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月夜の代行者  作者: うた
第二章
33/330

33 変な現象

「おはよー」

 タエと涼香りょうかが登校し、下駄箱で靴を履き替えながら、友人やクラスメイトに挨拶する。すると、安倍稔明あべとしあきに会った。彼も今、登校してきたようだ。

「あ、安倍くん。おはよ」

「!」

 涼香が普通に挨拶した。目が合うと、そのまま固まってしまう。タエはその様子を見て、ああ、と察した。

(この子の可愛さに見惚みとれてる)

 あらら、と苦笑していると、視線を感じた。え、と見れば、稔明がタエをにらんでいる。

(私、睨まれるような事したっけ!?)

 何もしてないのに、とびくつく。稔明は何も言わず、教室へ向かった。

「? タエ、どうしたの?」

「いや、何でもないです」

 若干じゃっかんよろけながら、廊下を歩いて行った。


 教室に入ると、稔明は席が近い男子と談笑している。もう仲の良い友達が出来たらしい。転校生だからといじるような奴がいないので、良かったと思いつつ、先ほどの目つきは何だったのかと、タエは疑問符しか浮かばない。彼の笑い声も聞こえる。転校初日は緊張でうつむいていたから、暗い人かと勘違いしたようだ。タエは反省した。

(普通の人やん。慣れてくれば話もできるかな。あの前髪は切ってやりたくなるけど)

 彼の前髪は目が隠れるほど長い。だから視力が悪くなるのだと、突っ込みたくなるほどだ。黒縁メガネも髪の毛に隠れて存在が薄れている。

 キーンコーン……。

 予鈴だ。タエも席につき、授業の準備を始めた。今日も変わらない一日になるはずだ。




 変わらないと思っていたが、異変は夜に起こった。


「一匹目!」

 夜、代行者の仕事中。いつものように人に害を成す悪霊を見つけ、仕留めようと晶華しょうかを振るった時だった。


 ぱしゅっ!


「!」

 いきなりその悪霊が弾けて消えたのだ。青白い光の線を描く何かが、悪霊の周りを飛んだと思った瞬間、光が悪霊を包み込み、弾けた。光もなくなっている。式ならあるじの所へ戻るのだが、共に消えてしまっては力の元を追う事も出来ない。

「誰!」

 タエが立ち止まり周りを見回す。周りは普通に日常を過ごしている人々しかいない。彼らは、タエの姿が見えないのだ。注意して気配を探るが、自分を監視するような視線も感じない。

「京都で退魔をする術者は安倍家くらいだけど、代行者の邪魔は御法度ごはっとって知ってるし。外から来た人――?」

 晶華を握る。自分の敵となる人物なら、注意しないといけない。緊張が走る。

「とりあえず、様子をみるか」

 タエは警戒しながら、仕事にもどる。しかし、邪魔が入ったのは、この一回だけではなかった。悪霊に限定されていたが、見つけて追っていると先に消されてしまうのだ。今夜は三回あった。ハナに相談すると、彼女も同じ現象が起こったという。

「なんか、気味悪くない?」

 タエの言葉に、ハナも頷く。

「でも、式神を使ってるわけじゃなさそうだし、狙うのは悪霊ばかりだから、力自体はそこまで強くないのかも。一応、タカ様に報告はしないとね」

 仕事を終え、神社に戻る。高龗神タカオカミノカミにあった事を報告した。

「お前達を邪魔する動き? さぁ、式から聞いておらんし、わしもそんな気配は感じんぞ?」

 彼女も首を傾げた。

「まぁ、しばらく様子を見てみろ。二人を直接攻撃してくるようなら、構わず反撃すればいい。この地にあだなす者ならば、迷わず仕留めよ」

「はい」

「にしても、横取りされたら報酬ほうしゅうが減るじゃない」

「あはは。本音はそっちね」

 ぎりり、と歯を噛み締めるタエを横目に、ハナは苦笑していた。




 朝。タエは上司の言う通り、数日様子を見ていた。あれから何度も邪魔が入った。しかし、タエとハナ自身に危険があるわけではなく、あくまで悪霊を討伐とうばつしたいだけのように思える。誰がそんな事をしているのか、分からないだけに、気分が晴れない。

「うーーん?」

 今は高校へ向けて歩いている所だ。涼香は今朝、寝過ごしたから先に行ってくれと連絡があった。一人で登校するのは久しぶりな気がする。そこで気が付いた。やけに影の所にいろいろいる。

(あんまりよくない系の奴らばっか……)

 じろ、と見るタエの視線に気付いた妖怪達が、まずい顔をして影の中に消えていく。邪悪な心を持つ妖怪や悪霊は、タエには近付けない。危害を加えられる事はないのだが、朝からはあまり見たくないのが本音だ。

(なんか最近、増えてる気がする)

 学校に向かうほど、妖怪や悪霊たちをよく見かける。あやかしは夜に行動するもの。太陽が出ている間は、山や建物の影に身を潜めているのが常だ。しかし、何かを追いかけているような感じで、太陽の下を移動している。これは明らかに異常だった。

(いつからだっけ?)

 そんな事を考えながら、学校に到着。すると、妖はクモの子を散らすように離れていく。学校には入れないのか、あきらめたように去っていくのだ。意味が分からない。タエは眉を寄せながら、教室に向かった。すれ違う友人に挨拶して入る。そこには稔明の姿もあった。

「おはよ」

 目が合ったので、タエは挨拶する。稔明も目をらして一言。

「はよ」

(初めてしゃべった。今日は睨まれなかった!)

 タエは驚き半分、うれしさ半分だった。

(嫌われてんのかと思ったけど、そうでもないのかな。まぁ、挨拶できたし、良しとしよう。夜の邪魔は、なんとか突き止められるかな)


 席につき、教科書を机にしまいながら、タエは今夜の行動を考えていた。



読んでいただき、ありがとうございます!

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