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月夜の代行者  作者: うた
第二章
34/330

34 術者の正体

「どう、見える?」

「まだ」


 月がキレイに見える夜。京都の町は、まだ明るく賑やかだ。タエとハナは京都タワーの上空で周りを見張っていた。

「時間は?」

「もうすぐ十時半。だいたいこの時間から動き出してる」

 電光掲示板に表示された時刻を確認する。今夜は正体不明の術者を探るべく、目を光らせているのだ。討伐とうばつの仕事をおろそかには出来ないので、しばらく待って動きがなければ、今夜はあきらめるしかない。


「来た!」


 南の方角から青白い光が線を引いて飛んできた。光の行き先は悪霊だろう。二人は光が飛んできた方へ向かう。いくつかの光が見えたので、大体の場所はしぼれた。

「ハナさん。家の方やんね」

「う、うん」

 ハナも花村家がある方向だと思っていた。疑問はふくらむばかり。とにかく、この術を行使している者を見つけなくては。


 ひゅん、と光が飛んだ。それを見て、場所がはっきりと分かる。


「見つけた!」

 タエの家がある地域の河原からだ。ぽっと一瞬明るくなると、光が飛んでいく。タエとハナが急いで河原に降り立った。

「あんた、何者!」

「!」

 晶華しょうかかまえ、ハナもぐるる、とうなる。術者は突然声をかけられ、刀を向けられ、びくりと体を強張らせた。そして札を二枚持ち、構えると火が燃え始める。攻撃体勢だ。

 立っている術者の前には台が置いてあり、その上に水晶が乗って淡く光っている。京都の町を霊視していたのだろうか。水晶の光と札の火もあり、術者の顔がはっきりと見えた。

「若いわね。お姉ちゃんと同じくらい?」

 ハナが呟いた。術者は男。若干疲労の色を浮かべているその顔は、十代だろう。こちらをぎろりとにらんでいる。

「ん?」

 タエはその目に見覚えがあった。

「どっかで……」

 びゅう、と風が吹き抜ける。術者の青年とタエの髪の毛を乱すには十分な風だ。青年の髪がぼさぼさになった。それを見て、タエが驚愕きょうがくする。

「安倍、くん?」

「!?」

 いきなり名前を呼ばれ、青年も驚きの表情になった。

「何で……、は、花村さん?」

「やっぱり!」

 転校生の安倍稔明あべとしあきだった。稔明は札を下ろす。火は消えた。

「お姉ちゃん、知り合い?」

 さっぱり分からないと言う顔で、ハナがタエを見上げた。

「い、犬がしゃべった!!」

 稔明はハナを見てあごが外れそうになるくらい、口をあんぐり開けている。

「私と同じクラス。四月に転校してきたの」

 タエは構わず話し、刀を下ろすが、ずんずん近付いていく。稔明はたじろいだ。

「私達の邪魔をしてたのは、あんたかぁ!」

 ずびしぃ、と人差し指を突き出した。

「は?」

 邪魔と聞いて、不快だと言わんばかりに眉を寄せる。

「俺は修行中なんだよ。あんたには関係ないだろ」

「関係あるわいっ!」

 食って掛かるタエ。そんな二人の近くから、くすくす笑い声が聞こえた。

「あんたがけしかけたんか、紗楽しゃらく

 横目で睨めば、キセルを片手にふわふわ浮かんで笑っている紗楽がいた。

「人聞き悪いですねぇ。あたしは修行をしたいって言う彼に、この場所を提供しただけですよ」

「私達の邪魔をしろって言ってへんの?」

「言うわけないじゃないですかぁ。代行者様の邪魔なんてしたら、あたしが高龗神タカオカミノカミ様に消されてしまいますよ」

 一定の距離を保って話をする。代行者モードのタエは神力しんりきが宿っている。紗楽は悪の魂もその身に宿しているので、タエとハナには近付けないのだ。彼の言う事は正しいだろう。高龗神と取引をしていると言っても、神に見張られているのだ。下手な事はしないはず。

 稔明は「えっ」と声を上げた。

「代行者? 花村さんが!?」

 彼はタエをまじまじと見つめる。神々しい金の刺繍ししゅうほどこした着物。普通の人がしない服装をしているタエに、稔明は驚きを隠せない。

「えっ、え、えぇ!?」

「何であんな事してたん? おかげでこっちは、ほうしゅ――じゃなくて、何が起こってるのか混乱してたんやからねっ」

(報酬が減ったって、言いかけたな)

 ハナは苦笑い。反対に、稔明はムッとした。

「悪霊をはらってやったんだから、別にいいだろ」

「あのねぇ、いきなり訳わからん光がうろうろしてたら、敵かもしれないって思うでしょうが。私達は、京都を守るのが仕事なの。討伐する悪霊の魂だって、私達が責任もってちりかえすのが基本なの」

「それは、聞いた事がある。神力を用いて悪しき魂を滅す。でも、俺だって退魔をする権利はあるんだからな」

「はあ?」

 稔明は胸を張った。



「俺は晴明せいめい神社の次代じだい後継ぎ。もう少ししたら、父さんから正式に退魔の任を引き継ぐんだ!」



「……えええぇ!?」

 タエの声が辺りに響いた。



読んでいただき、ありがとうございます!

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