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月夜の代行者  作者: うた
第一章 契約・修行
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27 道場破り

 タエとハナはある場所を目指して、山の中を歩いている。

「お姉ちゃん、本気なんやね」

 ハナはタエを見上げた。うんと頷くタエ。

「きっとこれが、次のステップなんやと思う。もう一段、強くなる為の」

 ハナとの地獄の鍛錬は、身についている。基礎は十分過ぎるほどやった。そこから応用に変える術も身につけた。次は、今ある技術をもっと磨き、高める鍛錬が必要だと、タエは気付いたのだ。




「道場破り!?」

 今より少し前。高龗神タカオカミノカミとハナは、目を丸くした。

「道場は、ないかもしれないですけど。黒鉄くろがねさんに負けたままではいられません。弱いって言われたままじゃ、やっぱり悔しいです。次は、私が行って、黒鉄さんを叩きのめしたいですっ!」

 タエの決意表明に、高龗神はにっと笑った。

「やはり、お前は面白いのぉ」

「え、そうですかね?」

 笑わせるつもりで言った覚えはないのだが。タエは少し恥ずかしくなった。

「馬鹿にしているのではない。タエは決してここで折れる奴ではないと、信じておった。鴉天狗からすてんぐ住処すみかは、この神殿の奥にある道を真っ直ぐ行け。そうすれば見えてくる。思うようにしてみろ。あの堅物を叩きのめしてこい!」

「が、がんばりますっ」

 上司に後押しされると、恐縮してしまう。しかも、やはり自分はとんでもない事を言ったのだと、今更ながら思ってしまい、黒鉄のイラつく視線を想像して背筋が冷たくなった。

 ハナにも一緒に来てもらう事になり、二人で鞍馬山くらまやまの夜道を歩いているのだ。様々なあやかしの気配がする。聖域なので邪悪な気配はないが、とても不思議な感覚だ。空気は澄み渡り、体が軽く感じる。感覚も、研ぎ澄まされそうだ。


「あ、あれかな」

 遠くに門が見えた。とても大きい。道はその門へ続くものと、枝分かれして別の所へ行くものになっていた。

「真っ直ぐ行けば、見えてくるって言ってたから、あれやね」

 ハナも同意する。近付けば近付くほど、門は巨大だった。

「歴史の古い一族か。すごいな」

 圧倒される。門とその奥にちらりと見える屋敷の大きさで、鴉天狗の一族の大きさを垣間見かいまみる事ができる。タエの決意もしぼんでしまいそうになるが、首を振って余計な雑念を払い、大きく息をすると、拳を握り、門を叩いた。


「夜分遅くにすみません! 代行者のタエと言います。黒鉄さんはいらっしゃいますか?」


 大声を張り上げる。あんまりしつこく門を叩くと怒られそうなので、しばらく待った。

「静かやね」

 しんと静まり返る。もう一度呼ぼうかと思った時、すぐ後ろから声がした。


「何の用だ」

「うぎゃあっ!」


 思ってもいない方角から声がしたので、タエとハナは可愛くない叫び声をあげ、門にへばりついた。呼ばれた黒鉄は、眉を寄せる。

「これくらい、気配で気付け」

「けっ、気配消してたじゃないですかっっ」

「心臓に悪い……」

 まだバックバック心臓が暴れている。何とか落ち着け、タエとハナは冷静さを取り戻した。

「それで、俺に用か? 代行者を辞める覚悟でもしたのか」

「辞めませんっ」

「……ほう」

 黒鉄の目を真っ直ぐ見据え、タエははっきりと言った。彼も昨夜のタエと雰囲気が違う事に気付く。瞳に力があった。

「辞めない覚悟を決めました! 黒鉄さんに弱いって言われないように、強くなります」

「どう強くなるのだ?」

 タエはびしっと、人差し指を黒鉄に突きつける。


「黒鉄さんに勝負を挑みます。あなたより強くなって、叩きのめします!」


「たたき、のめ……ぶ」

 黒鉄は思わず口を覆って、横を向いてしまった。肩がわずかに揺れている。

「え、笑ってます? えと、道場破りって言った方が良かったですかね」

 タエは場違いな事を言ったかと、不安になった。ハナは、予想外な展開に、目が点になっていた。彼はふざけるなと、怒ると思ったのだ。黒鉄は深呼吸をして、気持ちを落ち着けた。

「いや。お前は予想の斜め上をいくのだな。俺を越えるか。面白い。やってみろ」

 黒鉄が一歩、タエへと近付いた。身長差がありありの二人。思い切り見上げる形になったタエ。それでも、要求を受け入れてもらえたので、笑顔になる。

「ありがとうございます! じゃあ、今から一戦目、お願い出来ますか?」

「良いだろう。ちなみにうちに道場はない。この山全てが修練場となる。本気で斬り込んで来い」

 黒鉄が刀をすらりと抜いた。彼の刀は通常のものより刀身が長い。身長に合わせて長さを調節したのか、とてもしっくりくるとタエは思った。タエも晶華しょうかを抜く。

「もう、無様な姿は見せません」

 門から離れ、二人が間合いを取り、相手の出方を見る。凛と張りつめた空気。ハナはヒゲがピリピリとしたが、不快ではなかった。純粋に、二人の戦いを見たいと思う自分がいる事に気付く。

「俺を退屈させるなよ」

「がんばります。お願いします!」


「いざ、参る」


 タエと黒鉄が、同時に踏み込んだ。



読んでいただき、ありがとうございます!

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