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月夜の代行者  作者: うた
第一章 契約・修行
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29 それから

「タエー。噂の大先輩は負かしたの?」

 朝。涼香りょうかが話しかけてきた。タエは眉を寄せて首を振ったが、カラッと明るい。

「ううん。まだ勝ててないけど、ちょっと認めてくれた感じかな。また勝負するんだ~」

「そう。無理しないで頑張んな」

「ありがとね」

 真実は知らせていないが、タエのやろうとしている事を応援してくれている。彼女がもし妖怪に襲われそうになったら、必ず守ってみせると心に決めた。





「お姉ちゃん。私も、もう一度、タカ様の式の皆さんに修行を付けてもらう事にしたよ」

「ほんとに!?」

 夜。ハナがタエに話してくれた。

「昼間に時間をもらってね。私は牙と爪、尻尾を使う戦い方だから、動物系の式様を相手にして、技の精度を上げようと思う」

「すごいっ。かっこいいよ!」

 タエはハナをぎゅーっと抱きしめた。このふあふあ具合、毛並みが最高だ。

「お姉ちゃんに比べれば、私はまだまだやよ。黒鉄くろがねさんに挑んだ姿、かっこよかった。私も負けてられないって、思ったからね」

「弓とか棒術の鍛錬にも、また付き合って。一緒に頑張ろうね!」

「うん」

 額を合わせて、気持ちを新たにする。





「踏み込みが甘いぞ」

「こんのっ」

 黒鉄との勝負は、ほぼ毎晩続いていた。仕事終わりのわずかな時間でも、タエは投げ出す事無く通っていた。慣れとはすごいもので、徐々に黒鉄の動きも見えるようになってきた。

「見えるだけでは攻撃できんぞ。反応できる身体能力を付けろ」

「はいっ」

 タエが晶華しょうかを振った。が、刀の先が杉の木に触れ、がりっと削ってしまった。

「山の木を傷付けるな。神木しんぼくでなくとも、霊気を宿す、神聖な木なのだからな」

「えっ、ごめんなさい、杉の木さん」

 削った木に謝るタエ。戦闘を中断して動きを止めたが、黒鉄は動きを止めない。刀を真っ直ぐに出し、タエの頭を狙って突いたが、タエは上体を後ろにのけぞらせ、見事に避けた。そのままバク転で刀から距離を取り、しゃがみ込んだまま、腕を素早く前に出す。すると、何かが黒鉄の腹目掛けて伸びてきた。

「! まだ隠し玉があったのか」

 黒鉄は紙一重でかわしたが、黒く大きく、美しい羽が数枚はらりと落ちた。晶華が槍に変化し、が伸びたのだ。

「どんな状況でも戦えるように、いろんな戦術を学んでるんです。槍は棒術の応用です」

「面白い!」

 黒鉄も楽しんでいるようで、刀で繰り出す技を、タエは槍で受け流す。力で勝てないタエは、相手の力を利用して技に転じる事で、同じ力で反撃できる事を学んだ。真っ直ぐ力技が多い男性とは反対の、柔軟な動きをするタエに、黒鉄も興味を持ち始める。

羽手裏剣はねしゅりけん

「えっ!? わわっ」

 カカカッ! タエの足元に黒鉄の黒い羽が突き刺さった。見れば、彼の左手に、羽が数枚ある。

「しゅ、手裏剣!? 聞いてないですよっ」

「言ってないからな」

 しゅばっと空間を割く音が聞こえる。それほどまでに速く羽が飛んでくるのだ。槍を回転させ、羽を落とすも、通り抜けた羽は杉の木にぶっ刺さる。

「木を傷付けちゃダメなんじゃ? 刺さってますよ」

「後で謝っておく。傷が付かないよう、全ての羽を落としてみろ」

 黒鉄の両手には、大量の羽。むしったのだろうか。むしった所はハゲているのだろうか。タエはそんな事を考えたが、聞く間もない。もう全ての羽を一気に発射しようとしている。

「えぇ!!」

 雨のように降り注ぐ羽手裏剣。タエの叫び声が響いたのは、言うまでもない。




 そうしてタエとハナ、各々(おのおの)が着実に力をつけていくと、京都にはびこる妖怪、悪霊、魑魅魍魎ちみもうりょう達が、噂を始める。善良な者は、希望になると。又、邪悪な者は、厄介ごとの種だと。



「こうでなくてはな。あの二人を代行者にした意味がない」

 高龗神タカオカミノカミは満足そうに神殿の欄干らんかんに腰かけ、足を組んだ。その微笑みの裏で何を考えているのかは、彼女のみぞ知る。




「面白い事に、なってきそうですねぇ」

 いつもの河原で、紗楽しゃらくは楽しそうにキセルを吹かせる。紫煙しえんが空に溶けていった。




 他の神社でも、タエ達に期待の目を向ける者、喜ぶ者がいる。彼らとどう関わっていくのかは、また後の話。


読んでいただき、ありがとうございました!

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