21 紗楽の秘密
夜。タエは紗楽に言われた事を、高龗神に話した。彼女も難しい顔をする。
「式も不穏な様子を伝えてはいたが」
「ケガが完治したって……。あの男は、何故そんな事が分かるんでしょうか?」
ハナも思った事を素直に聞いた。
「実際、見て来たんじゃろう。あやつは複数の魂の融合体じゃからの」
今になって明かされた事実に、タエとハナは目を瞠った。
「融合体って……」
「言った通りじゃ。あの体の中には、いくつもの魂が入っておる。無論、悪意のある魂も取り込んでおるじゃろう。しかし、あやつはそれを己の奥へ止め、自我を保っておる。神の気配を纏う式よりも、奴らと同類の気配を出せるあやつの方が、敵の懐へ潜り込みやすい。ただ、それだけじゃ」
高龗神は腕組みをして唸る。紗楽の存在に納得しているわけではないのだ。
「それって、危険じゃありませんか? いつ紗楽がこちらに牙をむくか――」
ハナが言った。高龗神も頷く。
「わしは、あやつに心を許した事は一度もない。常時見張っておる。あやつもそれを承知の上じゃ。わしと取引をした時からな。人を探しているから、地上にいさせて欲しい。その代わり、この地にいる危険な者共を監視し、情報を渡すと言う条件で」
ふぅ、と息を吐いた。呼吸を整える。
「承諾するつもりはなかったが、わしとて監視には限界がある。この地は妖の力が特に強く、根深い。わしの目が届かん所も、奴なら行けるからの。そういう手駒を一つ持っていても、悪くないのではと思ったんじゃ。奴はわしを利用し、わしも奴を利用している」
タエは、自分が感じた事が間違いではなかったと思った。そこでふと疑問が湧き上がる。
「紗楽って、いつからいるんですか?」
「取引をしたのが、三十年ほど前だったか。それより前、どこでどうしていたかは、わしにも読めなかった」
神様に心を読ませない紗楽。やはり只者ではない。
「とりあえず、タエとハナは鬼門へ向かえ。あの三匹は雷を使う妖怪。見つけ次第、仕留めろ。鴉天狗が逃すほどの奴らじゃ。気を引き締めてかかれ」
「分かりました」
タエとハナが答え、鳥居を抜ける。空へと飛びあがった。
「ハナさんは、鴉天狗と会った事ある?」
タエは質問してみた。
「遠目で姿を見た事があるだけで、関わった事はないわ」
「鴉天狗って強いんでしょ? その人達から逃げられるなんて、その妖怪も強いって事やんね」
ぐっと緊張が走った。
「鴉天狗は木の属性だから、雷を使う金の属性の妖怪とは、相性が良くないのね」
「五行相剋か」
タエも関係性は勉強したが、なかなか奥が深く、難しい所もある。
「私達なら、相性が悪いわけじゃないし、力で負けなければ勝算はある。行くよ!」
ハナの言葉に、タエも頷いた。
「うん!」
夜の闇を飛んで行く。遠くの空では雲が立ち込め、星を隠していた。
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