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月夜の代行者  作者: うた
第二章
32/330

32 神社の宮司

 夜の京都は、今日も騒がしい。

「逃げるな!」

 タエは一匹の悪霊を追っていた。なかなかに恨みの強い奴で、妖怪よりも姿がホラー映画のアレなので、物凄く不気味だ。髪の毛が異常に長い女となれば、恐怖も増す。しかし、そんな悪霊にも恐れず向かい合えるのは、代行者という力を持っているがゆえだろう。今回の女の霊は、逃げ足が速かった。だが、タエに追われて逃げられるはずがない。


 たんっ。


 タエが高く跳躍ちょうやくし、悪霊に追いつくと、晶華しょうかの刃をみねに返した。

「でぇりゃあ!」

 野球のバッターが思い切りバットを振るように、晶華を悪霊の腹にめりこませ、地面に叩きつけた。地面に這いつくばると、周りに青白い光が灯る。そして次の瞬間、五芒星(ごぼうせい)の結界の中に閉じ込められる。これはタエが張ったものではない。

「恨みを捨て、天へ行きなさい。誰も傷付けていない事が救いだ。まだ間に合う」

 男性の声がした。タエも着地し、声がした方を見る。四十代後半くらいの男性だ。神社の宮司(ぐうじ)の恰好をしている。(いん)を組み、気合を入れると、結界が光りだし、悪霊の黒い影が消える。そこから本来の女性の姿が出てくると、ぺこりと一度礼をして、姿が消えた。除霊ではなく、浄霊に成功したらしい。

「代行者様、ありがとうございます」

 彼はタエに礼を述べた。

「いえ。仕事ですから」

 今回、高龗神タカオカミノカミに依頼が来たのだ。神社でお祓いの依頼があったのだが、悪霊の逃げ足が速く、捕まえられないので力を貸して欲しいと。そこでタエが任命されたのだ。

晴明せいめい神社の裏の仕事も、大変ですね」

「私も大分、おとろえました。退魔の仕事は息子に任せて、もう神社の仕事に専念するつもりなのです」

 彼は安倍淳明あべあつあき。京都では有名な晴明神社の宮司だ。安倍晴明あべのせいめい末裔まつえいで、陰陽師おんみょうじの力も受け継いでいる。しかし近年、その血も薄れ、力も弱くなっているらしい。

 陰陽師としての退魔の仕事は、あまり知られていないが、霊関係で困った人が訪れると話を聞き、解決に力を貸すという裏の顔を持つ。今夜も依頼者に憑りついた女性の悪霊を剥がす依頼を受けたのだ。こういう時、タエは討伐対象とうばつたいしょうを横取りしない。助けてあげなさいと高龗神に命じられれば、きちんとそれに従う。それが、代行者のルールなのだ。


「そうですか。お疲れ様でした。何度か一緒に戦えて、良かったです」

「お礼を言うのはこちらです。尊い代行者様と関われて、幸せでした。息子はまだまだ半人前ですので、何かと迷惑をかけるかと思いますが、あなた様からも厳しく指導していただけると幸いです」

 彼には二人息子がいるのだという。継がせるなら長男だろう。

「えっと、後任は長男さん、ですよね?」

 一応確認を取る。淳明は頷いた。

丈明たけあきです。一度会った事がありましたね」

 彼は、いずれ継ぐであろう仕事がどんなものか、長男に見学させていた。その時にタエも会っている。真面目そうで、きりっとした顔つきの、男前だった。

「丈明さんなら、安心ですね! 私も、共闘が楽しみです」

 挨拶をして、タエは通常の仕事に戻る。そして、ふと思った事があった。



「安倍……、いや、まさかね」



 先日の転校生を思い出した。タエが通う高校は、晴明神社からだと遠過ぎる。偶然の一致かと、タエはそれ以上考えないようにした。



読んでいただき、ありがとうございます!

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