切り話していただけに、改めて挨拶は少々照れるものだ。

「最近の行方不明事件を追うと、高龗神様にうかがっておりますが、間違いありませんか?」

 淳明が確認する。頷くタエとハナ。

「今日、そのご家族が依頼に来たのです。最初に行方が分からなくなった、岩本真紀さんのご家族ですが」

「え!?」

 警察も手掛かりがなく、SNSで情報提供を呼び掛けてもダメ。八方塞がりになった家族は、わらにもすがる思いで、晴明神社を訪れたと言う。

「息子から、その事件の犯人が京都に入ったと聞き、ダウジングを使って居場所の特定を試みたのですが、どうにも動き回っているようで。式を放っても破壊されました。息子も事件を知るので、今回同行を願い出たのです」

 高龗神も言っていた。這いずり回っていると。本当にそのままの意味だった。

「わかりました。じゃあ行こう!」

「しょうがない。私の背に乗って」

「えぇ!?」

「ハナ様の背に乗れるなんて、なんて素晴らしい! 稔明っ、失礼のないようにな!!」

「は、はいぃ!」


 淳明が感動している中、稔明はタエの後ろに乗り、一緒に空へ飛び立った。


読んでいただき、ありがとうございます!

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