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月夜の代行者  作者: うた
第二章
35/330

35 朝デート?

「花村さん。昨日は、悪かった」

「別にいいよ。敵じゃないって分かったし。タカ様も納得したし」

「高様?」

「私が仕えてる貴船きふねの神様。高龗神タカオカミノカミ様の事」

 現在、朝。昨夜は稔明としあきのカミングアウトの後、詳しい話は朝にしようとなったのだ。タエとハナは仕事中だったので、あまり時間をけなかった。稔明の修行も昨日はそれで終了。タエは涼香りょうかと登校する事になっていたので、涼香が家から出てくる前に少し話そうとなった。タエはいつもより三十分早く家を出た事になる。早起きしたので、ものすごく眠い。タエの自宅近所にある公園で話している。

「で? 晴明(せいめい)神社の後を継ぐのは、長男の丈明たけあきさんって聞いたけど」

 父親から直接聞いたのは二週間くらい前だ。その間に何があったのやら。稔明は困ったように、眉間にしわを寄せた。

「最初は皆そのつもりだったよ。兄さんも了承してたけど、どうしても警察官になりたいから、勉強に集中させてくれって、辞退したんだ」

「へぇ、警察官」

「悪霊から人を守るのも大事なのは分かってるけど、自分は犯罪から人を守りたいんだって。ずっと警官が夢だったから、諦めたくないって」

「丈明さん、すごいね! かっこいい」

「え?」

 タエが丈明を褒めだしたので、稔明は拍子抜けした。

「退魔の仕事を推してくると思ったけど」

「なんで? 形は違っても、人を守りたいって気持ちは一緒やん。さすがやなぁ。確かに、警察官の制服、似合いそうやわ!」

「会った事、あんの?」

 稔明は、父親が丈明に見学させていた事を知らなかったのだ。

「うん。安倍くんのお父さんの仕事を見学しに来てたんよ。退魔の仕事をしてると、代行者と関わる事もあるし。紹介してくれた」

「へえ……」

「そっか。だから次男の安倍くんが後継ぎになったのか。で、あの河原で修行してたってわけ?」

「ああ」

「お父さん、知ってんの?」

 ぎくり、まずい顔をしたので、タエはやっぱり、と腕を組んだ。

「無許可で町の悪霊に手ぇ出して、反撃されたらどうするつもりやったんよ」

「結果オーライだろ」

「そういう事ちゃうの! 妖怪もちょっかい出してきたら、喰われてたよ? 私もそんな事知らんし、何かあっても、助けに行けるとは言えへんよ」

「う……」

 さすがに言い返せず、口ごもる。

「危ない事はやめとき。お父さんだって、安倍くんに後継ぎとして勉強させなあかん事、ちゃんと考えてると思うよ。焦らずちゃんと教えてもらい」

「……分かった」

 素直に頷いた。

「じゃあ、花村さんの事も教えてよ。生きてる人間が代行者って、どういう事? 死んだ人間の魂から選ばれるって聞いたけど?」

「ああ、それ。皆驚くなぁ。高様は、縛られない方なのよ。私とハナさんの絆を気に入って、代行者に勧誘したの」

「ハナって、あの犬?」

「うん。元はうちで飼ってた犬やったの。一昨年おととし亡くなったんやけど、また再会できて良かったわ」

 にこやかに話すタエを見て、稔明は驚いていた。

「何で、笑えんの?」

「ん?」

 タエは稔明を見た。彼の目は動揺している。

「代行者は、神の眷属けんぞくやろ? 死んだらもう生まれ変われない。人の世界にも戻れない。魂が消滅するまで、永遠に戦い続けなきゃいけないんだぞ? 負ける事は許されないって――」

「確かにね。負けたら終わり。生きてる間に負けたら、この体も終わり」

 右手を上げる。手を握ったり、開いたりする。

「分かってるよ。危険な命のやり取りをしてる事くらい。やらなきゃ、やられる。斬らなきゃ、斬られる」

「……つらいやろ」

「辛くないよ」

「!?」

 即答で返される。稔明がタエを見れば、彼女は笑っていた。

「ハナさん一人で戦わせる方が、もっと辛い。一人より二人でしょ? 私が力になれるなら、ならないと。負けないくらい強くなれば、魂は消えへんのやから」

 にっと笑うタエには迷いがない。

「強いのか?」

「それなりに強くなってると思うよ。鴉天狗からすてんぐさんにも認めてもらえたし。次はやっぱりボロ勝ちしたいな!」

 鴉天狗の噂は、安倍家にも伝わっている。力が強く一族優先で、他者とあまり交流を持たないと言われる鴉天狗に認められるとは。目の前にいる女子高生がその代行者だとは、あまりにギャップが激しすぎて理解に苦しむ。

「本当に代行者なんだな……。着物姿見たし、頭では分かってるけど、やっぱり信じられない」


「あっ、もう涼香ちゃんが出てくる時間だ!」


 タエが時計を見て慌てだす。

「み、宮路みやじさん!?」

 稔明も何故か慌てる。

「一緒に行こうか?」

「え!? いや、その」

「はっきりせぃ! 行くぞ!」

 稔明の腕をひっぱり、家の方へと向かう。涼香の家の前に差し掛かると、ちょうど出てきた所だった。

「涼香ちゃん、おはよー」

「あ、タエ、おは……あれ、安倍くん?」

「う、あ……じ、じゃあ!」

 意外な組み合わせに、涼香は首をかしげた。稔明は涼香と目が合うと、眼鏡に手をかけ、うつむいてそのまま走って行ってしまった。顔は真っ赤だ。

「どうしたの?」

「挨拶したくても、恥ずかしくてできひんかったんちゃいますか?」

「何それ?」

 物凄いスピードで走っていく稔明の後ろ姿を、二人が見ていた。そのタエの視界に、ちらほら入る、妖怪の姿。通行人に危害を加えるわけでもなさそうなので、タエは睨むだけに止める。妖怪達も、しばらくすると消えてしまった。

(太陽の下に出てくるわけでもないのかな。変なの)


「ねぇ、安倍くんて、家この近くなん?」

「へ? さあ」

「仲良く歩いてたんじゃないの?」

「仲良かった?」

「安倍くん、ずるずる引きずってたやん」

「それ、仲良いって言う?」

 タエの言葉に、涼香は笑い出した。

「あはは、ごめんごめん。でも、引きずれるくらいの仲なんでしょ? 何? 朝からデート? 私、邪魔やった?」

 にやにやしている。タエは渋い顔をした。

「デートちゃうよ。実は安倍くん、私の知り合いやったの。だからちょこっと話をしてて」

 そこで気付いた。

(あれ? 家って晴明神社の近くやろ? なんでこんな離れた所にいるんかな)

 次はその事も聞いてみようと思ったタエだった。

「ふぅん」

 まだ信じてなさそうな目つきの涼香。稔明の本音が分かっていない彼女なので、タエはちゃんと否定しておいてあげた。

「安倍くんの好きなタイプは、私ではありませんので」

「え、もう好きな人いんの?」

「さあね。本人に聞いてみたら?」

 女子の大好物な恋の話をしつつ、学校に向かう。他愛もない会話が、とても楽しい。タエは、涼香との変わらないこの距離にホッとしつつ、彼女に感謝していた。



「っへぶしっ」

「ははっ。とっしー、きたねぇ」

「誰かが噂してたりして」

「ははは、まさか」

 いきなりくしゃみが出た稔明。“とっしー”と呼ばれるまでになっている。友人にからかわれ、鼻をすすった。


読んでいただき、ありがとうございます!

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