表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月夜の代行者  作者: うた
第一章 契約・修行
26/330

26 悩み事

黒鉄くろがね


 雷獣らいじゅうと黒鉄との戦いから夜が明け、今は太陽も貴船山きぶねやまの木々の間を照らしている。そんな中、貴船きふね神社から少し離れた所で、高龗神タカオカミノカミが彼の名を呼んだ。ほどなくして、黒鉄が杉の木の間から姿を現す。

「ハナと言ったか。後遺症はないか」

 鴉天狗からすてんぐは京都随一の大きな妖怪一族だ。歴史も古い。なので、神様を目の前にしても、決して怖気おじけづく事なく、対等な立場で振舞っている。高龗神も別に気にしていない。

「ああ、聖域で休んでおる。お前な、タエとハナを大事にしたいなら、もう少し優しくしてやれ。いきなりアレはハードじゃろ」

 黒鉄はふんと鼻であしらった。

「貴船の龍神様は、お気に入りには甘いのだな」

「わしは基本、放任主義じゃ。全てはあやつらの自由にさせておる。それで実力も着いて来ておるから、文句はないぞ。女子会は楽しいしな!」

 高龗神はえっへんと胸を張った。

「威張る事か。慣れてきた時が一番危ない事は、あんたも良く知ってるだろう。あいつに現実を教える、俺の最大の優しさだ」

「不器用じゃのう。それでも、タエとハナの実力はよく分かったじゃろう?」

 黒鉄が腕を組んだ。

「まぁな。あの雷獣を相手に、よくやっていたと思う。ただ、自分を犠牲にして、痛みを受ける節がある。それではダメだ」

「口で言ってやればいいものを」

 貴船の神様は苦笑していた。黒鉄は顔を背ける。

「あれでくじけるようであれば、所詮しょせん、そこまでだったという事だ」

「まぁ、そうじゃな。弱い者は、消されるか、喰われるか」

 黒鉄は、もう話は済んだとばかりに背を向けた。

「全て、あんたには分かっているのだろうな。俺の行動も、あんたの計画の内だと」

「計画とはあんまりじゃな。全ては運命と宿命が、今と昔、未来を紡いでいく。それだけのことじゃ」

 大きな翼を広げ、飛び立つ黒鉄。巻き起こった突風に、高龗神の銀色の髪が激しくなびいた。





「はぁ」

 本日、何度目かのため息。タエは学校も終わり、帰る準備をしていた。今日、何を勉強したのか覚えていない。教科書やノートは開けるが、全く頭に入って来ないのだ。考えるのは、起きてからずっと同じ事。黒鉄に言われた事だ。

(代行者にも慣れてきた所だったからなぁ。一人で戦えるようになったって、調子に乗ってたのかも。あんなに歯が立たなかったのは、初めてだったからな。ハナさん、ちゃんと休んでるかな)

 毎日相手にしている妖怪と、全く違った。格が違うとは、こういう事なのだろう。

(楽になれって事は、死ねって事やんね……。ハナさんと一緒に戦うって、決めたのに――)

「ターエ、何教科書持ったまま固まってんの?」

 涼香りょうかが話しかけてきた。

「あんた、今日変よ? ずーっと上の空だし、ぼーっとしてるっていうか」

「え、あぁ、うん」

 はっきりしない返事を返す。涼香は若干イラっと来た。

「タエらしくないよ。何かあったなら、話してみな。ちゃんと聞くから」


 学校からの帰り道。そこでタエは、全部は話せないが、悩んでいる事だけ、簡潔に話す事に決めた。

「あの、最近、始めた事があってね。慣れてきて、それなりに強くもなったと思ってたんですけど、大先輩に『お前は弱い』って、言われて。こてんぱんに負かされて、ショックで」

 話がぎこちない。変に敬語も混ざってしまっている。

「何を始めたの?」

 代行者とは、言えなかった。

「えと、戦闘系を、少々……」

「ゲーム? オンラインとか止めなよー。皮をかぶった変な奴もいるんやから、顔も知らん奴を信用したらあかんで!」

 とても全うな事を言っている。やはり涼香はしっかりしていた。

「うん。大先輩は顔も知ってるから、大丈夫。その人の言う事、間違ってないんよ。弱い奴はいらないって。でも私、今それを投げ出す事もできひんし、どうしたらいいかなって」

「やめるつもりないの? それやったら、やる事は一つやん」

「……え?」

 涼香があっさりと返してきた。タエは目をパチパチさせる。


「弱いって言われたなら、強くなって見返してやったら?」


「……あ」

「タエ、負けず嫌いでしょ? くよくよしてないで、ぶつかってみなよ。そっちの方が、あんたらしい。ただし、長時間やるのはあかんからね」

 タエは、目の前が明るくなった気がした。

(そうだった。黒鉄さんに負けた事がショックで、自信をなくしてた。死んでたかもしれない恐怖で。負けて悔しいとは、思わなかった。あきらめてた……)

 代行者の契約をした時、ハナを助けようと必死になっていた自分は、決して諦めていなかった。相手がどれだけ強くても、立ち上がる事をやめなかった。

(今の、私は……)

 悩むばかりで、前に進もうとしていなかった。重かった足が、軽くなった気がする。

「そうやね。私、強くなる。もっと、強くなってみせる! ありがとう涼香ちゃん」

「力になれたなら、良かったわ」

 涼香の笑顔が、眩しかった。





 夜。ハナも回復し、代行者の仕事をタエと一緒にする事ができた。タエも、晶華しょうかを手にいつも通り役目をこなしている。

「ハナさん、無理してない? 大丈夫?」

「しっかり休んだから大丈夫」

 白露はくろ木霊こだまのおかげで、砕けた骨も元に戻った。体調も良いらしい。

「お姉ちゃんこそ、大丈夫?」

 黒鉄と戦った後、タエがショックでふらふらしていたのを心配していたのだ。

「大丈夫。神社に戻ったら、(タカ)様とハナさんに相談があるけど、いい?」

「? いいけど」

 ハナは首をひねった。そして、仕事も終え、神社に戻る。


「タエ、相談とはなんじゃ?」

 高龗神も問う。タエは少し緊張しながらも、しっかりとした声ではっきり言った。


「私、道場破りをしてこようと思いますっ!」

読んでいただき、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ