34 術者の正体
「どう、見える?」
「まだ」
月がキレイに見える夜。京都の町は、まだ明るく賑やかだ。タエとハナは京都タワーの上空で周りを見張っていた。
「時間は?」
「もうすぐ十時半。だいたいこの時間から動き出してる」
電光掲示板に表示された時刻を確認する。今夜は正体不明の術者を探るべく、目を光らせているのだ。討伐の仕事をおろそかには出来ないので、しばらく待って動きがなければ、今夜は諦めるしかない。
「来た!」
南の方角から青白い光が線を引いて飛んできた。光の行き先は悪霊だろう。二人は光が飛んできた方へ向かう。いくつかの光が見えたので、大体の場所は絞れた。
「ハナさん。家の方やんね」
「う、うん」
ハナも花村家がある方向だと思っていた。疑問は膨らむばかり。とにかく、この術を行使している者を見つけなくては。
ひゅん、と光が飛んだ。それを見て、場所がはっきりと分かる。
「見つけた!」
タエの家がある地域の河原からだ。ぽっと一瞬明るくなると、光が飛んでいく。タエとハナが急いで河原に降り立った。
「あんた、何者!」
「!」
晶華を構え、ハナもぐるる、と唸る。術者は突然声をかけられ、刀を向けられ、びくりと体を強張らせた。そして札を二枚持ち、構えると火が燃え始める。攻撃体勢だ。
立っている術者の前には台が置いてあり、その上に水晶が乗って淡く光っている。京都の町を霊視していたのだろうか。水晶の光と札の火もあり、術者の顔がはっきりと見えた。
「若いわね。お姉ちゃんと同じくらい?」
ハナが呟いた。術者は男。若干疲労の色を浮かべているその顔は、十代だろう。こちらをぎろりと睨んでいる。
「ん?」
タエはその目に見覚えがあった。
「どっかで……」
びゅう、と風が吹き抜ける。術者の青年とタエの髪の毛を乱すには十分な風だ。青年の髪がぼさぼさになった。それを見て、タエが驚愕する。
「安倍、くん?」
「!?」
いきなり名前を呼ばれ、青年も驚きの表情になった。
「何で……、は、花村さん?」
「やっぱり!」
転校生の安倍稔明だった。稔明は札を下ろす。火は消えた。
「お姉ちゃん、知り合い?」
さっぱり分からないと言う顔で、ハナがタエを見上げた。
「い、犬がしゃべった!!」
稔明はハナを見て顎が外れそうになるくらい、口をあんぐり開けている。
「私と同じクラス。四月に転校してきたの」
タエは構わず話し、刀を下ろすが、ずんずん近付いていく。稔明はたじろいだ。
「私達の邪魔をしてたのは、あんたかぁ!」
ずびしぃ、と人差し指を突き出した。
「は?」
邪魔と聞いて、不快だと言わんばかりに眉を寄せる。
「俺は修行中なんだよ。あんたには関係ないだろ」
「関係あるわいっ!」
食って掛かるタエ。そんな二人の近くから、くすくす笑い声が聞こえた。
「あんたがけしかけたんか、紗楽」
横目で睨めば、キセルを片手にふわふわ浮かんで笑っている紗楽がいた。
「人聞き悪いですねぇ。あたしは修行をしたいって言う彼に、この場所を提供しただけですよ」
「私達の邪魔をしろって言ってへんの?」
「言うわけないじゃないですかぁ。代行者様の邪魔なんてしたら、あたしが高龗神様に消されてしまいますよ」
一定の距離を保って話をする。代行者モードのタエは神力が宿っている。紗楽は悪の魂もその身に宿しているので、タエとハナには近付けないのだ。彼の言う事は正しいだろう。高龗神と取引をしていると言っても、神に見張られているのだ。下手な事はしないはず。
稔明は「えっ」と声を上げた。
「代行者? 花村さんが!?」
彼はタエをまじまじと見つめる。神々しい金の刺繍を施した着物。普通の人がしない服装をしているタエに、稔明は驚きを隠せない。
「えっ、え、えぇ!?」
「何であんな事してたん? おかげでこっちは、ほうしゅ――じゃなくて、何が起こってるのか混乱してたんやからねっ」
(報酬が減ったって、言いかけたな)
ハナは苦笑い。反対に、稔明はムッとした。
「悪霊を祓ってやったんだから、別にいいだろ」
「あのねぇ、いきなり訳わからん光がうろうろしてたら、敵かもしれないって思うでしょうが。私達は、京都を守るのが仕事なの。討伐する悪霊の魂だって、私達が責任もって塵に還すのが基本なの」
「それは、聞いた事がある。神力を用いて悪しき魂を滅す。でも、俺だって退魔をする権利はあるんだからな」
「はあ?」
稔明は胸を張った。
「俺は晴明神社の次代後継ぎ。もう少ししたら、父さんから正式に退魔の任を引き継ぐんだ!」
「……えええぇ!?」
タエの声が辺りに響いた。
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